36:真っ向勝負のその先
「ダメだ。カリン! 戻りなさい!」
お父様の強い怒号が、子供たちの雄たけびを打ち消した。
「アナタ様……」
「ヒャコも、心配しないで、ここで待ってなさい。すぐにカリンを連れ戻すから」
お母様の手を払い除けて、お父様は私にズンズン歩み寄る。
その形相はまるで――!
悪魔……!? め、めちゃくちゃ怖いっ!
子供たちもあの鬼気迫る顔に思わず退いてしまう。私とお父様を阻む壁はなくなり、一直線に私とお父様は向かい合う。
あれほど怒られたお父様を見るのは、初めてですわね……!
しかもその怒気を向けられてる相手が……私というのが、とても心が痛いですわ。
前までの私ならビビって腰を抜かしていたところね……。
でも今は……自分の信念を貫くという固い決意を秘めた今なら!
誰にこの道を阻まれようとも! 怖くないっ!
だって私は! これまでだって、みんなと一緒に力を合わせて、数々の思惑を実現してきたんですものッッ!
それを阻止しようというなら……! たとえお父様だろうと!
許さないっ!
「お父様の、わからずやあああああああ!!!」
私は――勝ち取って見せる!
右手に魔力を集中させる。風がうねり、その力を球体に凝縮して、放つ!
二連射ァ!
「『ダブル・ウィンドボール』! さらに!」
立て続けに魔法を展開ッ!
これが、この魔法こそが私の真髄ッ! これが私の――幻惑魔法!
「『
放った魔法を、多重に見せるっ!
二つが四つに、八つに……さあて、どれが本物かしら?
「カーリーンーちゃ~ん? まさか、君にここまで反抗されるなんて、僕、ショックだよ。こりゃ、――お仕置きが必要だっ!」
お父様は腰に帯びていた剣を、鞘ごと抜き、まずは向かってくる一つを横に薙いで消滅させた。
それはでも……ハズレ! 続けざまに襲い来るはミラージュか本物か!
そしてそれの対処に追われれば追われるほど、私はもう次の準備に取り掛かっている!
「お父様! 私は、自分の尻拭いをしに行くだけです! 認めてください!」
まだミラージュの相手をしている父に、今度は剣で相手になる!
激しく攻め入って、乱れ切り! お父様を! ここで!本気で倒す!
「ダメだ! なぜなら君には、それができるほどの力がない! 冒険者なんて無理に決まっているじゃないか!」
だけどさすがは、お父様!
私の剣を全て受け止めてかつ、ウィンドボールも次々と打ち払っていく。
パン! パァン!
「お、当たりは全部引き当てたようだねえ」
「くっ!」
二つのウィンドボールの実体を叩き割ったお父様はいよいよ私に本腰を入れて迎え撃つ。ダメ、距離をとらなきゃ――!
一旦飛び退く私の、跳躍の軸足が、お父様にがっちりと掴まれた――!
「ごめん、これ――ちょっと痛いよ」
「ひっ!」
お父様は、まるでボールを遠投するかのように、私を大きく振りかぶって――地面に叩きつけた。
「う、ウォータアアア!」
バシャンッ!
私と地面の間に、瞬時に水魔法を展開。
間一髪で地面との濃厚なキスは避けられましたわ……! あ、危なかった……。
お父様も、まさかこれほどまでに早く対処されるとは思っていなかったようで、少しだけ、目を丸くしてた。
「カリンちゃん……魔法、上達したねえ」
「ええ、それもこれも……私がこれまで培ってきた成果です」
子供たちに魔法と剣を教えていくうちに、私もなんだか、どんどん地力がついていった。特に魔法は、自分の知識を誰かに教えることで、より理解が高まったように感じる。
そう、これも――バスターズの活動の成果ですわ!
「『
「なにっうわ!」
お父様は背後から足元を掬うように流れる水流に、見事に足を取られた!
誰もいない、何もない場所を警戒しろって方が無理ですもの。計算通り、当然の結果だわ!
私がウィンドボールで足止めしていた理由は、この魔法を設置するため。
足を掴まれたときは焦りましたけど、うまく誘導できた!
そしてここから、ずっと私のターンですわよ!
「お父様! お覚悟! ハアアアアアッ!」
先ほどよりも激しく怒涛の攻めを貫き通す!
水流に足元がおぼつかないお父様は、私の渾身の連撃を止めるので精いっぱいとなった。
さらに――!
「でやあああああああ!」
「うわああああああ! ごめんなさい領主様あああああ!!」
ここですかさず! ハイレンとアルクの参戦ッ!
ハイレンの、私以上の高速剣プラスアルクの無尽蔵の魔力連弾!
ここで決める! わあああああああああああああああああ!!!!
「うっ! ぐぐぐううう! いやあ、若いって……無茶をするなあ!」
お、とう、さまあああああ!
申し訳ありませんが!
くたばってくださいっ!
「ハァ!」
「うぐっ!」
とうとう――! お父様の剣が、カキンと軽い音とともに、上空に跳ね上げられた。
勝った……勝った!
私達、力を合わせてお父様に――!?
なぜ、あれほど激しい打ち合いで、剣が手を離れるほどの力で弾き飛ばされたというのに――。
あんなに軽い乾いた音しかしなかったの?
「――二人とも離れなさい!」
その言葉は、言うが遅かった。
いや私が放つ言葉が届くよりも――そう、音よりも速く――。
お父様の拳が、ハイレンとアルクを穿ったのだ。
そして私も……。
「きゃああっ!」
とっさに剣の腹に体の軸が隠れるように構えた。
お父様の拳は、私の剣を粉々に殴り飛ばしながら私をもぶっ飛ばした。
本当に、呆れるほど強すぎません……?
お父様は、完全に私の術中にハマっていた。
なぜなら足元を掬う水流なんて、本当は一番最初の数秒間しか機能していない。あの短時間で永続的に水流を操り続けるほどの魔力操作は無理ですもの。
だから後半はずっと幻惑魔法で水流があると誤解させていて、お父様はまんまとそこに釘付けになっていた。
それなのに……全てを出し切ったうえで、全て正面から打ち破られた……。
「……これでわかっただろう、カリンちゃん。君たちはまだ力のない、ただの子供だ。一人の人間に傷一つつけることもできやしないんだよ」
全身が、バッキバキに痛い。
それでも……上体を起こして……お父様に、どうしても抗いたくて、睨みつける……っ!
「――いいえ、領主様。……俺たちの勝ちっすよ」
いつの間にか、お父様の首に、鋭利な刃が突き付けられていた。
お父様も、まさか背後をとられるだなんて思ってもいなかったようで、まったく反応できずに、冷や汗を垂らしながら振り返っていた。
――流石ね。
それでこそ、われらがバスターズの副リーダー。
「やるじゃない。見直したわ――カント!」
「ハイ! カリン様ァ! 俺、俺え! くううっ!」
泣きじゃくる彼の麦色の髪が、とても綺麗だった。
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