31:大躍進

「ウィンドボール! 魔物に着弾! こっちにきますっ!」


「おっしゃ、任せろォ! おりゃあああ!」


「あっカントさん! トラバサミの罠に誘導お願いします!」


「お、おう……! よし! かかった! おらああッ!! おっしゃ、楽勝!」


 子供たちはあっという間に一匹の『大口鼠ビッグマウス』を倒してしまった。

 しかしこの魔物は群れで行動する。仲間の仇とばかりに、麦畑のあちらこちらからぞろぞろと現れてくる――! 囲まれた!


「なんだ、お前ら。隠れてたつもりか? 違うね。俺たちが、そこに潜むように誘導してたんだよマヌケ共! 麦畑ここは俺たちの庭だっつーの!」


 だが、誰も動じることはなく、むしろカントは威勢のいいことを言い放った。

 そしてその言葉通り、魔物たちはまんまとはめられたのだ。


 一網打尽するために!


「みなさん! 跳んでっ!」


 サポーターの合図で一斉にジャンプ! 瞬間、足元を刈り取るように、真空の刃が無数に繰り出された!

 魔法組の風魔法! 本当にこの子たちは……やるじゃない!


「ギギイイィイッ!」


 最後の一匹が、断末魔を上げて動かなくなった。

 一か所にまとまってくれたおかげで、全ての個体を一斉に始末できた。まあそうなるように仕向けたんだけどね。

 今日も被害は――ほとんどなしっ! 申し分ないわ!

 さて。後はこの魔物たちを……オージンさまが魔物の素材を欲しがっているから、小屋に運んでしまいましょう。


 ――ああ、そうだったわ。

 もうあの小屋……満杯だった。ああもう、これで、五件目よ。


 オージンさまったら、さっさと魔物を解体して片付けて欲しいのですけどっ!


 さて、でもこれだけ魔物を倒せば……間違いなく作物の収穫量は段違いでしょうね。

 そろそろお父様に、報告さしあげましょうか。




 そんなわけで、バスターズの活動を終えたあとの朝食時。

 意気揚々とお父様に言い放った。

 魔物を討伐したことで麦の収穫高はうなぎのぼりでしょう。是非その目でご覧下さいと!


「……カリンちゃん? その話、マジですか?」


「ええ、お父様。マジの、マジですわ!」


 ありのままを伝えた。

 お父様はぽかんと口を開けて、飲もうとしていた紅茶を、再びお皿の上に戻していた。


「いやいや、カリンちゃん。気持ちは嬉しいけど、魔物を数匹倒した程度じゃ、あまり変わらないというか……」


「数匹ですって? お父様、言わせてもらいますが……今日だけで、十四匹の駆除に成功しておりますわ」


「そ、そんなにか……!? いや、でもどうやって、というか、カリンちゃん! 一人でそんな、危険なマネをしたらダメでしょう!?」


「落ち着いてくださいお父様! 一人で、今朝だけで、そんなこと出来るはずがないでしょう? 領民の子供たちにも手伝ってもらいましたの。もちろん、彼らにも危険が無いように万全を尽くしましたわ」


「なんと……! 子供だけでか! う、ううむ……!?」


 あらら、これじゃあ埒が明きませんわ。

 ……そうだ。ちょうどオージンさまのために魔物を保管していたことですし、そこに連れて行って実際に確認してもらいましょう。


 ……あら? もしかしてオージンさま、そのために保管させていた? まさかね。




 そしてお父様と五つの小屋を巡り、ちゃんとモンスターを討伐していた証をその目に見せて上げた。

 お父様はその後、すぐさま麦畑へと走る。

 アレンドーおじさまに事情を聞けば、確かに……例年よりも、はるかに麦を多く収穫できているようだった。


「チクショウ。旦那様ァ、どうしたって、今になって農地の様子なんか覗きにくるんでさァ。今年こそはオイラたちで麦の貯蔵が出来るって大喜びだったってのに、旦那様に見つかったんじゃあしょうがねえや!」


「ああ、すまないねえ。……よかったら、余り分はマシラム領に持っていくんじゃなく、僕のところで買い取らせてもらえないかい? そうしてくれるなら、ちょっとくらいなら、貯蔵に回しても大目に見るからさ」


「何言ってるんです。ぜひそうさせてくださいよ! マシラムなんか、てんでひでーんですぜ!」


「はは……すまないねえ」




 こうして、私たちバスターズは成し遂げた。

 うちで買い取った麦は、地産地消で前以上に安く卸すことができるようになり、少しだけ、人々の食生活も豊かになった。


 ただしバスターズの活動はしばらく休止。子供たちの親にも、彼らが何をしていたのかをきちんと説明することとなった。

 そのかわり、親が許すならば、お父様によるきちんとした指導のもとで、より効率よく的確な訓練を行えるようになった。……まあ、バスターズのメンバーはみんな稼業から逃げ出した厄介者だらけだ。親御さんは口をそろえて、少しでもこのボンクラがお役に立てるならと突き出してきたので、みんなその恩恵にあずかる形になったのだけれどね。




 そして、パン屋はとうとう――閉店した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る