18:密造のススメ……ッ!
バスターズの創設を考えたのは、お父様に麦粉を頂けるようにお願いした時だ。
お父様の、苦虫を噛み潰したような表情……。
私の想像以上にマシラム様との確執は根深いものなのだとわかった。
今回はパン屋さんに麦を提供できたものの、根本の解決にはなってない。
麦の相場は相変わらずだ。この状況のまま今ある麦粉が無くなってしまえば、またパン屋さんは営業できなくなってしまう。
うちだって、そう何度も麦粉を提供できるわけじゃない……。
というか、あの量を捻出するのにだって……!
わ、私の……私の! くぅ!
数ヶ月に一度の楽しみであるお母様の手作りケーキが!
食べられなくなるという犠牲を払ってまで手に入れたものだというのにっ!
だからこれ以上、もうパン屋さんへ麦粉の提供はできない。
……かといって、麦を買うことも出来ない。
ならばどうするか?
――密造よッ!
マシラム領の農地管理は完璧。集積所で毎年の平均的な作物の産出量を把握しているため、こっそりと隠し持つなどの不正をすれば即座に見破られてしまう。
しかし、その産出量の計算には、モンスターや自然災害による被害をも想定した見積りで計算されているのだ。
そこを逆手に取る!
うちは貧乏領地のため、兵士や冒険者を雇ってモンスターによる作物の被害を食い止めるのはかなり難しい。……逆を言えば、そのモンスターを退治することができれば、計算に上がらない分の作物は自分の領地に隠し持てるということだ。
その為のバスターズよ!
そのために、これから子供たちを徹底的に鍛え上げるわ!
「カリン様、それは何をされてるんです?」
まず子供たちの力量を計るために私が用意したのは……。
グラスに魔法で生み出した水を注いだもの。
「そうね。ちょうどいいわ。あなた、このグラスに手をかざしなさい」
「え、う、うん」
たまたま話しかけてきた少年に指示を出すと、言われるがまま彼はグラスに手をかざした。
――そんな少年の頭をゲンコツで引っ叩く!
「ウギャッ! な、なにすんですか!?」
「いいから。グラスをよくごらんなさい」
コツンと叩かれた頭を痛そうに抑える少年。
涙目で非難する彼を無視して、皆をグラスに注目させる。
……感嘆が漏れた。
「うわぁ、これ……まほう?」
グラスの中に、ちいさく煌めく赤い光が浮かび上がっていた。
キラキラと輝いて、見ていると、ほんのりと暖かい温度を錯覚する。
「ええ、そうよ。あなたは火の魔法が得意なようね」
ドっと周りから歓声が上がる。
これは潜在的にどの系統の魔法が得意かを、最も簡単に調べることが出来る測定方法なのだ。
大層な名前で言うと『水見の儀』と呼ばれている。
頭を殴ったのは、魔力操作なんてしたことがない素人は、突然の痛みに対して体が防衛反応を起こすことで、一瞬だけでも魔力を放出することを利用させてもらったからだ。
さあこれで、まずはみんなの適性を見ていくわ!
……そもそも魔法の才があるかどうかも含めてね!
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