20:超神水

 水見が終わって、子供たちの魔法の性質が一通りわかった。

 結果はまあ……無難よね。

 それぞれの特性は火、水、風、土の四大属性魔法の範疇に収まっていて、珍しい命魔法や音魔法なんかを持つ子は一人もいなかった。

 ……いたらいたで、困るんだけどね。教え方が分からないから。


 そしてさらにそこから、実際に魔法を扱えるレベルの魔力があるかどうかを吟味すれば……。


 素質ありは六名くらいなものね。

 うーん、思ったよりも少ない……。

 ま、しょせんは下民。贅沢を言ってもしょうがないわね。




「――それじゃあ魔法が使えないみんなには、剣術を学んでもらうわ。いいわね!」


 うだうだしてても始まらない。

 魔法がだめなら剣を使えばいいじゃない。


 本当は魔物と近接戦なんて、こんな子供たちにさせるわけにはいかないのだけど、背に腹は代えられないのも事実。

 だからこそ、魔法組よりもめちゃくちゃに厳しく指導する。それで挫折して戻ってこなくなっても構わないってくらい鍛えぬいてやるんだから。


 ……といっても、この子たちは……言っちゃ悪いのだけれど……。


 親の仕事の手伝いが疲れるし面倒だからって逃げてきた軟弱者たち!

 私の指導もみんなで団結してバックレられたら、せっかくの作戦が水の泡だ……。




「――はぁ、はぁ、うげぇ……も、もうだめだ……限界……」


「そう。もうへばっちゃって、情けないわね」


「あっ! か、カリン様!? すみません! すぐまた……」


 剣の型をしっかりと身に着けさせるために延々と素振りをさせていると、とうとう一人の男子がヘバった。

 すかさず歩み寄り、そして――!


「初日なんだからまだ無理はしなくていいわ。それよりも……疲れたでしょう? これを飲みなさい」


「あ……! ありがとうございますっ!」


 私はグラスを少年に手渡した。中身はたっぷりのお水。

 歓喜に震える少年は、それを一気に飲み干した。

 ――驚くのはここからよ!


「えっええええ!? あ……あ、甘いっ!? この水甘ああああッッ!!」


 その絶叫にザワつく剣術組。

 そしてたちまち……わーわー言いながらみんな私の元に集まってきた。


「みんなも飲みたい? いいわよ、水魔法でいつでも用意してあげるから、遠慮しないでじゃんじゃんきなさいっ!」


 あっという間に大盛況。しかもこれはただの水じゃない。甘いのだ!


 なぜかというと、それは私の得意な魔法属性が、幻惑魔法だから!


 といっても、別に大層な魔法を使ってみんなの味覚を誤魔化しているわけじゃない。

 単にこれは『水見の儀』によって得られる、幻惑魔法の性質によるものだ。


 幻惑魔法の性質を強く持つ者は、水見の魔法水を甘く感じられるようにするのだ!


「おいしい~! カリン様の水、最高ですっ!」


「甘い水なんて初めてだよ! こんなの神の水だ! 神水!」


「超神水! 超神水! カリン様の超神水!」


 ふふふっ……! これで子供たちの心はより一層鷲掴み!

 これでいくら厳しい訓練を与えようとも、甘い水の誘惑には勝てないでしょう。


 あははははっ! 民衆がまんまと策略にはまる姿を見るのはなんとも愉悦なことよね!


 まあぶっちゃけ、魔法で生成した水を飲ませるなんて……何が起こるか分からないから魔法使いの間では滅多にやらないことなんだけどね!


 だって何も無い空間から突然水が湧き出すなんてどう考えたって意味不明じゃない!?


 この件に関しては、魔法使いの研究者達の間では様々な意見が交わされているという。問題がないとする主張もあれば、水魔法を行う場所だったり、魔力の強さだったりが影響して被害が及ぶこともあるなど……明確な答えは未だにでていない。


 ……ま、魔法の水を飲んで死んだという話だけは聞かないから、いざ体調を崩すようなら辞めることとしましょうか。

 みんな、喜んでることだしね。

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