第23話 新入生の歓迎会

「では早速ですが、クラス委員長を決めていきたいと思う!」



ホームルームが始まり、担任がそう切り出しと共に、ざわめいていた教室がしんと静まった。



「クラス委員長かあ、かいかいはやるのお?」



ねむが腕を絡めてきながらもそう尋ねてくるが……俺はできればやりたくない。色々とめんどくさそうだ。



「推薦でもいい。誰かいないか?」

「はーい」



と、クラスの女子が手を上げ、びしっと、レオが座っている辺りを指した。



「私、七瀬さんがいいと思います! 成績すごくいいし、リードしてくれると思いまーす」


「賛成!」

「それなあ」


「ひゃうっ!?!」



一方で、七瀬と呼ばれた女子はびくっと身を震わせ、小さく縮こまってしまう。



「大丈夫か、めう?」



と、すかさずレオがフォローに入っているのが見え、俺は目をぱちくりさせた。



「え、あいつら友達?」

「んー……今さっき話したのが初めてだと思うよお? だってねむ、あの子知らないしい」



と、ねむがつまらなさそうに目を細め、そう呟く。

まあ、二人は幼馴染だし、人間関係も重なってくるだろうからな……かなり詳しいんだろうな。


しかし、なぜかむうっとした表情をするねむに、俺は慰めるようにして頭を撫でてやった。



「ほ、ほら、お前もあの子に話しかけに行けば、友達になれるぞ?」

「……別に、友達になりたいわけじゃないしい……んー、かいかいになでなでされるの、好きだあ……」



と、どこか拗ねた表情のまま、ねむは俺にもたれかかってきた。

重みとぬくもりが伝わり、不覚にもドキドキしてしまう。


というか、さっきから一体なんなんだ!? ねむって難しい!!



「れ、レオしゃん……」

「めうはクラス委員長、やりたいん?」

「えっと、その……えっと……っ」



一方で、教室内の話し合いは続く。

七瀬は頬を真っ赤にし、レオの裾をぎゅっとつまんだ。



「あざといなあ……ねむ、あの子苦手だあ」

「はいはい」



さらにむっとするねむをなだめながらも、俺は事の成り行きを見守る。

七瀬はしばらく荒い息を繰り返したかと思うと、思い切ったようにしてレオにしがみついた。



「……れ、レオさんが副委員長やるなら……私、それなら、やりますぅ……っ!」


「お、俺? 俺が、副委員長を?」



その言葉に、教室が一瞬静まる。が、バケツをひっくり返したように、一斉にざわざわし始めた。



「え、七瀬さんって、レオくんのこと好きだったの?」

「えーやだ、私レオくん狙ってるのに!」

「レオくんがやるからクラス委員やるのって、実際どうなの? やっぱ好きなんじゃね?」



「え、レオってモテる感じ?」

「んー、そうだねえ。結構告白とかされてるみたいだよお」



クラスメートから溢れ出すレオへの愛を感じ取り、ねむにそう尋ねると、ねむは机に伏せながらもつまらなさそうに二、三度頷いて見せる。


俺の身の回りの人って、どうしてモテるんだか教えてほしい……。



げんなりとする俺を置いて、さらに話し合いは進む。



「で、レオ、どうするんだ?」



先生の問いかけに、レオは目をぱちぱちとさせてから、茶髪を揺らして軽く頷いた。



「ええで、オレ副委員長やっても」

「れ、レオさん……っ!」


「じゃあ決まりだな。クラス委員長は七瀬めう、副委員長は國賀レオで」



そこで拍手が起こり、俺もそれに乗って拍手をする。



「ねむだったらあ、かいかいを推薦するよお? かいかいって、頭いいもんねえ?」

「いや、どこからの情報かは知らんが、それはデマだな」



成績は、そこまでよくない。クラス委員長なんて絶対、無理なタイプだ。


一方、まだざわざわとする皆に、先生は何度か手を叩いて静まらせる。



「よーしお前ら静まれ。次に決めることがある」


「決めること多すぎませんかー、先生?」

「まだ学校初日ですよお?」



クラスの中心的な女子たちがブーイングを起こす中、先生はやれやれと息をつく。



「初日だからこそ、決めることが山ほどあるんだよ。そして、それは……新一年生の、歓迎会についてだ」



途端、微妙な反応が教室中に広がった。



「歓迎会……ああ、そんなもん、高一のころあったようななかったような」



確かいくつかのグループに分かれ、簡単に言うと、一年生と三年生が仲良くなるための企画だったと思う。



「これが、早速来週にあるんだ。だから、とりあえず今、グループを決めてほしい」


「えー急ー」

「めんどくさーい」

「またでいいじゃーん」



陽キャたちが騒ぐ中、先生は声高らかに指示を出す。



「五人で一グループ! はい、つくったつくった!」



「かいかい、一緒にしよお?」

「カイさーんっ、一緒にグループつくりましょう!」



と、早速ねむとひなが俺の席の周りに集まった。



「……ねむさん、全部見えてましたよ……」



と、なぜか敵意丸出しで、ひなが俺に抱き着きながらもねむに威嚇する。



「何がかなあー? もしかしてひなのちゃんって、暇人?」

「んなああぁあーっ!?」


「は、はいはい落ち着いて。あと二人メンバーが必要だぞ?」



睨みあう二人を引き離すと、つんつんと背中をつつかれ、慌てて振り返る。

と、予想通り、レオが嬉しそうにして笑みを浮かべていた。



「カイー、一緒にやろうやー」

「おお、レオ、もちろん。よし、これで四人だ」



レオが入り、あと一人だが……どうしたものか。

すると、レオが半ば誇らしげに胸を張って見せた。



「それとやな、あともう一人、連れてきたんやけど。その子も入ってええ?」

「マジか!? お前万能だな、もちろんだ」



レオはさらに誇らしげにほほ笑み、肩越しに後ろを振り返った。



「ほらめう、ええってさ! おいでや」

「うぅう、は、はいっ」



と、物凄く緊張した面持ちで、小柄な女子が後ろから現れた。


その子に見覚えがあり、というかついさっき見た顔で、俺はしばらく脳を回転させる。



「……ああ、クラス委員長の?」

「ひぁっ、そ、そそそそうです……っ」



ミディアムロングの黒髪を揺らし、おどおどした瞳を彷徨わせながらも、女子――七瀬は真っ赤になって俯いてしまう。


そうだ、この子は、七瀬とかいうクラス委員長だったな。



「こんにちは、七瀬めうさんですよね! よろしくお願いします!」

「ひぁあっ、よ、よよよろしくお願いします……っ」



次にひなが挨拶するが、七瀬は真っ赤になってレオの後ろに隠れてしまった。



「わっ私、嫌われてしまいましたかね……!?」

「大丈夫だひな。嫌ってはない……んじゃないか?」



多分、ひなの溢れ出すオーラにやられただけだ。

ひなの頭を撫でてやっていると、不意にねむがレオにとことこと近寄っていき、



「……だっ!? ねむっ!?」

「れおれお、だらしない顔してるう、気持ち悪い」

「なっ、だらしない顔お!?」



ねむはレオの足をぐいっと踏み、レオは涙目になって足を抱える。



「七瀬……めうさん、だったっけえ? 七瀬さんに向かってそんなだらしない変な顔してたら、嫌われちゃうよお?」

「だらしない顔ってなんやねん!」

「七瀬さんがかわいいから、にまにましてるってことお!」

「いやどういうことやねん!」



レオが口をぱくぱくとさせていると、後ろから七瀬がレオの裾を掴んだ。



「れっレオさんは、十分に、素敵だと、思います……っ!」

「えーなんてえ? ……って、わあ」



七瀬につかみかかりそうな勢いのねむを取り押さえ、俺はとりあえず確認をする。



「とりあえず……このメンバーでいいんだな? 色々心配だが……。先生に言ってくるぞ?」

「ああ、よろしくカイ!」

「さすがカイさん、まとめる力が全然違います……」



謎にひなに感動されながらも、俺は先生に伝えに行く。

と、先生はメモを取りながらも俺の方を見た。



「おおありがとう。じゃ、適当に新一年生のグループと合わせとくけど、大丈夫だな?」

「はい、大丈夫です」



俺は報告を終えるなり、グループの元へ戻ろうと方向転換する。



「ねえねえかいかい、ねむ、嫌な予感がするう」

「うおっ、ねむ」



席に戻ろうとしていると、いつの間にか横にいたねむが、むうっと頬を膨らませたままもそう言った。


嫌な予感だと? どういうことだ?



「なんだか、さっき会った、苦手な後輩と同じグループになる気がするんだあ……ねむの直感だけど」

「ははは、まさか……さすがにそんな奇跡、ないだろ……」

「確か明日顔合わせでしょ? そこでわかると思うんだけどお」



苦手な後輩……あのエメラルドグリーンの瞳の――ゆい、か?

まあそんな奇跡、あるわけないだろ。ねむの直感がそんなにいいとは思えんし……。


それに、あの時の女子たちはなぜかピリピリしてたからなあ……仲良くやれるかは分からんし、トラブルは避けたい。



「ないない、あったら奇跡だ」

「一緒になったら、ライバル同士戦わないとなのが大変なんだけどお」

「何の話だよ、ははは……」



俺は軽く笑い飛ばし、次の日まで、その事をほとんど忘れていた。















――次の日。





「せんぱあーいっ!!! まさか、先輩と同じグループだなんて、奇跡みたいですねーっ!!」





「ほら言った」

「ねむさん、さっきからカイさんと距離が近いです! 離れて下さい!」

「レオしゃん……っ、周りのみんな、怖いです……っ」

「とりあえず落ち着かん? おわ、ねむ、蹴るな蹴るな!」



「ね、ねむ……」




顔合わせで、同じグループになった後輩――ゆいに思いっきり抱き着かれ、俺は渋い顔をして、ねむに救いを求めたのだった。




「仲良くしましょうねっ、先輩♡」



「いくら後輩だからって、私の彼氏にちょっかいはかけちゃダメですよ!」

「ひなのちゃんうるさあい、かいかいはみんなのものだよお?」


「ひぃ、怖いです……っ!」

「めう、落ち着いて! 深呼吸深呼吸!」



「…………」





その空気に、俺はめまいがするのを感じる。



波乱の予感しかしないのだが……?

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