第17話 ひなはやきもちを焼かせたい①


「さて……作戦1を実行しますっ!」



春休みが始まり数日後、リビングで、私はそう言いながらも拳をつくってみせました!



「まァたなにか始めんのかァ? 今度は一体なんだよ……」

「お、お兄ちゃんは黙ってて!」



と、ソファーでスマホをいじっていたお兄ちゃんに睨まれ、私はお兄ちゃんをぽかぽか殴る。もう、無神経なんですから!



「こっちの話! 大丈夫だから!」

「そうかァ……? まあ、なにかあったら言えよ。なんてっても、お前のお兄ちゃんなんだからな」

「う、うるさいなあ……ねえ、お兄ちゃん」

「あァ?」

「ありがとっ」



私がぎゅっと兄に抱きつくと、お兄ちゃんは照れたようにして私の頭を撫でる。お兄ちゃんのこういった不器用な優しさも、ちゃんと知ってるんですから!



「かわいさで、彼氏を爆死させないようにな」

「へ?」

「いやなんでも」



お兄ちゃんはそう言うなり、慌てたようにしてスマホに向かってしまう。


私は、ウサギの耳がついたパーカーをだぼっと着て、太ももを大胆に晒しながらもお兄ちゃんの膝に乗る。



「おいひな、なにかするんなら違うとこでやれよ」

「ここじゃ、ダメ?」

「おい、いやァ……しょ、しょうがねェなあ」

「んふっ、ありがとお!」



私は膝の上で、お兄ちゃんにもたれかかったままスマホを取り出し、メッセージアプリを開いた。


そして、数日前繋いだばかりの相手のチャットを開きます!



〈レオさんレオさん、作戦1、実行してきます!〉

〈がんばりやー〉



すぐにレオさんから返信が来て、私はやる気と使命感でほんのり頬を赤らめながらも、こくりと頷いてみせました。



〈作戦1,『カイさんにメッセージを3日間送らない作戦』、実行です!〉



私たちは毎日連絡を取り合っていますが、3日連絡しなかったら……カイさんは、私からメッセージが来ないことに嫉妬し、私をますます好きになるに決まってます!


正直めちゃくちゃつらいのですが……うう、これも、やきもちを焼かせるための手です! 我慢ですっ!!



〈無理やと思うなぁ〉

〈決めつけるのは悪いことですっ〉

〈カイの方から連絡来たらどうするん?〉

〈それは……〉



返信しないなんてこと、辛すぎて無理ですけど……うう、我慢ですね!!



〈我慢します!〉

〈無理確やけどがんば〉

〈ネガティブな人は嫌いです!〉

〈誰がネガティブや!〉



私はレオさんのツッコミを無視し、お兄ちゃんの膝に座ったまま、時間を計れるアプリを起動しました。



〈では、早速始めますね!〉

〈がんばー〉



「よ、よおし……よーい、スタート!!」



私は勢いよく、72時間に設定されたタイマーをスタートさせました!



「残り71時間59分57秒です!」

「お前何してんだ?」



お兄ちゃんに変な視線を向けられましたが、気にしてられません……ああ、あと71時間もあるんですか!?



「で、でも、きっと大丈夫でしょう!」




――三分後。


「む、むむむっ……よ、余裕ですから! 余裕! あと……71時間56分! 余裕です!」



――五分後。


「ああぁぁうう……だ、大丈夫ですよお! 大丈夫ですし! あと71時間54分!」



――十五分後。


「は、はあはあ、カイさん不足……ん、んんっ、ダメダメ! が、頑張りますよお……」







――二十五分後。


「ああああああああ無理です、無理無理無理!! ギブアップ! カイさんロスですううぅう!!」



〈カイさん大好きです!!!!!〉



私はタイマーを勢いよく止め、カイさんのチャットを開き、溢れた気持ちをチャットに……あああああ、送っちゃいましたああ!!!!



〈俺も大好き〉



わああっ、早速カイさんから返信が届きましたあ!?

反省する間もなく喜びが込み上がり、私はスマホを握りしめて立ち上がりますっ!



「や、やったあカイさんだあ!! 大好きですっ!!」

「口に出てるぞ」



お兄ちゃんに突っ込まれても気にせず、私は飛び回りますっ!


途端、ぴこん、とスマホがなり、私は浮かれながらもメッセージアプリを開き――。



〈三十分経過やでー。どうや? うまくいってるか?〉


「うっ……!」



レオさんからのメッセージに、私は顔を青ざめます……か、完全に失敗です!! 私のバカ!!!



「ど、どうしましょう……」



レオさんに作戦失敗だとは言いづらく、私は脳をフル回転させ、最適な文を考えます……よ、よし!!



〈インポッシブルにつき、ミッションフェイルドです〉

〈横文字で誤魔化すの禁止〉

〈作戦失敗です!!〉

〈開き直るんかい!〉



「だ、だってぇ、無理ですよお!!」

「さっきから何一人で言ってんだ?」



と、お兄ちゃんが頭を小突いてきて、私は首をすくめ、横目でちらりと睨みます。



「だから、お兄ちゃんには……あ」



……もしかして、お兄ちゃんのことだから、嫉妬のさせ方を知ってたりします!?



「お兄ちゃんお兄ちゃん、彼氏にやきもちってどう焼かせればいいか知ってる!?」

「はァ?」



怪訝そうに見られますが……いいんです! 



「やきもちってお前……なんでだァ? 彼氏とラブラブだろうがお前」

「それが……色々あって、とにかく嫉妬をさせて、私だけ好きでいてほしくて!」

「あいつ……浮気してんのか? あァ?」

「してないよお、怖いお兄ちゃん!!」



鬼の形相をしたお兄ちゃんの雰囲気に震えながらも、私はお兄ちゃんに抱きつきます!



「お兄ちゃん、とにかく教えてください!」

「その前に、本当にお前の彼氏は浮気してねェんだな?」

「もっ、もちろん! ほらほら見てみて」



慌てて先程のやり取りを見せると、安心したようにして座り直すお兄ちゃん。よ、よかったです……。



「で、嫉妬させる方法は!」

「嫉妬なァ……」



私はお兄ちゃんの横に座り、真剣な顔で耳を傾けます。


お兄ちゃんは耳についたピアスをなでながらも黙考し、やがてゆっくりと口を開いた。



「他の男と、その二人にしか分からない事話してたら嫉妬されるんじゃねェ?」

「えええっ、私、カイさんとしか話したくないです!」

「なら聞くな! せっかく真面目に答えてやったのによォ……」

「うぅーっ」



お兄ちゃんはそう言い、ぷいと顔を背けてスマホをいじり始めてしまいます……でも、モテモテなお兄ちゃんが言う事ですし、やっぱり本当なのでしょうか!?


途端、むくむくとアイデアが広がり、私は興奮のあまりお兄ちゃんにもう一度抱きつきます!



「お兄ちゃんっ!」

「あァ?」

「ありがと!!」


「あァ? なんだよ急に……」



頬をわずかに赤く染めるお兄ちゃんを横に、私はレオさんにメッセージを送信します。




〈近日中に四人で、お出かけしませんか?〉




〈賛成や!〉



やがて、レオさんから賛成の言葉が届いた後、私はわくわくで頬をゆるめました。


四人で遊んで、その時に存分に嫉妬させれば……わああ、最高ですっ!! 

ついでに、ねむさんに問い詰め……こほん、お、お尋ねもできますし?



〈でも、急にどうしたん?〉



レオの問いかけに、私は胸を張って返信します!



〈作戦2、名付けて『他の男子と秘密話をしちゃう作戦』です!!〉

〈名前からして、オレも協力させられる系やな〉

〈レオさんのこともお手伝いしますから! てことで、ねむさんを誘っておいてください!〉

〈しゃーないな……わかったわ〉



私はその勢いでカイさんに誘いのメッセージを送り、さらに頬をゆるめました。






「よおし……今度こそ、カイさんを嫉妬させまくるんですから!!」

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