第18話 ひなはやきもちを焼かせたい②


「……とうとうこの日が来ましたね」

「せやな……!」



それから約五日が経ち、四人でお出かけする日になりました。待ちに待っていました……!


ちなみに、私たち四人は、遊園地に来ることになりました!! 楽しめるに決まってますし、作戦も成功しそうですし……ふふふ、楽しみすぎます!



今は待ち合わせ十分前、私とレオさんは予定より早く来て、作戦会議をする。

レオさんは辺りを見回し、二人が来ていないことを確認しながらも、声を潜めました。



「で? 作戦2、詳しくは何なん?」

「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれましたっ!」



私は腕を組み、胸を張って答える。この作戦のために、昨日夜更かしまでして考えたんです!



「作戦2の内容は……『カイさんが知らないことを、レオさんと凄く楽しそうに語る』というものです!」

「ほうほう……で?」

「以上です!」

「ほあっ!?」



私が得意げに微笑んで見せると、レオが口をぽかんと開いた。



「そ、それだけなん?」

「それだけってなんですか!」

「いやいやいや……適当か!!」

「適当じゃないですーっ!」



昨日、色んな展開をシミュレーションして考えたんですよ!! そんな、適当なんてこと、絶対にないですっ!



「ま、まずくないか、そんな曖昧な……」

「どーこーが曖昧ですか! とにかく、カイさんに嫉妬してもらうまで引きませんから!」

「うお、そんな近づかんで!?」



高揚のあまり、レオさんに詰め寄り、顔をぎゅっと近づけた瞬間……。



「ひな、早かったんだな」

「ひわわわーっ!?!」



慌てて振り返ると、少しむっとした顔をしたカイさんが、私を抱き寄せていました……ふわわああっ、危ないです、でも幸せすぎます!!



「ふあ、カイさんの香り……」

「ひな、久しぶりだな」

「ふぁい……」



カイさんを堪能していると、レオさんが冷や汗をだらだらかき、目をせわしなく泳がせながらも、私の腕を掴みました……ふ、ふぇっ!?



「お、おい月野さん、さっきまで話してた事なんやけどさあ……」

「あ、は、はい、レオさん!」



レオさんが私の手を引いて、カイさんから引き離します……ああっ、作戦のことをすっかり忘れてましたよっ!!


私は泣く泣くカイさんから離れ、レオさんにわざとらしいくらい近づいてみせました!



「……」



カイさんがじとっとした視線を向けてきますが、ぐっと無視し、私はレオさんに話しかけます。



「あーレオさんそうでした、沢山、びっくりするくらい語りましょう!」

「せ、せやなーあはは」


「……おいお前らおかしくないか?」

「「!!」」



レオさんが私を引っ張り、カイさんへ背を向けた瞬間、私たちは顔を硬直させます!



「こ、これ……バレましたかね!?」



小声で尋ねると、レオさんは顔をかくかくと縦に振ります……お、終わりました……!! わざとらしすぎました!?



私たちは、それから一言も言葉を発さないカイさんの方を、恐る恐る振り返り――



「かいかい、だーれだっ」

「ねむ」

「せえかーいっ!」



ねむの手で目を覆われたカイさんを見て、私たちは唖然とした。



「あはは、遅れちゃったあ、ごめんねえ」


「……あ、あはは、あははははははは」

「つ、月野さん!?」



嫉妬ゲージがすぐに満タンになり、私はやけになってレオさんにしがみつきますっ!!



「レオさーんっ、一緒にまわりましょうよー!」

「げ、あ、あーそうやなうん」



作り笑顔を浮かべるレオさんと手を繋ぎ、私は堂々とカイさんにアピールします! よおし、これでカイさんも……!



「ならあ、かいかいはねむとまわるう?」

「……ああ、そうだな」



な、なななななっ、なんでそうなるんですかあああっ!!


私は打って変わって真っ青になり、カイさんとねむさんの顔を交互に見る。そ、そんなあ!?



「か、カイさ……」

「じゃ、早速行ってくるう、また後でえ!」

「お、おいねむ!?」



ねむはさっさとカイさんの手を取って、違う方向へと歩いて行ってしまう。



「月野さん、止めるんや! 止めるしかないで!!」

「ううぅっ、は、はいい!」



私は転びそうになりながらも、人混みの中に入り込み、必死に二人を追います。


そ、そんな、カイさんを取られるなんてそんなこと、あっていいはずないですよ!! 



「はあ、はあ、か、カイさん……っあ」

「ちょっと、もしかして、月野ひなのさんだよね!? え、本物じゃね!?」



とうとう目の前に、カイさんとねむさんの姿をとらえた瞬間……。

後ろからぐいっと手首を捕まれ、私は前につんのめった。



「な、なんですか……っ!?」

「あ、やっぱり月野さんだ! 間近で見ると、リアル美女じゃん……あ、今一人でしょ!?」

「や、やめてくだ……」

「変なことしないからさあー、一緒に遊園地まわろうよおー」



きっと同じ学校の男子なのでしょう、ちゃらちゃらした雰囲気の男子が、私を強引に引っ張ります。



「い、いやっ」

「そんな顔して欲しいわけじゃないんだけどーお? あ、そだ、連絡先! 連絡先あげるから、連絡してよ! ね?」



連絡先が書かれた紙を押し付けられ、私は半泣きになります……たっ、助けて……カイさん……っ!!!!!



「ひな」



目をつむった瞬間、大好きな声が耳をくすぐり、同時に強引に後ろに引っ張られた。

そのまま、ぎゅっとあたたかく包まれ――



「俺の彼女に、気安く触らないでもらえます?」


「か、かいさ……っ」



息が止まるほどかっこいい横顔に、私はただ息を詰め、高鳴る自分の心臓の音を聞いていた。



「うーわ、彼氏登場。まじ邪魔ー」



ちゃら男はちっと舌打ちするなり、そのまま後ろへ後ずさり、人混みに紛れて消えてしまった。



「……」

「……大丈夫か」



カイさんはそう言い、私を後ろから包み込むようにして、ぎゅっと抱きしめた。



「か、カイさん……」

「目を離したらすぐにナンパ……やっぱ可愛すぎるからか……」

「へ、そんな、照れちゃいますよお!」

「事実を言ったまでだ」

「うぅ……カイさんだって、かっこよすぎて、ナンパされないか心配ですよ……」

「俺? されるわけないだろ」



いや、されてるじゃないですかあ! 私は頬を膨らませ、嫉妬作戦をすっかり忘れて、カイさんに甘えます!!



「ね、ねむさんに、されてるじゃないですかあ……」

「ねむ? あいつ? されてるわけないだろ……」

「嘘だあ……もう私、ねむさんにカイさんを盗られないか、不安で不安でっ」

「別に誰が誰を好きであろうと、俺が好きなのはひなしかいないけど?」

「……っっ、は、反則ですよお……」



私はカイさんの胸に顔をうずめ、赤い顔を隠します。



「そういうひなだって……」



カイさんが何かを言いかけた瞬間、駆け寄ってきたねむさんが、カイさんに抱き着きます!?



「かいかい、急に駆け出しちゃってどうしたのお? あれ、それに、ひなのちゃん……れおれおは?」

「あ、あのっ……やっぱり、四人でまわりたいですっ!!」

「んえー?」



ねむさんに土下座する勢いで頼み込むと、カイさんが心なしか嬉しそうにして私の頭を撫でます。



「もちろんだ、俺もひなと……みんなで、四人でまわりたい」

「でも、れおれおと二人でまわりたいって言ったのは、ひなのちゃんでしょお?」

「そっ、それはあ……」


「やっぱ、四人でまわった方が楽しいって話になったからさ……な?」



ナイスタイミングレオさんっ!!



「レオさん、追いついたんですね……よかったですっ!」

「探し疲れたわ……」



私は、ちょうど現れてフォローしてくれたレオさんに感謝しながらも、目をきらきらとさせます。


ねむさんは少し不満そうに唇を尖らせましたが、やがて、諦めの息をつきました。



「……しょうがないなあ」

「やったあ!!」



私はやきもち作戦を忘れかけながらも、カイさんにぎゅっと抱き着きます。



「カイさんっ!! 大好きです!」

「俺も」


「かいかいの香り、好きだよお?」

「匂いを嗅ぎまわるな!」

「んえー」



と、その反対側から抱き着くねむさん……くうーっ、悔しいですっ!!



「つ、月野さん、さっきの秘密の話やけど!」

「あー、秘密の話ですね! 話しましょうよ、嫉妬されるくらい!」



レオさんがフォローしてくれて、私はカイさんが嫉妬することを願って、レオさんと会話にいそしみます!





もっともっと、私以外ありえないって言わせるくらいに嫉妬させてやるんですからっ!!!

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