第19話 ひなはやきもちを焼かせたい③


「てことでえ……どれに乗るう?」

「乗りたいもの全部乗りましょう! 楽しみますよー!!」



早速私たちは、沢山のアトラクションに乗り始めました。

ジェットコースターはもちろん、絶叫マシン、バイキング、メリーゴーランドなどに乗り倒し、私は嫉妬作戦なんて忘れて楽しみます!



「さ、最高ですっ! 遊園地に住みたいですーっ!」

「そしたらジェットコースター毎日十回以上乗りまくる!」


「う、げふ……はよ休憩しよや……」

「つ、疲れたよお……」



遊園地に住みたい派の私とカイさん、一方で、今すぐにでも帰りたい派のねむさんとレオさん。

でもやっぱり楽しくて、私は二人を引きずるようにしてアトラクションを巡りまくります!



やがて、人気のアトラクションをまわり終わった後、カイさんが目をきらきらとさせながらも一つのアトラクションを指しました。



「なあ……あれ、楽しそうじゃないか?」

「『絶叫廃屋』……お化け屋敷ですね! 楽しそうですっ!」



カラフルなアトラクションたちから浮くようにして、おぞましい雰囲気をまとうお化け屋敷。ううーんっ、ちょっと怖そうだけど、でも楽しそうですっ!!



「いやバカか、無理無理無理!! 心臓止まる!!」

「うううー、怖そうだあ……でも、入ってみたいかもお……」



しり込みする二人の肩をバシバシ叩きながらも、私たちは必死に二人を説得します!



「大丈夫ですっ、私が全力でサポートしますし!」

「俺も助けるし、行ってみないか?」



「で、でも、オレお化け屋敷初めてなんやけど……」

「私も初めてです! 頑張りましょう!」



これまではお兄ちゃんに止められて、人生一度もお化け屋敷に入ったことがないのですが……そこまで怖くはないでしょうし!


すると、ねむさんがカイさんの腕を抱き寄せ、上目遣いでカイさんを見つめながらも口を開いた。



「ねむ……かいかいと一緒なら、行きたいかもお……」

「俺? えーと……」



わ、私の彼氏に何を……!!

カイさんは、一瞬迷ったようにして私を見ましたが……。



「かいかい」

「……」



ねむさんが、何かをカイさんに囁くと、カイさんは決心したようにして頷きました。



「よし、ねむ、一緒に行こう」

「いこおー!」



ええええええーっ!?! な、なぜ……っ!?



「じ、じゃあ月野さん、行こか!」

「は、はいっ、行きましょう!」



レオさんが慌てて声をかけてくれて、カイさんとねむさん、私とレオさんのペアで進むことになりました……ううぅ、これは、私の方が嫉妬させられている……!?


私たちはお化け屋敷へ入るためのチケットを購入しようとチケット販売機の前に立ちます。



「わあ、カップルチケットは、三割引きなんだってえ! やったねえ、かいかい!」

「か、カップル?!」



ねむさんとカイさんがカップルチケットを購入している……!? な、ななな!!



「ほい、チケット」

「あ、ありがとうございます……」



と、レオさんもカップルチケットを購入してくれて、私は慌てて受け取ります。



「……大丈夫か?」

「だっ大丈夫です、こんなの平気です! レオさんこそ……」

「オレはいつもの事やし大丈夫やけど……」



レオさんの優しさを感じながらも、前を親しげに歩くねむさんとカイさんを見て、やっぱり嫉妬で心がはちきれそうになります……。



「かいかい、怖いよお、ぎゅーしてえ」

「……しょうがないな……」



さらに目の前で抱き合う二人を見て、私は悔しさをぎゅっと堪え、レオさんの手を掴みます。



「レオさん、怖いですよね? よければ、手を繋ぎますよ?」

「た、助かるわ……」



レオさんの場合、本当に手を繋いだほうがよさそうですしね……。


先にねむさんとカイさんが誘導され、私たちは数分待ち、



「次の方ー! どうぞ、中にお進みください!」

「は、はいっ!」



やがて私たちの番になり、中に誘導され、私たちは恐る恐る一歩を踏み出します……。



「……っ!?」



中に入った瞬間、暗闇で何も見えなくなり、私は小さく息を呑みます。



「怖い怖い怖い無理無理無理」

「レオさん落ち着いて……って、きゃあああぁっ!?!!」



いきなり目の前に、血だらけの女性が飛び上がり、私は意識を失いかけます!!



「無理です無理ですううっ、嫌だああ!!」

「オレもあかん、無理やああ……うわあああぁああっ!?!」



と、立ち止まる私たちを急かすようにして、後ろから長い髪を引きずった幽霊が追いかけてきます!?! 

こっ、こんなにお化け屋敷が怖いと思ってなかったんですけどっ!?!



「いやだあぁあ、きゃあぁぁあっ!!!!」

「こ、殺されるっ!! 無理やってえ!!!!」



私たちはものすごいスピードで走り、



「うっわああああ!?」「きゃああっ!?!」「ふええっ??」「うおおおお!?!」



暗闇の中、どんっ、と何かにぶつかり、私は大絶叫、レオさんにしがみつきます!!



「しっ、ししししし、死にましたっ!! ダメです、もう心臓が!!」

「うおお……って、ひな?!」



その声に恐る恐る顔をあげると、驚い顔をしたカイさんと目が合いました。



「へっ……え?!」

「なんで二人があ?」



ど、どうやら全速力で走りすぎて、先に進んでいた二人にぶつかってしまったようです……!


私は大きく安堵の息をつき、震えながらもカイさんにぴったりとくっつきます!



「カイさああん、怖かったですぅう……!」

「よしよし、よく頑張ったな」



頭を撫でられ、私はぎゅっとカイさんを抱きしめながらも、ゆっくりと進み始めます。



「お化けが怖いです、お化けが!」

「ひな、こういう系苦手だったんだな?」

「そっ、そうだったみたいです……カイさんは余裕そうですね!?」

「ああまあ、慣れてるから」

「慣れてるんですかっ!?」


「……」



私たちが他愛のない会話を交わしていると、誰かの視線を感じ、私はそちらを振り返ります。



「……ねむさん?」



視線の元、ねむさんが私たちをじっと見つめていて、私はつい目をそらしてしまいます。

な、なんだったのでしょう……? なにか考え事をしていたようでしたが……。



「うわあああっ、ゾンビ! ゾンビが追いかけてくるっ!!」

「ひゃっ!?!」



レオさんの悲鳴に振り返ると、後ろから、顔が半分溶けたゾンビが!?!



「いやだあああぁぁっ!!」

「怖すぎますうっ!!!」

「助けてえぇ!!!!」



私たちは半泣きになって駆け出し、その拍子に私はカイさんから離れてしまいます。



「ひな、手……」

「かいかい、怖いから、手握ってえ!」



カイさんが伸ばした手を掴もうとすると、一瞬先にねむさんがその手を掴み、走り出してしまいます……!


しかし感傷に浸っている時間はなく、お化けもびっくり、私たちは全速力でお化け屋敷から飛び出しました!!


いきなりの外の眩しさに目を細め、ばくばくと鳴る心臓の音を聞いていると、



「おっ、お疲れ様です……!?」



出口で立っていた人に驚いたように言われ、私たちは止まっていた呼吸を再開し、荒い息を繰り返します……うううっ、怖すぎましたよお!!!!



「も、もう、お化け屋敷は行かん……」

「同じくです……」



私たちが顔を見合わせて恐怖を共有していると、カイさんが私の頭をぽんと撫でます。



「とにかく、ひなが無事でよかった」

「カイさん……」



カイさんって、やっぱり優しいです……この優しさに、もっと浸っていたい……。



「ねえ、トイレ休憩にしなあい?」



と、そんな私たちを遮るようにして、ねむさんが声を上げます。

た、確かに、一度休憩が欲しいかもです……。



「それもそうだな……じゃ、十分後にお化け屋敷前で集合するか」

「賛成や」

「わかりました!」

「じゃあ、また後でえ……ひなのちゃん、行こうかあ」



男子と別れた後、私はねむさんと公共トイレへと向かいます。



「……」

「……」



しばらく沈黙が続き、私は気まずさで視線をせわしなく動かします。気まずいです、なにか話題は……!



「ねえ」

「ひゃいっ!?」



不意にねむさんが口を開き、私は顔を跳ね上げねむさんの方を見ます。


ねむさんはいつも通りのんびりとしながらも、まっすぐ私の目を見つめました。






「いきなりで悪いんだけどお……かいかい、ねむがもらってもいいかなあ?」

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