月が綺麗ですねと学年一の美少女に尋ねられたので賛同したら、なぜか次の日から彼氏認定されてる件。いや、俺何もしてないよな?? なんで付き合ったことになってんの?
未(ひつじ)ぺあ
いつの間にかかわいい彼女ができてた件
「月が綺麗ですね」
第1話 かわいい彼女ができるまで
夜間カイ。人生17年目で、年齢イコール彼女ナシ歴。
これまでも、これからも、このステータスは変わらないと、そう思っていた。
今日も、いつも通り朝起きて、歯を磨いて、朝ご飯を食べて。
学校へ向かおうと玄関の戸を開けて。開け、て……。
「おはようございます、カイさん♡」
「……はえ??」
頬を叩く。ちゃんと痛い。
いや、あり得ない。幻覚だ。そうだ、幻覚に違いない。
これは、幻覚。
そうでもなければーーー俺の家の前に、学校1の美少女が立っているなんてことが、現実になってしまうのだから。
どうしてこうなった。わからないまま、瞬きも忘れて俺は目の前の美少女に魅入る。
見れば見るほど、とんでもない美少女だった。
学校1の美少女、そう謳われるのも納得の美貌。腰まで伸ばした銀髪、世界に2つと無いだろう、値も付けられないほど儚く美しい宝石に匹敵する、紫紺の瞳。
その瞳には、よりによって俺の姿が映っている。
俺の戸惑いをよそに、可愛い桃色の唇を開き、彼女はさらにとんでもないことを言い出したのだ。
「昨日はその……告白をおっけーしていただいて……ありがとうございましたっ」
………………は??????
彼女が告白??? 昨日??? そんな事実、なかったと断言できる。
そんな中、美少女は少し照れたようにして銀髪を弄ぶ。
やがて顔を上げ、美少女は女神も顔負けするような笑みを浮かべて、そして言うのだった。
「私たち、付き合ったということで……迎えに来ちゃいました♡」
再び頬をつねる。やっぱり痛い。そして、再び思う。
ーーーどうして、こうなった。
★
昨日の記憶を巻き戻そう。
「今日も遅くまで手伝ってくれてありがとう。もう帰っていいぞ」
「はいっ、失礼します!」
満点の星空に、感動の音が漏れてしまいそうな迫力の満月の下。
昨日、俺――
「……やっべ、もうこんな時間か」
腕時計を見ると、針は20時を指していた。俺のお人好しが出て、今日も先生を手伝ってしまった……と少し後悔したのを覚えている。
俺、夜間カイは、高校二年。お人好しなことでちょっと有名でもある。
困っている人を見ると思わず声をかけてしまう性格のせいで、自由時間も削って他人に奉仕。
周りには『そんなめんどくさいことして何になるんだか』と思う人もいるかもしれないが、俺にとっては、こうすることが一番安心する。
必要とされているような、そんな安心感に包まれるからだ。
歩いていると冷たい風が頬をかすめてゆき、俺は凍えながらもはあ、と白い息をはく。
……今日はいつもに増して、とにかく寒い。早く帰ろう、そう思って早歩きになっていた。
「……ん?」
たたた、と。
俺が手に息を吹きかけながらも歩いていると、不意に後ろから軽やかな足音が近づいてくるのに気づいた。
「……よっ、夜間、カイさんー! ぐっ、偶然ですね!」
その鈴のような声に振り返ると――。
ふわりとなびく、思わず手繰り寄せたくなるほどきれいな銀髪。
長いまつげに縁取られた、夜空を凝縮した宝石のような紫紺の瞳。
うちの学校の制服を完璧に着こなし、街灯に照らされきらきらと輝く美少女が、俺に駆け寄ってきていたのだ。
「え……月野さん?」
見間違うわけもない。
日本人ばなれした整った顔立ちを誇る美少女――月野ひなのだ。
成績優秀で生徒会長を務め、さらに学校一の美少女と噂されている、雲の上の上の存在。
……いやいやいや、そんな月野がどうして俺の名前を!?! なにこれラブコメ展開!?
阿呆のように呆ける俺の元へ、彼女は寒さで鼻を紅く染めながらも、俺の方へ雪道を駆けてきて……
「だっ!!」
「月野さぁん!?」
――目の前で、盛大にコケた。
「……大丈夫?」
「は、はいっ、すみません、ドジなもんで……」
いやここ、小石の一つもなかったけど……??
俺が戸惑いながらも月野のか細い手をとると、転んだのが恥ずかしいのか顔を真っ赤に染めた月野が立ち上がる。
「ぐはっ」
月野がふわりと顔を上げると、銀髪が肩からさらさらと零れ、整いに整ったかわいい顔が俺のソウルを直接直撃する。
美少女は最大の薬であり同時に毒だって、どこかで聞いたぞ……。
月野は、運動神経は……さておき、誰もが息を呑む程の美しさは、学校中の男子を磁石のように惹き寄せる力がある。
それは俺も知っていて、よく告白されているシーンを目にする。羨ましい限りだ。
……とにかく俺なんかが話しかけていい存在じゃないし、崇めるべき美少女、ってこと。
ならこれはなんだ? 夢か? 夢なのか!?
ここが現実か妄想か見定めていると、視界の先、月野が急にもじもじとし始めた。
「あっあの、私もちょうど帰りでっ。……カイさん、一緒に帰りませんか?」
俺の手を握ったまま、月野が上目遣いをして、少し不安げな瞳を向けてくる。
……は???
脳がその事実を受け入れる前に、月野はさっさと歩きだしてしまう。
いやまあ確かに、夜道女子一人は危険だし。さらに月野ほどの美少女となると、何が起こるかわからない。
「あ、ああ、いいけど……」
「!! ありがとうございますっ!」
こちらを振り返り、ぱあっと顔を明るくさせた月野。
俺は心臓を高鳴らせながらも、月野と共に夜道を歩き始めた。
★
――ちら、ちら。
「……??」
二人で夜道を歩いていると、先程から月野から熱っぽい視線を感じ、俺は少し不審に思う。
なぜそんなに顔を見てくる? なにか付いてる?
「どうした?」
「ひやっ、なんでもないですっ!」
顔を向けると、慌てて顔をそらす月野。怪しい。
「そそそういえばっ! カイさんは、どうしてこんな時間まで学校に?」
「ああ、ちょっと先生を手伝ってて。そしたらこんな時間になってた」
すると、月野が頬を桃色に染め、雪のように白い手で頬を抑えた。
「……カイさんって、やっぱり頑張りやさんですよね」
「や、そんなことは……」
というか、俺と月野の関係性は、同じ委員会、といったような、極めて薄いものだ。
それなのに、どうしてそんな事を言ってくれるのだろうと首を傾げる。それに、どうして知っている?
俺は月野とそこまで話したこともないし、こうして学年一の美女に褒められてしまうと、後々月野ファンに殺されないか不安になってくるが。
「か、カイさん」
と、急に声を緊張させながらも、月野がぐいっと顔を寄せてきた。きれいな瞳が、空に浮かんだ満月を映す。
「……な、なんだ?」
俺は、かわいさと距離の近さのダブルパンチで息を詰める。
美少女ってのは、こういうことを平気でするのか!? そうなのか!?
俺が慌てる中、月野は大きく息を吸ったかと思うと、
「あ、あのっ……つ、月が綺麗ですね!」
そう言い切るなり月野は目をぎゅっとつむり、顔をかあっと赤く染めた。
――心なしか、時間がぴたりと静止したように感じた。
が。
「…………」
……は??
俺はわけが分からず、ただ月野の緊張した、綺麗な顔を見つめることしかできない。
月? 綺麗だけど? なんでそんな顔赤いの?
――だから俺は、ここで誤った選択をしてしまった。
「? そうだな」
「ふぇっ!?」
俺が軽いノリで答えると、途端、ばっと顔を上げ、月野が赤い顔で俺を二度見する。
「えっ、あっ、えっ、えぇ!?」
「……? 驚くことか? 月、綺麗じゃないか」
と、大きな目をさらに見開き、月野が口をパクパクとさせる。
「ほっ、ほんとに、綺麗ですか?」
月野の反応を訝しく思いながらも、俺は再度頭を縦に振る。
「ああ、光り輝いてる。この月見ずして死ねるかって感じだね」
「……う、うあ……」
話を盛ってみせると、月野はとうとう耳まで紅く染めて、顔を覆ってしまう。
「……??」
いや、本当に何事?
俺が謎のあまり眉にしわを寄せていると、月野は決意したようにして顔を上げた。
ぱっと銀色の髪が宙に散り、俺は思わず感嘆の息をつく。
そんな中、月野は照れたようにして頬を真っ赤にしながらも、俺にさらに近づいた。
「え、えっと……こ、これからよろしくお願いしますっ!!」
「お、おう?」
友達としてか? そんな改まることないだろ、てか急だな?
美少女の友達、というパワーワードに緊張が解けない。
「では、また明日です!! 私の家、こっちなんで!」
「あ、ああ、またな」
月野は飛び跳ねんばかりに駆け出したかと思うと、一度ふわりと振り返り、誰もが一目すれば恋に落ちるようなかわいらしい笑みを浮かべる。
「うあっ、とと!?」
「つ、月野さん?」
しかし勢いのあまり躓きかける月野。
その危なっかしさに、俺が一生月野をそばで支えてやりたくなる。この言葉に他意はない。
「え、えへへ、すみません……ではまた明日!」
月野はもう一度振り返るなり、まるで夜空の闇に溶け込む満月のようにして、暗闇に消えていった。
「はぁあぁ……」
静まった道で、俺は心臓をなだめる。
さすが学年一の美女、心臓に悪い……。
高鳴る心臓の音を静かに聞きながらも、俺はそっと息をついた。
「月野の彼氏になったやつは、心臓もたなくて大変だろうな……」
いや、余計なおせっかいか。ああ、またお人好しが!!
俺は自分に呆れながらも、止まっていた足を進ませた。
……次の日に起きる事態を知らずに、俺はいつも通りの道を通り、家へ帰ったのだった。
★
「早く学校に行きましょう、遅れちゃいますよ!」
「?????」
そして、今に至る。
全く状況が読めない。
俺はおどおどとし、かわいらしく微笑む月野を五度見――いや十度見くらいする。
「……知らないうちに、一緒に学校に行く約束してた……とか?」
「してないですよー」
一応聞いてみると、ふわりと首を振って否定される。
なら本当に……。
ますます硬直する俺に、月野は再度、繰り返した。
「だって私たち、付き合ってるんですから!! 一緒に登校、普通じゃないですか♡」
★★★★★
この作品を読んでくださり、本当にありがとうございます!!!
少しでも面白かったら、★をくれると最大の励みになります……!!
ではでは、引き続きよろしくお願いしますᏊ˘ꈊ˘Ꮚ
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