第27話 歓迎会は波乱の一択③
「「「「王様ゲーム! いえーいっ!!!」」」」
……どうしてこうなったああ!!!
体育館、俺たちはなぜか輪になって、なぜかくじを引き、なぜか王様ゲームをしている。
「くっ……こうなったのも、ゆいのせいなんだからな!」
「新入生の発言を優先しなさい、って先生に言われてしもたしなあ……これは一本取られたわ」
でもせっかくやし楽しもうや、と明るい茶髪を揺らして笑うレオに対し、俺はげんなりとして胡坐をかいた。
はぁ……一番避けたかった事態なんだが、どうしてくれるんだ!?
「えへへ……えへ……せっかくのチャンス、生かさないわけにはいきませんよお……」
なぜかにやにやと口角を上げるひなを横目で見やりながらも、俺はもう一度、大きなため息をついた。
これでもし「キスをしろ」と命令が下されて、そこで俺と、ゆいやねむと当たってしまったら……あああ、背筋に悪寒が走る。
まあ……このゲーム、さすがに拒否権はあるだろうしな……。
ほっと安心の息をついたとき、にや、とゆいがほくそ笑んだ気がした。
ゆいは、エメラルドグリーンの瞳を挑戦的に輝かせたかと思うと、不意にじり、と俺ににじり寄ってくる。
「え、おい……」
「先輩っ、こんなのはどうですか? ――命令されたことは、絶対に実行しなければならない」
「ねむ、賛成ー」「はいっ、いいと思います!」「あ、え、ええと思うけど……」
――フラグ、見事に回収である。
俺が反論する前に、みんながさっさと同意してしまい、あっという間にそのルールが可決されてしまう。
「ぜ、絶対はちょっと! あっ、ほ、ほら、新入生のみんなだって、そんなの嫌だよな?!」
何とかこの状況を変えようとし、俺は慌てて新入生に話を振る。
新入生たちはいっせいに顔を見合わせたが、
「えぇー、やってみたい、かも……!」
「ゆいちゃんが言うことだったら、ね」
「楽しみだなあ、なんでも命令していいんでしょー?」
「彼女持ちの人にもなんでも命令できるんなら……カイ先輩に……きゃーーっ!!」
と、なぜか乗り気……これは、絶体絶命だ……っ!!
真っ青になる俺に、ひなはぎゅっとこぶしを作って、俺に笑顔を畳みかけてきた。
「よおし、時間もないことですし、さっそく始めましょうか! ね、カイさんっ!」
★
「「「「王様だーれだっ!!!」」」」
「ひえぇ……わっ、私、ですかあっ!?」
第一回戦。
配られた紙を皆が開いたとたん、真っ先に悲鳴を上げたのはめうだった。
大きな瞳をいっぱいに開き、びくっと身を震わすめう。
その際に、つやつやな黒髪がさらさらと肩から滑り落ちる。
「えっ、この先輩めちゃくちゃかわいくない……?」
「うぉっしゃ、この班当たりだあっ!!」
あのなあ……とげんなりする俺に、めうが急かされたようにして口を開いた。
色白な肌は白を通り越して真っ青で、冷や汗だらだらだ。
「どどどうしましょう……命令とか、苦手なんでしゅよっ……」
「なんでもええんやで? ゲームなんやから、楽に捉えた方がええで!」
「れれれっ、レオさん……っ!」
そのレオの言葉に励まされてか、今度はなぜか真っ赤になりながらも、めうは焦ったようにして口を開いた。
「じじじじじゃあ、4番は王様と、にらめっこ……とか、ど、どうでしょうか……?!」
「おっ、オレや、4番!」
紙を持ち上げたのは、まさかのレオ。
「ひっ、ひええええぇぇっ!?」
めうはぴょんっと、漫画の世界ヒロインか! と突っ込みたくなるほど飛び上がり、みるみるうちに耳まで真っ赤になってしまった。
「あああのっ、やややっぱりこの話はなしに……」
「よおし、にらめっこやな! 負けへんで! にらめっこしましょ、わーらうとまーけよっ、あっぷっぷーっ!」
「~~~~~っっ!!!!」
手をわたわたと振るめうを置いて、レオは早速にらめっこを始めてしまう。
そしてコンマ一秒後、
「ぎ、ぎぎぎぎぶあっぷですうう……っ!!!!」
そうか細い声で言うなりめうは、両手で顔をビンタする勢いで、顔を覆ってしまった。
「うぅーん……?」
この反応……見るからに、めうはレオに好意を寄せてるんじゃないか? と思わせてくるんだが……気のせいだろうか?
思案する俺の前で、レオはまだ真っ赤なままのめうに、にかっと笑みを向けた。
「にらめっこして気づいたんやけど、めうって、すんごい綺麗な瞳、してんのな!」
「!!!!! っ、レオさん、もうやめて……くださいぃ……」
「……れおれお、後で頭突きでもして、目を覚ませてやらないとだねえ」
それを見てか、横でなぜかぷくっと頬を膨らませるねむ。
「よ、よおし、二回戦ですよっ! くじを引き直しましょう!」
その雰囲気を、いい意味でも悪い意味でもとり壊すようにし、ひなが二回戦を開始させた。
★
「「「「王様だーれだっ!!!」」」」
「……お、俺?」
配られた紙を恐る恐る開き、俺は目をぱちくりとさせた。
紙の中央には、ひなの綺麗で丁寧な字で『王様』と書かれている。
「えぇーっ、カイさんが王様っ!」
「せんぱいっ、なんでも命令してくださいっ♡」
細く滑らかな素足を俺の方に伸ばしながらも、ひなが両手を合わせて『おねだりポーズ』をしてくる……なんじゃこれ、可愛すぎるんだが?
一方でゆいは、胸元のボタンを数個外し、大きなぺえを見せつけるようにしてさらけ出してくる……ので、すぐに目をそらした。
「ゆいさんっ、カイさんに誘惑など効きませんよっ!? 効くのは、私のらぶらぶビームだけですっ」
「言っときますけどお、私のおっぱい、ひなの先輩よりもありますよ?」
「なっ、なななななっ!?!」
「……うぅーん……命令って言ってもなあ……」
なぜか急ににらみ合う二人を視界の隅にやり、俺は一人頭を悩ませる。
下手に変な命令をしてしまうと、収拾がつかなくなってしまうかもしれないからな……うぅーん、一体どんな命令をすればいいんだか……。
目を細めて考えていた時、はっとこのゲームのルールが思い起こされる。
「おいねむ、質問があるんだが」
「えー、なんだろお……あっもしかして、ねむの番号が知りたいのお? ねむは、5番だよお」
「よし、その番号だけは当てないから安心しろ。それでさ、このゲームって……王様を含めなくても、例えば『1番と4番』のように、番号だけで命令ができるんだっけ?」
ねむの発言をスルーして質問をすると、しばらくして、半ば不機嫌そうなねむから返事が返ってくる。
「……そうだけどお……別にねむに命令してくれてもいいのにい……」
「決まったぞ! 2番と7番が、ハグをするっ!!!」
さらにスルーを決め込みながらも、俺は声高らかに『命令』を下した。
かなり攻めた命令だが、組み合わせによっては神展開間違いなしである!
さらに、王様である俺が、誰かとハグをする可能性は無いため、ひなを不意に傷つけることもなし!
さてさて、誰が2番で、誰が7番かな?
にやにやとして待っていると、しばらくして、同時に二つの手が上がった。
「……げ」
「ゆ、ゆいさん?」
「ひなのせんぱい……?」
その声を聞き、俺は恐る恐る声の主の方へ目を向けた。
「……っ!!?!!」
見ると、『2』の紙はひなが、『7』の紙はゆいが、それぞれしっかりと握りしめていた。
二人はそれぞれの手を挙げながらも、硬直状態に陥る。
「「「…………」」」
……こ、これは、まずいんじゃ……?!!
しーん、と静まる中、二人は同時にさっと顔を上げたかと思うと、
「「カイさん、無しでお願いします」」
「まあまあ、ルールはルールやし! てか元々、茂中さんが言い出したルールやろ!? さらに、二人が仲良くなるチャンスやん! な!!」
「……身から出た錆、ってやつですねーっ……」
そこで、レオからフォロー(?)が入り、さらに周りからの圧で、二人はとうとう、渋々といったようにして互いの背中に手を回した。
一瞬、二人の周りに白い花が咲いたように見えたが……すぐにそんな雰囲気は払拭される。
「……何秒すればいいんですか」
「できれば今すぐにでも解きたいですー♡」
「……ゆいさん、髪の毛が痛んでますよ? 髪を染めてるからじゃないですか?」
「えー別に、そんなのじゃないですけどお」
「嘘ですね、ブリーチし過ぎたときにこうなるんです」
「ええーもしかして、ひなの先輩、染めたことあるんですか? 元生徒会長が、不良だったなんてっ! 私ショックです」
「お、お兄ちゃんから聞いたんですよっ!!!」
「というかひなの先輩、痩せすぎです。彼氏にハグされた時、抱き心地悪くて嫌われちゃいますよー?」
「そういうゆいさんは、胸がありすぎて、ハグしたときに汗かいて嫌われますっ」
ひゅうう…………っっっ。
駆け抜ける冷たい風に、俺たちは凍ったようにして固まっていた。
……な、なんだ、この冷気はっ!!!!
「おいカイ、はよこの地獄を終わらせろ! でなければ、俺らの班は全滅や!!」
レオにどつかれ、俺はかろうじて口を開き、殺気と冷気を浴びながらも二人に声をかけた。
「も、もう終わってもいいぞ……」
「わあー助かりました、カイさん!」「ありがとうございますっ、せんぱい!」
瞬間、二人はにこっと笑みを浮かべて俺を見る……怖い怖い怖い怖い怖いっ!!!
「さ、さあ!! 王様ゲーム、続けようか!! なっ!!(圧)」
その凍った気まずすぎる空気を変えようとしてか、半ば強引に、レオがゲームを進行した。
★
――数十分後。
時間的にも、これで最後のターン――七回戦――になった。
「「「「王様だーれだっ!!!」」」」
これまでのターンでは、新入生同士がほっぺをつつきあったり(男子同士がつんつんしてほっこりが生まれた)ねむとレオが膝枕をしたり(ねむがレオに頭突きをし、強制終了)して、いい感じにゲームは進んでいた。
「おっ、最後はオレかー!! よおし、攻めたやつにしたろ!」
ラストで王様を引き当てたのは、どうやらレオらしい。
そう勢いよく宣言したはいいが、レオはしばらくむむむと頭を悩ませる。
「レオ先輩……キス、とか、どうですか?」
そう提案したのは、にこおっと怪しげな笑みを浮かべるゆいだ。
「い、いいじゃないですか……レオさん、そうしましょうよ!」
ひなも頬を火照らせながらも、ゆいに同調する。
「ふふふ……これで、私とカイさんのいちゃいちゃシーンを、みんなに見せつけられるチャンス……!!」
「これで、せんぱいと私がちゅー……♡」
この空気、ものすごく嫌な予感がするんだが……っ!?!
「……レオ、やっぱりそれは」
「おっけー!! じゃあ、『2番』と『8番』が、ちゅーや!!」
レオお前!! 人の話を聞けええぇあ!!!
と叫びたいのを堪えながらも、俺は手元の紙を反射的に見、そして瞬間、固まる。
『8』。
「……っっ!!」
ちょっ、ま、はぁあっ!?! 俺が8番!? 嘘だろ!?
真っ青になり、俺は慌てて『2』を持つものを探そうとし――。
「……私たち、やっぱり運命なんですね、せんぱい♡」
いきなりだぁん!! と後ろに押し倒され、衝撃で意識が遠のきかける。
「へ……っ、は、え」
「せーんぱい、目、閉じててくださいね♡」
ようやく定まった焦点の先、映ったのは……ゆいの整った顔と、その手に握られた『2』の紙。
「ちょっ……」
「では、いきますよーっ?」
ゆいの吐息がすぐそばまで迫る。
倒れた体に、ゆいの柔らかくも暖かい肌が密着し、指が俺の顎に当てられる。
「た、頼む、待ってくれ、ゆい……」
「せんぱい。私は、獲物を前に『待て』ができる性格じゃないんです。ごめんなさいっ」
近づいてくるゆいの大きな翠色の瞳に、俺の焦ったような、必死な顔面が映っている。
俺は言葉も出せずに息を詰め、恐怖でぎゅっと目を閉じた。
彼女以外とキスしてしまうなんて……あああごめんひな、あぁぁ……っ!!
「……うあ、へっ……!?」
ふぅっと聴覚が遠のく中、急になぜか戸惑ったゆいの声が耳に届く。
それを疑問に思う前に、
――ふにゃ、とした柔らかいものが、勢いよく、俺の唇に押し付けられた。
……。
…………。
………………。
「……ん、んんん~~~っ!!!」
さ、さすがに長すぎる、だろっ!! 息ができねえ!!!
長い長い数秒が経過し、救いを求めて手をばたつかせたところで、俺はようやく固く閉じていた目を開く。
「……は」
いたずら気に微笑むゆいの顔と、茶色の髪が視界に入る……。
……はずが、なぜか天の川のようにゆらめく銀髪が視界に映り込み、俺はただあんぐりとして口を開いた。
「え……」
続き、藤色の瞳と目が合い。
火照った赤い頬が見え。
そして、その顔に、小悪魔な笑みが浮かび。
終いに、ぺろっとしたを出す――俺の彼女が、間近でいたずらげに微笑んでいた。
「ルール破り、しちゃいました……悪い彼女で、ごめんなさいっ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます