第43話 そのころレオは②

毎度ながら投稿遅れてしまいすみません(´;ω;`)




★★★★★





「あ……えっと……お風呂、上がりましたぁ……っ」


「そ、そうか……風呂、どうやった? 熱すぎんかった?」


「あぅっ、ちょうどよかったですうっ……!」


「よ、よかったわ……お、オレ、入ってくるな!」


「い、いってしゃ、い、いってらっしゃい、です」





き、気まずい……!!!!



オレはいそいそとパジャマ片手に部屋を出、そして部屋の扉を背に、長い息をついた。


いきなりめうが家に泊まりに来るなんて……ほんまに聞いてへん!




「と、とりま、風呂や風呂!」



急いで脱衣所に向かい、あたふたと服を脱ぎ、スマホ片手に風呂場に入る。


ざぶん、とその拍子に湯が跳ね、盛大に顔にかかって顔をしかめる。


どうやら今のオレは、相当動揺しているらしい。落ち着け、落ち着くんや、オレ!!



「……ん?」



―――ぴこん、とスマホが着信を伝えたのはその時だ。



何気なく視線を落とすと……『ねむ』の名が!?



「!! ね、ねむ!?」



スマホを危うく取り落としそうになり、オレは落ち着こうと大きく息を吸う。


が、同様のあまりか体がずるっと風呂の中で滑り、危うくスマホ共々溺れそうになる。



「落ち着け、落ち着くんやオレ……!!」



その後たっぷり三十秒深呼吸し、俺は息を詰めてねむのチャットを開いた。



〈れおれお、雨ひどいから、洗濯物は取り込んだ方がいいってお母さんに言っといたほうがいいよお〉



内容を見るなり、胸をぎゅうっと締め付ける感情。



「……あぁ、好きなんやわ、オレ」



〈忘れとったかも。ありがとな〉



そう簡素に返信し、俺は小さく息をついた。



――ねむのどこが好きかと言われたら、真っ先にオレは「かわいいところ」と答える。



不愛想に見られ誤解されやすいねむだが、実は優しくて、そして人一倍傷つきやすい一面がある。


だからこそ自分を抑え込み、無理してしまうところがある。


そんなところがかわいい。


昔はまた違うかわいさがあったし、今だって、凄くかわいい。



「はー……」



ねむのことは一番近くで見てきた自信はあるが……ねむの恋する顔は見たことがなかった、からこそ。



「ほんま、ずるいわ……カイ」



ぼんやりとカイの顔を思い浮かべ、すぐに、カイを見つめるねむの顔が思い浮かぶ。



頬をほんのり赤く染め、眼にはカイしか映っていない。


ねむがぼんやりと目で追っている先は、決まってカイ。


話しかけられると少しうれしそうにはにかみ、前髪をちょんちょんと整える。


そんな仕草がめちゃくちゃにかわいくて――。



――ピコン!



「わっ!?」



妄想中いきなりスマホが鳴り、俺は慌ててスマホに視線を落とす。



〈れおれお今なにしてるのぉ〉



「ちょちょちょちょほんまにまってまって」



ねむの方からメッセージを送ってくる……やと!?


普段は簡素な会話で終わるのに、今日に限っては……ねむの方からメッセージがあるで!?


今日は嵐でも……あ、もうすでに嵐やん……そ、そんなことよりや!!


動揺のあまり、俺は、今思うと一番送ってはいけない内容を送ってしまった。



〈今日は、めうがオレん家に泊まるで〉



返信した途端、秒で既読が付く。


しばらく沈黙が続いたかと思うと、やがて短いメッセージが届く。



〈なんでえ?〉



そんなそっけない返信に、若干焦りつつもオレは急いで返信する。



〈学級委員の話し合いするために、うちに来てもらってたんやけど……嵐が酷いから〉



〈へぇ〉



続くねむのメッセージに、俺はお風呂の温度が急激に下がるのを感じた。



〈別にい、ねむは今からかいかいの家に行くしい? いいんだけどお〉


〈なんなら泊ってきちゃおうかなあ〉




「ちょぉ待った!!!」



急にカイの名前が出てきて、俺は焦って返信する。


カイの家に泊まるやと?! そんなん……!!



〈こ、この嵐の中外に出るのは危ないで!〉


〈いいもおん。どうせえ、れおれおだって、めうちゃんといちゃいちゃするんでしょお〉


〈せぇへんわ! とにかく、やめたほうがええ! 風邪ひくで!?〉


〈お泊り楽しみいー〉


〈ちょい!〉


〈ばいばあい。洗濯物は取り入れなよお〉



一方的に会話が打ち切られ、オレは焦りで肩を大きく上下させる。



「さ、さすがに冗談やんな……? こっこここんな嵐の中、出るわけないやんな?」




そう自分に言い聞かせながらも、正直気が気でない。




―――がらら、と脱衣所の扉が開いたのはその時だった。




オレはクセで、お風呂場の電気を付けずに入る習慣がある。


だからか、オレに一言も声がかかることなく、人影がお風呂場前を通り過ぎ、脱衣所内を歩く気配がする。



「……?」



お母さんかな……バスタオルでも補充しに来たんか?


そういやオレ、急いで風呂場に来たからか、脱衣所どころかお風呂場のカギ閉めてへんかも!?



この人影がお母さんやったらええけど……もし、もしもや……めうだったら?




一応声をかけておくべきか、数秒間迷った末、口を開く。



「あの……」

「ひあーーーーーーーーーっ!?」


「?!!?!?」



俺の声をかき消すようにして、いきなり脱衣所の方から甲高い悲鳴、続いてばたんと大きな音が響く。


俺は反射的に風呂から飛び出し、お風呂場の扉を開けた。



「なんや!?」


「スマホを忘れて取りにきたら……む、虫が……!! って、ひっ、は、はわっ……な、なんでっ……れおしゃっ……!?」



そこには、オレが貸したパジャマに身を包み、地面に伏せて震えるめうの姿があった。



「虫い? 大丈夫や、虫がいたからって死ぬわけやないんやから」



その怯えっぷりに、思わず苦笑してしまう。



「っ……っぇ……!?!」



めうはオレの方を振り返るなり、急に言葉を失い、驚きのあまりか口をぱくぱくとさせている。



「……あ、もしやオレがおるの気付かんかった? 驚かせてごめんな」



謝罪するが、めうはそれどころではないとでもいうように、静止したままだ。


その顔が、みるみるうちに真っ赤になり。



「い、いやああぁぁああーっ!?!?」



本日何度目かもわからない悲鳴をあげ、ばたん!! と脱衣所の扉をけ破るようにして、めうが出ていってしまった。



「今の悲鳴なにい!? レオ、めうちゃん、何があったんー!?」



キッチンから聞こえた母親の驚いたような声に、俺はしばらく首を傾げる。



まぁ、暗闇の中からいきなりオレが出てきたら、ふつう驚くか……。


でも、普通あんなに驚くか? 怖がりなめうでも、さすがに驚きすぎやないか?


というか、なんか顔真っ赤にしてたし……ん?



途端、体が何にも覆われていないことに、オレはゆっくりと気付く。





―――今更オレは、自分が全裸だったことに気付いたのだった。

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