第61話 憂鬱

大輝は家族との関係を取り戻し

新しい気持ちで生活を送れていた。


いつの間にか12月になっていた。


若葉とは、一切連絡を取っていない。

蓮に釘を刺されてからは、

大輝から連絡を取る事はないが

若葉からも一度来たきりで

連絡が来なくなってしまったのだ。


連絡をしなくていいと言ったのは、

大輝だったが

それでも連絡をして欲しかった。

本当は、連絡を取りたい。

若葉にも、

家族と本当の家族になれた事を

伝えたかったのだ。


しかし、

蓮と付き合っている若葉に

大輝から連絡しても疑われてしまう。

蓮にも連絡を取らないように

言われてしまっている以上は、

何もする事はできない。

若葉から連絡が来る事を待つしかないのだ。


千花からも若葉の現状の話をされたが

よくわからなかった。蓮の話とは違かったが

本人が付き合ったと言っているので

きっとそうなんだろうと思っていたし

これ以上は聞きたくなかった。



若葉の事については、

悶々として胸を締め付けられる

思いだったのだが

父親や、母親、司さんといる時には、

昔に若葉と一緒にいた時のような

暖かい気持ちでいられた。

全く逆になってしまっていたのだ。



良太が家族との仲を取り戻していた頃

若葉は、

蓮との関係をはっきりさせようと思い

今の気持ちを伝え、

告白の返事をしようと思っていた。

蓮のアプローチが日に日に増していき

若葉も耐えられなくなってきていたのだ。


どこに行っても二人きりになろうとするし

みんなと一緒にいても距離感が近く

常に隣に居ようとしてきた。


大輝への気持ちに気づかなければ

気にもしなかったのかもしれないが

今は、若葉自身の気持ちに気付いたので

はっきりと拒否が出来る。

拒否は出来るのだが

返事の話をしようとすると

蓮が必死に話を変えたり

その話自体をさせてくれない。

メッセージで伝えることも考えたのだが

真剣に伝えないと失礼だと思い

ちゃんと会った時に伝えたいと思っていたのだが

なかなか言わせてもらえないのだ。


千花にも相談しているのだが

今の蓮は危険だから

無理やり断ろうとしない方がいいと言われた。

大輝に言われた事も話したが

千花から大輝に連絡した時も

同じような事を言っていて

蓮が何かを伝えたんだと思うと、

だから大輝が勘違いしているだけで

今は蓮に集中しないと危ないと言っていた。

若葉もその事については日に日に感じとっていた。

それでも早く伝えなければと

若葉自身も焦り始めていた。


二人きりになって

もしかしたらと思うと

怖くなってしまう。


蓮がそこまでするとは思わないが

最近の蓮を見ていると

そんな事を考えてしまう。


蓮の事もあるが

大輝とも嫌われてしまったと思い込み

連絡を取るのが怖くなっていたので

若葉は、憂鬱な日々を送っていたのだ。


友達みんなも、最初は返事の事を

聞いてきていたのだが

蓮が、


「今年は返事を貰わずに

来年に返事をしてもらう事にしてるんだ!」


と、みんなに言っていたらしい。

なのでみんなは、返事をしない事に

違和感を感じていないと千花が言っていた。

本当は返事をしないのではなく

返事をさせてもらえないのだが

蓮の方がみんなに相談している事もあり

若葉が相談しようとしても


「今すぐ付き合っちゃいなよ!」


と、言われて終わってしまう。

千花にしか相談出来ないのだ。


12月も半ばに差し掛かった頃

若葉はまだ、告白の返事を

させてもらえていなかった。


蓮は、前よりもっと強引になり

若葉と離れようとはしなかった。

千花以外のみんなも

蓮が若葉に執着しすぎている事に

薄々気付き始めていたが

仲が良いんだと思っていた。

だが千花だけでは

若葉と蓮を二人きりにさせないように

心掛けていたのだ。

二人きりになったら

若葉が危ない気がしていた。

漠然とした不安がよぎり始めていたのだ。


朝は千花が迎えに来て

なるべく蓮と二人にならないようにしてくれ、

帰りは、部活がある日は

部活が一緒の子と一緒に帰ることにし、

部活がない日は、千花が一緒にいてくれていた。


蓮は、二人きりになろうと

必死になっていたが

流石にみんなと一緒にいる時に

強引にはなりきれず

不機嫌な顔にんる事が多く

表面に出るようになっていた。


家に帰っても電話がかかってくるので

若葉には、休まる時間がなかった。

電話の内容もデートの誘いと

自分の話ばかりになっていた。


前の蓮なら、自慢話などせずに

普通の会話をできたのだが

今の蓮は、自慢ばかりしてくる。

若葉の話は一切聞かず

話終わると電話を切ってしまうのだ。


「今日も何も言えなかったな…」


若葉は、疲れていた。

言い出せるチャンスが来るまで

待つしかなかった。


「明日は話させてもらえるかな…」


憂鬱ない気持ちのまま眠りについたのだ。

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