第6話 普通が…

中学校の入学式


両親は、二人で参加してくれた。


とりあえず今のところは、

普通を保てている。



家でも、仮初の家族を演じている。



あれから、

本当の父親らしき男は、

来る頻度が減っていた。


見かける機会は減ったが

父親と母親の関係が

改善したわけではない。


前よりも、

悪くなっているように見える。


なんとか普通を保つように

大輝は、演じ続けている。


家にいても、

神経が擦り減っていく。


若葉が居なかったら

とっくに壊れていたかもしれない。



入学式までは持ったが

家族が壊れるのは、

時間の問題だった。



入学式が終わり

大樹はC組になった。


若葉はD組になり


初めて違うクラスとなった。


若葉と一緒のクラスが良かったが

体育などの教科は合同で一緒なので

そこだけが救いであった。



若葉とも少し話して


「一緒のクラスになれなかったね。

でも朝は一緒に行けるから

あんまり変わんないよ!

帰りも部活が始まるまでは

一緒に帰ろーね!」


いつものように元気に言ってくれた。


大輝はそれだけで嬉しかった。

いつもと変わらずにいられる。



今日は、

入学式だけで終わりなので

両親と帰宅する事になった。


入学式には、来てくれたが

両親は、最低限の会話しかしていなかった。


そのままお昼を食べに行ったが

そこでも大輝と話すだけで

母親と父親が話すことはなかった。



家に帰りそのまま夜まで部屋で過ごした。


夕食の時間になり

そこでも会話はない。


しかし今日は違った。

いつもと違い緊張感があった。



「入学おめでとう。」


父親が突然話しかけてきた。


「大輝もやっと中学生になったな…

落ち着いて聞いてくれ。」

「大輝も気付いていると思うが

お父さんとお母さんの仲は、

上手く行っていない。

中学生になってすぐで申し訳ないが

離婚する事になった。」



突然の事で混乱した。


上手く普通を演じているつもりだった。


それでも手遅れだったのだ。



「ごめんね…大輝…

もうお父さんとは

一緒にいる事ができないの…」

「こんな両親でごめんなさい…」


母親が謝ってきた。


何も答えられない。

何も答えたくない。


大輝は何も言わなかった。


「大輝はお母さんとここで暮らしなさい。

そうすれば転校せずにすむ。」


「ごめんなさい大輝…

勝手に決めてしまって…

お父さんと話し合って決めた事なの…

大輝が今までと変わらない生活を送れるように

しっかりと支えていくから

だから…

…」


それでも大輝は、

何も言わなかった。

何も言えなかった。


普通が崩れてしまった。


その後も両親は、何か言っていたが

何も入ってこなかった。


大輝は感情が無くなっていく。


何も考えたくなかった。



中学生になった初日から


大輝が大切にしていた


普通が壊れてしまったのだ。




次の日から一気に普通が変わった。



父親が出て行く事になった。



昨日が、

家族で過ごす最後の日だったのだ。



だから入学式にも二人で来たらしい。

最後の時間を家族で過ごす為に。


大きな荷物は、

後で取りに来るらしく

簡単な荷物を持っていた。


「大輝…

今までありがとな…

これからは会えなくなるが

しっかりお母さんを支えてくれ…

学校頑張れよ。

またな。」


と、言って出ていってしまった。



大輝には、まだわからなかった。

まだ中学生になったばかりだから

全部は教えてもらっていない。


離婚の理由も


もしかしたら、

昨日言っていたのかもしれない

でも、

昨日の話は、ほとんど覚えていない。


もちろん、本当の父親の事も。


でも、父親は全て知っている気がした。


大輝を見る目が

他所の子を見るように

他所の子に話すように感じていたから…


友達の父親と話す時と

同じ感じがしていたから…


もう父親と会う事は、

ほとんどないような気がした。


言い知れぬ寂しさが襲った。


たった一日で簡単崩れてしまったのだ。


大輝が大切にして

心をすり減らしながら

演じていた普通が…


こんなに脆いものなのかと…


母親は、

大輝を抱き締めて


「ごめんね…ごめんね…」


と、言って泣いていた。



大輝は、

泣かなかった。

泣けなかった。


自分の感情を押し殺す事に

慣れてしまっていたのだ…


演じる事に慣れてしまって

感情を上手く出せなくなっていたのだ…



それでも、

中学初日から休む訳にもいかない。


若葉も迎えに来るだろう。


支度だけすませ

そのタイミングで

若葉が迎えに来た。



「おはよう大輝!」


いつもと変わらずに元気だ。


それだけで救われる。

心が温かくなる。


「おはよう若葉。」


挨拶を返した。


母親も今日は出迎え

若葉に何かを話していた。


若葉は驚いた顔をして


「任せてください!」


と、言っていた。



学校に向かいながら


「大輝大変だったね…

でも、私との関係は変わらないよ!

いつも通り元気に楽しくやっていこ!」


若葉の元気に救われる。

依存しているかも知れない。


それでも自分が感情を抑えれば

このままでいられる。


若葉との普通を守る為に

いつも通りに過ごそう。


好きな気持ちも

抑えれば

普通でいられる…



学校に着いてから

若葉とは、クラスが違う為

教室の手前で分かれた。


「大輝、頑張ってね!」


と、手を振っていった。



クラスの入り

同じ小学校だった友達のところに行き

話をしながら先生が来るのを待った。



先生が来て自己紹介などをした。


緊張しながら自己紹介をし

みんなの顔と名前を覚えた。


大輝は、

クラスのみんなとも仲良くなり

ちゃんとクラスに馴染む事が出来た。



大輝は、

いつの間にか

どこにいても


普通を意識する様になっていた。



初日は、無事終わった。


若葉との帰り道

今日のクラスの話などで盛り上がった。


若葉もクラスに馴染めたらしい。

元々心配はしていない。


きっと若葉がクラスの中心になるのだから。






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