第57話 思惑 焦り

お昼休みまでは、

蓮も若葉もみんなに囲まれていたので

話をする機会がなかった。


蓮の中では、

今の所、思惑通りに進んでいた。

今の状況では、

すぐには断われないだろうと、

そう思っていた。


蓮は決して、若葉に嫌われたいのではない。

なんとしても好きになってもらいたいのだ。


だからこそ時間が足りない。

ずっと若葉と付き合いたかった。

ようやく

もう少しで付き合えると思っていたのだ。

もう少し時間をかければきっと

蓮の事を好きになってくれる。

大輝の事も忘れてくれる。


「あと少しなんだ。」


蓮にとっても決断だった。

蓮も自分の気持ちに素直なだけなのだ。

頭がいいので

みんなの事を操ったりすることもする。

何を言われても使える策は使い

蓮は、若葉に好きになってもらう為

時間が欲しかったのだ。



昼休みになってから、

みんなからの

質問責めにあっていた若葉だが、

何も答える事が出来なかった。


嘘をつく訳にもいかずに

只々みんなの勢いに翻弄されていた。


代わりに千花が応えてくれていた。


「若葉が困ってるでしょ。」


と、うまく誤魔化してくれ

千花が知っている範囲で

教えることになった。

時間をかけながらゆっくりと話していた。


話の途中で、

チャイムがなったので、

若葉は、

何も話さずに済んでほっとしていた。

千花に感謝しなければと思い

千花を見ると

疲れ切った顔をしていた。

申し訳ない気持ちも伝えることにした。


「私がちゃんとしていれば

千花に迷惑をかけずに済むのに…」


落ち込んだ気持ちになったが、

千花が肩を叩き


「逆だよ。うちが余計なことしなければ

こんな事にはならなかったし…」


と、小さな声で言っていた。


本当に申し訳ないけど

今は甘えることにした。



その日の学校が終わり

若葉は、みんなに捕まる前に

蓮との待ち合わせ場所に先に向かった。


学校の近くにある公園で

話すことになっていたので

ベンチに座り、

蓮が来るのを待った。


千花も近くにはいてくれるみたいだったから

安心はしていたが、

今日のみんなの反応を見てから

気持ちを伝えるのは

若葉には出来る気がしなかった。


蓮からもうすぐ着くと

メッセージが入った。


若葉は、一気に緊張し始めた。


「若葉、お待たせ。」


蓮が走ってベンチまで来た。


「全然待ってないから大丈夫だよ。」


と、若葉は返したが、

そのあとの言葉が出てこない。


「話ってなにかな?」


蓮が待ちきれず聞いて来た。

若葉も意を決して


「そのことなんだけど…

告白の返事をしようと思って…」


若葉は、考えた末にちゃんと断ろうと思っていた。

だが蓮は、


「今年いっぱい考えて欲しいんだよね。

俺からのわがままなんだけど

まだ気持ちがはっきりしないと思うんだ。

みんなも応援してくれてるから

ゆっくり考えてから答えて欲しいんだ。

ダメかな?」


蓮は、若葉に断わらせないように

期間を勝手に決め

みんなも応援していると強調して言ってきた。


「でも、それじゃ待たせてるみたいで悪いし。」


と、若葉はそれでも断ろうとしたのだが

蓮は、


「せめて今年いっぱいは考えて欲しい。

今より若葉に相応しい男になるから。

それを見てから答えを出して欲しい!」


と、返事を先延ばしさせようとしてきた。

若葉も、今は折れた方がいいと思い


「もう少し考えてから

お返事させていただきます。」


と、伝える事にしたのだ、


蓮は、

すぐにじゃなくてよかったと思っていた。

だからこそ今年いっぱいと言ったのだ。

友達が応援してくれていると言っておけば

期間は妥協してくれると思っていたからだ。


蓮は、自信があった訳ではない。

だが少しでも時間があれば可能性は高くなる。

だからこそ少しでも長く時間をかけたかった。

年末には、

冬休みもあるし

クリスマスもある

大晦日も一緒過ごし

初詣も行ければ可能性が広がる

少しでも期間を延ばさせて

好きになってもらいたかった。


今までのようにゆっくりしていられない。

冬休みまでの学校の期間内に

積極的にデートに誘い

学校でも、みんなにアピールして

まずは外堀をうめていこうと決めたのだ。


「大丈夫。良い返事が貰えるように

俺を好きになってもらうから!」


若葉は、頷くことしか出来なかった。


「みんなに先に言っちゃってごめんね。

若葉に聞いてからにすればよかったんだけど

相談に乗ってもらってる友達もいたから

聞かれちゃって、

すぐにみんなに伝えないとダメだって

言われちゃってさ、大丈夫だった?」


若葉は、

大丈夫としか言いようがなかった。


その後も、若葉が話す隙もないくらい

蓮は、話をしていた。



そんな二人の姿を隠れて見ていた千花は、

違和感を感じていた。

蓮に、今までのような余裕が

無いように見えたのだ。

焦っている感じがした。


なんとなく危ない気がしていたのだ。


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