第59話 父親
父親が大輝の笑顔に違和感を感じていた。
違和感を感じてからは
少し様子を見ることにしていたが、
やはり違和感が拭えない。
「大輝、大丈夫か?
なんか嫌なことでもあったのか?」
大輝に尋ねてみた。
「何にもないよ!大丈夫だよ!」
大輝はそう答えたが、
父親はやはり違和感を拭えない。
「無理してるように見えるぞ?
もしかして若ちゃんと何かあったんじゃないか?」
大輝は、ドキっとしてしまった。
「やっぱりか!
若ちゃんと何かあったんだな!?
言える範囲で言ってみな?
少しはスッキリするぞ?」
父親は諭すように聞いて来た。
大輝は言うか迷った。
少しの沈黙の後
「若葉に彼氏が出来たみたいで…
それで若葉の彼氏に
あまり連絡を取らないでほしいって言われてさ…
だからちょっと凹んでたんだけど、
もう大丈夫だよ!」
大輝は、少しだけ話したことで楽になった。
「そうか、若ちゃんに彼氏か。
大輝も失恋だな!
よし、今から遊びに行くぞ!!!」
突然、父親が言ってきたのだ。
父親が、いきなり立ち上がり
大輝は驚いた顔をしていたが
腕を掴まれ
「行くぞ!大輝!!!」
と、遊びに行くことになった。
遊びと言っても大輝は高校生なので
行けないところもある。
だから、何がいいか聞かれたが
よくわからなかった。
「じゃあカラオケでも行くか?
高校生は好きだろ?」
と、言われカラオケに行くことになった。
父親は歌が下手だった。
面白いくらいに音痴だった。
その姿を見て大輝は、
久しぶりに笑った。
心から笑えた。
大輝も歌って二人で楽しんだ。
大輝はスッキリした気持ちになり
笑顔に違和感がなくなった。
父親には感謝だ。
「いい顔になったな!
じゃあドライブでも行くか!!!」
カラオケの後にドライブに行き
山のようなところに行き
山頂まできた。
車から降り空を見上げると
満面の星空が映った。
「車のCMにこんなのあっただろ?
やってみたかったんだよ!」
と、嬉しそうに言っていた。
「大輝は昔から明るかったな、
明るいと言うよりも
明るく振る舞っていたな。
…
ずっと気づいていたんだ。
…
母さんなんかは、
もっと早くに気付いていたと思う。
大輝が小学生の頃は、
いつも泣いていた。
私のせいで大輝が無理してるって
母さんだけじゃない
父さんも大輝を苦しめていた。
小学生の大輝に無理させて
それでも何もしてやれなかった。
本当にすまなかった。
…
母さんから珍しく連絡があってな、
…
最近の大輝がおかしいと言っていた。
電話で話す声も家帰ってきた時も
声にも表情にも変化がないと、
ずっと笑顔なんだと…
母さんが話そうとすると、
部屋に行ってしまう…
申し訳ないが
大輝の話を聞いてほしいとお願いされたんだ。
…
父さんもずっと違和感があったから
気にはしていたんだ…
…
大輝、
一人でなんでも抱え込まなくてもいいんだぞ?
父さんも母さんも東郷さんだって
みんな家族だ。
みんな大輝の事が大切なんだ。
大輝の事が心配なんだ。
…
東郷さんなんて
大輝の事が大好きすぎて
大輝と携帯で一緒に撮った写真を
わざわざ現像までして
財布に入れてるんだぞ!笑
知らなかっただろ?
…
もう無理なんてしなくていいんだぞ?
大輝は、
無理してみんなに合わせる必要もない
大輝は大輝なんだ。
…
だからもっと大輝の気持ちを曝け出していけ!
いきなり出来なくてもいいんだ。
ゆっくりでもいい。
大輝の気持ちをもっと出して欲しい。
…
全部受け止めてやるから。
後悔したなら
もう後悔しないようにすれば良い。
大輝はもう泣いていいんだぞ。」
大輝は、ずっと泣いていなかった。
いつのまにか泣けなくなっていたのだ。
だが、今星空を見上げながら
視界が歪んでいく。
涙が溢れ出てくる
父親がそっと抱き締めてくれた。
大輝は声を出して泣いた。
今まで我慢していた何かが決壊したかのように
父親がそっと背中をさすってくれた。
心地よい気持ちも一緒に溢れ出てきた。
大輝は小学生の時以来
久しぶりに泣く事ができたのだ。
父親は、
大輝が泣き止むまで何も言わずに
背中をさすってくれていた。
ようやく大輝も落ち着いてきて
恥ずかしくなったのか。
「ありがとう。父さん。」
と、言って離れたが
「もっと泣いてもいいんだぞ?笑」
と、ニヤニヤしていた。
「もう大丈夫だよ!!!」
大輝は、顔を真っ赤にして断った。
「そうか、実はな
母さんも一番心配していたのは、
大輝が泣かない事だったんだよ。
東郷さんにいたっては自分のせいだって言って
俺にまで泣きついて?号泣だったなあれは…
って言うくらい心配していたんだ。
父さんもずっと心配だった。
でもこれで安心だな!
母さんにも東郷さんにも
ちゃんと泣きましたって伝えるんだぞ。
号泣でしたってな!笑」
と、笑っていた。
大輝も恥ずかしいが
それ以上に嬉しかった。
みんなが気付いていてくれたことに
大輝を大切にしていてくれたことに
若葉の事は、
まだどうしていいかわからないが
今は、ゆっくり考えていこうと思えたのだ。
帰りの車では疲れたのか
眠ってしまった。
いつのまにか家に着き、
そのままベッドまで行き寝てしまった。
次の日は、
家に帰る予定ではなかったが、
父さんに伝えてこいと言われ
帰る事にしたのだ。
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