第60話 家族

大輝は、家に帰り玄関のドアを開け


「ただいま。」


と、気まずそうに言った。

帰ることには伝えてあったので

母親も司さんも待っていてくれた。


「おかえり大輝!」

「おかえり!」


と、二人とも嬉しそうに迎えてくれた。


リビングに行きまずは風呂に入って

その後は夕食と言われて

風呂に入ってからリビングに戻り

夕食を三人で食べた。


母親も司さんもニコニコして食べていた。

きっと父親から話は

聞いているんだろうとは思っていたが

ここまで上機嫌だとは思わなかった。


夕食を食べ終え、片付けをして

いざ話そうと思うと

恥ずかしくなってしまい話せない。

すると母親が、


「お父さんと話したんでしょ?

どうだったの?」


ニコニコしながら訪ねてきた。


「話しました。」


大輝は恥ずかしそうに応え


「聞かせてくれないかな?」


と、母親が嬉しそうに言ってきた。


「色々と心配をお掛けしてすいませんでした。

昨日、父さんから話を聞いて

母さんにも司さんにも

そんなに心配をかけていたなんて

思ってもいなかったし

本当に愛されてるんだなって実感できました。

本当に嬉しかったです!

本当にありがとうございます。」


母親と司さんは、既に号泣していた。

司さんにいたっては、

鼻水まで垂らして号泣していた。


大輝も流石に困惑したが

嬉しかった。

大輝の事を思って

泣いてくれているんだとわかったからだ。


少し落ち着いてから司さんが


「大輝、

本当に今まで申し訳なかった。

大輝が無理しているのは、

私でもわかっていたよ。

でも、どこかで

私を受け入れてくれていないんじゃないかと

思ってしまっていた。

だから本音で話す事を恐れていた。

私は、大輝に嫌われないように

受け入れてもらうようにと

逃げてばかりいたのだよ。

でも、

私が大輝に本音で向き合わなければ

大輝もう向き合ってくれないと思ったよ。

私は大輝が大切でとても愛おしいんだ。

滝田さんにも負けないくらい

大輝の事を大切な息子だと思っている。

だからもっと私にも曝け出して欲しい!

滝田さんと同じくらい父親として

大輝が心配なんだ。

これからは、無理だけはしないでくれ…

大輝が苦しむ姿は見たくないんだ…」


最後は涙が溢れるのを隠さずに伝えてくれた。


「由美も大輝が心配で心配でたまらないんだ。

いつも私のせいで大輝が苦しんでいると

それは違うよと言っても

私が苦しむきっかけを作っていると

涙を堪えながら悩んでいた。

大輝が泣いていないのに

私が泣くわけにはいかないと…

大輝、これからは我慢しないでくれ…

泣きたい時には泣いてくれ…

私も由美も滝田さんも、

大輝にこれ以上無理をさせたくないんだ…

感情を抑えさせたくないんだ…

泣きたい時には泣いて

笑いたい時には笑う

怒りたい時には怒る

それでいいんだ…

だからもう

無理なんてしなくていいんだからな!」


と、最後は笑顔で言ってくれた。


大輝に気付くと涙が流れていた。

昨日あれだけ泣いたから

もう涙は出ないと思っていたのだが

涙は簡単には枯れないらしい。


「大輝…今まで本当にごめんね…」


母親が、ゆっくりと優しく抱き締めてくれた。


「大輝にはいつも無理させちゃってたね…

母さんが不甲斐ないばっかりに

いつもいつも大輝に無理をさせちゃった…

本当にごめんなさい…

無理して明るく振る舞っていることも

泣かなくなったことも気付いていたの…

でも、何もしてあげられなくて

それでも何かしてあげたくて

大輝に合わせる事ばかりしていたの…

大輝がやりたいようにさせていた。

でも、それじゃダメだったんだって

今更気付いたの…

大輝がどんどん無理をして明るくしていた。

話を聞いてあげなきゃ

話をしてあげなきゃって

思っているだけで

何も出来なかった…

最終的には、父さんに頼むしかなかった…

自分が情けなくて、

不甲斐なくて、

大輝の母親失格だって思ったの…

それでも、大輝が心配でたまらない。

大輝が大切でたまらないんだって…

だからこれからは、

大輝の母親として

絶対に無理させないって誓ったの。

遅すぎるかもしれないけど

大輝が無理しないように

ちゃんと泣けるように

ちゃんと笑えるように

支えていくって決めたの。

大輝、

こんなの母さんだけど

これからは、

大輝がなんて言おうと

無理も我慢もさせないからね。

覚悟しておいてね!

偉そうに言えないのはわかってるけど

強い母親には必要なことだから許してね!」


と、母親も泣いたり笑ったりと

感情豊かに伝えてくれた。


感情を抑えて来た大輝には、

新鮮に映ったし

ちゃんと伝わった。

感情を抑えても

相手に気を遣わせるだけなのかもしれないと

初めて気付けた。

だから大輝は、


「母さんも、司さんも本当にありがとう!」


と、泣いているのか

笑っているのかわからない顔で伝えた。


三人で同じ顔になっていたので

また笑えた。


大輝は

父さんも母さんも司さんも

本当の意味で家族になれたと思えたのだ。

これから産まれてくる

弟か妹にも

愛情いっぱいの家族で迎えられる。

大輝はそれが嬉しくて堪らなかった。



この日、

大輝のトラウマが一つ

完全に消えたのだ。







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