第54話 千花の思い

佐々木千花は、

大輝の文化祭の後、

一人で悩んでいた。


「若葉、大丈夫だったかな…」


なんとなくだが

若葉の本当の思いに気付いた。


若葉の親友としては、

もっと早くに

気付いてあげるべきだったと後悔していた。


決して千花だけが悪い訳ではないのだが、

蓮の隣にいつもいさせたり

二人きりにする事を率先してやっていた。

自分達が

勝手にお似合いだと決め付け、

常に蓮と若葉をセットにして楽しんでいた。

蓮は、いつも嬉しそうにしていたが、

今思えば、若葉はずっと変わらなかった。

嬉しそうにするわけでもなく

他の友達より仲が良い

それだけだった気がする。


大輝といる時は、

いつも楽しそうだった。


大輝と距離が離れてからの若葉は、

いつも寂しそうにしていた。

みんなと遊んでいる時も

大輝をいつも

気に掛けていたような気がする。

本当は、

大輝の近くに居たかったのかもしれない。

いつも大輝と一緒にいるのだから

みんなといる時くらい

大輝と一緒じゃなくても大丈夫という気持ちで、

みんな自然と二人を離していた。


二人が一緒にいたいと言ったとしても、

みんなは、蓮とお似合いだからと

同じ事をしていたと思う。


自分の勝手な思い込みで、

お節介を焼きたくなるのだ。

結果は同じでも

千花だけは、

気持ちを汲んで上げるべきだったと思っていた。



若葉の顔を思い出すだけで

ため息が出る。


あんなに悲しそうな顔をするとは思わなかった。


大輝に会うまでは、

千花も、なにも考えていなかった。

蓮の手助けにもなっていたし

大輝も若葉と蓮の事を

応援してくれると思っていた。


若葉がその事で苦しんでいるとも知らずに。


只の幼馴染だと思っていたから。


人の恋愛に

他人が口を出すべきではなかったのだ。



千花は、今までの事を思い出しながら

ため息ばかりついていた。


テーマパークの時も

夏祭りの時も

気付ける機会は沢山あった。

しかし、みんなの空気に流され

蓮と若葉を

一緒にいさせる事に執着してしまった。


二人はモテる。

二人が付き合えばみんな諦めがつく

みんながそれを望んでいた。

だからこそ、

本人の意思を考えていなかった。


蓮は、若葉を好きだというのが

わかっていたから良かったが

若葉は、わからなかった。

きっと大輝と小さい時から一緒にいたので

当たり前になりすぎて気づかなかったのだろう。


離れ始めて、やっと気付いたのかもしれない。


気付いたとしても

今の若葉と大輝の距離が

離れてしまっている事実は変わらない。


千花は、そこでも悩んでしまった。


「うちが余計な事をしなければ…」


大輝に釘を刺してまで

連絡をさせないようにしてしまった。

距離が離れてしまっているのも自分の所為だと

千花は落ち込んだ。


若葉の事も、ちゃんと自分の気持ちに

気付いているのかも気になった。

大輝の家庭は少し複雑だと聞いていた。

若葉が、ずっと大輝を支えている感じだったと

だからこそ、

弟の面倒を見ているように勘違いしている。

そう思わないといけないと

思い込みでいる気がした。


今日の事で若葉の気持ちは

ある程度わかったが、

若葉がどうしたいかは、わからない。


蓮は、

若葉の気持ちに気づいているのだろうか。

その事もわからない。

千花は、わからない事だらけになってしまった。


今までは、

なんでもわかっていると思っていた。

でも、今日の事で

わからない事だらけになってしまった。


明日から、若葉と蓮がどう接していくのか、

千花も、若葉と蓮にどう接していけばいいのか、

わからなくなってしまった。

でも、ここまで首を突っ込んでしまった。

だからこそ責任を感じていた。


千花は、すぐに行動した。

若葉に電話をして

確認する事にしたのだ。


若葉は、最初こそ出なかったが、

ずっと鳴らしていると

ようやく出てくれた。


「若葉、体調大丈夫?」


若葉の声が小さくてほとんど聞こえない。

泣いているような声が聞こえた。


「若葉?」


と、千花がもう一度呼ぶと


「大丈夫だよ。良くなった。

心配してくれてありがとう。」


と、若葉が答えてくれた。


「なら良かった。

今日はごめんね。なにもしてあげられなくて。」


と、千花は謝った。


「千花が謝ることなんてないよ。

私が勝手に体調崩しちゃっただけだから。」


と、若葉は言ってくれたが、

千花は、責任を感じてしまった。


「若葉…

本当は体調のせいじゃないないんでしょ?

大輝に会ってからだったもん…

今はわからないかもしれないけど

答えて欲しいことがあるの。

若葉は、大輝の事をどう思ってるの?」


千花は、若葉の今の気持ちを知りたかった。


「…

わからない…

でも、

大輝の楽しそうな声を聞いたら胸が苦しくなって…

そんな大輝の姿を見られなくて…

蓮君に腕を引かれている所も

見られたくなかった…」


と、今思っている事を言ってくれた。

若葉はまだ気づかないようにしていた。


「それは、大輝が好きなんじゃなくて?」


と、千花は確信に迫った。


「えっ?」


「大輝のことが好きだから

楽しそうに女の子と話している大輝を

見たくなかったんじゃない?

白石君に腕を引かれてる姿を

見られたくなかったんじゃない?」


と、今の若葉には

辛いかもしれない言葉を伝えた。


「大輝の事を弟のように思い込み過ぎて

認められなかっただけじゃない?」


と、追い討ちをかけて言った。


若葉は、黙ってしまった。


若葉も、本当はわかっていた

本当はわかっていたのだ。


大輝を見守るつもりだったが、

いつのまにか大輝に見守られていた。

弟だと思い込もうとしていた。


本当は、

大輝の事を

異性として意識していた事も。


気付いていたのだ。


だが、大輝がどんどん遠くに

行ってしまう気がしていた。


だから、

少しでも一緒にいたかった。

弟と思い込めば

家族のようにいつも一緒に居られる。

そう思い込もうとしていた。


でも、上手くいかなかった。

思いとは裏腹にどんどん離れていってしまった。


一度すれ違い始めた歯車は、

予想も出来ない方向に向かっていった。


自分が傷つかないように

逃げていただけなのかもしれない。


千花に、はっきり言われて

認めざる得なかった。

違うとは言えなかった。


「大輝が好きなんだと思う…」


若葉は、初めて自分の気持ちを口にした。


一度、口にしてしまうと

止まらなくなってしまう。


「大輝が好き…

大輝が大好きなの…

…」


と、涙が止まらなくなっていた。


千花は、黙って聞いていた。

何も言わず泣き止むまで


ようやく落ち着いて来た若葉は、


「ごめん千花…

私がはっきりしなかったから…」


「大丈夫だよ若葉。

若葉の本当の気持ちを聞けて

うちは、嬉しかったよ。」


と、言ってくれた。


「でも、うちの所為でごめん。

白石君と無理矢理付き合わせようとしてたし

大輝にも若葉を応援してって言ってしまった。

本当にごめんなさい。」


と、千花は責任を感じていた。


「私がはっきりしなかったのが悪いんだよ。

千花は全然悪くないよ。

私が最初から

はっきりしていれば良かったんだ…

ちゃんと大輝を好きってわかって行動してれば…

だから千花は責任なんて感じないで。」


と、若葉は伝えた。


「今までも、若葉と白石君を

付き合わせることばっかり考えて

若葉の気持ちをちゃんと考えてなかった

うちに責任がある…本当にごめん。」


と、言ってきた。


「そんな事ないって。」


と、若葉は伝えたが

千花は落ち込んでいた。

でも、千花のおかげで自分の気持ちに

ちゃんと向き合えた。

若葉は、少し前を向けたのだ。


「ありがとう。千花。」


と、言って今後の事を考え始めた。


「白石君のことはどうするの?」


と、聞かれ若葉は、考え込んでしまった。


「白石君は、若葉の事が好きだから

若葉に気持ちを言ったら

わかってくれると思うけど…」


と、千花は自信なさげに言ってきた。


「私がはっきりしなかったのが悪いから

今の気持ちをはっきり言ってみるよ!」


と、蓮に伝える事を決めた。


若葉と千花は、そのあとも

今後どうしていくかを遅くまで話した。



電話が終わった後の千花は、

若葉の気持ちをはっきり聞けてよかったが

心配事もあった。


「今思えば白石君って

若葉にすごく執着しているよな…」


と、冷静になると気にしなかった事が

気になるようになる。


蓮は、すごくモテた。

でも今まで全部断って

若葉を好きで居続けている。

みんなにも

根回しをすごくしていた。

二人きりになるために

なるべく上手く

みんなを誘導していた気がする。

大輝と話させないようにもしていた。


「白石君も気付いている?」


そんな漠然とした不安を抱いたまま

千花は、若葉の事を心配していたのだ。




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