第四章

第55話 執着 先手

若葉は、

千花と電話を終えた後に

これからの事を

どうしていくかを考えていた。


蓮に今の気持ちを伝えて

告白を断らなければならない。

大輝の事が好きだからと

はっきり伝えなければならない。


蓮には、

申し訳ない気持ちでいっぱいだったが

大輝の事を好きな気持ちに

気付いてしまった以上は、

このまま蓮に

告白の答えを待たせるわけにはいかなかった。


若葉は、

自分の気持ちを偽る事をやめたのだ。


若葉は蓮にメッセージを入れた。


「明日、学校が終わったら話があります。」


すぐに返ってきた。


「話って何?今言えない話?」


若葉は、


「会ってから話したいの。

だから学校が終わったら時間をください。」


「わかったよ!」


とだけ、蓮からに返信が来て

千花にも

明日の学校が終わった後に

伝える事になった事を

メッセージに入れておいた。


若葉は、明日に備えて

寝る事にしたが。

大輝の事が気になってしまって

なかなか寝付けなかった。

大輝にだけは、

連絡をできていなかった。

本当は、すぐにでも気持ちを伝えたいが

若葉の気持ちを伝えても

信じてもらえる自信がなかった。


悶々とした気持ちのまま

眠る事が出来ずにいたのだ。


若葉の気持ちとは裏腹に

大輝とは、どんどん離れていってしまうのだ。



その頃千花も、心配で眠れなかった。

蓮の事を思い返せば思い返す程、

若葉に執着しているし、

根回しが凄いことに

気付いてしまったからだ。


みんなを上手く操りながら

若葉の隣を

ずっとキープしていたように

思えてならなかった。

そうしなければ

いつも隣にいることなど

出来ないのではないかと思ってしまう。


いつ頃からだったかは憶えていないが

若葉と蓮を一緒に居させれば

二人の取り合いが起きないと思っていた。


それだって普通に考えたら

相手を好きになる事を

我慢させているだけなのに

いつの間にそんな雰囲気になっていて

当たり前だと思ってしまったのだ。


「明日は大丈夫かなぁ?」


千花は、若葉には悪いが

後を付けて見張っていようと決めたのだ。



蓮は、若葉からの連絡が来てから


「やっぱり気持ちに気付いてしまったか。」


若葉が、大輝の事を好きだと

若葉自身が気付いてしまったと思った。


蓮は、すぐに行動した。

大輝にメッセージを送ったのだ。


「若葉に告白して上手く行きそうだから

大輝から連絡は取らないでほしいんだ。

俺がヤキモチ焼きだから。」


と、伝えおいた。


友達みんなにメッセージも入れたのだ。

若葉に告白をしたから応援してほしいと

大輝には先にメッセージを送ったと、

大輝に伝えた事をあえて強調して。


みんなからも応援してると、

メッセージが返えってきた。


「若葉は今日、体調悪いから

明日までそっとしておいてあげて!」


と、若葉にはメッセージを送らないようにと

釘を刺しながら。


「これで若葉も断りづらくなるはずだ。」


蓮は、若葉を手放したくなかった。

無理やりにでも付き合うつもりだった。

どう思われようと

蓮は、若葉が好きだった。

絶対に手放したくなかったのだ。



翌日若葉は、学校に向かいながら

放課後の事を考えていた。

はっきりとはまとまらなかったが

気持ちだけは伝えようと思っていた。


今日は、蓮が待っていなかったが

代わりに千花が待っていてくれた。

挨拶を交わした後


「白石君には先に行ってもらったよ。」


と、気まずくならないように

気遣ってくれていたのだ。

千花に感謝しつつも

昨日の話をしながら学校に向かい、

今の気持ちをはっきりと伝えると

千花には伝えた。


学校に着いたが

みんなの様子がおかしい。

ニヤニヤしているのだが


若葉に近付いて来た

みんなが、


「告白されたんだって!」

「良かったじゃん!」

「やっぱり付き合うんでしょ!?」


などと言って来た。

若葉は、なんのことだかわからずに

困惑していたが、

千花は、すぐに気づいた。


「やられた。」


そう思ったのだ。

蓮が若葉の気持ちに気付き

若葉が断り辛くなるようにする為に

先手を打っていたのだ。


そのあとも


「ちゃんと言ってよ!」

「水臭いなぁ!」


などと言っていた。


「白石君に告白されたんでしょ!?」


と、言われて初めて気がついた。


「なんでそのこと知ってるの?」


若葉は、すぐに聞き返した。


「昨日、白石君から

みんなにもメッセージが来たみたいだよ?」

「俺も来たよ!」

「私も来たぁ!」


蓮が、

みんなに告白した事を言った事はわかったが

何故、みんなに伝えてしまったのかが

若葉にはわからなかった。

空かさず千花が、


「若葉はまだ、

調子良くないみたいだから、

保健室寄ってから行くって言っといて。」


と、その場から離れさせてくれたのだ。

保健室に向かいながら


「若葉、大丈夫?

先手を打たれたって感じね。」


千花が、若葉に伝えた。


「先手って?」


若葉は、

千花に質問した。


「うちが思うに白石君は、

若葉の気持ちに気づいていると思うの。

だから、

先にみんなに告白をしたと伝えてしまえば、

みんなが応援してくれて無理やりにでも

付き合わせようとしてくれると

思ったんじゃないかな。

うちも若葉の気持ちに気付くまでは

付き合わせようと思ってたし。

実際に若葉も断り辛くなったでしょ?」


千花の言う通り、

若葉は、

みんなにこれだけ言われてしまうと

断り辛いとは思っていたのだ。


元々、

若葉がすぐに断っていれば

こんな事にはならなかったし

自分の気持ちにもちゃんと

気付いていなかったのが悪いとは思った。


更に千花は、


「みんなに言っているって事は

大輝にも伝えたんだと思う。

若葉が今日断ろうとしている事は

気付いてないふりもすると思う。」


と、伝えてきた。

千花は、今の状況では

若葉の気持ちを蓮に伝えるのは

得策ではないと思ったのだ。

若葉がみんなから嫌な目で見られる。

それどころか、

イジメのような扱いになるかもしれないと

考えていたのだ。


学生のような

狭いコミュニティの中にいると

一つの出来事で大きく印象が

変わってしまう事がある。


若葉は人気があり人当たりも良い。

蓮も同じである。


だが、地元の友達も多いことから

中学から二人を応援していた友達も多い、

若葉と蓮を付き合わせようとしていた

みんなからは

一つのきっかけが生まれてしまった。

目的が達成出来そうなので

みんな付き合わせようとしてくる。

若葉が断っても、しょうがないよと

言ってくれる人は少ないと思う。

逆に、思わせぶりだとか

最低だと責め立て

蓮の味方に付くものが断然多いと考えてしまった。


実際はそんな事もなく

みんな気にせず受け入れてくれるはずなのだが

伝えるまではどうなるかわからない。

だからこそ、

千花は慎重になっていた。


「若葉、今はまだ

白石君に返事をしない方がいいかも。

このタイミングで断ったら

若葉が孤立しちゃうかもしれない。

辛いかもしれないけど

みんなの様子を見てから

返事をする事にしない?」


千花は、今考えている事を伝えたが、

結局は、若葉が決断しないといけない。

判断は、若葉に託したのだ。



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