第46話 詩音

相澤詩音は、

いつの間にか

大輝の事を意識するようになっていた。


入学したばかりで緊張していた詩音に

気さくに声をかけてくれて

第一印象では話しやすい人だと思っていた。

容姿もイケメンだったので

モテそうだとも思っていた。

みんなにも

分け隔てなく接している大輝の姿を見て

明るいし

誰にでも優しく出来る人なんだとも思った。

そんな姿を見ていた詩音は

大輝と仲良くなりたいと思うようになったのだ。


最初は友達としてしか意識していなかったが

ゴールデンウィークが終わった後に

高校の友達みんなで遊びに行った時に

詩音はUFOキャッチャーをしていた。

欲しいぬいぐるみがあったからだ。

でも、全然取れなかった。

悪戦苦闘していると大輝が近くに来て


「僕が取ってみるよ!」


と、言って

UFOキャッチャーをやり始めたのだが

大輝がやっても全く取れなかった。

何回も挑戦してようやく取れたのは

全然違うぬいぐるみだったのだが


「ごめん。これで我慢して?」


と、そのぬいぐるみを詩音には渡してきた。

詩音も


「そんなの悪いよ。お金も出してないし。」


と、言ったのだが

大輝は、


「勝手にやっただけだから

お金なんて気にしないで。

それに結局取れなかったし。」


と、そのぬいぐるみを渡してきた。

詩音も渋ったが


「もらってください。」


と、大輝が言ってきたので


「ありがとう。」


と、言ってもらう事にしたのだ。

ぬいぐるみが嬉しかったと言うよりは

一生懸命に

ぬいぐるみを取ろうとしてくれたことが

嬉しかった。

ぬいぐるみを袋に入れて両手で抱き締めながら

大輝に感謝した。


それからいつの間にか大輝の事を

目で追うようになっていた。


みんなで遊に行った日から少し経った頃

学校に着いてすぐに大輝が詩音の所に来た。


「おはよう!

ちょっとサイズは小さくなっちゃちゃけど

欲しがってたぬいぐるみあげるね!」


と、UFOキャッチャーで取ろうしていた

ぬいぐるみを渡してきたのだ。

詩音は驚いていたが大輝は続けて


「父さんと昨日遊びに行った所に

サイズは小さかったけど

そのぬいぐるみが入った

UFOキャッチャーがあったんだ。

やってみたら一回で取れたんだよ。

この前取ってあげられなかったから

リベンジ?成功だね!」


と、伝えてきた。

詩音はその話を聞いて


「そんなの悪いし受け取れないよ。」


と、申し訳なさそうに伝えたのだが


「詩音に取ってあげたかったから

気にしないで貰ってよ。

いつも仲良くしてくれているお礼だよ。」


と、大輝は詩音にぬいぐるみを渡した。

詩音は申し訳ない気持ちもあったが、

それ以上に

大輝がわざわざ自分の為に

取ってきてくれたことが嬉しかった。


「ありがとう。大切にする!」


と、言ってそのぬいぐるみを受け取ったのだ。

そのあとは本当に一回で取れたのかを聞いたら

誤魔化していたので

きっと一回では取れなかったんだと思った。

でも気を使わせない為に

そう言ってくれていることが伝わって

その事も嬉しかった。

詩音はこの頃から

大輝の事を好きになり始めていた。


夏休みまでの間でも大輝も一緒に

みんなで遊びに出かけたりしていた。

徐々に大輝に惹かれていった。

大輝は、誰と居ても変わらずに優しいのだ

元気がない友達がいたら

さりげなく話しかけ気遣ったり

話題もみんなに合わせることが上手かった。

女の子の変化にはすぐに気付き褒めてくれた。


詩音はそんな大輝をいつも目で追っていた。

良いところが沢山見えて楽しかった。

いつの間にか大輝のことが好きになっていたのだ。


あっという間に1学期が終わり夏休みになった。

夏休み中は大輝となかなか会えないので

寂しかったが仕方がない。

夏休み中もみんなで遊ぶ約束はしていた。

もちろん大輝も来ると言っていたので

楽しみに思っていた。


みんなで遊ぶ当日になり

詩音も気合いを入れてオシャレをして向かった。

大輝の私服姿を初めて見たが、

シンプルでオシャレだった。

見た目もイケメンなので尚更カッコ良く見えた。

勇気を出して大輝のところに行き


「大輝君、私服姿もカッコ良いね!」


と、詩音は伝えた。

大輝もすぐに


「詩音もオシャレで可愛いよ!

みんなもそう思ってると思うよ!?」


と、言ってくれた。

心臓がドキドキした。

嬉しさと恥ずかしさが混ざったような

そんな気持ちになった。


そのあとは前に行った複合施設で遊ぶ事になり

今回も詩音はUFOキャッチャーをしていたが

同じキーホルダーを二つ取ることが出来た。

前にぬいぐるみを取って貰ったお返しにと

大輝に渡すことが出来た。

大輝も喜んでくれたので

良かったと思っていたのだが、

よく考えてみると

お揃いのキーホルダーを渡している事に気付いた。

詩音は、急に恥ずかしくなったが

お揃いということは秘密にしておく事にした。


最後はみんなでカラオケで盛り上がったが

大輝の歌が上手かった。

みんな聴き入ってしまった。

詩音も思わず見惚れてしまったのだ。


その日は帰ってから

大輝から貰ったぬいぐるみ二つと

お揃いのキーホルダーを並べて

大輝を思い出していた顔を赤らめていたのだ。


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