第35話 中学卒業

卒業式の日は

母親と司さんが来てくれた。


父親は、母親と一緒に行くのが

気まずいと言って

我慢したようだが

写真だけは、送って欲しいと

言っていたらしい。


司さんにとっては、

初めての事だったので

何故だか朝から、泣きっぱなしだし

そわそわと落ち着かない様子だった。


学校に着いてからも、式が始まる前から

泣いている。


普段は、泣くようなタイプには

見えなかったので意外だったが

それだけ喜んでくれていると思うと

大輝は、嬉しかった。


父親とは、

今日の夜に会う予定なので

その時に、

今日の出来事を話そうと思った。


卒業式が始まり、

泣いている人も沢山いた。


大輝は、泣かなかった。


大輝はずっと涙を流していない。


いつからかわからないが、

泣かないのが普通になっていたのだ。


若葉を見ると

顔くしゃくしゃにして泣いていた。

思わず笑ってしまいそうになった。



無事、卒業式も終わり

みんな、記念撮影などをしていた。


中学で過ごせる日は

今日で終わってしまうのだ。


離れてしまう友達や

一緒の学校に行く友達

みんなそれぞれだが


もう会うことがなくなる人達も

きっと沢山いるはずだ。


みんな寂しさや

終わってしまうことの

悲しみが溢れて

泣きながら写真を撮っていた。


大輝も、みんなとの別れは寂しかったが

笑顔で別れを告げ

写真を撮っていた。


若葉は、泣きながらみんなと

写真を撮っていた。


地元の学校に行く生徒も多いため

高校でも、変わらない友達も沢山いる。


でも、違う高校に行ってしまう友達とは

今日で同じ学校に通えるのは最後だから

友達との別れに涙を流していたのだ。


そんな中、

写真撮影などが落ち着いてきた頃

大輝がふと若葉の方を見ると

白石が若葉を誘って、

二人で写真を撮っていた。


こんな光景を見るのも

きっと今日で最後になると思い

胸が締め付けられるが

感慨深いものも、感じていた。


白石も若葉と高校が同じだから

告白までは、まだしていないようだ。


白石との写真撮影が終わったのか

大輝を見つけた若葉が、

走って向かってきた。


そのまま抱き着いてきた。


大輝は驚いたものの

今日くらいは、素直に受け入れた。


「大輝ぃぃ

私がいなくても

ちゃんと学校頑張るんだよ?

ちゃんと友達作るんだよ?

ちゃんと勉強頑張るんだよ?

ちゃんと連絡するんだよ?

毎日連絡するんだよ?

寂しかったらすぐに言うんだよ?

さみしいよぉ〜」


と、泣きながら叫んでいた。

みんなにその姿を見て

大輝のところに来て

同じようなことを言ってくれた。


大輝は、嬉しかった。

大輝が行く学校は

友達が誰も行かないから

一から友達を作らないといけない。


若葉だけではなく

みんなも同じように心配だったのだ。


大輝はみんなから人気があったし

とても可愛がられていた。


普通の為に頑張って良かったと

心から思ったのだ。



その後は、みんなで写真を撮り

最後に、

若葉と二人で

写真を撮った。


大輝は笑顔だったが

若葉は泣きながらだった。


みんなに感謝しながら

みんなと別れた。




最後に、母親と司さんとも

制服姿のまま写真を撮った。

司さんは最後まで泣きっぱなしで

面白かった。


そのまま中学校を後にしたのだ。



卒業式の後に三人で

ご飯を食べに行き家に帰った。

家に帰って着替えてから

今度は父親のところに向かった。

駅で待っていた父親と合流してから

お祝いを買ってくれると言うことで

買い物に行ってから夕食を食べに行った。



父親と今日の話をしながら

夕食を食べていた。


司さんが泣きっぱなしだった話をすると

意外そうだったが

悪い笑みを浮かべながら

写真を送ってくれと言われた。


いいネタが出来たと喜んでいた。


なんだかんだで

わだかまりはもうないようだった。


そんな話をして

夕食を食べ終えた後

父親が


「大輝、高校は今の家から

少し遠いんだろ?

もしよかったら、

もしよかったらでいいんだが

お父さんの家から通わないか?」


と、突然の申し出があった。


「えっ?」


と、驚いていると


「平日だけでも、

通学が楽になると思うんだが、

どうだ?

お母さんには、話してあるから

考えといてくれ!」


と、言ってくれた。


「お母さんは、なんて言ってたの?」


と、聞くと


「大輝に聞いて

本人が了承すれば良いって

言われたぞ!

嫌だったら今までとは同じで

たまに来てくれればいいだけだぞ?」


と、ちょっと寂しそうに言っていた。


大輝は、少し考えた。


母親も司さんと、

二人で暮らした事がないはずだから

母親と司さんにとっても

良いのではないか?

週末だけ帰れれば二人に

気を使わせる事もないはずだと。


「お父さんが良ければ

そうさせてもらいたい!」


と、答えると


「本当か!本当かにいいんだな?

よし!

春休み中に、荷物持ってこないとな!

あと、お母さんに連絡しないと!

忙しくなるぞぉ!」


と、すごく喜んでいた。

大輝は、心から嬉しかった。

昔は、こんな関係になれるなんて

考えても見なかったのだ。


今の親子の関係が、

血の繋がりがなくとも

本当の親子になれているんだと思えた。


歪かもしれないが

大輝は、嬉しかったのだ。



高校入学までの春休みは、

引っ越しの準備などで

忙しかった。


父親が住んでいたのは、

1LDKのマンションだったので

大輝が来ることが決まってから

前から見つけていた物件の、

2LDKの部屋に

すぐに引っ越した。


大輝のベッドや、

一緒に住むことで必要となる

日用雑貨などを買いに行ったりと

やることが沢山だった。


三月中はほとんど引っ越しや

新学期をの準備で終わってしまった。

若葉や友達にも

何度か誘われたが、

準備が終わっていなかったので

断りのメッセージだけ入れた。



父親と話した日は、

家に帰ってから

母親と司さんとも

話をした。


二人とも

複雑そうな顔をしていたが

大輝が決めたことならと

納得してくれた。


週末は帰って来るとも伝えた。


それと、

二人で暮らした事がないんだから

新婚生活だと思って楽しんでとも伝えた。


二人は、驚いた顔をしてから

恥ずかしそうに、耳を真っ赤にしていた。



若葉にも、メッセージで伝えた。

最初は、反対していたが

最後には、納得?してくれたと思う。



そんなこんなで引っ越しの準備も終わり

入学式が終わったその夜から

平日は、

父親と一緒に、生活することになった。




四月になり

入学式までは、

何もすることがなくなったので、

友達と遊ぶことにした。


みんな驚いてはいたが

週末は、遊ぶ事を約束した。




若葉から連絡がきて、

公園で会うことになった。


公園で待っていると言っていたので

行って見るとブランコの所に座っていた。


「若葉、どうしたの?」


と、声を掛け近付くと


「大輝、どう言うことなの!

勝手に引っ越す事を決めちゃって!

私に相談してくれてもいいじゃん!

なんで相談もしてこないのよ!」


と、プンスカ怒っていた。


その後も、怒りながら

文句を言っていたので

黙って聞くことにした。


だんだん落ち着いてきたのか

最後の方は、掠れる様な声で


「一言くらい言ってくれても良かったのに…」


と、言って静かになった。


大輝は、


「急に決まったから

相談出来なかったんだ。

ごめん。

引っ越しとかもあって

時間もなかったから

ちゃんと話せなかったんだ。

ごめんね。」


と、言って頭を下げた。


すると若葉も


「しょうがない。

帰って来たら

ちゃんと遊んでよね!」


と、言ってくれた。


大輝は、ほっと胸を撫で下ろし

今度住む家のことや

近くに何があるなどの話をした。


高校からは別々になってしまうのが

寂しくて

いつもより、沢山話した。


若葉も同じで、

いつもより、沢山話して

沢山笑った。


これからは、

なかなか会えなくなってしまう


小さい時からいつも一緒にいたから

当たり前だった、


でも当たり前は、突然なくなる。


そしてまた、新しい当たり前が現れる。


二人はその日

いつまで話していた。


この時間がずっと続く様にと


お互いの気持ちを隠しながら


徐々に変化していく

二人の関係が

壊れない様に


離れても

今のような関係でいられるようにと…








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