第17話 お盆休み

待ちに待った、

お盆休みがやってきた。


父親に会える事を

楽しみにしていた大輝は、


「今日は楽しみだなぁ!」


と、一人でニコニコしていた。


今日は、父親が駅まで

迎えに来てくれる事になっていたので

一人で駅に向かって歩いていた。


駅に着くとすぐ父親を見つけた。


走って駆け寄った


「久しぶりお父さん!」


と、声を掛けた。


「久しぶりだな大輝。

元気にしてたか?」


と、聞かれた。


「元気だったよ!」


と、応えた。


久しぶりに見た父親は、

前より優しい顔をしていた。

大輝を見る目も前とは違い

ちゃんと息子として見ていると思えた。


それだけでもうれしかった。


そのまま父親の車に乗り込んで

今日泊まる旅館に向かった。


車に乗り込むと父親が、


「ごめんな、家まで迎えに行けなくて。

なんとなく気まずくてな。」


と、言ってきた。


「全然大丈夫だよ!」


と、言うと


「そう言ってくれてありがとな!」


と、言ってくれた。


車の中では、学校の話などをした。

たわいもない会話をして

一緒に住んでいた頃の時間を

埋めるかのように

なんでもない会話を

大切にしているかのように


大輝が望んでいた普通が、

そこにはあった。


歪かも知れないが

心の穴が少しだけ埋まった気がする。



そんな会話をしつついつの間にか

旅館に着いていた。


旅館に荷物を置いて

観光に出掛けた。


今まで父親と二人で出かける事など

ほとんどなかったから

新鮮だった。


観光地を、二人で巡り

楽しい男二人旅って感じだった。


夕方になり旅館に戻り

風呂にも一緒に入った。


大浴場だったが

大輝も年頃の為

父親と一緒に入いる事に

最初は恥ずかしがっていたが、

気付くと普通になっていた。


恥ずかしさも慣れれば

どうって事もないようだ。


風呂から上がり

部屋に戻った。


部屋に料理が運ばれて来て

美味しそうな海鮮料理だった。


二人で料理を堪能した。


食べ終えてから

父親が話し始めた。



「大輝も全て聞いたんだな…」


大輝は、


「うん。全部聞いたよ。」


と、だけ応えた。


「今まで本当にすまなかった。」


父親も頭を下げて謝って来た。


「大輝の事を蔑ろにするつもりはなかった。

大輝とは血が繋がっていないと

わかった時はショックだったよ。

でも俺の子供である事には変わりはない

そう思っていた。

でも本当の事を大輝が知った時

俺を父さんとは

呼ばなくなってしまうんじゃないか

他人だと思ってしまうんじゃないかと

不安になっていった。

気付くと仕事ばかりしていた。

気付くと大輝を避けるようになっていた。

大輝に他人と思われても

自分が辛い思いをしないように

知らず知らずに

大輝を傷つけていた。

少し考えれば大輝が一番辛いはずなのに…

本当にすまない。

大輝が話を聞くまでは

会わないと言ったのも

自分を守る保険みたいなものだった。

大輝に選ばせてしまったんだ。

母さんから話をしたと

連絡が来た。

「僕にとっては

父親は一人なので

一番近くにいる叔父さんでも良ければ

よろしくお願いします。」

と、東郷さんに言ったと聞いた時

涙が止まらなかった。

大輝にすぐ会って謝りたい。

大輝にすぐ会って抱き締めてやりたい

って思ったよ。

こんな父親だが

血も繋がっていない父親だが

大輝の父さんでいさせてくれるか…?」


大輝は、


「当たり前だよ!

僕の父さんは

これまでも

これからも父さん一人だけだよ!」


と、言って答えた。


「大輝!ありがとな、ありがとな…」


と、言って泣きながら抱き締めて来た。


僕は、笑顔で抱きしめ返した。


涙は流さない。

心配させちゃうから。


でも嬉しかった。





少し落ち着きを取り戻した父親に

疑問に思っていた事を聞いてみた。


「お父さんは

僕と血が繋がっていないって

わかった後

お母さんの事を嫌いになったの?」


すると


「最初は母さんを

責める気持ちしか無かったよ。

母さんから聞く前から

なんとなくわかってもいたからな。

でも元々愛し合っては

なかったんなだろうな。

母さんと付き合う前の話は聞いたよな?

父さんにも恋人がいたんだ。

父さんもその人の事が好きで好きで

たまらなかった。

でもその人は

突然居なくなってしまったんだ…

事故だったんだ。

知らせを聞いて

急いで向かったんだが

間に合わなくてな…

昨日まで笑ってたいたのに

次の日には笑わなくなってな…

触っても冷たかったんだ…

辛かったなぁ…

あの時は…

それからは荒れたな、

目標が無くなって

どうでも良くなってしまったんだ。

そんな時に母さんに出会ったんだ。

母さんも俺と同じような顔をしていた。

なんとなく

自分を見ているよな気持ちになってな…

今思えば母さんを利用したんだ。

自分の苦しみを、哀しみを

紛らわすためにな…

だから妊娠したと聞いて

結婚するまであっと言う間だった。

それから大輝が産まれて

幸せだったんだ。

でも、いつの間にか

考えてしまうようになっていたんだ。

居なくなってしまった恋人との生活を

気付いたら比べてしまっていた。

いつも比べてしまっていたんだ。

いない人に勝てるわけが無いのに

比べる事自体意味がないのに。

そんな生活を続けて

大輝と血が繋がっていない事がわかった。

母さんは、

本当に俺との子供だと思っていたらしく

毎日のように土下座して謝っていたよ。

俺も最初は腹が立ったが

いつの間にか裏切っていたのは

俺の方なんじゃないかと

思い始めたんだ。

その事を母さんに聞いたんだ。

母さんは比べられている事に

最初から気付いていたんだ。

寝言でまで

その恋人の名前を言っていたらしい。

結局どっちも裏切っていたんだと

最初からお互いに

利用していたんだと思ったんだ。

だから許すって訳ではないが

お互い様だったんだなって

納得した。

母さんも相当苦しんだと思う。

大輝がいない時に良く泣いていたから…

大輝にはその姿を見せないように

必死だったんだ。

それに比べて俺は逃げてばかりだった…

恋人の死から逃げ…

母さんから逃げ…

今度は大輝から逃げ…

情けない限りだ。

母さんは本当に何もわからなかったんだ

だから母さんを恨まないでくれよ。

俺もこれからは、

逃げずに向き合っていくつもりだ!

母さんにも感謝しないといけないな!

大輝の父親させて貰えたんだ!

産まれて来てくれて本当にありがとうな!

父さんは、きっともう結婚はしない。

これからも死んだ恋人を忘れる事はない。

だから父さんの息子は

今までも

これからも

大輝一人だけだ!

これからもよろしくな!」


と、最後は笑顔で話してくれた。

本当に嬉しかった。

自然と笑顔が溢れた。



その後も二人で今までの時間を埋めるよう

色んな話をして

色んなところに出かけて

一泊の旅行が終わった。


次にいつ会うとは決めず

二人で連絡しあって

友達の様な親子の関係を

築いていくことになった。


なのでいつでも会える事になったのだ。





母親達も、

無事挨拶を終えて

正式に認めてもらったらしい。


東郷さんの両親にも認めさせ無事

再婚に向け進み始めた。

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