第37話 あなたを大切にしてくれる人を大切にすればいい。あなたが大切にしたいと思う人を大切にすればいい。

(クルミ視点)


「保健室着いたな! ってあれ、何でプロフェ先生も?」


 マチダ君が言うように私達が保健室に入るとそこには、保健担当のブエナ先生とプロフェ先生がいた。


「ああ。お前達がここに来ると思っていたからな。話したい事もあって、ここで待っていたんだ」


「あら、私と話したいわけではなかったのね……悲しいわ」


 ブエナ先生は顔を押さえてさも悲しそうな態度を取っていた。


「……あなたの安い演技には付き合い切れないですよ」


 当然、プロフェ先生がそれに気づいていない訳がなかった。


 でも、私はプライベートでプロフェ先生が他の先生方とまともに話をしているのを見たことがなかったから、目の前にいるプロフェ先生とブエナ先生の大人な空気感に飲まれてしまいただただ見ていることしかできなかった。


「本当にあなたは可愛くない後輩ね。指導は優秀なのに、生徒から人気がないのはそういう所よ。マチダ君、モナカさん、この先生さっきまで「あいつら、大丈夫なのか?」ってすごい心配していたのよ」


「ちょっと……。あなたはいつもあることないこと言うのやめた方がいいですよ」


「あら? じゃあ、さっきまで私に「あいつらの治療お願いしますね」って言ってきたのはどこの誰だったのかしら?」


 このブエナ先生の言葉には流石のプロフェ先生も返す言葉が見つからなかったみたいで、ムスっとした顔をして、黙っていた。


「あの……私はどうすれば……?」


 私はマチダ君の肩を借りて何とか立っている状態だったので、なるべく早く治療してもらえるようにブエナ先生とプロフェ先生に質問した。


「あら、ごめんなさい。世間話ばかりで私の仕事忘れていたわ。モナカさん、こっちへ来てくれるかしら」


「分かりました……。でも、ちょっと魔力切れで歩けなくて」


「あなた、かなり無茶したのねー。マチダ君、モナカさんをこっちのベットに運んでくれるかしら?」


「了解です!」


 マチダ君は再度、私をおんぶし、近くにあったベットまで私を連れて行ってくれた。


「じゃあ、俺は戻りますね! ハジメの試合とかもあるんで!」


「……マチダ! 戻る前にお前と話したいことがある」


 マチダ君はビックリした顔でプロフェ先生を見た。


「え? 俺、今からもしかして怒られるんですか?」


「…………もしかしたら、そうかもしれないな」


「それは嫌だなー!」


 マチダ君は今から怒られるかもしれないのに、やけに楽観的な態度を取っていた。


「じゃあ、俺とマチダは行くので、モナカのことくれぐれもよろしくお願いしますよ」


「クルミ! ゆっくり休んでから、来いよ!」


「分かってるわよ。あなたもプロフェ先生をこれ以上怒らせないようにしなさいよ」


 マチダ君、あなたは私を助けてくれた人だから、怒られないでほしい。


 できれば、失格もしていませんように……


「へへ! まあ、プロフェ先生は優しいから大丈夫だろ!」


 彼はこれから怒られるかもしれないのに普段と全く同じだった。


「男どもはさっさと行く! 今からガールズトークをするんだから」


 ブエナ先生がそう言うと、プロフェ先生とマチダ君は外に出ていった。


 実は私は今までこのブエナ先生と話したことがなかった。


 それどころか、私は学校内で怪我をしたこともなかったし、私の頭の中で保健室は不真面目な生徒達が入り浸っている場所だと思っていたので、近づくのすら避けていた。


「さて、治療を始めるけど、あの真面目で有名なあなたがこんなに無茶するとはね」


「……すみません」


「いや、怒ってるわけではないのよ。逆に嬉しいのよ。だって、あなた多分一回もこの保健室に来たことがなかったでしょう?」


 ブエナ先生が私がこの保健室に来たことがなかったことを把握しているとは思っていなかったから、少し驚いた。


「……先生は全生徒のことを把握していたりするのでしょうか?」


「生徒の名前は会ったことなくても覚えるようにしているわね。でも、私はずっとあなたとお話をしたかったのよ」


「え……それはなんでですか?」


「まあ、あなたの評価が生徒達と先生達の間では全然違ったからよ。だから、どんな子なのかなーとは気になっていたの」


 やはり、そうか。


 先生達からの評価は高かったが、その分、同級生達からは「チクリ魔」と言われるくらい疎まれていた。


 正直、私が今までしてきた行為自体には後悔はしていない。


 でも、いつの間にか私の周りには仲がいい人は少なくなっていた。


「私、チクリ魔で有名ですもんね……」


「まあ、そう言っている生徒もいたわね。でも、私があなたにより興味を持ったのは全然違う理由よ」


「え……?」


 何でブエナ先生は私なんかに興味を持ってくれたのだろうか……?


 私はブエナ先生の話を一音も逃がさないように固唾を呑んで話を聞いた。

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