第11話 人生、上手くいく時はとことん上手くいくものだ

「ユウヤ、ごめん。お前の夢かなえられなさそうだ」と思った瞬間、あたりに光が走った。


「マグシマムパンチ!」


 その声を皮切りに、俺を襲ってきたイノシシもどきの生物が倒れていく音が聞こえる。


 でも、その強烈な光の影響で目がくらんで、まだ誰がそんなことをしてくれていたのか分からない。


 だって、さっきまで星や月の光を頼りにしていたくらい光がない中歩いていたのだから、瞬間的に光が走れば、目がくらむのは当然だろう。


 だが、先ほどの「マグシマムパンチ」という声で誰なのかは、見当がついていた。


 あんなに温かい声をしている人は俺が知ってる限り5人しかいない。


「ユウヤ、大丈夫か?」


 俺に温かい声の誰かがそう聞いた。


「大丈夫」


 俺はそう答えた。


「ワンワン!」と言って、どんどん俺達からイノシシのような生物が離れていく音が聞こえてくる。


 そして、丁度同じタイミングで段々と目の前が見えてきた。


 すると、目の前にシズカがいた。


「ユウヤのバカ! 本当に心配したんだから……」


 そう言って、シズカは俺が先程まで求めていたハグをしてくれた。


 そして、シズカの後ろには、ヨウヘイ、ハジメ、クルミが居た。


 あの暖かい声から何となく想像はついていたが、やはりちゃんとそこに居るって分かるととても安心した。


「どうして、皆がここにいるの?」


「それはそこのハグしている姫様のおかげだよ」


 そうハジメはシズカに話を振るが、シズカは何も話そうとしない。


「今、シズカは話せそうな感じじゃないから、私から言うわ。あなた、お母さん宛てに手紙を置いていったでしょ?」


 自分が出ていく前に自分の机の上に置いた手紙の事だ。


「その手紙を見てから、シズカは先生達に片っ端から聞いていったのよ。それでプロフェ先生に聞いたら、『あいつはモンテ山の金のバラを取りに行った。』って言ったから、ここまで来たのよ」


 なるほど。プロフェ先生に聞いたのか。


「でも、プロフェ先生の事あんまり知らないから、正直半信半疑だったよな」


「ハジメの言ってることわかるわ。だって、俺、今日初めてプロフェ先生と喋ったもん」


 あのヨウヘイとハジメがこれだけいうほど、プロフェ先生は生徒とのかかわりが少ない先生なのだ。


「でも、それを知ったのが、ついさっき。もう一日中あなたを探すのに使ったのよ?下山したら、美味しい料理を作りなさいよ」


「え?ついさっき?じゃあ、なんでこんなにすぐに来れたの?」


 そう言った瞬間、急にハジメが前に出てきて、笑顔でこう言った。


「ユウヤはそういえば、見たことなかったな。覚えてるか?俺の特殊能力?」


 あ……そうだ。ハジメの特殊能力は確か「瞬間移動」だった。


「俺の瞬間移動はここ一年で行ったことがある場所に移動できるんだ。ちょっと、そこ見てみ?」


 そう指をさされた方を見る。すると、下の方に昼に通った立ち入り禁止の500メートル地点を意味する看板が見えた。


 俺はどうやら暗闇の中、500メートル地点をぐるぐる回っていたらしい。


「まあ、俺の瞬間移動は課題があって、指定したところにはまだうまく移動できないんだけどね。そのアバウトさのおかげでたまたまユウヤの近くに行けてよかったよ。だよな?」


「何言ってるのよ。今回はたまたまなのよ。タナカ君もマチダ君もちゃんと修行しないとダメよ」


「え?なんで、俺にも言ってくるんだよ」


「あなたもちゃんと、自分の特殊能力がまだ扱えてないじゃない」


「俺は3匹追い返しましたー」


 「いつも」のヨウヘイとクルミの会話がこんな夜の山奥で聞けるとは。俺が一緒に生きたいと思った人達に会えるとは。


 そう考えると、涙がこぼれてきた。


 でも、さっきの「独り」で流した涙より、温度は高かった感じがしたのは勘違いではないだろう。


「なんで、あなたが泣いてるのよ」


 クルミに憎まれ口を叩かれるのも今は嬉しかった。


「ユウヤ、ちょっと俺達トイレ行ってくるわ。クルミも行くぞ」


 ヨウヘイはそう言った。


「え……なんで?私は女の子よ。なんで、あなた達と……」


「空気読め!クルミは本当に頭が固いんだから」


 そう言って、ヨウヘイはクルミとハジメを連れて、別のところに向かった。


 シズカは俺に抱きついたまま何もしゃべらない。


 髪を触っていいか分からなかったが、ここで引いたら男じゃないと思い、髪をなで始めた。


「シズカ。ごめん。何も言わずにいなくなって」


 シズカは何も答えない。5分くらいだろうか、静寂の時間が続いた。


「何で、何も言わないでモンテ山に行ったの?」


 シズカは固い口を開けた。


「俺、いつも助けてもらってばかりだから、皆の力になりたくて。だから、プロフェ先生に修行を付けてくれってお願いしたんだ。それで、モンテ山の金のバラを取ってくれば、稽古つけてやるって言われたから、取りに行こうと思って」


「私が聞きたいのはそこじゃない。何で私に何も言わないで取りに行こうとしたの?」


「それは……俺の勝手なわがままに皆を巻き込みたくなかったから……」


 シズカはまた黙ってしまった。


 でも、髪をなでるのを拒否されたわけではないから、続けていた。


 風で木々が揺れる音が鮮明に聞こえる。


「もう勝手にいなくなろうとしないで」


 静寂にシズカの声が追加される。


「ユウヤは私にとってのナイトになってくれるんでしょ?」


「ああ。だから、その為にここに来たんだ」


「でも、もし私達がここに来なかったら、ユウヤは死んでたかもしれないんだよ?」


 そう言って、シズカは顔を俺の方に向けた。その瞬間、「ドキッ」としてしまった。


「私を守ってくれるんでしょ?もう、ユウヤは私にとってはナイトなの。ユウヤがそばにいてくれるだけで、私は何十倍も力が出るんだよ」


 前世含めて、否定しかされてこなかったから、このシズカの言葉には力と自信をもらえる。


 本当にシズカには感謝しかない。また涙が出そうになった。


「だから、もう勝手にいなくならないで。あの日、ユウヤは言ったじゃない。『俺はどこにも行かない』って。ユウヤが居なくなったら、私はどうすればいいかわからなくなっちゃうよ」


 恐らくだが、俺、山田裕也がユウヤ・ヤマダに転生するきっかけになった『ユウヤの自殺未遂』はシズカにかなり大きなショックを残したのだろう。


 それなのに俺は自分一人で解決しないとって勝手に焦って、また死にかけてしまった。


「シズカ、本当にごめん。俺、何も分かってなかった。こんなに想ってくれている人がいるのに無茶なことをして、勝手に死にかけて」


 その瞬間、シズカの顔が赤くなった気がした。


「私はいつでも、どんな時でもユウヤの味方だよ。だから、ユウヤが一人で行くって言うなら応援するけど、無理だと思ったら、いつでも言って」


『ユウヤは私の救世主なんだから。』


 前も感じたが、11歳にして、ここまで人間が出来ている人はいない。


 彼女が勇者になれるように、いつもシズカが俺を支えてくれているように、俺も彼女を支えようと、彼女の為に俺は絶対にいなくならないようにしようと心に誓った。


「うん。そう言ってくれて本当にありがとう」


 俺は心からの本心をシズカに伝えた。


「ユウヤ、下山するの?それとも続けるの?」


 ヨウヘイとハジメの制止を振り切って、クルミがこっちに来た。


 俺とシズカは慌てて、距離を離した。


「あ……うん、皆が良ければなんだけど、俺は皆と一緒に金のバラを取りに行きたい。俺一人じゃ絶対無理だし、もう、一人では取りに行きたくないから」


「もちろん、答えはイエスだ。ユウヤ。皆で行こうぜ。クルミもだろ?」


 ヨウヘイはすぐに答えてくれた。話を振られたクルミはしかめっ面で考えている。


「うーん……。もうここまで来たから、仕方ないわね。ついていくわ。死なれても困るし」


 クルミもそう答えた。


「ユウヤが行くって言うなら、私も行く」


 シズカも賛同してくれた。


 あたりは夜明けまえで一番暗い時間だったから、月も星も今に降ってきそうなくらい輝いていた。


 やっと、俺は星空を楽しめるようになった。

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