第27話 準備は時に実力を超えることもある

「「「キミヤー、負けんじゃないぞ!」」」


「「「マツリ! お前が本当の勇者という所を見せてくれー!!」」」


「「「あんたが最強だ!! ヒメカ!」」」


 昨日、鬼ごっこしていた校庭とはまるで違う雰囲気だった。


 声援の量も、何もかもがいつもと違いすぎる。


 そして、その声援のほとんどが勇者候補の3人に向けてだった。


「観客の人達凄いね……」


 俺はその雰囲気に圧倒されていた。


「大丈夫! ユウヤには私がいるから」


 隣にいたシズカが笑顔で俺に言った。


 いつも言うが、彼女の笑顔と言葉が俺を安心させてくれる。


 まあ、俺は救世主を目指しているのだから、俺がシズカにそれをしなければと思う時もないわけではないが……


「では、午前中最後の11歳の部のサバイバルバトルを開始します!! レディー……ファイ!」


 そんなことを考えていると、11歳の部のサバイバルバトルがスタートした。


ーーー


 リンゴ組のスタートする場所は校舎から見て奥側の遊具があるところ。


 ミカン組は左手の花壇の前から、ブドウ組は右手のジャングル前からスタートを切った。


「今日はツイてる」


 俺は今回のスタート位置からそう思った。


 なぜなら、昨日の異世界鬼ごっこで隠れる時に使った滑り台がすぐそばにあるからだ。


ーーー


「ヤマダ、お前は逃げるのではなく、隠れろ」


ーーー


 プロフェ先生の言葉や指導には無駄がないなと改めて思わされた。


 俺の最初の目標は去年より長く、つまり21秒以上逃げ切ること。


 スタートの掛け声の後、俺は皆が中心に向かって行くのとは真逆の滑り台の方に向かって走った。


 俺以外の人達は目の前に近づいてくる人に集中しているので、誰も俺が滑り台の裏に行ったのを見ていなかった。


 本当に昨日した異世界鬼ごっこの経験が役に立っている。


 だが、このサバイバルマッチは誰でも鬼になることができ、誰でも逃げる役になれるというところが昨日の異世界鬼ごっことは違う。


 俺は滑り台の裏から戦況を見守る。


 やはり、勇者候補の3人がそれぞれのクラスの中心になり、他のクラスの生徒達を攻撃していた。


 でも、追われてる側も特殊能力を駆使して、勇者候補の3人から逃げ、それ以外の人達と戦うようにしていた。


 俺以外のここにいる全員は自分の親や応援に来ている住民の人達にいいところを見せようとそれぞれが必死に戦っていた。


 当然、俺みたいに隠れる人は居なかった。


「18……19……20……21、よっしゃ!」


 そのおかげもあり、俺は1つ目の目標であった去年の「ユウヤ」の記録を越えることができた。


 次の目標は全参加者90名の中の上位60名に入ること。


「あ、ヨウヘイだ……」


 そんなことを考えているとヨウヘイがブドウ組の1人をタッチをした。今回初の脱落者だ。


「へいへいへい! キミヤ! リナ! お前達勇者候補もまだまだだな!」


 ヨウヘイは特大の笑顔を浮かべて、シンとリナに喧嘩を売った。


「あなたは何でそう目立ちたがるのよ……」


 ヨウヘイの隣にいたクルミは頭を抱えていた。見たところ、ヨウヘイとクルミはペアになって、戦っているようだ。


「ヨウヘイとクルミにバカにされちゃ、黙ってられないね」


 先程のヨウヘイの言葉でリナの目の色が変わった。


 リンゴ組とミカン組の生徒達を持ち前の身体能力強化でスピードアップしてタッチしていく。


 どんどん脱落者が出てくる。


「リナ! 俺を狙えよ」


 そんな時、ハジメはリナに狙われていたリンゴ組の生徒を守るように前に立ってそう言った。


「……ハジメ、あんた、速すぎるんだよね。流石の私もあんた相手だと逃げるので手いっぱいになるから、今はやらないよ」


 リナはハジメの挑発には乗らずに、別の方向に進んでいった。


 ハジメの速さは会場にいる中で特殊能力有りだと1番速い。


 だからこそ、あの大蛇の攻撃をかわすことができていたのだ。


 それは他クラスのリナもよく知っていた。


 ちなみに2番目に速いと言われてるのが、そのリナである。


「ハ……ハジメ、ありがとう」


 ハジメに助けて貰ったリンゴ組のクラスメイトがそう言った。


「おうよ! でも、やっぱり、挑発に乗って来なかったかー。まあ、しゃあない。もう1人の勇者さんを狙うか……」


 ハジメはそう言って、剣を使ってリンゴ組とブドウ組の生徒達を包囲して、一気にタッチしているシンがいる方向に向かった。


 そして、タイミングよくハジメの瞬間移動を使い、シンの背中に回った。


「もらった! キミヤを狩れば俺ももしかしたら勇者になれるかも……だろ?」


 その瞬間、シンはハジメより速く動いた。


 そして、ハジメに向かって3本の剣を向けて、攻撃した。


「あ……あぶね! お前、俺を殺す気かよ」


「そんなわけないよ。僕はタナカ君ならかわせるって思ってたからね。まあ、君は僕の眼中に全くないけど」


「キミヤ……絶対、お前を予選で敗退させてやる」


「君が僕に触れられると……?」


「あったりめえだ!」


 ハジメはそう言って、シンに近づく。


 だが、ハジメはシンの剣のせいで動きが制限され、タッチできない。


 後、言い忘れていたが、このシン•キミヤという男は特殊能力なしでの身体能力は学年ナンバー1、あのヨウヘイよりも身体能力に恵まれているのだ。


 だから、ハジメとシンの鬼ごっこ勝負は五分五分だった。


ーーー


「やっぱり、シズカは凄いや」


 シズカにタッチされたミカン組の生徒が言った。


「へへっ! ありがと!」


「シズカに敗退させられるなら文句ないよー」


 俺はシズカの凄さをこの時知った。


 いつもずっと疑問だった。


『治癒魔法は本当に勇者になれる特殊能力なのか?』


 モンテ山の時、俺が見たシズカは治癒魔法をその名の通り治癒を俺やヨウヘイ、ハジメ、クルミにかけてくれていたのが中心で、戦いに関してはハジメとヨウヘイの方が活躍していたように見えた。


 でも、違った。


 今、目の前で戦っているシズカはあの時とは全然違う。


 というのも、シズカは自分の治癒魔法を自分自身に使い、身体能力を向上させていた。


 そのお陰で、スピードは先程のリナにも引けを取らないくらいになっていた。


 加えて、モンテ山の時を思い返すとシズカは俺達にほぼ休みなく治癒魔法をかけ続けていた。


 つまり、彼女の治癒魔法も凄いのだが、魔力量も他の人達よりもずば抜けているのだ。


 しかも、今日はあのモンテ山の時とは違い、魔力を消耗していないし、怪我というハプニングもない。


 最初から全力でいける。


「これが本当のシズカの実力……。回復も強化も自分の思いのままにできるのは凄すぎる」


 俺は滑り台の裏に隠れながら、シズカの本当の実力を見て、感心していた。


 ここで、去年も「ユウヤ」はこの強いシズカを見ているはずだからその時の記憶があるのではないかと思うだろう。


 でも、よく思い返してほしい。


 「ユウヤ」はすぐに負けてしまったのだ。


 そのショックでそこから先の試合を「ユウヤ」は見ていなかったようだ。


 だから、シズカの全力を見るのは「ユウヤ」の記憶を含めても初めてだった。


「残り60名になりました! 皆さん、頑張って下さい!」


 そんな時、このアナウンスが入った。


 何といつの間にか2つ目の目標も達成することができたのだ。


「これならもしかしたら……」と俺は思った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る