第32話 いつも通りが1番難しく、1番強い

「では、本日最後の11才の部の決勝を行います。第一試合目はヨウヘイ・マチダさんとラララ・ホンダさんです! マチダさん、ホンダさん、メインステージにお願いします」


「っしゃ! じゃあ、ちょっくら行ってくるわ!」


 メインステージがある校庭の手前でヨウヘイは俺達にそう言った。


 ヨウヘイは凄い。


 全くいつもと変わらない感じだ。


 多分、ヨウヘイより俺の方が緊張していると思う。


「ヨウヘイ、頑張って」


「おうよ! ユウヤ、ありがとな」


「マチダ君、私に偉そうなこと言って一回戦で負けたら承知しないからね」


「へへっ、分かってるよ! 俺だって、勇者候補になれるってところ観衆に見せてやるんだからな」


 ヨウヘイは鼻を擦りながら、クルミの激励に答え、校庭に入り、メインステージに上がっていった。


「……まさか、ヨウヘイ君が相手なんてね」


「俺も友達のお前と一回戦なんてビックリしたぜ。まあ、お互い楽しもうや!」


 ヨウヘイと対戦相手のラララは知り合いのようだ。


 ヨウヘイもシズカと同じように他のクラスにも多くの知り合いや友達がいる。


 まあ、ヨウヘイのあの明るい性格と空気を読む力を考えれば当然な気がする。


 かくいう俺もヨウヘイと会話する度に彼を嫌いになる人は多分いないだろうなと思わされている。


「お二人がメインステージに揃いました! ……では、一回戦、第一試合。レディー……ファイ!!」


 ラララは試合が始まってすぐに彼女の特殊能力である「手の長さを伸び縮みできる」を使い、腕を伸ばしてヨウヘイにパンチを入れようとする。


「ヨウヘイ君の方が私より強いのは知ってるからね……。悪いけど、奇襲攻撃させてもらうよ」


「ヨウヘイ!」


 俺は開始早々の奇襲に驚き、叫んだ。


 だが、ヨウヘイは余裕そうな顔をして、俺の方にグットポーズを向けた。


「流石ラララ! まあ、でも、なんとなく奇襲してくる気はしてたんだよ!」


 ヨウヘイはラララの奇襲を読んでいたようだ。


 変幻自在に伸びるラララの腕から繰り出されるパンチを持ち前の身体能力で避ける。


 とにかく避けて、避けて、避けまくる。


「もう! 本当にすばしっこくて嫌になるね」


 ラララは攻撃をしているのに全く当たらなくてイライラしていた。


 そのせいもあってか、段々と攻撃が大振りになり始めていた。


「よしよし……。そろそろ行くか!」


 ヨウヘイはラララの攻撃のスピードに慣れてきたのか、かわしながらもゆっくりと近づき始めた。


「この! この! 当たれ! 当たれ!」


「ラララ、悪いな! 俺、ある奴に喧嘩売っちまったから、ここで負けるわけにはいかないんだ」


 ここでヨウヘイはラララの大振りになった右ストレートを避けた後、スピードを上げて、一気にラララに近づく。


 そして、勢いそのままラララの腰を掴んで、持ち上げた。


「ヨウヘイ君! 離して」


「それは無理なお願いだぜ!」


 ヨウヘイはそう言って、ラララを場外に投げた。


 ラララはなんとか地面につかないようにメインステージに手を伸ばし、メインステージの角を掴んだが、その努力虚しく体は場外についてしまった。


「試合終了!! 決勝一回戦、第一試合の勝者はヨウヘイ・マチダさんです!!」


 放送が校庭全体に響く。


「あーあー。今日もヨウヘイ君に勝てなかったよ」


「でも、ラララのパンチスピードが上がってたからビビったぜ」


 ヨウヘイは場外に倒れているラララに手を貸した。


「……本当? だったら、嬉しいけど」


「マジマジ。避けるの大変だったわ」


「でも、結局1発も当たらなかったけどね」


「俺も強くなってるってことよ」


「こんにゃろー」


 ラララは笑いながら、そのヨウヘイの手を掴んで、起き上がった。


「私に勝ったんだから、簡単には負けないでよ」


「おうよ!」


 立ち上がったラララとヨウヘイは力強く握手をした。


「「「マチダー!! お前強いぞー!」」」


「「「次も勝てよ!!」」


 ヨウヘイはボルテージの上がった会場に挨拶しながら、メインステージから降りてきた。


「ヨウヘイ、おめでとう! やっぱり、強いね」


「ありがとな! まあ、相手が知ってた仲っていうのもあったからなー」


「それでもだよ。流石だね」


「そうか? ユウヤにそう言ってもらえると照れるな」


 ヨウヘイは鼻をかきながら照れていた。


「まあ、マチダ君なら当然の結果よね」


「クルミ! ちゃんと、俺勝ったぞ」


「見てたから、知ってるわよ。とりあえず、おめでとう。私もあなたに続けるように頑張るわ」


「おうよ! 俺が応援してやるから、思いっきり負けてこい」


「……あなた、プロフェ先生の真似してるわね」


 クルミはヨウヘイの発言に呆れてるような態度を取っていたが、顔は嬉しそうだった。


 そして、その後小さな声で「ありがとう」とヨウヘイには聞こえない声で言っていた。


 第二試合はブドウ組のガイ・ササキとミカン組のイッポ・タダシの対戦だったが、かなりの接戦だった。


 先程の試合とは違い、パンチの打ち合いの応酬で見応え満タンの試合展開になっていた。


 それもあり会場のボルテージも一気に上がった。


 この第二試合はガイ・ササキが粘り勝ち、2回戦進出を決めた。


 つまり、ヨウヘイは2回戦でこのガイ・ササキと戦う事になった。


 そして、次の第三試合はシズカの試合になる。


「次、シズカの試合だね」


「うん。ユウヤ、ちゃんと見ててよ。私、優勝するから」


 校庭の手前でシズカは俺にそう言った。


 シズカの顔から緊張の2文字は感じられず、ヨウヘイと同じようにいつも通りのシズカだった。


「ちゃんと、シズカが優勝するところ見とく。らしく楽しんできて!」


「うん! ユウヤ、ありがとう」


 シズカは笑顔で俺にそう答えた。


「では、第三試合、シンジ・バクロさんとシズカ・マツリさんです! バクロさん、マツリさん、メインステージの方へお願いします」


「マツリ、頑張れよ」


「マツリならいける! 思いっきりな!」


「シズカ、あまり勇者候補とか考えずに戦ってきなさい。そうすれば、あなたに勝てる人なんてほとんどいないんだから」


「皆、ありがとう」


「ユウヤも行く前になんか言わないとな!」


 ヨウヘイはそう言って俺の背中を叩いて、シズカに激励の言葉を送るチャンスをくれた。


「えっと、シズカ。さっきも言ったんだけど、俺、シズカの笑顔見たいから、絶対に勝ってね」


「へへ! ユウヤは結構プレッシャーかけてくるね」


「ごめん。そんなつもりじゃ……」


「分かってる! ユウヤとの約束も分かってる。絶対に勝つから、私だけを見てて」


 シズカは笑顔で俺にそう言った。


 俺の隣にいたヨウヘイはそれを聞いてヒューと口笛を吹いた。


 俺は嬉しさと恥ずかしさの2つで顔が熱くなっていた。


「ユウヤー。お前の嫁さん、カッコいいな」


 ハジメは俺にそう言って、肩に手を回してきた。


「シズカはまだ彼女じゃないよ……」


「でも、好きなんだろ?」


「……うん……」


 改めて聞かれると恥ずかしくなる。


「ユウヤ、お前は変な風に隠したりしないし、思ったことをちゃんと言うから、マジでカッコいいぜ」


 ハジメは笑顔で俺にそう言った。


「だから、ちゃんと見なきゃな。リンゴ組の勇者候補の実力をな」


「うん。瞬き厳禁だね」


 俺はハジメにそう答えた。


 メインステージの上には既にシズカと対戦相手のシンジ・バクロがいた。


「 では、本日第3試合を始めます! では、レディー……ファイ!」


 こうして、シズカの試合が始まった。

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