第33話 普段優しい人ほど、怒らせると怖いものだ

「バクロ君には悪いけど、勝たせてもらうわね」 


「……シズカさんが対戦相手なんて僕はついてる」


「え……? なんで?」


「実は僕、君のことが好きなんだ」


 まさか、会場の中心でシズカに告白する猛者がいたとは……


「「「おおおー! バクロ、お前マジか!」」」


 会場は別の意味でボルテージが上がった。


 俺もまさかの展開すぎて、ドキドキしていた。


 だって、俺はまだ告白して無かったから……


「だから、僕が勝ったら付き合ってよ」


 シンジは髪をなびかせながら、シズカにそう言った。


 シズカは困惑していて、言葉が出せない。


 そして、助けを求めるように俺の方を見た。


「ユウヤ……」


「シズカ! 絶対に勝って!」


 俺は語調を強くして言った。


 まだ気持ちを伝えられてないのに、そんなの冗談じゃない。


「わ……わかった! バクロ君、悪いけど、私が勝つからそれは無理なお願いだね」


「……ッチ。特殊能力も無くて、予選敗退したくせに……」


 シンジがボソッとつぶやいた。


 その瞬間、シズカの目の色が変わった。


「バクロ君、自分で地雷を踏むとはね。この試合はもう終わりよ」


「じ……地雷?」


「あなたのことよ」


「え?」


 俺はこの時のクルミの言ってる意味が分からなかったが、それを理解するのに時間はかからなかった。


 シズカはすぐに自分の足と手に治癒魔法をかけて、ハジメにも匹敵しそうな速さでシンジに攻撃をいれる。


 シンジの特殊能力は手から糸を出せるというものだが、シズカの移動スピードが速すぎて、糸を出す暇もない。


 加えて、シズカは自分の手にも治癒魔法をかけたことでパンチ力も上がってる。

 

 何とか、シンジは体を丸めてブロックしていたが、シズカの度重なるボディブローが効いたのかガードを一瞬下ろしてしまった。


 それを見逃すシズカではない。


 空いたシンジの顔面にパンチを入れて、シンジを場外に吹き飛ばした。


「バクロ君……ユウヤの事、何も知らないのにバカにしないで!」


 シズカは俺がバカにされた事でスイッチが入ったようだ。


 クルミは以前、シズカを怒らせてしまったことがあるので、すぐに理解したのだろう。


 俺はシズカが負けるはずないと信じていたが、もしかしたらと心配していた。


 でも、そんな心配は他所に余裕の勝利で安心した。


「……マツリを怒らせるのはやめよう」


 ヨウヘイはメインステージの上にいるシズカを見ながらそう言った。


「ええ。特にユウヤ関係だと本当に怖いんだから……」


 クルミもそう言って、ヨウヘイの言葉に大きく頷いていた。


「第三試合の勝者はシズカ・マツリさんです!」


「「「流石、勇者候補!! お前が世界を救うんだ!」」」


「「「二連覇期待してるぞ!」」」


 会場のアナウンスが入り、シズカがメインステージから降りてきたが、その足音からまだ怒っているようだった。


 でも、俺はシズカが勝ってくれた安心感からか、そんなことお構いなしにシズカにハグをしてしまった。


「シズカ、ありがとう!」


「えっ……えええ? ユ……ユウヤ、どうしたの?」


 俺はシズカの言葉を聞いてからやっと自分がしている事に気づいて、すぐにシズカから離れた。


「……いや、ちゃんと勝ってくれたから」


「う……うん。そりゃ勿論勝つよ。だって、ユウヤとの約束もあったし、負けたら、変なことになりそうだったしね」


 その時のシズカはさっきまでとは違い穏やかな顔になっていた。


 よかった。シズカの怒りも収まったようだ。


「第4試合、イン・フェリスさんとマナ・カツイさんです! フェリスさん、カツイさんはメインステージまでお願いします!」


 第4試合のアナウンスが入った。


 俺達は試合を見る為に校庭の金網の所にいた。


「シズカ、フェリス君ってどんな人か知ってる?」


 ユウヤの中の記憶では、インについての情報が無さすぎるので、シズカに聞いてみることにした。


「え? ユウヤの方が仲良いんじゃないの?」


「俺がフェリス君と?」


「うん。ユウヤが学校休む前はよくイン君と話してたイメージあるよ」


「私もそのイメージがあるわ。だから、復学してから話さなくなったんだって思ってたのよ」


 クルミもそのように言っていた。


 「ユウヤ」がインと仲よかった……?


 そんな記憶ないけど……。


「インはよくわからないんだよな。俺とハジメもあんまり話したことないし」


「うーん。静かな人ってイメージはあるけど」


 ヨウヘイとハジメもインのことよく分かっていなかった。


 彼は何なんだ?


 誰なんだ?


 なぜ、記憶がないんだ?


 そんなことを考えながら、インを見ているとインはそれに気づいたのか、俺の方を見て笑った。


 俺にはそれが酷く怖く感じた。


「では、一回戦、第四試合。レディー……ファイ!!」

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