第43話 あなたのいい行いは必ずいつか返ってくる

「あなた、本当にバカね。会場を壊して勝つ人なんて、他にはいないわよ」


 クルミは呆れながら、ヨウヘイにそう言った。


「悪かったって! もう、先生達にも謝ったんだから、許してくれよー」


 あの試合後、ヨウヘイはプロフェ先生と一緒に学園長に謝罪しに行ったらしい。


 でも、学園長はとても穏やかな方だったみたいで、許して下さっただけではなく、「マチダ君、これからも元気よくね」と応援メッセージまで下さったみたいだ。


 今はその会場修理の為、待ち時間となっている。


「次は私の番だね!」


 シズカは意気揚々とした表情でそう言った。


 この次の試合は不気味で、「ユウヤ」とも仲がよかったと言われるインとの試合になる。


 一回戦のインの俺に対する視線を思い出すと怖くなる。


 だから、シズカには勿論勝ってほしいが、それ以上に無事に帰ってきてほしい。


 まあ、何か起きそうだったら、全力で止めにいく決心もできている……


「ユウヤ、顔怖いよ。安心して! ユウヤとの約束果たすだけだよ!」


 シズカは俺の顔を覗き込んでそう言った。


 まさか、試合に出ない俺の方が励まされるとは……


 やはり、俺にとっての勇者はシズカしかありえない。


「シズカ、決して無理だけはしないでね。よくわからないんだけど、不気味な何かをフェリス君から感じることがあるから」


「分かった! 気を付ける。でも、そういうユウヤの嫌な予感は当たらないことが多いからねー」


 シズカと話をしていると、心が落ち着いてくる。


「シズカは俺にとっての勇者だよ」


 俺は笑顔でそう言った。


「おいおい! ユウヤ、それは俺に勝てって言ってるもんだぜ?」


 ヨウヘイはしっかりと俺とシズカの会話を聞いていたみたいで、俺の左肩に腕を乗せてきた。


「そうだぞ、ユウヤ。俺よりもマツリの応援ってか?」


 反対側からハジメがヨウヘイの言葉に被せるようにそう言って、ヨウヘイと同じように余っている俺の右肩に腕を乗せた。


 シズカは久々に顔が真っ赤になっていた。


 俺もこのヨウヘイとハジメの言葉を聞いて、かなりクサいことを言ってしまったことに気づき、俺の顔も蒸発してしまいそうな位熱く感じた。


「マチダ君もタナカ君もユウヤとシズカをいじめるのはよしなさい」


 流石は生徒会長であるクルミ。


 この二人のテンションを鎮めようとしてくれた。


 助かった。これでは、シズカも俺も試合どころではなくなってしまう所だった。


「大変長らくお待たせいたしました! 今ほど、会場の修理が完了しましたので、試合を再開したいと思います!」


「お! やっと、修理が終わったみたいだな!」


「誰が壊したと思ってるのよ」


「でも、クルミもあれしか方法がないと思ってただろ」


「まあ、そうね」


 ヨウヘイはクルミが自分自身の作戦に賛同してくれたことが嬉しかったのか、「へへーん」と言って、誇らしげな態度を取っていた。


「シズカ、このバカと戦って、活を入れる為にもフェリス君に勝ってね」


 クルミはヨウヘイを無視して、シズカに激励を送った。


「クルミは俺の応援じゃないのかよ!?」


「どっちも応援してるけど、慢心しちゃダメだからよ」


「確かにな! マツリ、次の試合で俺に活を入れてくれ!」


 ヨウヘイも少し意味不明(?)な激励をシズカに送った。


「マチダ君、クルミ! ありがとう。活を入れれるかどうかは別として、勝ってくるね」


 シズカは笑顔で二人の応援に返事した。


「マツリ、俺とも決勝で会うって約束したから、先に待っててくれ」


「タナカ君こそ負けないでね。とりあえず、先に行ってるね」


 シズカはハジメの言葉にそう返し、ハジメと拳を合わせた。


 ハジメは「姫との約束は破れないな」と笑顔で言っていた。


「でも、その姫にとって一番大事な約束はユウヤとのだろ?」


 ハジメは悪い顔をして、俺に話を振った。


 シズカは動揺していない態度を取っていたが、しっかり顔が赤くなっていたのが分かった。


「ゴホン……。えっと、シズカ。正直、俺にできることは本当に何もないし、いつもシズカのおかげで楽しく生活ができてると思うんだ。だから、少しでも、ほんの1%でもシズカの力になれるように精一杯応援するから、勝ってね」


 俺は咳払いを挟んでから、いつもは言えない小恥ずかしいことを言った。


 まさか転生してから、こんな青春漫画のようなことを自分が言うとは思ってなかったし、照れくさかったが、心は充実していた。


「ユウヤはいつも私が欲しい言葉をくれるね。こっちこそいつもありがとうだよ! ちゃんと、約束通り勝ってくるね」


 シズカはそう言って、俺に小指を出してきた。


「約束でしょ? 指切りげんまんしよ!」


 シズカはまだ恥ずかしさが隠せていなかったが、勇気を出して俺にそう言ってくれた。


「うん」


「「指切りげんまん、約束破ったら針千本のーます。指切った!」」


「これで負けられないね」


「ちゃんと、見てるから負けないでね」


 俺は願うようにシズカにそう言った。


「では、二回戦第二試合はイン・フェリスさん対シズカ・マツリさんです! お二人ともメインステージまで登壇お願いします!」


「じゃあ、私、行ってくるね!」


 シズカは笑顔でそう言って、駆け足で会場に向かっていった。


「「「マツリ! お前が世界を救ってくれるんだ!」」」


「「「お前が勇者候補ナンバーワンだ!」」」


 やはり、昨年の優勝者で、勇者候補の中でも頭一つ抜けていると評価されているシズカは観客からも相当期待されていた。


 そんなシズカの背中を見ている時に、嫌な視線をシズカとは反対の左方向から感じた。


 その視線の方を恐る恐るみると、インが俺の方を見ていた。


 俺は恐怖を感じ、すぐに目をそらした。


「シズカ、頑張って!!」


 俺はシズカの無事を願いながら、インの視線を断ち切るためにそう言った。


 だが、インの視線が弱まることは無かった。

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