第42話 諦めないことで見える世界がある。
「……ガイ、まだ終わりじゃないぜ? 特殊能力発動だ!」
ヨウヘイはニヤリと笑い、ガイの右ストレートに自分自身の右ストレートを打ち込んだ。
この2人のパンチ力は相当なモノなので、風が起きた。
そして、そのパンチをした当の2人だが、どちらも拳が弾け飛び、2人とも後ろによろけた。
「かー! 流石ガイのパンチは痺れるな! でも、これがお前の弱点でもあるんだぜ?」
ヨウヘイはそう言って、右足でなんとか体勢をキープして、ガイの方に向かってパンチを打ち込む。
「や……やばい! とりあえず、ガードしなきゃ」
ガイは体制を崩していたので、何とか踏みとどまりその場で腕をクロスしてガードの体制をとった。
だが……
「え、何で?」
俺はヨウヘイがその後にした行動が理解できなくて、つい言葉を漏らしてしまった。
「マチダ君も気づいてたみたいね」
でも、俺とは違い、クルミは目の前で起きているヨウヘイの奇行を理解しているようだった。
その奇行というのが、なんとヨウヘイはパンチを打ち込むことはせずにガイがブロックの為にクロスしていた手を掴んだのだ。
「……クルミ、何でヨウヘイはパンチを打ち込まなかったの?」
俺はクルミに質問した。
「普通に考えたら、いくらガードされててもパンチを打ち込むべきだと思うわよね。でも、
「……ヨウヘイと同じインファイトタイプだよね」
「そう。だから、
「なるほど。でも、それと手を掴むのとは何が違うの?」
俺はクルミからの説明にまだ納得できていなかった。
「
俺はこのヨウヘイとガイの試合をゆっくり頭の中で再生した。
その時にある事に気づいた。
「……もしかして、拳を握らないと電撃が出せないとか?」
クルミは不敵な笑みをした。
「ご名答よ。ササキ君は拳を作らないと能力が使えない。でも、マチダ君は……」
クルミが全部を言おうとした瞬間、歓声が沸いた。
「「「マチダの奴、押し始めたぞ!」」」
観客が言う通り、ヨウヘイは会場の外に向けて、ガイを押し始めたのだ。
「……能力が使える」
クルミはそう言った。
ヨウヘイの「殴打能力倍増」は拳だけではなく、ビンタでも使用することができる。
つまり、手を開いた状態でも使用することができるのだ。
あわせて、ガイに腕をクロスさせるようにガードをさせることで、力を入れにくくさせていた。
だから、いくらガイの足腰が強くてもヨウヘイを止められる状態ではなかった。
「ヤバい! 力が強くて、手が離れない」
ガイが必死にヨウヘイに掴まれている手を振り払おうとするが、能力なしの力では、能力が使えるヨウヘイを振り解けるはずがなかった。
着実にメインステージの端っこまでガイを押し運んで行った。
「ガイ! ありがとな! あんたのおかげで頭を使うっていうのが少し分かったぜ!」
ヨウヘイはそう言って、最後の一押しをしようとした。
だが……
「まだ終わってない!」
ガイはその場でしゃがみヨウヘイを
「これは……流石にヤバい!」
ほぼ勝ちが決まっていた状態での最後のガイの奇策に会場の誰もが予想していなかった。
この2人以外は……
「……なんてな! 焦りはしてないよ!」
「マチダ君!」
クルミはそうヨウヘイを呼んで、拳をヨウヘイに向けた。
「分かってんよ、クルミ! ギリギリ予想内なんだよ!」
ヨウヘイはガイと組んでいた手を解いた。
ガイはヨウヘイを投げ飛ばした影響で手がバンザイの状態になってしまっていた。
つまり、ノーガード状態というわけだ。
「ガイ、ちょっと痛いと思うけど、許してくれ!」
ヨウヘイはそう言って、右ストレートをガイの顔面にお見舞いした。
恐らく、このヨウヘイの一発で、ガイは気絶した。
しかし、今回の決勝大会のルールでは、ガイの気絶を確認する前にヨウヘイが会場の外に出てしまった場合はヨウヘイの負けになってしまう。
このままでは、ヨウヘイは会場の外に出てしまう……
「ヨウヘイ!」
俺は願うようにヨウヘイの名前を呼んだ。
すると、ヨウヘイは絶望的な状態にも関わらず、笑顔で俺の方を見た。
そして、余っていた左手に能力を使い始めた。
「…………先生方、後でめっちゃ謝るんで許して下さい!」
ヨウヘイはメインステージギリギリの端っこの所に左ストレートを打ち込んだ。
その瞬間、風と砂煙が立ち、状況がどうなっていたのかがわからなくなった。
それから5秒くらいが立ってから、砂煙の間から少し姿が見えた。
その姿というのが、メインステージの端っこで誰かが片手で倒立をしているというものだった。
ってことは、つまり……
「し……勝者はヨウヘイ・マチダさんです!!」
「「「地面にパンチを打つやつなんていねえよ!」」」
「「「面白い試合だったぞ!」」」
観客から大きな拍手がメインステージに送られた。
最後の最後まで色々なことが起きた試合で、最高にエキサイティングな試合だった。
「……マチダ君……まだ君には届かなかったか」
「いや、俺も勝ったとは思ってないよ! 本当に運が俺に味方しただけさ!」
ヨウヘイはガイにそう言って、倒れていたガイが差し出していた手を握った。
その瞬間、再度暖かい拍手が送られた。
「あいつは本当に最後までヒヤヒヤさせるな」
ハジメは息が詰まる展開から解放されたからか、その場で座り込んだ。
「でも、あの人抜け目ないわ。最後のパンチ、私との試合でリナがしたことを彼なりに真似したんだわ」
クルミはハジメとは打って変わって、冷静にヨウヘイの攻撃を分析していた。
「ヨウヘイの奴、私の真似するなんてなかなかいけ好かないね」
リナは俺達からは少し離れた場所から少しワクワクしている顔でヨウヘイに拍手を送っていた。
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