第44話 裏があるから、表がある。影があるから、光があるのだ。
「では、お二人がメインステージに登壇して頂いたところで試合を開始したいと思います! レディー……ファイ!!」
シズカとインの試合の始まりのアナウンスが入った。
だが、どちらも動きがない。
先ほどのヨウヘイとガイの試合とは打って変わって、何もせずに20秒くらい経過した。
ーーー
「よくわからないんだけど、不気味な何かをフェリス君から感じることがあるから」
ーーー
シズカは俺の言葉を聞いて、警戒もしていたのだろうと思う。
観客側にもその緊張感が伝わっている様で、固唾を飲んでこの試合を見ていた。
そして、遂に何もせずに30秒経過。
シズカは相手の出方を確認する為に治癒魔法を両足にかけ始めた。
だが、インは何もせずシズカのその治癒魔法を見ていた。
「フェリス君……行くよ……」
シズカは自分にしか聞こえない声でそう言い、インに向かって走り出した。
だが、ここで誰もが予想していなかった出来事が起きる。
「「「え……」」」
「「「あいつは何をやってるんだ……?」」」
観客がそう言うのも無理はない。
なぜなら、インはその場からバク転をして、場外の地面に足をついたからだ。
「え……え?」
シズカも意味が分からないという顔をしていた。
放送席も動揺を隠せず、アナウンスがすぐにはできなかった。
「あ……えっと、放送が遅れてすみません! 勝者はシズカ・マツリさんです!」
観客は呆気に取られて、ブーイングどころではなかった。
会場は今日一番静まり返った。
ーーー
私は場外にいたフェリス君の方に走って行った。
こんな試合になるなんて予想もしてなかったし……
考えれば、考えるほど頭がパンクしそうだった。
もう私の「なんで」を解消するには、当の本人にそれを聞くしかなかった。
「フェリス君! な……なんで?」
私がフェリス君を呼び止めると、彼は退場口に向かっていた足を止めて、私の方に振り返った。
その時の表情は、何からか開放されたような表情をしていた。
「……マツリさん、勝利おめでとう。後、※※※※※」
「え? それってどういう意味?」
「そのまんまさ。負けないでね、彼の為にも。でも、このことは勇者候補のマツリさんと僕だけの秘密。他言はしないでね」
インは私にそう言って、メインステージを後にした。
なぜかわからないが、彼の背中が遠くに行ってしまったように感じた。
ーーー
「シズカ、おめでとう!」
「う……うん。勝った気はしないけどね」
シズカは首をかしげていて、納得していなかったようだ。
「どうであろうとあなたは勝ったんだから、胸を張りなさい」
クルミはそう言って、シズカの背中を叩いた。
「クルミ、痛いよー。でも、ありがと!」
「シズカには、マチダ君に活を入れてもらう必要があるんだから」
その話を聞いていたヨウヘイが横から入ってきた。
「マツリ! おめでとう! でも、次は俺だから簡単じゃないぜ?」
「マチダ君、ありがと! でも、私が勝つよ!」
「ハハハ! 俺達のクラスの勇者候補と戦えるなんて、最高だぜ。これで俺が勝てば、俺も勇者候補の仲間入りさせてもらうぜ!」
「言ってくれるねー! けど、私には負けられない理由があるから、勝つのは私だよ」
シズカはそう言って、ヨウヘイと握手をした。
俺はこの握手を見た瞬間に、この準々決勝は面白くなることは間違いないと確信した。
「では、二回戦第三試合を開始したいと思います! リナ・ヒメカさん、トロ・コマダさんは登壇して下さい!」
「お、リナの試合だな」
ハジメが放送席のアナウンスを聞き、そう反応した。
その瞬間、クルミはメインステージに進んでいたリナに向かって、叫んだ。
「リナ! 私の為にも勝ちなさいよ!」
リナはそのクルミの言葉を聞くと、クルミの方を見て、拳を見せた。
「では、二回戦第三試合を開始したいと思います! レディー…………ファイ!!」
このリナの対戦相手のトロは特殊能力「魔法弾」を使用した遠距離攻撃は一級品で、ヨウヘイやハジメと同等ともいわれている強さがある。
だから、いくら勇者候補のリナでも、苦戦することが予想されていた。
だが……
「「「ヒメカの奴、強すぎるな!」」」
「「「あのトロ・コマダを一方的に攻め続けてるぜ!」」」
観客がそう言うように、リナはゴングが鳴ってすぐにトロに近づき、近接戦に持ち込んだ。
これでトロは特殊能力「魔法弾」が使えなくなり、ガードするしかできなくなった。
「別のクラスの私に応援だなんて、あんたはとんだお人よしだよ……。まあ、見てな。私が勝って、あんたは強いって証明してやる!」
リナはアッパーでトロのガードを弾き飛ばした。
ここでトロの顔面がノーガードで空いた。
その空いた顔面にリナの特殊能力「身体能力強化」した右ストレートを打ち込んだ。
トロは巨大な鉛がぶつかったように体がはじけ飛び、場外にでた。
「試合終了!!! 勝者はリナ・ヒメカさんです!!」
「やっぱり、あいつも流石だな!」
「そりゃそうよ。リナもシズカと同じ勇者候補なんだから」
「クルミ、少し嬉しそうだな!」
クルミは自分では気づいていなかったみたいだが、ヨウヘイが言うように笑みがこぼれていた。
「そ……そんなことはないわ。シズカ、そうよね?」
「えっと、正直に言うと、クルミ、嬉しそう」
「ふ……ふーん。べ……別にリナが勝ったから嬉しいとかないけどね」
クルミは顔を赤くして、そう言っていた。
俺はこのクルミを見て、ライバルというのはいいなと思わされた。
なぜかその時に俺の頭の中にインが思い浮かんだのは、なぜなのだろう……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます