第5話 涙は私達の心を表している
ヨウヘイとハジメとカレーを食べながら、バカ話をしていると、特訓を終えたシズカが部屋に入ってきた。
「ユウヤお待たせ! って、あれ?
「いやー、ユウヤがカレー……だっけ? 旨そうな料理作ってて、お裾分けしてもらってたんだ!」
ヨウヘイがそう言った瞬間、シズカが涙を流し始めた。
「え? す……すまん。俺、またなんか変なこと言っちゃったか?」
ヨウヘイはさっきと全く同じようにオロオロしていた。
「今日はやけに俺達は人を泣かせちゃう日だな。マツリ、どうしたんだ?」
「ユウヤが料理しているのを見るのが久々だったから、嬉しくて……」
シズカの言う通りで「ユウヤ」の好きなことも料理だったらしい。
味はうーんというところだったらしいが。
だが、10歳になったあの日から、彼はその料理を捨て、自分の命までも捨てようとした。
「シズカ! とりあえず、これ食べてみてよ。少ししょっぱいかもだけど」
「グスッ……。ユウヤの料理がおいしかった試しがないから、ちょっと怖いんだけど……」
そう言いながらも、彼女はスプーンを使って、異世界カレーを食べ始めた。
「……確かにしょっぱいけど、美味しい。今までで一番。どうやって、この料理を作ったの? 見たことないけど」
「……なんか、思いついたから」
俺が実は同姓同名の転生者と伝えても、気味悪がられるだけだと思ったので、転生の話は隠すことにした。
だが、何とか、絞り出した嘘は嘘にすらなっていないようなものだった。
「あー、ユウヤらしいね」
シズカは目を擦りながら、俺にそう答えた。
なんか、上手くごまかせたらしい。
俺とシズカがそんな会話をしているとハジメとヨウヘイが気を利かせて、帰る準備をしていた。
「よし! ハジメ、俺達は行くか!」
「ああ。じゃあ、俺達、先に帰るわ」
リュックを背負いながら、ハジメとヨウヘイはそう言った。
そして、ハジメが俺の横を通る時に「嫁さん、大切にしろよな」と耳打ちした。
その瞬間、俺の顔の温度が3度くらい上がった気がした。
前世では、彼女が出来たことがなかったから、こういうのには慣れてない。
ましてや、俺とシズカは本当に付き合ってない……
「ユウヤ、今日は美味かったぜ! ありがとな。二人ともまた明日!」
ヨウヘイはそう言って、ハジメと一緒に教室の外を出た。
この「また明日」って言葉が「ユウヤ」にとって、どれほど嬉しいものだったんだろう?
「ユウヤ」の心臓が「ドックン」と大きく高鳴った。
「シズカ、俺達も帰ろうか」
「うん」
さっきまで涙を流していたのに、今はひまわりよりも明るい笑顔をシズカは俺に向けてそう言った。
ーーー
「ただいま」
そう言って、家のドアを開けるとお母さんが駆け寄ってきた。
「ユウヤ! おかえり。学校で嫌なことや怖いことはなかった?」
お母さんもシズカと同様に相当心配していたみたいで、誰が見ても分かるくらい表情筋すべてが強張っていた。
言葉で表現するなら、鬼である。
しかも、その状態で俺の肩をつかんでくるんだから、今日一番怖かったのはお母さんの顔というのが正直な感想だ。
「楽しかったよ。友達も2人出来たし」
俺がそう言った瞬間、お母さんの表情筋はどんどん柔らかくなっていった。
そして、俺の肩を握っていたお母さんの手は、俺の背中に移動していった。
その後、背中に温かいものを感じた。
「今日は俺を含めてだけど、皆よく泣く日だな」と心で思った。
それだけ今日は俺だけではなく、シズカ、お母さんにとっても緊張が盛りだくさんの日だった。
そして、全てが上手くいった日だったのだ。
この日から、シズカが彼女の友達といて、俺が1人になっている時は、積極的にヨウヘイやハジメが話しかけてくれるようになった。
まあ、他のクラスメイト達は俺達を見ながら、「なんで忌み子とあの二人が一緒なんだ?」とヒソヒソ陰口をしていたが。
「ユウヤ、気にすんなよ。あいつらはお前の凄さを知らない愚か者なんだから。ハジメもそう思うだろ?」
「おいおい、10歳くらいの子供がどこでそんな表現を学んでくるんだ」と思ったが、俺は彼らの乱暴だけど愛のある言葉が好きだった。
「もちろん。っていうか、俺は陰口みたいなのには言われ慣れてるから大丈夫だけど、逆にハジメとヨウヘイは陰でコソコソ言われてもいいの?」
「なーに言ってんだ。俺達はお前といたいから、一緒にいるんだ。だから、気にすんな。そんなことより、自分の事を一番心配しないとだぞ」
ハジメの言う通り、俺は俺の心配をしないといけなかった。
なぜなら、最近「午後になると学校にいい匂いがするようになった」という噂が生徒の間で広まっているからだ。
まあ、今の所、誰かが食べ物を隠し持ってきているからだろうということになっているが、俺が料理をしていることがバレるのは時間の問題だった。
俺は少しでも長くこの料理訓練を続ける為に皆が確実に特殊訓練に行ってから、家庭科室に行くようにした。
ーーー
復学してから、2か月くらいたったある日、いつも通り皆が外に特殊訓練にいったのを確認してから、家庭科室に向かう。
今日は「イモ」を使って、コロッケを作ろうと思っていた。
昨日の学校からの帰り道で偶然見つけたのだが、前世と全く同じ名前だったから驚いた。
「おっしゃ。じゃあ、作るか」
今、振り返ると、この日の俺はいつもより油断していた。
今までは炒めることはあっても、揚げる料理は作ったことがなかった。
しかも、炒めてる時も音をなるべく立てないようにと丁寧に作業を行っていた。
でも、人間というものは不思議でバレないということに慣れてしまうと、行動が大胆になってしまう。
俺はいつもより音が響いてることに全く気づいていなかった。
「コラ! そこで何してるの!?」
時既に遅し。
「終わった……」それが俺の率直な感想だった。
なぜなら、開いている扉の所に立っていたのは、俺達の学年委員長の「クルミ・モナカ」だったからだ。
厳しくて、先生にすぐチクるで有名な「クルミ・モナカ」だったからだ。
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