第21話 百聞は一見にしかず
久々の学校。
俺達は悪い意味で噂になっていた。
しかし、ここでいう悪い意味のほとんどは俺のことだが。
この噂の内容は「ユウヤ・ヤマダのせいで、優秀な生徒達が不良になってしまった」というものである。
第三者から見れば、学年委員長であり、真面目すぎて陰でチクリ魔と呼ばれていたクルミ、勇者候補のシズカ、優秀で有名だったヨウヘイやハジメが急に長期間も休むことになったという事実は生徒だけではなく、先生達の間でも話に上がってしまうのは当然のことだろう。
「別にユウヤが全部悪いわけじゃないのに……」
シズカはむくれていた。
「まあ、でも、俺の自分勝手で皆を巻き込んじゃったから仕方ないよね」
「そんなこと言うなら、プロフェ先生も責任があるでしょ?」
「そうなのかな?」
「うん。先生の管理能力不足のせいもあると思う」
いつになくシズカはムカムカしていた気がした。
そんな話をしていると前から噂をしていたプロフェ先生が歩いてきた。
「勇者候補と忌み子か。生きて帰ってこれたんだな」
「プロフェ先生。お言葉ですが、私はシズカ・マツリで、彼はユウヤ・ヤマダです。ちゃんと名前で呼んで下さい」
「フン……ヤマダ、全授業が終わったら、俺の部屋まで来い」
「……分かりました」
プロフェ先生はそう言って、別方向に進んでいった。
シズカは口を「イー」として、先生を見ていた。
「でも、ユウヤ、1人で大丈夫? 結局、金のバラは見つからなかったし」
「多分、大丈夫だよ。とりあえず、久々の授業に行こうか」
教室に入った瞬間、シズカに人が群がった。
その後ろでは、クルミ、ハジメ、ヨウヘイがシズカのように質問責めにあっていた。
だが、当然のことながら、俺に話しかけようとする人は誰もいなかった。
逆にシズカ達を俺から離すように邪魔をしてきた。
でも、以前もシズカ達以外の人が俺に話しかけようとしていなかったから、俺はいつも通り、授業の準備をした。
そして、一限目の先生が入ってきた。
「マツリ、マチダ、タナカ、モナカ、そして、ヤマダ。お前達は授業後、職員室な」
授業が始まる時に一限目の先生が俺を見ながらそう言った。
「これ、俺が集中的に怒られるな……。多分……」
残念なことにこの予想は当たり、先生達は事の発端のほとんどを「忌み子」である俺のせいにしようとした。
「今回の件、ヤマダ、お前が発端なんだろ? お前のわがままに他の生徒達を巻き込みやがって」
「先生! それは違いますよ! 俺達が勝手についていこうとしたんですよ!」
ヨウヘイが俺を庇おうとしてくれた。
「ヤマダにそう言わされてるんじゃないのか?」
俺の隣には、シズカとクルミがいたが、どちらも我慢の限界のような表情をしていた。
「だから、お前には特殊能力がな……」
先生がこの言葉を言った瞬間、シズカ達は堪忍袋の緒が切れたのか、戦闘体制に入ってしまった。
だが、その瞬間、横から来た強烈な風圧で俺達を叱っていた先生が吹き飛ばされた。
その風が来た方向を見ると、そこにはプロフェ先生がいた。
「すみませんね。彼らなんですけど、先に私と会う約束をしてましてね。ゴチャゴチャ無意味な話をしてる時間、あなたにあっても、彼等にはないんですよ」
俺達はいきなりの事で呆気にとられていた。
目の前で大の大人が他の大の大人に物理的に攻撃されたのだから。
俺の前世では、口喧嘩はあっても殴り合いとかは社会人になってから見たことが無かったから、衝撃的だった。
シズカ達も目の前の光景が衝撃的すぎて、先程までの怒りは何処かへ飛んでいってしまっているようだった。
「おい。お前等。行くぞ」
「え? どこに?」
ヨウヘイ、ハジメ、クルミは朝のプロフェ先生との会話にいなかったから勿論俺がプロフェ先生と授業後話をすることになっていたのを知ってるはずもない。
「実は朝にプロフェ先生と会って、授業後、先生の部屋に来いって言われてたんだ」
プロフェ先生に気づかれないように、ヨウヘイ、ハジメ、クルミに伝えた。
「なんか、嫌な予感がするわね。結局、金のバラも持ち帰れなかったし」
クルミはプロフェ先生の独特な雰囲気とミッション失敗の件で警戒をしていた。
「入れ。ここが俺の部屋だ」
そう言われて入ったプロフェ先生の部屋にはほとんど物がないシンプルな部屋だった。
「……物ないんですね」
ハジメは正直にそう言った。
「いるものは残す。いらなくなったら捨てる。それは普通なことだろ? 違うか?」
プロフェ先生の言葉の一つ一つに刃物のような鋭さを感じた。
この言葉の感じが前世の上司や先輩の言葉と似ていて、凄い嫌な感じがした。
「そこに座れ」
プロフェ先生が指示したパイプ椅子に俺達は座った。
でも、俺達を座らせたくせにプロフェ先生は何も話さない。
外の風の音がよく聞こえる。
5分くらいたった頃だろうか。
俺はこの静寂に我慢ができず、プロフェ先生に話しかけた。
「プロフェ先生。金のバラを見つけられませんでした。すみませんでした」
さっきまで俺達1人1人を見ていたが、俺が話し始めたことでそのプロフェ先生の視点は俺の目に固定された。
「何でお前は謝るんだ? 何か悪いことをしたのか? ただ金のバラを取れなかっただけだろう」
「え……?」
「お前はまだ自分がした本当の過ちをまだ分かっていないようだな」
この先生は何を言っているんだ? 俺の過ち? それは金のバラを取れなかった以外に何があるのだろう?
そんな時、シズカが俺の方を見て、ウインクした。
「その過ちって、ユウヤが1人でモンテ山に向かったことでしょうか?」
さっきまで俺を見ていた視線が、シズカに固定された。
「そうだ。俺は一言も1人で行ってこいとは言っていない」
確かにあの日、俺が言われたのは金のバラを取ってこいだけで、方法や人数について特に制限はなかった。
でも、俺はプロフェ先生の言葉に納得できていなかった。
俺にミッションを言い渡した時のプロフェ先生の言葉から、1人で行けというニュアンスを俺はちゃんと感じたのだから。
「で……でも、先生はシズカなら3日で辿り着けるとか何とか言って俺を焚きつけようとしたじゃないですか」
「でも、俺は複数で行くなとは言っていない。お前は何か大きな勘違いをしている。特殊能力が無いからかどうかは知らんが、お前は他の人に負い目を感じているのだろう。」
「実際にそうですよ。俺1人じゃモンテ山の頂上には行けなかったし、大蛇にも勝てなかった。結局、大蛇との戦いじゃ俺はまた何もできなかった」
俺がそう言った時、ヨウヘイが俺の方を見た。
「ユウヤ、それは訂正させてもらうぜ! 正直、お前が居なかったら、大蛇には勝てなかったと思う」
「ヨウヘイの言う通り。ユウヤがまともな料理を作ってくれたからこそ頂上にも行けたし、ユウヤのアイデアがあったから、大蛇も追っ払えたんだ」
ハジメも俺の方を見て、そう言った。
「俺の育てたある1人の生徒は『植物の成長を早くする』というハズレ中のハズレの特殊能力を持っていた。農家になるなら大成するかもしれんが、魔族から世界を守れる人材にはなれるとは誰も思ってなかった」
プロフェ先生は俺を見ながら話を続けた。
「だが、そいつは『植物を急成長させれば最強の防御を作れるかもしれない』と考え、必死に努力し、最終的にその生徒の特殊能力は最強の砦と言われるようになった」
プロフェ先生の目が段々優しくなっていっていた。
「お前には特殊能力はない。それは紛れもない事実だが、それを嘆いてどうなる。できないことに目を向けるな。できることに目を向けろ。お前が思ってる当たり前はほかの奴らからすると決して当たり前では無いんだぞ」
俺はプロフェ先生のことを勘違いしていたようだ。
前世の上司や先輩と同じように考えていたが、全く違った。
プロフェ先生は俺達に寄り添ってくれる。
この先生が勇者を多く輩出している理由が分かった。
自然と俺の目から涙が出てきていた。
「私、プロフェ先生のことを勘違いしてましたわ」
クルミも先程の話に感動をしていた。
「モナカ。お前も大変だな。パワーサプライは地味な能力な癖に消費量が多い。でも、お前がいるのといないのとでは雲泥の差だ。その特殊能力、大切にしろ」
「はい……。ありがとうございます……」
クルミも俺と同じように迷惑をかけていると感じていたのかもしれない。
だから、率先してリーダーになってくれていたのかもしれない。
「感動してるところすみません! 結局、俺達、金のバラ見つけられなかったんですけど、ユウヤの修行の件はどうなるんですか?」
ヨウヘイがわざと空気を壊して、聞かなければならない質問を聞いてくれた。
「……金のバラは俺も見たことがない」
「ええーーー!?」
俺達は声を揃えて、叫んでしまった。
「でも、お前達は金のバラより大切なモノに気づけた上に、いいトレーニングになったんじゃないか?」
確かにプロフェ先生の言うように、俺達はこのミッションのおかげでお互いに色々なことを知れた。
最終的には、大蛇の出現とかがあったこともあり、金のバラのことなんて忘れていた。
「ヤマダの訓練は俺がつける。そして、お前達も暇だったら来てもいいぞ。お前達も俺が与えた無茶なミッションを乗り超えた大馬鹿野郎達だからな」
プロフェ先生は 笑いながらそう言った。
笑顔の先生を初めて見たが、可愛かった。
「だが、ヤマダ。俺との訓練は相当きついぞ。悪いが噂以上にスパルタだから、覚悟しとけ」
先程の笑顔の先生は可愛いと言う言葉は撤回する。
この先生の笑顔ほど怖いものはない。
ー 第一章 【始まりのハッピーエンド】完 ー
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