第20話 大切なモノは人それぞれ違って、全て素晴らしい

 目を開けると、この世界に転生した時同じ景色がそこにあった。


 そして、横を見ると、シズカが俺の手を握りながら寝ていた。


「そうか……。俺達はなんとか大蛇を倒せたのか…」


 そう俺は独り言を言った。


 だが、その独り言で横で寝ていたシズカを起こしてしまった。


「ん……。って、ユウヤ! よかった! 本当によかった……。お母さん! ユウヤが目を覚ましましたよ!」


 シズカは起きるや否や俺のお母さんを呼びに言った。


「シズカちゃん、それは本当? 今すぐそっちに行くわね」


 下からドタドタと足音が聞こえる。


 そして、お母さんは勢いよく俺の部屋のドアを開けた。


「本当にあなたって子は心配ばかりかけるんだから……。バカ……」


 お母さんはそう言って、あの転生した日と同じように俺を強く抱きしめた。


「でも、本当に……本当に……よかった」


 お母さんは俺を抱きしめ続けた。


ーーー


「シズカちゃん。確か今日はシズカちゃんのお父さんとお母さんは仕事で留守なんだっけ? もしよかったら、泊まっていく?」


「え? 私がいると迷惑じゃないですか? 久々にユウヤも家に帰ってきましたし……」


「何を言ってるのよ。シズカちゃんはもうマツリ家だけじゃなく、ヤマダ家の一員でもあるのよ。しかも、シズカちゃん達がユウヤを見つけてくれたんでしょ?シズカちゃんは私達の恩人よ。今日は3人でゆっくり休みましょ。ユウヤもそう思うでしょ?」


「うん。シズカがいいなら、居てほしいな」


「……分かりました。お言葉に甘えさせて頂きます」


 シズカは少し照れながら、笑顔で受け答えをした。


「あ……でも、ユウヤ、あなたは後でお説教しますので、夕飯食べ終わったら床に正座してなさい。」


 ほんわかした雰囲気になっていたから、完全に油断していた。


 お母さんには場所も何も言わずに手紙だけ残し、禁止されていたモンテ山に向かったのを完全に忘れていた。


 シズカ達が助けに来てくれた時、シズカは俺が何も言わなかったことを怒っていた。

 

 あれほど行くなと言われていたモンテ山に勝手にいったのだから、俺のお母さんもシズカと同じ、いや、それ以上に怒っているに違いない。


ーーー


「ユウヤ、何で何も言わずに行くなって言っていたモンテ山に行ったの?」


「……それは……皆の役に立ちたくて……」


 プロフェ先生からのミッションとは言えるはずもなく、俺はそう答えた。


「でも、それであなたは結局皆を心配させたのよ。それは分かってるのかしら?」


「はい……。ごめんなさい……」


 そこから沈黙が流れる。お母さんは何も話さない。


 大蛇が現れた時くらい空気が重たく感じた。


「はい! これでお終い。生きて帰ってくるっていう約束は守ったのだから、よしとしましょう」


「え……?」


 急に話始めた上に、もっと怒られるのだと覚悟していたから、案外あっさり終わってしまって俺は拍子抜けした。


「えって何よ? もっと、怒ってほしかった?」


「いや……違うけど、俺、お母さんに心配かけたし、場所も言わなかったし……」


「あなたバカね。正直、心配でいっぱいだったわ。シズカちゃんがあなたを背負ってきた時は意識無かったしね。でもね、男の子は無茶しちゃうのよね。それを忘れてたわ。後、実はね、あなたがしたいと思ったことをしてくれたことはほんの少しだけだけど嬉しかったのよ」


 何て、心の広いお母さんだ。


「私もあなたのことを特殊能力ないからと縛っていたのだと今回気付かされたわ。縛ることが守ることになると勝手に思っていたけれど、違っていたわね」


「……俺、お母さんの子でよかったよ」


「そうでしょう?私もユウヤが私の息子でよかったわよ。でも、1つだけ約束して。私より早く死んじゃダメだからね。これだけは縛りにさせてもらうわ」


 お母さんは笑顔で俺にそう言った。


「それよりユウヤ。あなた、シズカちゃんにありがとうって言ったの?ここまであなたを背負ってきた上に、ずっと看病してたのよ」


「あ……言ってない。シズカは?」


「シズカちゃんは気を遣って上にいるわ。本当に良い子よね。だからって、変なことしちゃダメだからね」


「変なことってなんだよ」


「本当は分かってるくせに。とりあえず、さっさと行きなさい」


「……うん。お母さん。本当にありがと」


「はいはい」


 お母さんは涙目になっていたような気がした。


 俺はシズカがいる2階の部屋に向かった。


 でも、もしかしたら、着替え中とかかもしれないからちゃんとノックした。


 そこはちゃんと前世での25年間の経験から学んでいた。


「シズカ。入っても良い?」


「ユ……ユウヤ? ちょっと待って!」


「分かった。オッケーになったら教えて」


 それから5分後。シズカから「入っていいよ」との声があったので、入った。


 シズカは可愛らしいパジャマ姿になっていた。


「ユウヤ、急にどうしたの?」


「俺、シズカにありがとう言ってなかったなって思って」


「なんだ。そんなことか。びっくりしたー。全然大丈夫だよ。てか、私こそユウヤにありがとうって言わなきゃだよ。ユウヤのお陰で大蛇を倒せたし」


「俺は何もしてないよ」


「そんなことない。ユウヤがいたから倒せたの。あまりこんなこと自分では言いたくないんだけど、勇者候補の私が言ってるんだから。ちゃんとユウヤは凄いんだよ」


 シズカは照れながらそう言った。


「あ……でも、私、ユウヤに謝らないといけないことがあるの」


「うん? どうしたの?」


「ユウヤとクルミが倒れた後なんだけど、結局金のバラ見つからなかったの。1時間くらい探したんだけど、どこにもなくて。しかも、途中でまた雨が降り始めたから、帰ろうってなったの」


 シズカは申し訳なさそうな顔で俺の方を見てた。責任感の強い彼女のことだ。約束を守れなかったことで自分自身を責めてしまっているのだろう。


「なんだ。そんなことか。大丈夫だよ」


 俺はシズカがさっき俺に言った言葉を真似して答えた。


 だって、正直、俺は大蛇のことで頭が一杯で金のバラのことなんて今の今まで忘れていた。


 後、金のバラなんかよりよっぽど大切なモノに気づけた。


 『大切な人に時に頼り、頼られ、一緒に生き切ること』


 これでプロフェ先生からの修行の件は無しになったが、修行なんて自分でやろうと思えば、いつでも、どこででもできる。


 でも、大切な人と一緒に生き切ることは今しかできない。


「ユウヤ、また私の真似してる」


「ハハハハハ。そういえば、シズカ達はどうやって下山したの?」


「それはタナカ君の瞬間移動で」


「あ、そっか。ハジメの瞬間移動はすごいね」


「本当にそう。でも、距離も遠かったから、魔力使い果たしちゃったみたいで」


「なるほどね。クルミとヨウヘイは?」


「クルミは私達が金のバラを探している途中に目を覚ましたの。一応、私の治癒魔法で回復したんだけど、完全では無かったから、マチダ君とタナカ君にクルミの家までついていってもらったよ」


「ちゃんと、皆無事だったんだね。安心した」


「……ユウヤのおかげでね」


 シズカは優しい目で俺を見ていた。


 外の風がよく聞こえる位、部屋の中が静まりかえった。


「…じゃあ、俺、行くね」


 そう言って、部屋から出ようとした瞬間、シズカに袖を掴まれた。


「私が寝るまで、手を握ってて。お願い」


 シズカは優しい笑顔でそう言った。


「分かった。シズカが寝るまで、俺がいるから安心して寝ていいよ」


「よかった。断られたらどうしようかと思ったよ。ユウヤ、疲れてるのにありがとう」


 シズカはそう言ってベットで寝始めた。


 俺はその横で窓から見える星空を見ていた。


 とても濃い5日間だった。だが、目標は達成できなかった。でも、それが何だ。目標より大切なものを俺は知れた。


 それで十分だ。いや、十二分だな。


「……ユウヤ………ありがと……」


 嬉しいことにシズカは俺との夢を見てくれているそうだ。


 その言葉でシズカが俺の額にキスをした日を思い出した。


 俺はシズカが好きだ。でも、まだ俺には彼女の隣に立てるほどの実力も資格もない。


 だから、俺がシズカの額にキスなどできるはずもない。


 ましてや、シズカの唇なんて付き合ってもないのにできるはずがないし、気持ちを伝えていないのにそれをするのはズルイと思った。


「シズカ……おやすみ」


 俺は精一杯の勇気を出して、シズカの手の甲にキスをして、シズカのいる部屋から出た。


「明日から久々の学校か」


 そう言って見た自分の部屋からの星空。


 同じ景色のはずなのに、シズカの部屋から見た星空の方が明るく、優しい気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る