第55話

「こんのぉぉぉ! 届けぇぇぇぇ!」


 リナは必死に叫びながら、腕を伸ばした。


 だが、無情にもその手がメインステージに届くことは無く、リナは場外に着地した。


「「「試合終了!! 勝者はシズカ・マツリさんです!」」」


 試合終了のアナウンスが流れた後、会場はシズカに対して大きな歓声が上がった。


「「「お前を信じててよかった!」」」


「「「まさか最後はこんな幕切れとは思わなかったけど、よく勝ったぞ!!」


 シズカはメインステージから降りて、場外にいたリナに手を出した。


「最後はまさか《あいつ》の作戦で負けるとはね」


「へへ! クルミがあの作戦を見せてくれてなかったら、場外に出てたのは私だったよ」


「でも、今年もあんたに負けたのは事実だからな。私との試合でかなり消耗してる状態でこんな事言うのは酷だとは思うんだけど、優勝してよな」


「うん。頑張る!」


 リナはシズカが差し出していた手を握り返した。


 その時、再度、シズカとリナに向けて暖かい拍手が送られた。


ーーー


「シズカ、おめでとう」


 俺がメインステージから戻ってきたシズカにそう言うと、シズカは俺のことをギュッと抱きしめた。


 そのまま3秒くらいシズカは俺をハグしながら、何も話さなかった。


 その後、シズカは俺を解放するかのようにハグしている手を離し、俺の目を見て笑った。


「よかった。もう不安そうな顔してないね」


 俺は自分自身がそんな顔をしていたとは気づいてなかったので、シズカのその言葉を聞いて少し拍子抜けてしまった。


「え? そんな顔してた?」


「うん。最後の所でリナが攻めてきた時に、ユウヤの顔を見たんだけど、めちゃくちゃ心配そうな顔で見てたよ」


 俺はその話を聞いて、変な違和感を感じていた。


 あの時のリナの突進スピードはハジメに匹敵するほど速かったのに、そんな中で俺を見る余裕があったなんて……


「シズカ、あなたは多分ゾーンに入ってたんだと思うわ」


 クルミがシズカにそう言った。


 シズカもゾーンに入っているとは。


「もしかしたら、そうかも。視力向上を使ってもないのに、リナの動きどころか、皆の表情までよく見えてたから」


「それは凄いわね……。あ……後、《私》の作戦でリナに勝ってくれてありがとう」


 クルミは少しモジモジしながら、シズカにそう言った。


 俺もこの試合のラストシーンをどこかで見たような気がしていたのだが、それはクルミがリナとの試合でした作戦と同じだった。


「いやいや、こちらこそだよ! クルミがリナとの試合で見せてくれなかったら、場外に吹き飛ばされていたのは私だったよ」


 シズカはそう言って、クルミにハグをした。


 クルミは「シズカは大袈裟よ」と口では言っていたが、クルミの顔はとても嬉しそうだった。


「まあ、俺様に勝ったマツリがこんな所で負けるわけ無いからな!」


「うん。決勝も勝つよ!」


「ちょっと待った。そう簡単には、俺が行かせないぜ?」


「へへ! 確かにね。タナカ君、頑張ってね」


「おう。俺もあいつにチャチャっと勝って、決勝でマツリとやるって約束したからな」


 ハジメはシズカにそう言って握手をした。


「とりあえず、シズカは休んでなさい。さっきの試合もギリギリだったでしょ?」


「うん。クルミ、ありがとう。タナカ君、私は木陰から見てるね」


「了解。決勝で会おうな」


 ハジメがそう言った瞬間、アナウンスが流れた。


「メインステージの準備が整いましたので、もう一つの準決勝を行いたいと思います! ハジメ・タナカさん、シン・キミヤさんはメインステージに登壇のほど宜しくお願いいたします!」


「んじゃ、行ってくる」


「ハジメ! 思いっきり行ってこい! やばくなったら、俺達で止めてやるから、心配すんな」


「ヨウヘイ、ありがとう」


「タナカ君ならきっと勝てるわ」


「決勝で待ってるね」


「クルミとマツリもありがとう。ちょっくら、勝って、勇者候補の仲間入りをさせてもらうわ」


「ハジメ、俺達がずっとそばにいるから、思いっきり楽しんできて」


「おう! ユウヤ、ありがとな。ハイタッチ頼むわ」


 俺はハジメに言われた通り、手を上に出し、ハジメとハイタッチをした。


ーーー


「準決勝は君か。これは幸運だね」


「それは俺なら簡単に勝てるってことを言ってるんだよな?」


「うん。君のスピードには確かに驚かされたけど、《あれ》はずっとできることじゃない」


「果たしてそれはどうだろうね。でも、ちょっとは俺に対して興味が出てきたってことじゃないのか?」


 ハジメはメインステージの上で口撃をしていた。


 だが、シンはそれをまるで何も聞いてなかったかのように無視して、ハジメの言葉に受け答えをしていた。


「いや、興味ないよ。決勝もマツリさんだけど、さっきのヒメカさんとの試合でかなり疲弊してるみたいだから、僕が勇者候補No.1かな」


「この野郎……。絶対勝つ!」


「それは無理だよ。だって、君はマツリさんと同じで近距離でしか戦えないんだから」


 俺達、外野から見ても目の前にいる二人、特にハジメの方はかなりバチバチしているのがよくわかった。


「では、準決勝第二試合を開始いたします!! レディ……ファイ!!!」


 もう一つの準決勝の火蓋が切って落とされた。

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登場人物全員にハッピーエンドを届けます〜転生先でまさかの特殊能力が無かったのですが、諦めずに皆を幸せにする救世主を目指します〜 Mostazin @Mostazin

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