第48話 大切なものを大切にする。それが人生を輝かせるコツ。

「では、小休憩の時間を取りたいと思います! 15分後に11歳の部の準々決勝を開始したいと思いますので、よろしくお願いいたします!」


 放送にもあった通り、準々決勝からは出場選手の試合間隔が短くなってしまうことを配慮して、15分の休憩を挟むことがレギュレーションとして決まっている。


 俺はいつものメンバー(シズカ、ヨウヘイ、ハジメ、クルミ)とメインステージの外れにある木陰で休んでいた。


ーーー


「タナカに何かあったら、俺に教えてくれ」


ーーー


 俺は皆と談笑しながらも、このプロフェ先生の言葉がずっと気になっていた。


「ユウヤ! どうしたそんな浮かない顔して?」


 ヨウヘイが俺の意識が別の所に行っていたことに気づき、声をかけてくれた。


 流石、誰よりも空気を読める男。


「う……うん。大丈夫」


 俺は心配してくれているヨウヘイに対して、生返事をする事しかできなかった。


 その後もプロフェ先生の言葉の意味について考えたが、結局分からなかった。


 もうこのモヤモヤを吹っ切るには、本人に聞くしかないと思ったので、勇気を出して、ハジメに質問することにした。


「……そういえばなんだけど、ハジメ、体は大丈夫?」


 どうか無事と答えてくれ……。


「大丈夫だよ。なんか、逆にどんどん調子が上がってる気がするんだよな」


 ハジメは木に腰掛けながら、俺にそう答えた。


 俺はその言葉を聞けて、安心感を覚えたと同時に答えてくれたのにも関わらず、実は無理しているのではと疑ってしまった。


「ハジメ、マジで無理だけはするなよ」


 ヨウヘイはこのテーマになった瞬間、真面目な顔になり、ハジメにそう伝えた。


「分かってる。ってか、俺より先にヨウヘイとマツリが試合だろ? 俺、どっちを応援すればいいのか分かんないな」


 ハジメはそう言って、上手くこのテーマを変えて、ヨウヘイとシズカに話を振った。


 俺は疑ってもしょうがないと思い、ハジメが言ったことを信じると決め、何かあれば引きずってでも止めようと思った。


「本当にタナカ君の言う通り。さっきのルリとタナカ君の試合もどう見るのが正解か分からなかったわ」


 クルミはハジメの言葉に被せてそう言った。


 俺はクルミやシズカのような関係性がルリには無かったから、純粋にハジメを応援する気持ちで見ていたが、次はシズカとヨウヘイの対戦。


 俺にとって、大切で大事な二人。


 こんなこと絶対に叶わないが、どっちにも勝ってほしかった。


 多分、ルリとハジメの試合の時のシズカと同じように頭を抱えそうだなと試合が始まる前から感じていた。


「皆、そんなに難しく考えなくていいぜ!」


 ヨウヘイはそう言って、隣にいた俺の右肩、ハジメの左肩に腕を回した。


「こんなこと今まで戦ってきた奴らに失礼かもしれないけどさ、マツリになら負けても悔いはないと思うぜ?」


 ヨウヘイは空を見上げて、話を続けた。


 対戦相手のシズカもじっとヨウヘイを見ながら、話を聞いている。


「まあ、俺はさっきも乱入騒ぎも起こしてるしな! 皆のおかげでここまで来てるから、俺は100%満足してるとは言えないけど、満足はしてる!」


 ヨウヘイは俺とハジメの肩に回していた腕を元に戻し、俺の右隣に居たシズカに拳を向けた。


「でも、負けるつもりはないぜ! 勝っても負けても恨みっこなしな!」


 ヨウヘイは笑顔でシズカにそう言った。


「へへ! 私もマチダ君と同じでさ、色んな人に支えられてここまで来てる。それこそ、ユウヤが居なかったら、予選で敗退してたしね」


 シズカは左隣にいた俺の方を見ながら、そう言った。


「だから、皆には好きな方を好きなタイミングで応援してほしいな! でも、マチダ君、私は負けないよ。だって、大切な約束があるからね!」


 シズカはそう言って、ヨウヘイの出していた拳に右拳を合わせた。


 俺はその二人を見て、初めて本当に大切な親友というものを手に入れることができたと思った。


 前世ではやはり友達はできても、全てを打ち明けることができる親友を作ることは結局できなかった。


 俺はそれどころか、小学校、中学校、高校、大学、社会人というようにカテゴリーが進んでいくと、普通以下の自分を少しでも強くみせる為に虚勢を張るようになっていた。


 そのことでいつからか俺は自分自身が分からなくなり、他人を通しての自分ばかりを気にしていた。


 もうその時既に俺は俺の人生を生きていなかったのだから、死んでいたと同義なのかもしれない。


 だが、この世界に転生してから、住民の人達の冷たい目線やモンテ山の時みたいな辛い思いや出来事は勿論あったが、シズカやヨウヘイ達のおかげでその辛いことを乗り越えられたし、幸せなことの方が多かったと俺は感じている。


 それは自分自身で固く閉ざした本心という扉を彼らが開いてくれた上に、この「ユウヤ・ヤマダ」を偏見なく、受け止めてくれたから俺は幸福というものを感じることができていた。


「どっちも応援してる。頑張って」


 俺は目の前にいるシズカとヨウヘイに向けて両手を伸ばし、拳を握った。


「おうよ! ユウヤはやっぱりいいこと言うな!」


「ユウヤ、ありがとう。精一杯頑張ってくるね!」


 2人は俺の拳にそれぞれの拳を合わせてくれた。

 

「では、準々決勝を開始したいと思います! シズカ・マツリさんとヨウヘイ・マチダさんはメインステージまでお願いします!」


「じゃあ、マツリ行きますか!」


「うん! 行こう」


 二人は笑顔でメインステージに向かっていった。


 どっちが勝っても気持ちのいい試合になるのは間違いないなと俺はこの二人の背中を見た時に確信した。

 

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