第53話 迷いながらでも進めば、光に近づける

「では、準決勝第一試合、シズカ・マツリさんとリナ・ヒメカさんの試合を開始したいと思います! マツリさん、ヒメカさんはメインステージへお願いします!!」


 アナウンスが流れた。


 ベスト4。


 ここから勇者候補同士の戦いが始まる。


「シズカ、頑張って」


「シズカ、あなたならリナに勝てるわ」


「俺に勝ったんだ! 優勝してもらわなきゃ困る!」


「決勝で会うんだろ? 先に行っててくれよ」


 俺達はシズカにそう激励を送った。


「皆、ありがとう。勝ってくるね」


 シズカは笑顔で俺達に言い、駆け足でメインステージに向かっていった。


ーーー


「「「ヒメカ、お前がNO.1だ!」」」


「「「マツリ、連覇してくれ!!」」」


 試合前にも関わらず、観客から大きな歓声がメインステージに降り注がれていた。


「あんたとは去年の決勝以来だな」


「うん」


「もう、あんたには負けない。その為に今まで頑張ってきたんだから」


「私だって、リナには負けないわ。同じ女の子として、同じ勇者候補として、勝たさせてもらうよ」


 二人は試合前に固い握手を交わした。


「では、試合開始いたします! レディ…………ファイ!!」


「……先手必勝」


 リナは試合開始してすぐにシズカに接近し、接近戦を仕掛けた。


「あんたのその目は厄介になりそうだからね」


 このリナの先制攻撃でシズカは視力向上どころか、治癒魔法を使用した身体能力の向上さえできなかった。


 だから、シズカは直撃をギリギリのところでかわしていたが、手を出せずに防戦一方の展開になった。


 しかし、リナは既に身体能力強化をしていたので、一撃がとてつもなく重い。


 そして、遂にはブロック越しではあるがパンチが当たった。


 シズカはそのパンチ1発で簡単に会場の端っこまで飛ばされてしまった。


「「「ヒメカ、もっといけ!!」」」


「「「このまま場外まで吹き飛ばせ!」」」


 リナは間髪入れずにシズカに接近する。


 そして、その勢いそのまま右ストレートを打ち込みに行った。


 だが……


「クルミ、真似させてもらうね」


 シズカはリナの左足に治癒魔法をかけて、走りのリズムを崩した。


「もう。あなた達はどんだけ私の真似するのよ……」


 クルミはそう言いながらも、少し嬉しそうだった。


 そのクルミの言う通り、シズカは今まさに戦っているリナを苦しめたクルミのリズム崩し作戦をしていたのだ。


 まあ、治癒魔法はパワーサプライとは違い、回復させる能力なので、力を与える効率は悪かったが、それでもリナのリズムを崩すのには十分だった。


「くっそ! ま……またかよ!」


 リナは完全にリズムが崩れてしまい、そのままシズカの方に突進するように進んでいった。


「やばい! このままじゃ、マツリも巻き添え食らっちゃうぜ!」


「シズカなら大丈夫よ」


 クルミは冷静にヨウヘイにそう答えた。


 俺もクルミと同意見。


 シズカならきっとこれも予想内だと信じていた。


「「「おお! マツリの奴、前転で躱しただと?」」」


 観客が言うように、シズカはぶつかる寸前にその場でジャンプ&前転をして躱した。


 やはり、勇者候補の中でも抜きん出ているシズカ。


 リナは「止まれ!」と言いながら、何とかメインステージに残った。


 でも、これでリナの波状攻撃が止まり、シズカの間に距離ができた。


 この隙にシズカは目と足に治癒魔法をかけて、リナに対応する準備が完了した。


「それでも私は近づくしかないからね」


 リナはハジメの瞬間移動とほぼ変わらないスピードでシズカに接近する。


 だが、視力向上している今のシズカにはリナの攻撃の全てが見えているので、躱して、躱しまくった。


「あれ、結構ストレス溜まるんだよな! 俺もよく分かるわ」


 ヨウヘイが頷きながら、そう言った。


 そして、そのまま全部の攻撃をかわし続け、そのスピードになれてきたのか、遂にはカウンターを合わせはじめた。


 だが、流石リナというところで、寸前のところでそのカウンターをかわしていた。


 まさにお互いの攻撃が全く当たらない試合になった。


 このままインファイト勝負かなと思われた瞬間、急にリナがシズカから距離を取った。


 そして、その場で空を見ながら深呼吸を一回した。


 その後、シズカに目を向けたと思ったら、急に右ストレートを出した。


 だが、当然、シズカとの距離は10メートル近くあったから、届くはずがない。


 観客も俺達も「何してるんだ?」と正直思っていた。


 その瞬間、シズカに向かって強烈な風がぶつかった。


 シズカはずっとガードを固めていたから、何とか直撃を避けることができたが、後ろに1メートルほど後退りした。

 

「……こんな秘密兵器があったとはね」


 クルミは少し悔しそうな表情でメインステージを見ていた。

 

「これがあんたに勝つ為に編み出した必殺技。ウィンドカッターだ!」


 リナはシズカを指を差しながら、そう言った。


 確かにこのウィンドカッターはシズカの弱点をよくついている。


 まず、前提としてシズカは遠距離攻撃の技を持っていない。


 だから、インファイトしかできない。


 用はシズカは近づかないとダメなのに対して、リナは近づく必要がなくなったのだ。


 このままだと攻撃を受け続けてしまうことが容易に想像することができた。


 やはり、俺の想像通りリナは試合開始時を彷彿させるように遠距離から波状攻撃を行った。


 シズカは防戦一方。


 俺はシズカがここまで追い込まれたのを見たのはあの大蛇の時以来じゃないかと感じていた。


 でも、あの時のように物理的にサポートすることはできない。


「シズカ、頑張って!」


 祈るように俺はシズカにそう声をかけた。


 

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