第46話 自分を知ることは、自分を愛することと同義だ。

「ルリ、よろしくな」


「う……うん。こちらこそ……よろしく。でも、ハジメ君……あなたには……負けないよ」


「こっちこそ、いくら相手がルリでも全力でいくからな」


 ハジメはそう言うと、いつもの「瞬間移動」を使用。


 俺の目ではハジメは消えてしまったように見えた。


 そんなハジメとは対照的にルリはまるでメインステージを散歩しているように、縦横無尽に歩き始めた。


 その足取りはまるでお酒を飲んで酔っ払っているおっちゃんみたいにふらついていた。


 まあ、を知らない人から見るとそう見えてしまうのは仕方ない。

 

「やるわね、ルリ。あの子のと地頭の良さであのハジメ君の攻撃を寸前でかわしてるわ」


 クルミが言うようにルリの特殊能力は「二秒後の未来が見える」というものである。


 これが身体能力が劣っていても、予選のサバイバルマッチ、そしてレベルの高い決勝一回戦を突破できた理由である。


 加えて、クルミと同じように頭脳明晰な予測とハジメとのも使い、今までシン以外が捉えることができなかったハジメの攻撃をかわしていた。


 まあ、俺の目では、そのハジメを捉えることすらできていなかったが……


「ハジメの攻撃が全然当たってない……んだよね?」


「ルリの動きを見てる限り、当たってなさそうだな! 実は俺もこの試合のハジメのスピードに目が追い付いてない!」


 ヨウヘイは「ハハハ」と笑いながら、俺にそう言った。


 多分、ハジメは一回戦より動きが素早くなっている。


 それを躱し続けているルリは、勇者候補にも入れるのではないかと思わされた。


 試合はこのまま三十秒経過した。


 そして、ここからルリの動きに変化が出始めた。


「ルリ、カウンター狙い始めたね」


 シズカがそう言うように、ルリは先ほどのゆらゆら体を柔らかくするのではなく、ボクシングのファイティングポーズをとり、いつでもカウンターを合わせる態勢を取った。


 ハジメはこのままではカウンターの餌食になると気づいたのか、一旦瞬間移動の使用をやめて、ルリに正対するようにたった。


「この試合、マジで面白いな!」


 ヨウヘイはワクワクしながら、この試合を見ているようだ。


「確かにマチダヨウヘイ君の言う通り興味深い試合ね。ルリの凄さは分かってるつもりだったけど、それでもタナカハジメ君が有利だと思っていたわ」


「見知った者同士の試合ってこうなるんだね……。どっちも勝ってほしいから、やっぱり応援が難しいよ」


 シズカはどっちを応援した方がいいか分からなく、頭を抱えていた。


 まあ、シズカがそうなるのも無理はない。


 俺も丁度この後の準々決勝第一試合はヨウヘイとシズカになるから、俺も応援の仕方を迷ってしまうだろうなと改めて思った。


 その時、ハジメもルリと同様に臨戦態勢を解き、ルリに声をかけた。


「やっぱり、頭のいいルリには、俺の攻撃は全部読まれてるか」


 ルリもそのハジメの声を聞いたタイミングで、一旦ガードをおろした。


「ハジメ君……のことは……私が1番知ってる……からね」


 ルリは顔を赤くしながらハジメに言った。


「ちなみに、ルリの未来では、俺は負けてるのか?」


「まだ……分からない。けど……その未来を見れるように戦うよ」


 ルリはそう言って、再度ファイティングポーズを取った。


「もうルリに勝つには、しか無いよな……」


 ハジメは空を一回見てから、臨戦態勢を再度取った。


ーーー

(ハジメ視点)


「いや、マジでルリには俺の全部の攻撃が読まれてるな」


 俺は目の前のルリを見ながら、そう感じていた。


 でも、予想していなかったわけではない。


 もしかすると、俺にとってはルリはキミヤシン以上に厄介な相手かもしれない。


 しかも、ルリを殴るとかできればしたくないし……。


 …………もう、俺が取るべき行動は一つしかない。


『ルリの二秒後の未来でも見えない位、スピードを上げる』


 実際にルリは俺のスピードについてこれないから、終始カウンター狙いなのは試合前から何となく分かっていた。


 だから、今も俺が攻撃するのを待っている。


「一旦、止まっちまったから、体を温めるしかないな」と思い、俺はゆっくりと横方向にステップを刻み始めた。


 俺はそのステップを刻みながら、「俺の体、ちょっと無茶するから頼むな」と心の中で声をかけた。


 10秒弱位ステップをしていたが、ルリは俺と正対するような態勢を取り続けるだけで、攻撃を仕掛けてはこなかった。


 俺は体が温まったと感じたので、ステップを踏むのをやめて、その場で三回屈伸くっしんをした。


「よし!」


 声を出して、気合を入れる。


 じゃないと、俺は俺を超えることはできないと感じたから。


 そして、その後すぐに俺は瞬間移動を使用した。


 一瞬でルリの間合いに詰め、俺はルリの腰をめがけて、タックルをしようとした。


 だが、ルリは俺のそのタックルをかわし、右ストレートのカウンターを合わせてきた。


 このカウンターは絶妙のタイミングだったので、すぐさま瞬間移動を使って逃げれたが、頬からは血が出ていた。


 どうやらルリの拳が俺の頬をかすっていたようだ。


 このスピードじゃまだ捉えられてる。


 もっと、もっと、もっと速く。


「ルリ! 俺はお前の未来よりも速く動いてやる」


 俺は俺ですら知らないギアにシフトを入れるイメージをして、もう一度ルリに攻撃を仕掛けた。



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