第9話 ワクワクも大切な一つの感情
「ユウヤ! シズカちゃん来たわよ! ごめんね。いつもはもう起きてるんだけどね」
「いえいえ。昨日は帰りが遅くなったし、荷物も多かったみたいなので、ユウヤも疲れてるのかも」
「まあ、シズカちゃんったら、本当に優しいのね。でも、ユウヤの事、甘やかしすぎちゃダメよ。ちょっと、待ってて。ユウヤの部屋に行ってくるわね」
お母さんはシズカにそう言って、階段を上りユウヤの部屋に入る。
部屋に入ると窓から朝の気持ちいい風が吹きこんでいた。
「ユウヤ、もういつまで寝てるの! っていない……。うん? この手紙はなんなのかしら?」
そこにはこう書かれていた。
『お母さん。いつもありがとう。後、何も言わずでごめん。救世主になる為に修行に行ってきます。場所は言いません。でも、ちゃんと強くなって、生きて帰ってくるから心配しないで。』
ーーー
俺はシズカにもお母さんにもこのモンテ山のミッションのことは言わなかった。
だって、言ったら確実に止められるから。
後、俺も少しはシズカやヨウヘイ達の力になりたかったから、今回は自分一人の力で挑戦すると決めた。
事実、俺には特殊能力も何もない。少し料理ができるくらいだ。
用は、誰かを守る力がないどころか、自分自身を守る力すらないのはよく自覚していた。
しかも、シズカ達が特殊能力訓練を受けている間、俺は料理しかしていなかった。
今のままだと運動大会で、俺はお荷物になる。
だから、プロフェ先生にお願いしたんだ。
プロフェ先生から言われたこのミッションだが、少しワクワクしていたのは事実だ。
前世ではこんな感じで何かに挑戦することはなかった。
ただ社会の歯車、いや、その歯車にもなれないと勝手に諦めて、挑戦することもなく、ただ毎日を消費していただけだった。
だから、今回のミッションで死ぬかもしれないが、ただ死んでしまった前世よりはワクワクしていたのは事実。
まあ、死ぬつもりは毛頭ないけど。
お母さんにバレないように太陽が上がる前に窓から出て、モンテ山に向かった。
誰も活動していない町、いつも通っている学校を通り過ぎ、モンテ山の入り口に着いた。
「よし、行くか」
そう言って、自分自身を鼓舞する。
誰もいない暗い街だと、異様に自分の声が響いている感じがした。
ユウヤの心臓も緊張によるものかわからないがドキドキと高鳴っていた。
ちなみに俺は幽霊を信じている派なので、それも関係しているだろう。
でも、ワクワクが勝っていたことも有り、山へと足を進めた。
このモンテ山に限らずだと思うが、太陽がない時の山は本当に暗すぎて、気をつけて歩かないと足を滑らせてしまう。
実はこの山の500メートル地点までは特殊能力訓練でも使われているので、そこまでは割と道が舗装されている。
だから、特殊能力有りの普通の人なら、いくら暗いと言っても、足を滑らせたりとかはないだろう。
でも、俺にはその特殊能力がないのだ。
だから、舗装されているのにも関わらず、落ちている硬い石に何度も躓き、転んでいた。
じゃあ、ライトとかを持ち込んで歩けばいいのではと思うだろう。
でも、そうはいかない。
一応、この世界にもライトなるものはある。
だが、夜の山でライトを使うと熊やイノシシなどの野生生物を起こしてしまう危険性がある。
寝起きの人を起こした後と同じように、寝起きの野生生物ほど怖いものはない。
「マジでシズカとかよくここで訓練してるな」
一応長ズボンを履いていたのだが、こけすぎて、もう穴が開いていた。
でも、歩くことでアドレナリンが出ていて、痛みはあまり感じていなかった。
ーーー
「ココカラ ハ ムダンデノ タチイリ キンズル」
遂に、500メートル地点の看板を発見。
もうズボンはダメージジーンズと呼べるほどギタギタになっていたが、運がいい事に500メートルに到達するまでに、野生生物に出会うことはなかった。
まあ、シズカとかであれば、1時間で500メートル地点でつける所、俺は5時間かかったが……。
もう外は太陽が上がっていて、明るくなっていた。
とりあえず、プロフェ先生から言われた後に多めに作っておいた蒸した胸肉を食べた。
一応、一週間分の胸肉を準備してある。
ーーー
「ユウヤが今日作ってるものなら、私でも出来そう。でも、なんで、こんなに作ってるの?」
昨日、この胸肉を仕込んでいる時にシズカに言われた。
シズカは鋭い。さすが、勇者候補。
「最近、ハマってて……」
残念ながら、俺にはその質問を上手くいなせる語彙力がなかったから、そう言うしかなかった。
「へえ……。ユウヤ、面白いね」
シズカは口ではそう言っていたが、怪訝そうな顔をして俺を見ていた。
ーーー
「立ち入り禁止に立ち入るのはちょっとワクワクするな」
子供の時のいたずらする前のワクワクみたいなのを感じていた。
加えて、真っ暗な山道を500メートルとは言え、歩き切ったことが自信になっていた。
でも、俺はこの後、これがただのいたずらではなく、命を懸けたミッションであることを知ることになる。
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