第19話 価値がない人なんてこの世にはいない
モンテ山に入り、5日目。頂上はすぐそこにあった。
何も問題が起きなければ、今日中に金のバラを見つけることができるだろう。
「山の天気って、本当に変わりやすいわね」
クルミがそう言った。
なぜなら、外は生憎の雨。
昨日はあんなに晴れていたのに、朝目を覚ますと一昨日と同じような雨が降っていた。
「でも、皆がいるから大丈夫でしょ」
俺は俺の本心を話した。
「そうだね。皆で金のバラを見つけて、皆で帰ろ!」
シズカは外の雨を吹き飛ばすような笑顔でそう言った。
俺達はまだ寝ていたハジメとヨウヘイを起こし、出発した。
地面は雨でぬかるんでいて、歩き辛くてしょうがない。
だが、一昨日の経験があったからか何とか転ばずに進むことができた。
どんなに特殊能力が無くても、どんなに成長が遅くても成長をしない人はいない。
他の特殊能力がある人達からするとほとんど変わらない一歩かもしれないが、前に進んだということには変わりない。
だから、一昨日と同じ雨なのに、一昨日より心地よさを感じていた。
「頂上着いたわよ」
「モンテ山の頂上って、平地になってんのか!」
ヨウヘイが言うようにモンテ山の頂上は高原のようになっていて、色々な花が咲いていた。
「じゃあ、金のバラを探そう」
俺達は金のバラを探し始めた。
だが、全く見つからない。金色に輝いてるはずだから、すぐに見つかると思っていたのに。
「クルミ! 俺に視力をサプライしてくれないか?」
探し始めて、30分。ヨウヘイがクルミに視力のサプライをお願いした。
「分かったわ。その代わりちゃんと見つけなさいよ。」
「任せろ! お、周りがよく見えてきた! ありがとな……って……マジかよ」
「ヨウヘイ、どうしたの?」
「ユウヤ、まずいことになったぜ。そっちの方から大蛇が来てる」
ヨウヘイの指を指した方を見てみると、一昨日見たあのデカい体をした生物がそこにいた。
「肉とか投げて時間稼いでも、意味ないだろうな。倒す……しかないか」
「ヨウヘイ、お前戦う気か?」
「ああ。多分だけど、この大蛇はこの頂上を住処にしているみたいだしな」
「残念ながら、マチダ君の言う通り倒すしかないわね」
「……やるしかないか」
ハジメ、ヨウヘイ、クルミはそう言って戦闘体制に入った。
「ユウヤは後ろに下がってて」
「いや、俺だって……」
「ユウヤ! お願い。もうあんな思いしたくないの」
シズカはいつも以上に真剣な顔で俺に言った。
「……分かった。でも、シズカ、死んじゃダメだからね。生きて帰ろうって約束忘れないでね」
「大丈夫。皆で生きて帰ろうね」
シズカはそう言って、ヨウヘイ達と同じように戦闘態勢に入る。
「タナカ君、大蛇の周りで瞬間移動を使って錯乱して。攻撃はしてもいいけど、ダメだと思ったらとにかく避け優先で。大蛇を疲れさせるのが目的だから」
「分かった……」
まず、ハジメが大蛇に近づく。大蛇は近づいてきたハジメを追い払うように尻尾で攻撃してきた。
だが、ハジメの瞬間移動の方が速く、大蛇の攻撃は当たらない。
初日の夜に皆がイノシシから俺を助けてくれた時は、皆が到着した時の光で目が眩んで何も見えなかったから、俺は皆の戦いを初めて見た。
「ハジメ、凄い。大蛇の攻撃を全部かわしてる」
「だろ? あいつと訓練する時、俺のパンチが当たらないから大変なんだよな」
大蛇も攻撃が全く当たらないから、ストレスが溜まっているようだった。どんどん大蛇の攻撃は大ぶりになっていっていた。
「これきた。俺が先制攻撃をお見舞いしてやる」
ハジメはそう言って、大蛇の尻尾による攻撃をかわし、大蛇の腹にパンチを入れる。
だが、大蛇は何も無かったかのようにハジメの方を見て、攻撃をしてきた。
「危ね! おい……嘘だろ。皮が硬すぎて俺の攻撃はノーダメージかよ」
「マチダ君、シズカ。次はあなた達の番。タナカ君が攻撃をかわした瞬間に攻撃を当ててほしいわ。私の脚力をサプライするから、お願いね」
「了解! マツリ、行くぞ!」
「うん。ユウヤ、安心して待っててね」
シズカとヨウヘイは脚力をサプライしてもらったおかげで、相当なスピードで大蛇に近づいていく。
「ヨウヘイ、マツリ! 今だ!」
ハジメが大蛇の攻撃をかわした瞬間に声をかけた。
「マグシマムパンチ!」
「はああああ!」
シズカとヨウヘイが大蛇の腹に目がけてパンチをしようとした時、大蛇は尻尾を上手に使い、上に跳んだ。
「マジ……か! こんな動きできるのかよ」
「こいつ、俺の攻撃はわざと受けたってことか」
「やられた。この先制攻撃失敗で私達の手の内は全部大蛇に把握されたわ。」
クルミはそう呟いた。
「皆、上!」
俺はそう叫んだ。
大蛇が尻尾を回転させながら、シズカ達に攻撃をしようとしていた。
でも、俺が叫んだところで時既に遅し。
皆、動揺しているのもあり、大蛇の攻撃をかわせなかった。
シズカ、ヨウヘイ、ハジメはモロに攻撃を受け、吹き飛んだ。
「クソ…痛えな。さっきのが当たってれば、確実に倒せてたのにな…」
「ごめん……タナカ君のパンチが当たってたから、私達の攻撃も当たると思ったけど……」
「マツリが謝る必要ない。俺も当たるもんだと思ってたけど、大蛇の野郎、俺の攻撃は弱いと睨んで、わざと攻撃を受けたっぽいな」
大蛇はシズカ達の方に近づいていく。
「ちょっとまずいね。私とマチダ君はタナカ君みたいに大蛇の攻撃をかわせない」
「いや、俺もこれ以上瞬間移動は使えないから、もうかわせない。マジでやばい」
空気が段々重くなる。一昨日感じた時以上の絶望を感じる。
「……ユウヤ、そこで待ってなさい。」
「え……」
クルミは大蛇の方に走り出した。
「クルミ! お前は来ちゃダメだ!」
「クラスメイトがピンチの時に助けられない学年委員長なんている意味無いでしょ?」
「クルミ……お前……」
「はぁぁぁぁ!」
クルミは大蛇に向かって、パンチを入れようとした。
だが、大蛇はそのパンチをかわし、尻尾でクルミの脇腹を攻撃した。クルミもシズカ達と同じように吹き飛ばされた。
「グハ……。ちょっと、本当にまずい……かもしれない……わね。」
クルミはパワーサプライも使っていたのも影響して、もう立ち上がれそうにない。
大蛇はそんなクルミを戦闘不能と判断したのか、そのまま放置して、シズカ達の方に歩みを進めた。
ーーー
「そんなことない。昨日のユウヤは本当にかっこよかった」
「ユウヤは自信ないんだろうけど、少なくとも俺は料理なんてできない。後、何と言ってもユウヤがいい奴だから、ユウヤの力になりたいから、俺達はきたんだぜ」
「タナカ君が言ったように、あなたにはあなたの特徴があるのよ。ちょっとは自信を持ちなさい」
ーーー
俺はシズカ、ハジメ、クルミがくれた言葉を思い出していた。
ーーー
「やった!じゃあ、金のバラを見つけて、生きて帰ろうね」
ーーー
シズカとのこの約束。このままじゃこの約束を破ることになる。何もない俺に何かできることはないか……?
ーーー
「大蛇には知性があり、弱点を徹底的に攻めるのが特徴。だから、危険なんだ。」
ーーー
大蛇の話をしていた先生の話を思い出した。
「もしかしたら……」
俺は一昨日と同じようにシズカ達の前に立った。
「ユウヤ! 何で来たの!?」
「……大蛇を倒す為さ」
「え……?」
「でも、皆の力が必要なんだ。ちょっと耳を貸して」
大蛇は俺のことを覚えていたみたいで、前回と同じように俺の脇腹を目がけて攻撃をしてきた。
「やっぱりね……」
俺の予想通りだった。
俺はその攻撃をかわさずに脇腹で受け止めた。
「や……ばい……。けど……」
攻撃された瞬間、シズカとハジメが俺の体を抑えて吹き飛ばされないようにした。
そして、何とか堪えた後、シズカとハジメは大蛇の尻尾を掴んだ。
「大蛇は弱点を攻める習性がある。だから、あの大蛇は確実に俺の脇腹に向かって攻撃してくる。その時に俺が吹き飛ばされないようにシズカとハジメで俺を抑えててほしい。」
「確かに、大蛇がユウヤの脇腹のことを覚えていたら上手くいくかもしれないけど、そんなことしたら、ユウヤは……」
「大丈夫。シズカがいるから、何も心配してないよ。そして、その後、尻尾を掴んで動けないように抑えてて欲しいんだ。」
「わかった。それなら、俺でもできるな。」
「……うん。3人ならできるかもしれないね。」
「ユウヤ! 大丈夫?」
シズカは俺にそう声をかけたが、抑えられた分、前回以上に脇腹に衝撃がいった。
多分、骨の2、3本は折れただろう。勿論、声を出せるはずもなかった。
だが、俺にはまだやることがある。
最後の力を振り絞って、余っていた胸肉を大蛇の上の方に投げた。
すると大蛇はそっちに向かって、ジャンプしようとした。
その跳ぶ力は強く、3人がかりでも空中に持っていかれそうだった。
「お……おさえることなら……今の私にもできる……わ。」
そう言ってクルミも大蛇の尻尾を抑えてくれていた。
そのおかげで、大蛇は上手く跳ぶことができず、胴体が一直線になった。
「その後、俺が胸肉を上に投げる。そうすると多分、胸肉の方に跳ぶと思うから、俺達で抑えよう。そうすれば、大蛇は空中で動けなくなるはず。その時にヨウヘイの……」
「皆、サイコーだぜ! 後は任せな。マグシマムパンチ!」
ヨウヘイは空高く跳んで、渾身のパンチを大蛇の腹にぶつけた。
大蛇がそれを避けれるはずもなく、直撃。
大蛇は吹き飛んでいき、力なく倒れた。
「お……おい。俺達だけで大蛇を倒したぞ!」
「やったね! ユウヤって……ユウヤ!?」
「ご……め……ん。こえ……だ……せな……い。おれ……て……て」
「ユウヤ、ごめん! 今すぐ、治癒魔法かけるね。」
「シ……ズカ……。私もお願い……したい……わ」
「わ……わかった! クルミはちょっと待っててね。」
俺とクルミは満身創痍な状態になっていて、金のバラを探すどころか立ち上がることもできなかった。
「タナカ君とマチダ君で金のバラ探せる?」
「勿論! って、雨止んだな!」
ヨウヘイが言うように、雨はいつの間にか止んでおり、雲一つない青空が広がっていた。
そして、俺達の勝利を祝うかのように虹がかかっていた。
その光景を最後に俺は一昨日と同じように意識を失った。
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