25話 サプライズ

 時計が午後八時を回った。街中のテレビジョンにて、あるゴールデンタイムのトーク番組が放送され始めた。


「皆様、ご機嫌いかがでしょうか? 東堂塔子でございます」


 巻き髪の女性がソファーに座っていて、そのまま進行を始める。


「今夜も始まりました、塔子の部屋。今宵も素晴らしいゲストの方にお越しいただいております」


 女性、東堂塔子の斜め左に、明るめの茶髪をした好青年が座っていた。


「今話題のアンドロイド俳優、クリスハイトさんです!」

「どうも」


 青年、クリスハイトはにっこりと笑みを浮かべる。


「おい見ろよ! クリスハイトだ!」

「嘘っ!? 塔子の部屋出てんじゃん!」


 街頭ビジョンでの放送に、通行人の一部が足を止める。


「クリスハイトさんは世界で二番目となる、アンドロイド俳優として活躍。機械人とは思えない演技力の高さも話題です。しかし世間の皆様が疑問に思うのは、何故アンドロイドで俳優を? というのが多数ですが、クリスハイトさん、いかがでしょうか?」

「その疑問はよく言われますね。一言で答えるとするならば、開発者の夢だから、でしょうか」

「夢、ですか?」

「僕を開発してくれた人は元々、俳優になるのが夢だったそうです。しかし、研究者一家だった両親から猛反対されて、結果的にそれは挫折しました。その夢を叶えるために作られたのが僕でした。それだけではありません。あの人は僕の先輩、世界初のアンドロイド俳優に胸を打たれたからってのもあります。アンドロイドはただのロボットじゃない。今はもう人間と変わらない存在だと、あの人はそう伝えたいがために僕を開発したんだと言っていました」

「素晴らしいエピソードですね!」


 塔子は手を叩いて感心した。


「僕自身もあの人の期待に応えるのと、僕のアンドロイドとしての限界を越えたい。そんな思いで俳優を続けています」


 地下にあるゲームバーでもこの番組が放送され、ビリヤードやダーツをやっていた人達がみんなしてクリスハイトに感心していた。


「ひゃあ~、立派なこったい!」

「アンドロイドも日々進化してるな!」

「クリスハイトの坊主はまさにその代表だな!」


 すると、バーの隅っこにいた人影が徐に立ち上がった。迷彩柄のフードマントを身につけ、フードが深く被られているせいで顔はよく見えなかった。体格からして男性なのはわかる。その男は番組が放送されているデジタルディスプレイの前に立つと、ゆっくりと右手を掲げた。その手には銃が握られていた。客の注目が男に集まりだす。


「クリスハイト。偽りの心を持った機械人形よ。貴様のその偽善めいた心など虚飾。幻に過ぎん。機械が人間を越えることなど笑止千万!今こそそれを思い知るがいい!」


 男は銃を発砲した。映像のクリスハイトの胸辺りがひび割れた。一瞬客達は呆気に取られていたが、すぐに吹き出して笑いだす。


「はっはー! 何だそりゃ!」

「痛いねえ。痛いアンチだ」


 ディスプレイはひび割れたものの、映像は難なく流れていた。クリスハイトが口を開くまでは。


「僕は、アンドロイドとして、そして一人の人として…」


 クリスハイトが楽しそうに話していた、その時だ。突然映像からバンッと何かを撃った音がした。その直後、クリスハイトが目玉をギョロリとひん剥きながら震えだし、そのまま倒れた。すると、スタジオの外から銃弾が続け様に放たれた。塔子らしき女性の悲鳴が上がると、映像が砂嵐に切り替わった。


「な……っ!?」

「おい、これって……!?」


 まさかと思いながら客達は男に視線を向ける。男は銃を天井に掲げながら高らかにこう宣言した。


「見たか! 愚かな人間共よ! これが真の力、真の裁きだ! 人間と機械が共存する時代はもうすぐ終わりを迎る! これはその革命前夜に過ぎない!目撃者共よ、刮目せよ! そして脳に刻め! 我らは解放者! 人が人らしくあるために、我らは機械人に反旗を翻す! そしてそれを導くこの俺の名は……死伝天使アズライールだっ!!」


 ♢


 八月二日、午前九時。天気は快晴。最高気温は三十二度らしい。日差しが強く照りつける中、美香はハチ公像の前に立っていた。


「暑いなあ……」


 蒸し暑い空気の中で美香がそうつぶやく。今日の服装は、デニムの半袖ジャケットにクリーム色のキャミソールと白のスカートの涼しそうなコーディネートだ。今回のこの服も、

 かつてアルマとデートした際にコーディネートしてくれた女性から、穂乃果を通してくれた物だ。しかし相変わらず大人びた服だなあと、美香が恥ずかしながら思っていた時だった。


「ミカ!」


 弾んだ声が美香の耳に届いた。声のした方に体を向けると、そこにはアルマが立っていた。


「アルマ!」


 美香は手を振って誘い込み、それにアルマは引き寄せられるように走りだす。


「よっ! 待たせたな!」

「ううん。私も今来たところ」

「じゃあ早速行こうぜ! ……っと、その前に」


 アルマは美香の右手を優しく握る。


「!」

「これでよし!」

「……ん、ありがと」


 最初の頃は恥ずかしかったこの手繋ぎも、今は支えられている感じがして心地良い。機械人のアルマからは直接的な温もりは感じないが、それでも彼の優しさがじんわりと伝わってくる。美香はその優しさを噛み締めていた。

「楽しみだな! プール! ミカはプール好きか?」

「えっ? あ、うん。でも私カナヅチなんだよね……」

「カナヅチ?」

「泳げないって意味」

「大丈夫大丈夫! この日のために浮き輪買ったし、いざとなったらオレが助けてやるからさ!」

「そう? なんか頼もしいな……ん?」


 ふと、美香は足を止めた。


「どうした?」

「なんか……誰かが後ろから見てたような……」

「!」


 アルマの肩が震えた。


「き、きき気のせいじゃねーかっ?」

「うーん……ま、いっか。ごめん、行こっか」


 アルマはほっと胸を撫で下ろしながらも、ちらりと後ろに視線を向けた。


(バレなきゃいいんだけどなあ~……)

「……こ、こちらナイト……

 アルマと美香はデートを開始。どうぞ?」


「こちらサンシャイン! ただ今お姉ちゃんは買い物中! よってこちらは会場の飾り付けをしてる最中!」


 明里が電話をかけながら居間を覗いている。いつも皆でご飯を食べているこの場所は、今日は輪っか飾りや風船で彩られていた。康二やルカ、そして宗介達キカケンの三人がそれらを飾り付けている。


「それあと二センチ上。あ、一センチ過ぎた」

「どこがいいんだよ!?」

「い、石塚……もう俺酸欠なんだが……?」

「まだよっ! あと三十個は膨らませるのよっ!」

「三十個は多いよ……」

「……飾り付けは順調です! 私もこれから参加させて頂くので何かあったらよろしく!」


「ナイト了解……」

 ハーツは建物の影に隠れながら、

 アルマと美香の様子を見ていた。

「こんなので本当に上手くいくのか……?」


 ♢


 事の発端は一週間前に遡る。美香以外のハウスの住人全員がこの日、穂乃果の元に召集されていた。穂乃果を中心に、住人全員が食卓に集まっている。


「みんなに集まってもらったのは他でもないわ。知っての通り、来週は勝負の日よ。よって今日はその最終調整をしたいと思います」

「勝負の日っ?」


 皆がごくりと唾を飲む中で、唯一何も知らないアルマとハーツは首を傾げた。


「ああ、そうだったわね。明里、二人に説明してあげて。ただし、極力小声でね」


 明里はビシッと敬礼すると、二人の耳元でごにょごにょと内容を話した。


「……えっ!? 一週間後はミカのた…」


 何を言うのか察した康二が慌ててアルマの口を塞いだ。


「皆まで言うな! 美香ちゃんに聞こえるだろ!」


 康二は人差し指を口に当てて黙秘を命じる。


「内緒にしておくといいのか?」

「そうだよ! びっくりさせたいからだよ! びっくりさせた方が絶対喜ぶよ!」

「そうなのか……」

「ハーツはまあ大丈夫だとして、アルマは気ぃつけろよ! これは極力口外禁止事項だかんな!」


 康二に口を塞がれたまま、アルマはこくこくと頷いた。


「では、配役を発表します! 明里はみんなの中継役! 随時状況を報告すること!」

「ラジャー!」

「康二さんとルカ君は準備役! パーティーの資材準備を命じます!」

「任せろ!」

「了ー解」

「ちぃちゃんは何すればいい~?」


 まだかまだかと千枝が待ちわびていた。


「千枝は輪っか作り役よ! 折り紙で会場を飾るデコレーションを作ってちょうだい!」

「わーい! 折り紙だあ~!」

「ハーツ君はサポート役! 手が離せなくなるであろう明里や私を文字通りサポートすること!」

「えっと、わ、わかった……」

「で、アルマ君には重大な役を務めてもらいます!」

「じゅーだい……!?」


 何が来るのかとアルマは息を飲んだ。


「アルマ君は当日、美香ちゃんの注意を引く役を担ってもらうわ!」

「てなわけで、お前と美香ちゃんには当日、またデートに行ってもらう! 例の友人からまたチケットもらったからそこで楽しんでこい!」

「前々から気になってたけどその友達って何者なの?」


 ルカのツッコミを無視し、康二はチケットをアルマに渡した。


「あくあぱーく?」

「あー! 渋谷アクアパーク!? 今テレビで話題のプール施設じゃん!」

「夏と言ったらプール! デートにはうってつけだろ?」


 康二は親指を立ててウインクしながら自信満々に言った。


「お前らがデートを楽しんでる間にこっちでパーティーの準備をする! 注意を引くついでに美香ちゃんとの仲も深められる! どうだっ? 一石二鳥だろっ?」

「よくわかんねーけど、ミカとまたお出かけできるなら何だっていいぜ!」


 また美香とデートができると知り、アルマは嬉しそうだった。


「ただし! さっきも言ったようにこの件は黙秘だからな! なるべく悟られないように!」

「そうだ! 良いこと思いついた!」


 明里はハーツに羨望の眼差しを向けた。


「……何だ?」

「お願いできるかなあ~?」


 良い予感ではないことはハーツでもわかっていた。


「……悪いことじゃなければ別にいいが」

「じゃあ二人の監視役、お願いね!」

「えっ? 監視っ?」

「よし! これで役割は決まったわね! 各々方、一週間後に向けて整えておくように!」


 ♢


「……とは言われたものの、本当に大丈夫なのだろうか……」


 ハーツは監視役を命じられたことに若干納得していない。美香は勘が鋭い時があるため、むしろバレるのではと不安もあった。全ては美香のためだと強く断言する明里に、なんとなくハーツは逆らえなかった。なので渋々監視をすることになったのだ。


 そんなこんなで、アルマと美香、そしてハーツは渋谷アクアパークに到着した。施設には巨大なウォータースライダーがあり、その周囲には様々なプールがあった。


「うわあ……すごいなあ……!」


 水着に着替えた美香は、人の多さとたくさん種類のあるプールに圧巻していた。


「……にしても」


 美香は自身の水着姿を見回す。彼女が今着ている水着は、白いリボンをふんだんにあしらった可愛らしいスクールタイプの水着だった。これも例の穂乃果の知り合いから譲ってもらったやつだ。


「なんか恥ずかしいな……」


 普段着慣れないタイプの水着に、美香は恥じらいながらそうつぶやいた。すると、近くから女性達の小さな歓声が聞こえた。


「ねえあれ……!」

「嘘……めっちゃイケメン……!」


 その声を聞いてまさかと思い、美香は声のする方に視線を向けた。


「ミカ!」


 視線の先で、巨大な浮き輪を抱えた水着姿のアルマが駆け寄って来た。


「悪い悪い! 待たせたか?」

「ううん、大丈夫」


 とは言ったものの、実はそうでもない。何故なら周りからの視線がこちらに集まっているからだ。


(やっぱりこうなるかあ……)


 覚悟はしていたもののやはり慣れない。しかしだからと言ってアルマの姿を目立たないようにするのは、ここでは無理な話だ。


「ミカ……」


 アルマがぽつりと美香の名前をつぶやいた。


「?」


 美香を見つめるアルマの目は、宝石の様にキラキラと輝いており、じっと美香を見ていた。


「どうしたの?」


 何気なく美香がそう言うと、アルマははっと我に返る。


「あ、ああっ、いやその……なんでもないっ!」


 何故かアルマは両頬を赤く染めながら視線を泳がせていた。


「ととととりあえずっ、早くプール行こーぜ! ほ、ほらっ、あそことか面白そうだぞ!」


 アルマは美香を通り過ぎて歩きだす。


「あっ、待って! その先は…」


 美香が止めようとした直後、周りが見えてなかったのかアルマはプールに激しく落ちてしまった。


「あ~……」


 美香は慌ててプールに近寄り、アルマが落ちた場所を伺う。


「ア、アルマ~? 大丈夫~?」


 美香がそう呼びかけると、落ちた地点の水面からアルマが上がってきた。


「大丈夫だった?」

「冷て~! でも気持ちいい!」


 初めてのプールにアルマは顔を輝かせていた。その表情はまるで子供みたいだ。くしゃりと笑う彼の顔に、美香の胸が思わず鳴った。


「ほら! ミカも入ろうぜ!」


 アルマは笑顔で手を差し出す。しかし今彼がいる場所は階段もスロープもないため、ここから入るには急すぎる。

「えっ? あっ、ちょ、ちょっと待って! さすがにここからは深すぎ…」


 有無を言わせずアルマは美香の手を掴んで引っ張り出した。


「きゃあああっ!?」


 勢いよく美香はプールに落ちた。少しの間沈んで、すぐに水面から顔を出した。


「やったなーっ!」


 美香は水をアルマにかけてきた。


「わっ!? こいつ~!」


 お返しと言わんばかりにアルマも水をかけた。

 水のかけあいっこに満足すると、二人は様々なプールをはしごしていった。巨大なスライダーに乗ったり、滝の様なプールに打たれてきたり、プール用の乗り物に乗ったりと、心ゆくまで楽しんだ。その一方で、監視役のハーツも楽しそうな二人に顔を綻ばせていた。明里から写真を頼まれていたため、二人の様子を防水カメラで撮っていたのだが、どの写真も二人共笑っていた。


「楽しそうだな、二人共」


 ハーツはふっと笑った。


「きゃー! あの人めっちゃイケメン!」

「ヤバい! マジイケメンすぎる!」


 ハーツの姿を見た女性勢が歓声を上げる。中には彼氏がいるにも関わらず興奮している人もおり、彼氏は気まずそうだ。


(あ、目立つなって言われたんだっけ)


 ハーツは二人に感づかれないように、そそくさとその場から離れた。


 ♢


「はーっ、楽しかった!」


 美香ははにかみながらベンチに座った。プールを楽しんだ二人はその後、梶ノ浜公園のベンチで一休みした。空は夕焼け色に染まっていた。


「こんなに楽しいの、久々な気がしたなあ。誘ってくれてありがとうね、アルマ」

「ミカが喜んでくれたなら何よりだ!」


 へへっと笑うアルマに、思わず美香の頬も緩む。


「……そういえばさ」

「ん?」

「気のせいかもしれないけど、今日一日誰かに見られているような気がしたんだ。何か変なことなかった?」


 ぎくりとアルマと木影に隠れているハーツが肩を震わせた。

「へへへ変なことかっ!? ああ、なかったぞ!? うん、なかった!」

「……」


 美香は訝しげにアルマを見つめる。


「何か隠してる?」

「い、いやっ!? 隠してねーぞ!? うん、隠してないっ!」


 隠すの下手かとハーツは心の中で突っ込んだ。アルマは美香に気づかれない程度に視線を遠くにいるハーツに送る。


「!」


 明らかに助けを求めていると気づいたハーツは、ため息をついて手を振った。お前がなんとかしろと言いたげだ。


「う~……」


 自分を見つめ続ける美香に、とうとうアルマは根負けしてしまった。


「やっぱミカには敵わねーなあ……」


 あっとハーツは小声で言った。観念したアルマは持っていた荷物から何かを取り出した。それはリボンに包まれた小さなオレンジ色の小箱だった。


「?」

「ミカ……」


 アルマはその小箱をミカの手に渡した。そしてにかっと笑みを浮かべた。


「“誕生日おめでとう”!」

「へ……?」


 一瞬何のことかわからず美香はぽかんとしていたが、すぐに状況を理解した。


「あ……あ! 今日私の! えっ!? アルマ、知っててくれたの!?」

「知ったのは一週間前! まあ、それまで誕生日そのものを知らなかったんだけどな」

「そ、そうなんだ……これ、私に?」

「ああ!」

「開けてもいい?」

「もちろん!」


 美香はリボンを解き、箱を開けた。箱の中に入っていたのは、小さな四つ葉のクローバーが入ったペンダントだった。


「四つ葉のクローバー……?」

「ミカが笑顔になるプレゼントは何がいいか悩んでてさ、そしたら四つ葉のクローバーってやつを初めて知ったんだ。そいつを持ってると幸せになれるって言うからこれだーっ! ってピンと来てな、この間ソースケ達と一緒に探したんだ。探すのめちゃくちゃ大変だったけどな。で、ホノカにペンダントにしたらどうかって言われたから、作ってもらったんだ。本当はもっとすげーのにしたかったんだけど、お金があんまりなくって……」


 申し訳なさそうにアルマは苦笑いを浮かべた。


「ううん……ううん! すごく嬉しいよ! 気持ちだけでも嬉しいのにプレゼントまで……!」

「これ渡すまで絶対口にするなーってみんなから言われてたから、しばらくドキドキしてたよ。バレるんじゃないかって」

「そうだったんだ。嬉しいよ! ありがとう!」


 美香の綻んだ顔に、アルマの胸が鳴った。すると、アルマはペンダントを手に取り、美香の首元にそれを付けてあげた。


「わあ……!」

「……!」


 ふと、ハーツが一時的にいなくなったあの日、美香に優しくしてもらった時と同じ感じがした。美香を独り占めしたい。そんな小さな欲がアルマの胸によぎった。


「ミカ……」


 アルマは美香をぎゅっと抱きしめた。


「ア、アルマっ?」

「……やっぱりそうだ」

「な、何がっ?」

「こうしてると、ミカのあったかいのがここに、心にじんわりと伝わってくる。どんなに辛くなっても、怖くなっても、一瞬にして忘れちまう……陽だまりみたいだな、ミカは……」


 アルマは自分の顔を美香の肩に埋める。機械人である彼からは物理的な温もりは出ないが、それっぽい感覚が美香の全身に広がった。


「アルマ……」


 出会った当初の頃よりは慣れたものの、やはりなんだか恥ずかしく感じる。そう思いながらも、美香はそっとアルマにその身を委ねた。


「……さ! 早く帰ろうぜ! ハウスでホノカが

 ごちそう作っているんだ!」

「うん」

「ハーツも早く来いよ!」

「えっ?」


 アルマに呼びかけられ、ハーツはやれやれと肩を落として木影から姿を現した。


「え……ええっ!? まさかずっと見てたの!?」

「まあな」


 さっきのも見られていたと思うと、美香は恥ずかしくなって赤面した。


「アルマ君はいつ口が滑ってもおかしくないからちゃんと見張っててって、明里から言われててな」

「でもちゃんと秘密にしてただろ?」

「そうだな」

「ほら、ハーツも行こうぜ! 今日ホノカがカレー作ってくれるってさ!」

 ハーツは肩を落とし、二人について行った。

 夕焼け雲は静かに流れ、夕日は優しく三人を照らしていたのだった。

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