20話 裏切りの破壊者〈前編〉

 いくつものサーチライトが、ラルカことハーツに当てられた。ハーツは静かに前を見ている。その視線の先にいたのは、巨大な玉座に座るゼハート本人だった。


「ラルカよ。話はキューピッドから聞いておる」


 重く響いたその声は、明らかに怒りが込められていた。


「潜伏先にいる無心の刃の仲間を、身を挺して守ったそうだな?」


 ハーツはちらりと右を見る。遠くの影からキューピッドが、あっかんべーをして嘲笑っている。


「……命令を忘れたわけではあるまいな? 我が貴様に課した命令は二つ。戦闘データの収集と無心の刃の破壊。前者に関しては文句は言うまい。だが、後者は何故達成されない?」

「……奴は最初のエンゲージから格段に強くなってきている。むやみに戦えば返り討ちになる確率が高い」

「言い訳など貴様には不可能なはずだ!!」


 そう叫んだ直後、ズンッと重力が真下にかけて重くのしかかったような感覚がした。怒りが込められたその叫びに、影から見ていたキューピッド達四人が慄いた。


「わわっ、ゼハート様が激おこぷんぷん丸だお!」

「あそこまでお怒りになるなんて……!」

「さすがは一代にして大帝国にしただけのことはある……!」

「……いや、まだあれは序の口だ」

「ええっ?」

「ゼハートが本気で怒ったら、あんな程度では済まされないぞ……」

「あれで序の口とは……恐るべしだね……」


 今のゼハートは顔が見えないため、怒っているかどうかは伺えない。だが声の感じから確実にわかる。上手くいっていないことに対する、怒りが。


「貴様は忘れているだろうが、我は忘れまい。無心の刃同様に貴様は我を裏切った。そんな貴様をこうして再び活躍の場に出させているのは誰のおかげだと思っておる?」

「……陛下のご威光あってこそ」

「然り。それを努努忘れるな。無心の刃は貴様とは違い、我が国を滅ぼした化け物。奴を始末せねばあの時の二の舞だ。目には目を、歯には歯を、裏切り者には裏切り者を、だ。貴様こそ奴を殺すのに相応しい。故に最後の機会を与えてやろう。無心の刃を破壊、少なくとも無力化せよ。無力化さえすれば破壊も容易いからな。失敗したその時は、わかっておるな……?」


 ハーツは一度目を閉じ、再び開いた。


「……了解した」


 ♢


「いよいよ彼もピンチになったってわけだね。まあ当然か。それだけ無心の刃が、厄介な相手だってことだろうし」


 袈裟服の男、ヨシタダが足を組みながら物思いに耽っていた。


「現にキューピッドとレイジュは、二回やり合って二回共負けているからね」

「余計なこと言わないでちょうだい!!」


 レイジュが徐に立ち上がる。


「本っ当あんたっていつも一言余計だお! 大体キューちゃんがこの間負けたのはあんたが密告したからだろーが!」

「いやいや、勘違いしないでくれたまえ。誰だってあんな巨大な化け物見たら通報の一つくらいしちゃうって」

「どこが勘違いだお!? 結局面白半分じゃねーか!!」

「やっぱそうなっちゃう?」


 素っ頓狂なヨシタダの台詞に、キューピッドの怒りは増すばかりだ。


「てめえ……そのイかれた電脳、今すぐにでもスクラップにしてやるかお……?」

「やめないか、キューピッド」


 ユリウスが静かに制した。


「性格がどうあれ、ヨシタダの電脳はゼハート、陛下より賜りしものだ。そいつだけじゃない。お前の今の姿だって陛下によるものだろ?」

「それはそうだけど……」

「陛下は我々に力を与えてやったんだ。ならばやることは一つ。この力で陛下の道を拓く。そのために俺達は半分人間を辞めたんだろ?」

「……それもそうね。あんたはその左腕と千年間のスリープ、私は代わりものの心臓、ヨシタダは電脳、キューピッドは…」


 言いかけた時、キューピッドはレイジュをきつく睨んだ。


「……発言NGだったわね。ともかくここに普通の人間はいないってことね」

「……だが、俺達には心がある。奴と違ってな」


 ユリウスは拳をぎゅっと握りしめる。


「なのに、何故奴は……」


 三人に聞こえない大きさでそうつぶやく。


「随分と君は彼にご執心だね? 千年前に何か因縁が?」

「……別に大したことじゃない」

「相変わらず本心明かさないねえ。ま、君は陛下の友人だし、あまり詮索はしないでおくよ」

「そうしてもらえると助かる」

「……それじゃ、不本意だけどラルカの動向でも監視しておくとしましょうか」


 レイジュは三人に背を向けて歩きだす。


「どーせもうわかりきっているお。あれ絶対裏切る気満々だお」

「それでも陛下への報告の足しにはなるわよ」


 カツンカツンとヒールの音が、闇の奥にまで響いていたのだった。


 ♢


「機械部分稼働率は九十パーセント以上を維持。損傷も綻びも特になし。いたって健康ね」


 ミネルヴァがタブレット端末を見ながらそう言った。検査用MRIからアルマが出てきた。

 この日、アルマはミネルヴァによる定期メンテナンスを受けているところだった。


「千年ものとは思えないくらい上手く人間部分と馴染んでいるわ。普通ならガタが出てボロボロになるものよ。あんたを改造した人間はきっと余程精密に改造したんでしょうね」

「そうなのかー?」

「多分ね。皇帝の関係者を除けば千年間生きた機械人なんてあんただけでしょうし、ちょーっと興味はあるのよねえ……エルトリアの謎も少しは解明したいし、また一ヵ月後来なさい」

「一ヵ月後だな! 了ー解!」


 すると、検査室に宗介が入ってきた。


「お疲れ様、アルマ君! はいこれ着替え」

「おっ、ありがとう!」


 アルマは検査服を脱ぎ、私服に着替えだした。


「そうだ! これから時間あるかな? 兄さんがアルマ君を呼んでんだけど……」

「キョーイチが?」

「なんか一緒にアニメ見ないかだって」


 宗介が困り笑顔を浮かべた。


「兄さんこの手の話になると結構あれだし、無理して行かなくもいいんだけど」

「いや? 全然いいぞ! オレも最近イサミと特訓の一環でアクション見てるし!」


 そんなわけで、アルマは恭一の自室へ向かった。アルマが来てくれたことに恭一は嬉しさを隠せなかった。


「いやあ、来てくれて嬉しいよアルマ! どうしてもアルマと見たかったんだ!」

「何見るんだ?」

「前にもちょろっと話したよね? アルマのあの姿が英雄王アイアンキングにそっくりだって。そのアイアンキングさ」


 そう言いながら恭一はレコーダーにDVDをセットした。


「どんな話なんだ?」

「ざっくり説明するとね、悪の組織によって改造人間にされた主人公が、組織を裏切って正義の味方として人々を悪いロボットから守るってやつ。まあ、ジャンル的にはヒーローものだけど、これがまたハードテイストなんだよね」

「はーどていすと?」

「重みがあるってこと。主人公は改造された時に組織によって悪い心も植え付けられていてね、度々それに悩まされるってわけ」


 そうこうしているうちにアニメが始まった。タイトルコールの直後、カッコいいオープニング曲を流しながら、爆破する大地をある男が走っている。男はヴィクトルの装甲とよく似たものを纏い、顔にはゴーグルの様なものを付けている。映像が切り替わり、紹介映像が流れた。


〈彼の名は鬼龍院悟! またの名をアイアンキング! 悪の組織、ワルワル団の手によって改造人間にされてしまった彼は、組織の罪を断罪するため、そして人々の平和を守るため、日夜戦いの日々に明け暮れていた!〉

「そうそう! まずはここから始まるんだよね~!」


 恭一がうんうんと頷いている。

 その日アルマが見たエピソードは、ワルワル団に誘拐された子供達をアイアンキングが救出するというものだったが、後半パートの子供を助けるシーンでヒーローものとは思えない展開が待っていた。アイアンキングが子供を助けようとした瞬間、突然苦しみだしたのだ。


「な、何だっ? どうしたんだっ?」

「しっ! 言ったでしょ? 悪い心も植え付けられたって。それが動きだしたんだ!」

〈我々の手によって人間を辞めた機械人間め……化け物と言っても過言ではない貴様が人を助けるだと? 笑止千万! 貴様も我がロボット兵の端くれ! 人の形に似せただけの兵器よ!〉

「……!」

「ああっ、負けるなアイアンキング……! 悪魔の囁きなんかに負けるな……!」


 悪役の台詞を聞いたアルマははっとなった。アイアンキングは改造人間、すなわちサイボーグ。しかも悪と戦っている。まさに今の自分と全く同じだ。そして何より、悪役のこの台詞が突き刺さった。

“人間を辞めた”という台詞だ。

 サイボーグとアンドロイドの違いはなんとなく理解している。アンドロイドは元から作られたもの。サイボーグは人間から作られたもの。これが大きな違いだ。つまり自分もアイアンキングも、元々は人間なのだ。


「人間を、辞めた……」


 恭一がハラハラしながらアイアンキングを応援する中、アルマはその台詞を強く意識していた。思えばいつかのヴィクトルも似たような言葉を話していた。兄のためなら人を辞めても後悔はないと。なら自分はどうなのか。当然記憶がないためわかりようがないが、いざ聞かれると考えてしまう。さらにそこから新た疑問がふつふつと生まれる。サイボーグと人間はどう違うのか。人間を辞めたらどうなるのか。そもそも辞めることは良いことなのか。今まで考えたこともなかった疑問に、アルマは悩まされることになってしまったのだ。


 ♢


 アニメを見終わったアルマは、宗介に送ってもらうことになった。外はすっかり夕方になっていた。二人は川辺沿いを歩いている。


「ごめんね? アルマ君。わざわざ兄さんに付き合ってもらって。兄さんアニメとか特撮とかになると周りが見えなくなっちゃうんだよね。ついていけなくなったら言ってね?」


 アルマは夕焼けを眺めていて返答しなかった。


「アルマ君?」

「……なあ、ソースケ」

「ん?」

「……サイボーグと人間の違いって何だろうな」


 その質問に宗介は心の中であっと言った。これは完全に影響受けちゃってるなあと感じた。


「えっ、え~? き、急にどうしたのかなっ?」


 宗介はおどおどと対応する。


「……考えたこともなかったな。サイボーグになるってことは、人間を辞めるってことになるって。記憶ないから言えたもんじゃねーけど、どうしても気になって……」

「アルマ君……」

「……千年前のオレは、どうして人間を辞めてサイボーグになったんだろ……」


 夕焼けを物思いに耽ながら見つめるアルマに、宗介は戸惑った。あんな顔は初めて見るからだ。


「……アルマ君は後悔してるのかい? サイボーグになりたくなかったって、思ったことあるの?」

「!」

「うちは機械人の病院だから、当然サイボーグの患者だって来る。だから時々聞く時があるんだ。本当は人間のままでいたかったとか、機械の体では不便が多いとか。サイボーグって元は人間だからアンドロイドとは違うし、例外もあるけど心を初めから宿している。故に悩みやすいんだと僕は思う。でも、そうする理由は様々なんだ。病気や事故で体を失ったから。人より長く生きたいから。時には戦うために強くなりたいからってのもある。君が言ってた通り、サイボーグになるってことは人間を辞めるってことにはなるよ? だって機械の体は大概が物理的に成長しないから……」

「成長しない……」

「あとは……極端だしちょっと言うのはあれだけど、機械の体は修正が効く。人間の体は乳歯の生え変わりを除けば、一度失うと完全に戻るのは難しい。だからこそ大事にしようって思える。でも機械の体は修正が効く分、人間とは違う感覚にはなるかもだね……一言で言うなら、人間らしさを失うってことかも……」

「人間らしさ……」


 アルマはTシャツの襟袖をめくり、中を覗いた。自分の胸元には、淡く青く光るアロンダイトスフィアが埋め込まれている。当然普通の人間にこんなものはない。それに以前キューピッドの手によって一度は失ったはずの左腕も、今は完全に復元されている。普通ならもう元通りになんかならないはずだ。そういった感覚であれば、アルマも人間らしさを失っているのかもしれない。


「……でもさ、僕が思うに、千年前の君は知らないけど、サイボーグになって良かったんじゃないかな?」

「え?」

「だって君がサイボーグじゃなかったら、千年間生きることなんてできないし、美香ちゃん達にだって会うこともできなかったでしょ? そういう意味であるなら、悪いことばかりじゃないと僕は思うよ?」

「……!」

「それに、なんとなくだけど、会ったばかりの頃と比べて、アルマ君なんだか人間らしくなってる気がする。もちろん物理的な意味ではないけど、なんか精神的に成長してると思うよ?」


 サイボーグになるのは悪いことばかりではない。宗介はそう言いたいのだろう。あくまでもアルマに対してだけにはなるが。


「アルマ君には心があるんでしょ? 心があるのなら悩むのもわかるよ。だから、もし辛かったら姉さんや僕に言って。話を聞くだけでも力になれるからさ」


 そよ風が吹き、互いの髪を揺らした。心があるから悩んで当然。当たり前だが今はそれが響いていた。


 ♢


「わっ、すごーい!千枝おっきくなってる!」


 明里の弾んだ声にアルマははっとした。振り返ると、柱のそばに立つ千枝を明里が微笑ましく見ていた。柱には油性ペンで書いた何かが記されている。


「この前測った時より三センチ伸びてるよ!」

「ほんとっ?」

「あらっ、ちょっと見せてくれる?」


 穂乃果が柱を確認する。


「本当だわ! 四歳の時の明里に並んだわ! おっきくなったわねえ、千枝」

「うんっ!」

「私は私はっ?」

「どれどれ……あっ、おめでとう! 二センチ伸びてるわよ! 私が明里の時より越してる!」

「本当!? やったあっ!」


 明里は嬉しそうに飛び跳ねた。


「目指せ! 目標百六十五センチ!」

「はいはい。じゃあ毎日牛乳飲まないとね」

「ちぃちゃんも目指せ! ひゃくろくじゅうご!」

「千枝は明里くらいの年齢になったらね」


 成長の話で盛り上がる三姉妹を、アルマは寂しそうに眺めていた。


「どうかしたの?」


 優しい声がアルマの心を弾ませた。そばで美香がきょとん顔を浮かべている。


「えっ? ああっ、なんか、アカリ達楽しそうだなーって」

「ああ、あれ? 身長測って記録してるんだよ。穂乃果さんが小さい時からやってるみたい。成長を感じたいんだって」

「……そっか」


 物寂しげなアルマの表情を美香は見逃さなかった。成長することに何か感じることがあるのか。そう思うと美香ははっと気づいた。機械の体は物理的に成長しない。そのことを気にしているのではと思った。当然だろう。サイボーグとはいえ彼もまた心を持つ一人の人間だ。自分がサイボーグだという認識があるからこそそういう悩みも出てくるだろう。

 ではどうすれば解決できるか。物理的には不可能だが、精神的になら方法はあった。美香はアルマの肩に頭を寄せた。


「ミカ……?」

「……大丈夫だよ。たとえ私がアルマよりおっきくなって、歳をとって先に死んでしまったとしても、私がアルマに対する思いは変わらないから」

「……!」

「サイボーグだからとか機械の体だからとか、そんなの私には関係ないよ。アルマだから信じているんだ。だって君も私を信じてくれてるんでしょ?」

「ミカ……!」


 気づいた気がした。サイボーグとか人間とか、そんなものは関係ない。千年前の自分がどんな理由で人間を辞めたかなんて、無理矢理知る必要なんてない。大事なのは、今の自分がどう思うか。サイボーグにならなかったら、美香に会うこともきっとなかった。美香と出会えたことは心から良かったと思う。


(きっとオレは、ミカと会うためにこの体を選んだんだ……! たとえ違ったとしても、今のオレはそう思う!)


 まだモヤモヤは残りつつも、アルマは気持ちを切り替えることにした。自分は美香と出会うためにサイボーグになった。そう信じて。


 ♢


 アルマ達が居間に集まっていた頃、ハーツは一人でハウスの個室を一人一人確認をしていた。その理由は一つ。アルマを破壊するその前に、彼の力の源がどこにあるのかだ。このシェアハウスにその鍵があると勘づいたハーツは、誰にも知られないように散策を進めていた。


「立川康二とルカと大空美香の部屋には主な要因は見当たらず。アルマの部屋は最後に確認。となれば次に見るべき場所は……」


 そう言うハーツの目の前に佇むのは、明里の自室だった。ハーツは静かに扉を開けた。明里の自室はハウスの個室とは違い、扉が襖なのだ。部屋は当然電気を消しているため暗い。ハーツは内臓されている暗視機能で部屋の中を把握する。静かに部屋に入り、周りを見渡す。


「……ここもない、か」


 切り上げて帰ろうとした時だった。足に何かが当たった。


「?」


 見ると、それは“ピノキオ”と題した絵本だった。


「ピノキオ……?」


 ハーツはその絵本を手に取った。絵本は色褪せていて何度も使われているのがわかる。


「あれっ? ハーツ君?」

「!」


 突然聞こえた声に思わずハーツは身構えた。振り返った先には、目を白黒させる明里がいた。


「どしたのっ?」

「あ、いや……なんでもない……」

「……あっ! 懐かしい!」


 明里はハーツが持っている絵本を見て感嘆し、電気をつけてハーツに近寄ってきた。


「ピノキオに興味あるの?」

「いや……」

「この絵本、実はお母さんが子供の頃からうちにあるんだ。おばあちゃんからお母さん、お母さんからお姉ちゃん、お姉ちゃんから私、で、今は千枝にって語り継がれているんだ。すっごく良いお話なの! あっ、良かったら読んであげよっか?」

「え……?」


 明里は絵本をハーツから取って畳の上に座る。とりあえず読む気満々なので、ハーツは仕方なく座ることにした。明里は語りかけるように読み聞かせを始めた。ハーツ自身、ピノキオの話そのものはデータとしてインプットはされてはいた。しかし内容はと聞かれると難しいものだった。なので事実上、話の内容を聞くのは初めてだ。


「……こうして、ピノキオは人間の子になり、ゼペットさんと幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし」


 明里はゆっくりと絵本を閉じた。


「どうだった? 面白かった?」

「……一つだけ、疑問がある」

「何?」

「何故ピノキオは人間になれた?」

「えっ? 良い子になったからだよ?」

「途中で嘘をついたり、悪いことしたりしたんだぞ?そんな奴が良い子だとは思えない」

「でも、最後にはおじいさんを助けたよ?」

「それだけで良い子にはなれない。オレのデータベース上の良い子とは、嘘偽りなく、間違いを犯さない子を良い子だと定義されている」

「間違いは誰にだってあるよ? 間違えない人間なんて、いる?」


 屈託なく笑う明里にハーツははっとなった。


「それは……」

「間違うことは誰にでもあるよ。人間でも、機械人でも。間違えてそこからまた頑張ればいいんだよ。ね?」


 ここでふと、ハーツはキューピッドの言葉を思い出した。


 ──あんたはうちらと違ってロボット。しかもゼハート様を裏切ってるお。そんなあんたが希望を抱くことなんてできるわけねーからな?


「希望……」


 ハーツはその言葉に突っ掛かりを感じた。

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