20話 裏切りの破壊者〈後編〉

 夕焼けの空に、男の悲鳴が響いた。その声を辿ってアルマとヴィクトルが駆けつける。見えてきたのは、片足を損失した機械人の男性と、彼を見下ろすラルカの姿だった。二人の姿を確認したラルカはすぐさま逃げだした。


「民間人の保護は任せるぞっ!」

「おうっ!」


 ヴィクトルはアルマを追い越し、ラルカを追った。双方は森林エリアに突入した。ラルカのスピードは速く、こちらが集中しないと追いつけないくらいだ。ヴィクトルは拘束具をセットした銃を連続発射するが、どれも素早く避けられてしまう。


「背後からだぞ!? 予測でもしているのか!?」


 やがて二人は森林エリアを抜け、公園の広場に出た。ラルカは高く跳躍し、電柱の上に立つ。ヴィクトルは急ブレーキをかけて止まり、ラルカに向けて銃を突きつける。

 双方睨み合いが始まる。


「今日こそ質問に答えてもらう!! 貴様の本当の目的は何だ!? 貴様は本当は何がしたい!?」

「……!」


 一瞬だけ言葉を詰まらせたが、ラルカは答えた。


「……命令により、黙秘する」


 ラルカが再び跳躍しようとしたところを狙い、ヴィクトルは銃を発射する。カンッと掠った音が微かに聞こえたが外傷はなく、そのままラルカは走り去ってしまった。


「逃げられたか……だがこれでいい。

 これで今度こそ

 確証を得られればいいが……」


 ♢


「プロキックボクサーの機械人のパラメータ、提出。提出データのインプット、完了。時は満ちた」


 夜のアルマの自室にてハーツがそうつぶやいた。アルマ本人は今風呂にいるためいない。ハーツの視線の先にあるのは、テーブルの上に乗っているチョーカーだった。


「これがなければ奴は換装できない。ただのサイボーグ同然」


 ハーツはチョーカーに手を伸ばす。


 ──お前には心がある!


 アルマの言葉が脳裏に浮かび、直前で手がぴたりと止まる。


「……違う」


 ──ハーツ君は優しいよ!


 明里の言葉も浮かぶ。


「……違う」


 ──絶対わかる時が来るよ! 心がワクワクしたり、きゅんとなったり!


「……オレに、心はない」


 ハーツは振り切り、チョーカーを手に取った。


 ♢


 翌日の朝、シェアハウスはアルマの悲鳴で全員が目を覚ました。


「何何っ!?」

「どうしたのっ!?」


 アルマの悲鳴を聞いた美香達が部屋の扉を開けた。すると、突然アルマがいつも使っているスクールバッグが飛んで、康二に命中した。


「がはあっ!?」


 康二が真後ろに倒れ、思わず穂乃果がきゃーと悲鳴を上げた。スクールバッグだけでなく、ハンカチやら雑誌やらがこちらに向かって飛んできている。飛んできて危険そうなものはルカがキャッチしてくれている。


「ないっ!! ないっ!! ないーっ!!」


 アルマが床に座りながら物を投げている。


「どうしたのアルマ!?」


 美香の声にアルマが真っ青な顔で振り向いた。


「チョーカーがないーっ!!」


 その後、住民総出で思い当たる場所を全てくまなく探したが、結局チョーカーは見つからなかった。紛失したと見做し、一度電話でミネルヴァに相談したのだが、無くしたことに対してめちゃくちゃ怒られてしまい、草の根分けてでも探し出せと言われてしまった。電話越しにミネルヴァのヒステリックな怒号が聞こえたため、チョーカーが相当労力を持って作った物だと改めて感じさせられた。アルマはかなりへこんでおり、美香達は心配そうにしていた。


「困ったわねえ……家の中にないなら、もう外に出て探すしかないだろうけど……」

「でも昨日の夜はあったんでしょ?」

「あった! 確かにテーブルに置いてた!」

「……勘違いって可能性は低そうだね。昨日はお風呂の後に外出もしてないし、やっぱりこの中しかないと思うよ?」

「けどよ、あんだけ探して見つからないんだぜ? 無意識のうちにどっか外に捨てたんじゃね?」

「捨てるわけねーだろっ!!」


 アルマが鬼気迫る表情で康二に急接近する。


「あれはミカを守るために必要なんだっ!! 捨てるなんて絶対ねーからなっ!!」

「あーはいはいっ、悪かった悪かったって!」

「ルカくんなんかひみつ道具あるー?」

「そうだよ! ルカ君アンドロイドでしょっ? なんかこういう時の秘密機能とかないっ?」


 明里と千枝が食い気味に興奮している。


「オレはネコ型ロボットじゃないし、カメラ機能はあるけど無くし物は探せないよ」


 真顔で答えられたため、二人はガッカリした。


「……てかさ、明らかに怪しい人いるでしょ?」

「えっ!?」

「怪しい人?」

「……この場にいない人」


 アルマ達は周囲を見回した。そして、全員まさかと思いはっと気づいてしまった。


 ♢


「ちょっとはやるじゃないの」


 レイジュが怪しい笑みを浮かべながら、ハーツから何かを受け取った。アルマのチョーカーだった。


「これであいつは変身できない! 破壊も容易いってわけね!」

「……」

「とりあえずこれはあんたが持ってなさい。始末し終えたら本国で解析しなきゃだし、何よりいい脅迫剤になるだろうしね」


 レイジュはハーツにチョーカーを渡した。


「……了解した」

「これで一応無力化は達成。あんたもこれで失態はチャラってわけ。だから……」


 すると、二人の近くにあった川からゆっくりと何かが上がって出てきた。


「私が代わりに無心の刃を破壊するから!!」


 ♢


 まさかとは思いつつ、アルマは美香と明里と共にハーツを探すことにした。


「おーい! ハーツ!」

「ハーツくーん!」


 呼びかけながら探すも反応はない。


「どこ行きやがったんだ?」


 明里が携帯を確認している。


「駄目……携帯も繋がんない……でもやっぱり信じられないよ……ハーツ君が悪いことするなんて……」


 明里は悲しそうな顔を浮かべてうつむいている。


「ったく、あいつは人の物盗むのは悪いことだって知らないのか?」

「あっ、それあるかも! ハーツ君ってしっかりしてるけど結構抜けてたりするから!」

「いや……さすがに知ってるんじゃないかな……?」

「ま、どっちにしても見つかったらちゃんと叱ってやらねーとな! あれないとすっげー困るんだから!」

「だね! ちゃんと叱ってあげよう!」


 いつの間にかハーツを通して息が合ってきているアルマと明里を見て、美香はなんとなくだが置いてけぼりにされたような感じがした。


「けど厄介だなあ~。あの姿じゃねーとミカやアカリに何かあった時大変だし……」

「わ、私は大丈夫だよっ! 私、中学ではバトミントン部なの! 体力には自信あるし、足もそこそこ速いから、いざとなったら美香ちゃん連れてすぐ逃げれるし!」

「あはは……ありがとう、明里ちゃん」

「いや! そこはオレに格好つけさせてくれよ! 女を守るのって男にとっては一番の見せ場なんだ!ミカも大事だけど、アカリも大事なんだからさ!」


 それを聞いた明里の胸が弾んだ。


「アルマ君……!」

「だったらその一番の見せ場ってやつ、めっちゃくちゃにしてあげるわよっ!!」


 どこからかデカい声が聞こえたかと思いきや、突然上空からドンと重い音と共に何かが落ちてきた。その衝撃で三人は吹っ飛んだ。


「きゃあああっ!?」

「!」


 すかさずアルマは腕を伸ばして美香と明里を抱え、受け身の要領で着地した。


「ア、アルマ……ありがとう……」

「助かったよお~!」


 土煙が上がってくると見えてきたのは、神話に出てくるケルベロスによく似た機械兵だった。その頭上にはレイジュが立っていた。


「またお前か!!」

「今日こそあんたを叩きのめしてあげるわ!! 無心の刃!!」

「!」


 かつてラルカが口にしていたそのワードに、美香は反応した。それはアルマも同様だった。

「お前もオレをその名で……! 何なんだよ!? その無心の刃ってのは!?」

「あんたが知る必要なんてないわ!! 何故ならあんたは今日こそ死ぬんだから!!」


 レイジュがパチンと指を鳴らすと、ケルベロス型の機械兵が雄叫びを上げながら爪を振りかぶった。


「危ないっ!」


 アルマの呼びかけに応じて美香と明里はなんとか避けた。爪の威力は凄まじく、歩行者用道路を抉った。


「ちょっと! どういう理由か知らないけど、こっちは一般人とサイボーグなのにそっちは巨大メカとか、おばさん卑怯だと思わないの!?」


 明里がプンプンと抗議している。


「だっ、誰がおばさんよっ!! これでもまだぴちぴちの二十代よっ!! ふんっ、卑怯なんてどんとこいよ! 勝てば良いのよ勝てば!」

「卑怯者ーっ!」

「あ、明里ちゃんっ! とにかく逃げよう! 今はアルマ戦えないから!」

「そっか! チョーカーがないとあのカッコいい姿になれないんだっけ!?」

「ああ、悔しいけどそうするしかねー!」


 三人はレイジュに背を向けて逃げだした。


「逃すとでも思ったかしら!?」


 レイジュが扇を掲げると、ケルベロスが走りだした。スピードは明らかに速く、すぐに追いついてきた。


「きゃっ!?」


 すると、あまりにも慌てて走ったせいか、美香の足がもつれて躓いてしまった。ケルベロスと美香の距離は目と鼻の先だ。


「ミカッ!!」


 アルマはすぐに戻って美香を庇う。直後、ケルベロスの激しいタックルが二人を吹っ飛ばした。二人は激しく飛ばされ、明里から推定二メートルも飛ばされた。


「美香ちゃん!! アルマ君!!」


 ダメージが相当大きかったのか、アルマの体から電流が漏れている。


「アルマ……!!」

「……大丈夫だっ、これくらい、大したことはっ……!!」

「ざまあないわね、無心の刃!! 今のあんたはただのサイボーグ!! 破壊なんて容易いのよ!!」


 レイジュが狂気に満ちた笑みを浮かべる。

 一方で、襲撃現場近くの高架下では、ハーツが静かにそれを見ていた。その右手にチョーカーを持ちながら。


「……やはり相手は一機械人。換装できなければただの改造人間か……む?」


 ふと、ハーツの視界に映ったのは、傷ついた二人を腕を広げて庇う明里の姿だった。明里は怯えながらも二人を庇っている。


「明里……?」

「あら? それで庇ってるつもりかしら?」

「わ、私はどうなってもいいっ! でもこれ以上二人を傷つけないで!」

「明里ちゃん!! ダメッ、危ない!!」

「た、戦えない人を傷つけるなんてっ、やっぱりおばさん卑怯者だよっ!」

「ま、またおばさんって言ったわね……!!」


 わなわなと震えるレイジュを察したのか、ケルベロスが再び突進しようとする。


「だったらお望み通り死なせてあげるわっ!!」


 突進してきたケルベロスに、明里は覚悟を決めて目をぎゅっと閉じた。しかし、誰かが一瞬のうちに自身を抱きしめると、ドンッと衝撃が来た。飛ばされはしたが痛みは感じない。


「……?」


 違和感を感じて明里が目を開けると、目の前には苦しそうに呻きながら倒れ込んでいるアルマの姿があった。


「ア、アルマ君!?」

「よ……良かった……間に合っ、て……!」


 まさか自分を庇ったのかと明里は気づいた。アルマは損傷部分はないものの、全身ぼろぼろで電流が漏れ出ている。


「あっはははは!! 馬鹿じゃないの!? 二度も自分からやられるなんて!!」

「ダ、ダメだよアルマ君っ! 今の状態で攻撃受けたら壊れちゃうよ……!」

「……それでもっ、ミカやアカリが傷つくのはぜってーに嫌だからっ……!!」


 アルマはふらつきながらも立ち上がる。


「言っただろ……アカリも大事だって……オレがっ、大事だって思う人が傷ついたら、ここが、心が叫ぶんだっ……死ぬなんてことになったりして、何もできずに見るだけとかっ、オレが死ぬより百倍嫌だ……っ!!」

「でも、だからって……!!」


 心配になった美香が明里に近寄った。


「オレは、自分で決めたんだ……オレはオレ自身の心を信じるって……嘘だけはつきたくないって……!!」

「!」


 ハーツははっとなり、胸に手を当てた。


「心を……信、じる……」

「ミカ……約束したよな……? 楽しい時は楽しい、悲しい時は悲しいってちゃんと素直に言えって……だから、オレも自分の心に正直でいたい……心が強く叫んでいるのなら、助けたいって叫んでいるのならっ、オレはそれを信じたいっ!! たとえ変身できなかったとしても、この思いだけはやり遂げたいからっ!!」

「アルマ……!」


 アルマの強い覚悟を、レイジュは鼻で笑う。


「そんな綺麗事、壊れてしまえば無意味よ! てゆーか、あんたの場合は考え方そのものが命令で動いているようなもんじゃないの?」

「違うっ!! これは命令でも何でもねえ……オレ自身の心で決めたことだ!!」

「心で、決める……!」


 ハーツは胸をぎゅっと押さえた。


「どうだっていいわ!! どっちにせよこれで終わりよ!!」


 再びケルベロスが爪を振りかぶる。アルマは美香と明里を抱いて庇う。

 と、その時だった。

 双方の間に人影が割り込み、ポリゴン状の壁が爪を受け止めた。


「なっ!?」


 三人を守ったその人物に一同は驚愕した。


「ハーツ……!?」


 ハーツはケルベロスの爪を弾くと、首から下げていた物を引きちぎった。それはリングネックレスだった。エメラルドの様な宝石が埋め込まれていた金縁のその指輪を、ハーツは右手薬指にはめる。すると、ハーツの体が緑色の光に包まれ、ポリゴン状に拡散すると、ハーツの姿がラルカの姿になった。


「ーっ!?」


 アルマと美香は言葉を失った。


「ラル、カ……!?」


 ハーツはゆっくりと三人に顔を向ける。


「……オレは、希望を抱くことはできない……でも……託すことはできる。だから……」


 ハーツの右手にはチョーカーがあった。彼はそれを握りしめる。


「……戦え! アルマ!」


 ハーツがチョーカーをアルマに向けて投げた。


「……!!」


 ハーツがラルカだったことに驚愕するが、今はそれどころじゃない。アルマはハーツからチョーカーを受け取り、首に装着したと同時に起動させる。ぼろぼろだった体は再生され、万全の状態で変身は成功した。


「ラルカ……あんたっ!!」


 ハーツはしっかりとレイジュを見つめている。


「……ふんっ!! いずれにせよあんたは始末されるギリギリの状態だったし、もうこの際陛下の意志も関係ないわ!!」


 レイジュが扇を高らかに掲げると、ケルベロスが口から火の玉を吹く。飛びかかる火の玉をハーツがバリアで守る。


「二人は任せてくれ!」

「……ああ、頼んだ!」


 アルマはケルベロスに向かって走りだす。三つの頭がアルマを喰らおうと首を伸ばすが、真上に跳躍してそれを避けた。空中でアルマは左手を換装させる。


「まずいっ!」


 レイジュは慌ててその場を去る。


「倍にして返してやるぜっ!!」


 アルマの拳はケルベロスの胴体を貫き、風穴を開けた。ケルベロスは倒れて爆発した。爆破が収まると、三人はハーツを見据えていた。


「ハーツ……」


 もう隠す必要はないと思ったのか、ハーツはバイザーを外した。髪色こそ違えど、間違いなくハーツだった。


「お前が、ラルカだったのかよ……!?」


 それを認識した美香は納得した。初めてラルカと会ったあの日、彼は美香の名前を口にしていたのだ。


「そっか……だから私の名前を……」

「えっ、何? 二人共、どうしたのっ?」


 事情を知らない明里は二人の顔を交互に見ながら慌てている。


「……っ」


 アルマは拳をぎゅっと握りしめながら、苦しそうに顔を歪めていた。信頼していた相手が倒すべき敵だった。その事を受け入れがたかったのだ。アルマは苦し紛れにハーツの胸ぐらを右手で掴み、左手で殴ろうとしていた。


「アルマ君っ!?」

「アルマッ!」


 左手は震えたまま止まっていた。


「……殴る覚悟はできている。オレはお前を追い詰めたからな」

「……っ!!」


 苦しく呻きながらアルマはハーツを見つめる。ハーツは真顔でこちらを見据えている。


「……っ」


 やがて、アルマの力が弱くなり、ハーツは解放された。アルマは数歩後退りする。


「……? 殴らないのか?」

「わからねえ……わからねえんだよっ……でも今殴るのは違うって、そんな、気がして……っ」


 詰まる言葉をなんとかして紡ごうとする。


「でも、でもお前は…」


 すると、背後から来たそれがその言葉を遮った。突如ハーツの四肢が拘束された。


「あっ……!?」


 ハーツは膝から落ちた。


「やはり貴様だったんだな」


 ハーツに向けられる白銀の刃。彼の隣には、鋭い眼差しのヴィクトルがいた。


「ヴィク……!?」

「お前、何故……?」

「……貴様のことは先日より、超ミクロ型GPSを通じて監視していた」


 そう言いながらヴィクトルはモニターを見せた。マップ上に赤い光が点滅している。


「GPS……まさか……!?」


 ハーツは足元を確認した。ハーツのつま先部分に赤い光が鈍く光っている。


「あの時に……!?」


 先日の夕方、逃げる直前に自分はヴィクトルの手によって何かを撃ち込まれたかのような感覚がした。おそらくそれだとハーツは思い出した。


「アルマの話を聞いて、貴様とラルカが同一人物ではないかと疑いがあった。調査した当初の結果はシロだった。だがそれでも僕の疑心は晴れなかった。だからGPSを付けさせてもらった。反応は常にシェアハウス秋桜にあり、最近の襲撃現場からも同じ反応があった。それに加えて、最初の調査に参加した軍警の隊員も調べ上げた。貴様を追っていた追跡班から、僅かな脳波の異常が感知された。手法はわからんがそのやり方で欺かせていたんだろ? 自分はラルカではないと。それだけじゃない。貴様の認識番号だ。貴様に割り振られていたR1-82。調べてもどこにもヒットしなかった。つまり貴様は正式に存在しない機械人。その番号も偽造なんだろ? 民間人と偽るために、エルトリア皇帝がやったんだな」

「お、おいヴィク、一体何を……」

「わからんのか? こいつの正体はスパイ。大方邪魔者である貴様を排除するためのだろうな!」

『!?』


 全て暴かれたと認識したのか、ハーツは顔を上げた。


「……ああ、その通りだ。オレが陛下から課せられた命令は二つ。戦闘用のデータを収集することと、無心の刃、すなわちアルマを破壊することだ」

「ハーツ……お前……!」


 ヴィクトルは刃をハーツに向けたまま、彼の前に立ってモニターを出す。モニターに映っていたのは、逮捕状だった。


「機械人保護法違反の罪、及び殺人未遂の罪で、貴様を軍警本部まで更迭する!」


 その時だった。

 四肢を拘束されていたハーツが突然、僅かに動く足に力を入れて飛び出し、ヴィクトルの腹部に頭突きをした。


「えっ……?」

「……最後まで足掻くとは、なんと醜…」


 直後、空からハーツに向かって巨大なレーザー光線が放たれた。


「なっ……!?」


 一体何が起こったのか、ヴィクトルはもちろん、アルマ達もわからなかった。レーザー光線が消えると、ぼろぼろになったハーツが見えてきた。先ほどまでのアルマ同様、電流を漏らしながら固まっている。


「ハー、ツ……!?」

「ハーツ君……?」


 ハーツはぽかんとした表情のまま、その場に倒れてしまった。


「何が、起きたんだ……!?」


 ハーツの近くでヒールを鳴らす音が聞こえた。


「軍警諸共と知った上で庇うだなんて、もうこれ確実ね。調整し直しだわ」


 レイジュはハーツを抱き上げると、そのまま跳躍して消え去っていった。


「ハーツ……!!」

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