19話 綻ぶ糸
その日、明里は非常に悩んでいた。彼女は顔をしかめてハーツを見つめている。
「ん~……」
「……オレの顔に何か付いてるか?」
「はっ!? ご、ごめんねっ!? 別に変な意味じゃ!!」
「何か困ってることがあるのか?」
「あー、まあ……」
明里は視線を逸らしている。
「だからアルマ君とルカ君のが出来たならもういいんじゃないの?」
「ダメー! ちゃんと三人分やりたいのー!」
わあっと嘆く明里を美香はオロオロと見ていた。
なんでも明里が通う中学校で長期行う課題が出されたようで、そのお題が、身近な機械人の観察らしい。明里のクラスでは色々な手法で機械人の観察をしているが、明里はシンプルに観察日記を書くことになった。身近にいる機械人、つまりシェアハウスにいる、アルマ・ルカ・ハーツの三人を観察することとなったのだ。アルマとルカは難なく書き上げたのだが、残るハーツに苦戦しているようだ。
「でもしょうがないんじゃない? ハーツ君は二人と比べてそんなに目立つ所ないんだし……普通に書けばいいんじゃないかしら?」
「普通じゃダメなの~! わかんないかなあ~? こう、みんなが、わ、すごーい! 素敵ー! って思うような観察日記にしたいの!」
どうやら明里はみんなから注目を集めたいらしく、良い観察日記を書きたいそうだ。
「アルマとルカ君のは出来たんだよね? どんな仕上がりになったか見せてくれる?」
「えっとね~……」
明里は三枚閉じの紙二冊を美香に見せた。一応三人は三日間観察する予定だそうで、一日一枚分の記録が付けてあり、最終日には結論が書かれている。美香はその最後の方を読んでみる。
「何何……アルマ君はよく食べ、よく動き、よく寝る、健康そのもの。強いて言うなら体育会系並みに動いて食べる。ルカ君は一言で言うなら、省エネ系。アルマ君とは真逆の生活サイクルだが、パワーはあり、頭も良い。……良いんじゃないかな?」
「そうなの! 二人は個性があるから観察しやすかったんだ!でもハーツ君は二人と違って観察しにくくて……」
「オレに個性があればいいのか?」
「まあ、そんなとこかな……」
「……それは不可能だ。オレにそういうものは必要ないからだ」
その言葉は冷たく響いた。本当に必要ないと感じさせる。そんな彼に待ったをかけたのが、明里だった。
「え~っ! そんなの寂しすぎるよ~っ! なんていうかこう、きらっと光るようなの一つでも持ってみようよ! 特技とか趣味とか、最悪何か好きなものだけでも!」
「好きなもの……」
ハーツは顔を上げて考えている。
「……好きなものって、何だ?」
「ないの? こう、心がワクワクするような」
「オレに心はないからな」
「おいおいそりゃねーぜ!」
そこへいきなり康二が割り込んできた。
「ワクワクするようなことがないなんて、そんな寂しいこと言うなよ!」
「寂しい?」
「いよっし! そんなお前さんのために俺が人肌脱いでやろう!」
そう言いながら康二は懐から何かを取り出した。何かのチケットのようだ。
「例の飲み友達からまたもらったぜ!」
明里は康二からそのチケットを取った。
「……えっ!? 渋谷アニマルパーク!? しかも二人ペア招待券!?」
「あら、これこの間オープンした所ね?」
「ふっふっふっ……俺のパイプラインを甘く見てもらっちゃあ困るぜ……ちょうどいい機会だ! 明里ちゃんとハーツの二人で楽しんでこいよ!」
「またデート? 本当好きだね」
ルカがあんこ飴を口にしながら呆れている。
「そこは遊園地あり動物園ありの複合型テーマパークってやつだ! そこに行けばハーツも一つくらい何かワクワクするものが見つかるかもだし、明里ちゃんも観察日記のネタが
出るかもだしな!」
「そ、そうかも! じゃあ行ってみるよ! ありがとう康二さん!」
「いいわねえ、二人共。なんか羨ましいわ」
明里は嬉しそうにチケットをハーツに見せた。
「楽しみだね!」
「楽しみ……」
ハーツは胸に手を当てた。胸の奥に言葉にできない何かが突っかかっているような感じがしたからだ。ふと、ハーツはアルマの言葉を思い出す。
──心はここにある! 誰にだって、な。
「心……」
ハーツは畳の上で座りながら千枝と一緒になって寝ているアルマを見つめていた。
♢
テーマパークに行く日がやって来た。しかし、あまりにも楽しみすぎたのか、明里は前日眠れなかったのが仇となり、予定より三十分以上遅れてしまった。
「いーやあああ!! 遅刻したあああ!!」
明里は絶叫しながら待ち合わせ場所のハチ公像前へダッシュする。像の近くにはすでにハーツが待っていた。
「ああいたっ! おーいっ!」
明里の声に気づいたハーツが振り向いた。
「……三十分遅れたな」
「ご、ごめんっ……着替えと準備に手間取ってしまってっ……!!」
明里はぜえぜえ言いながら声を荒げる。全速力で走ってきたため、明里はふらふらだった。
「じ、じゃあ、行こっか……!」
おぼつかない足取りで明里は歩きだしたが、すくに足をつまずいてしまった。
「きゃっ!?」
「!」
瞬時にハーツが明里の腕を掴んだ。
「……気をつけろ」
「あ、ありがとう……」
彼の何気ない気遣いに、明里の胸が高鳴った。
色々ありながらも、なんとか渋谷アニマルパークに着いた。やはりオープンしたばかりとあって、人の数は多かった。
「わ、わー……! 人多いねえ!」
「混雑状況はおよそ六十七パーセント。迷子になる確率、約四十二パーセント。はぐれないよう注意するように」
「そ、そうだね! じゃあ!」
そう言って明里は手を出した。
「?」
「手を繋ごう! はぐれないように!」
「……明里の携帯のGPSは登録済みだ。いざとなれば探しだせるが?」
「ううん! そんなんじゃなくていいの!」
明里はハーツの手を握った。
「私がこうしたいの!」
「……!」
すると、またハーツの視界にノイズが走った。明里の姿が一瞬だけ変わる。美しいドレスを着た少女の姿に。
「……?」
「ハーツ君?」
「いや、なんでもない……」
明里に引かれながら、ハーツはパーク内の動物園エリアへ足を運んだ。最初に訪れたのは、明里が一番見たいと言っていたニホンザルのエリアだった。アーチ状の柵の中には、たくさんのニホンザルが走り回っていた。
「きゃ~……! お猿さん可愛いなあ……!あっ、背中に赤ちゃんがいる!」
明里はニホンザルを見て目を輝かせている。
「可愛いって何だ?」
「えっ? 可愛いってそりゃ、きゃー素敵ー! きゅんきゅんするー! みたいな?」
「……わからない」
「うーん、そっかあ……わかんないかあ……」
明里はがっくりと肩を落としたが、すぐにはっと顔を上げた。
「じゃああそこならどうかなっ?」
そう言ってハーツを連れてやって来たのは、ふれあい広場と呼ばれるエリアだった。そこはウサギやモルモットなどの小動物と接することができる場所だ。飼育員の手によって明里の膝元に可愛らしい白ウサギが乗せられた。
「はう~……! 可愛いい~!」
明里は目一杯撫でて愛でた。
「はい、お兄さんもどうぞ!」
飼育員がハーツの膝元に黒ウサギを乗せる。
「……!」
膝元からウサギの体温が伝わってくる。
「……温かい」
「でしょっ? ウサギさんってぬくぬくなんだ~! ほら、撫でてごらん! ふわっふわだよ!」
言われた通りハーツはウサギを撫でてみる。確かに毛並みはサラサラでふわふわだ。ウサギもまんざらでもなさそうだ。
「……これが、可愛いなのか?」
「あっ、わかってきた? そうだよ! 心がこう、きゅーんってなるのがそう!」
「心がきゅーん……」
ハーツは胸に手を当てた。
「……やはりわからない」
とは言いつつも、胸の奥から何かが湧く感じがした。
その後も二人は動物園エリアを満喫し、休憩所で一休みすることにした。
「は~、回った回った~! しばらく歩けない~!」
「……」
「どう? 心がワクワクしてきた?」
「……わからない」
その時発したハーツの言葉は、いつも聞く冷たい感じではなかった。少しだけ悲哀じみた感じがした。
「わからないことが、わからないんだ……」
「えっ?」
ハーツはまた胸に手を当てる。
「最近ここが、妙なんだ……機体に異常はない。精神バイタルも通常だ。でも……少し変だ……ざわざわする……オレに心はないはずなのに……」
ハーツは空を見上げて物思いにふけた。
「ハーツ君……」
何かを感じ取った明里は、急にハーツの右手を取った。
「?」
「あのねっ! 私、機械人のことあまり知らないから、生意気なこと言うかもしれないけど、心がない機械人はいないと思うよっ! そりゃ、始めからそういう人もいるかもだけど、でもねっ、少なくともハーツ君にはあると思うよ!」
「!」
「だって待ち合わせの時、私を助けてくれたじゃん! 本当に心がなかったらしないと思う! だから、その……私は、ハーツ君にもちゃんと心があるって信じてるよ!私だけだったとしても!」
上手く言葉にできない。それでも明里は思いを告げる。
「今すぐにでなくていいよ! 少しずつ感じよう! きっと、ううん、絶対わかる時が来るよ! 心がワクワクしたり、きゅんとなったり!」
すると、またハーツの視界にノイズが走る。今度はかなり強く出ている。
〈イツカワカルワ……〉
「……!?」
ハーツは頭を抱える。
「ハーツ君っ? どうしたのっ?」
「オレにも……ある、のか……?」
胸のざわつきが収まらない。このままではどうにかなりそうだ。危機を感じていた時だった。明里が優しくハーツを抱きしめてくれた。
「明里……?」
「大丈夫。ゆっくりでいいから、ね?」
不思議なことに、抱きしめられただけで胸のざわつきが止まり、それとは真逆に温かい何かで満たされたかのような感じがした。明里はそっとハーツから離れる。
「……ちょっと待っててね! 近くに美味しいココアが売ってるとこがあるから、買ってきてあげる!」
明里は颯爽と走りだした。
「……」
ハーツは去り際を静かに見つめていた。
「へえ~? 随分といい感じだお?」
嫌らしい猫撫で声が聞こえた。振り返ると、木陰からキューピッドが出てきた。キューピッドは怪しくハーツを見つめる。
「無機質なあんたがそんな顔をするようになったなんて、あのブサイクに何かあったのかお?」
「……関係ない」
さっきまで揺らぎがあったハーツの言葉が、また冷たい響きを感じさせるようになった。
「まさか本来の目的を忘れたわけじゃないかお? あんたがゼハート様から課せられた命令は、無心の刃を破壊すること。今あんたが経験してることが命令に支障をきたしたりしたら、ゼハート様がどんな反応するか……」
「……命令は必ず従う。それだけだ」
「ふ~ん。なら、今からあのブサイクをぐっちゃぐちゃにしても問題ないかお?」
「!」
「ムカつくんだよね~、あいつ。いかにも良いことしてますって顔しながら綺麗事並べるのってさあ、それって偽善でしょ? キューちゃんの嫌いな女のタイプの第一位がまさにそれなんだお! あのブサイクはその良い見本! 早いとこぶっ潰さないとね!」
「巻き込むつもりか?」
「だとしたら?」
二人は対面して睨み合う。
「騒ぎを起こせば奴、無心の刃が来るぞ」
「だから? そんなのキューちゃんがぶっ飛ばすだけだお!」
「……奴は強くなっている」
「警告のつもりかお? はいはいわかったお。じゃあ気をつけるお」
そう言いながらキューピッドはハーツに背を向ける。
「ならこっちも警告しておくお。あんたはうちらと違ってロボット。しかもゼハート様を裏切ってるお。そんなあんたが希望を抱くことなんてできるわけねーからな?」
ギロリと睨むキューピッドの目を、
ハーツは静かに見据えていた。
♢
渋谷アニマルパークの遊園地エリアではこの日、搭乗型巨大ロボットによるショーが行われていた。空気砲で的を射抜いたり、ジャグリングをしたりして観客を楽しませていた。その場にはもちろんハーツと明里がいた。
「わー! すごーい! すごいね、ハーツ君!」
ハーツは先程からキューピッドの件で落ち着かずにいた。
「巨大ボールによるジャグリングでしたー! さあ、続いては…」
「ジャスタモーメンツだお~!」
スピーカー越しにキューピッドの声が聞こえた。すると、ステージの屋根からキューピッドが落下してきた。突然の乱入者に司会者はもちろん観客も戸惑いだした。
「な、何なんですかあなたは!?」
「はーい、くっだらないショーはここまで! ここからはキューちゃんによるスペシャルステージをお届けしちゃうお!」
「何何っ? 何かの演出かなっ?」
何も知らない明里はワクワクしていた。
「ダメだ! 明里、逃げろ!」
「え?」
「出演者を紹介するお! キューちゃんことキューピッドと、この子!」
その時、背後にあったステージがひび割れだし、派手に破壊された。そこから現れたのは、以前アルマが倒したのと同じ形をした化け物だった。違うのは肌の色が緑色なのと、そのサイズだった。以前よりも遥かに大きい。明らかにやばいと感じた周囲の人達が、悲鳴を上げて逃げだした。ハーツは明里の手を掴む。
「こっちだ!」
「えっ、あ、うんっ!」
危険を感じた明里はハーツについていく。二人で園内を走りだし、なるべく遠くへ向かう。しかし、どうやらキューピッドの狙いはあくまで明里だけなようで、彼女だけに狙いを定めて追いかける。
「な、なんかこっちに来るよ!?」
「振り向くな! 走れ!」
ハーツは強く明里の手を引く。
「あーらら、もうこれ確定じゃーん。ゼハート様から許可されてないけど、ま、いっか。ピーちゃん! あいつらまとめて潰しちゃって!」
化け物は巨大な拳を振り上げる。
『!!』
ハーツは咄嗟に明里を抱いて庇った。
すると、バンッと何かが当たった音が聞こえた。しかし攻撃された感覚はない。
「……?」
二人は恐る恐る様子を伺う。目の前でなびく赤いマフラー。そして倒れゆく化け物。
「二人共、無事か!?」
「アルマ君っ!」
アルマが助けに来てくれたことに明里は心底ほっとした。
「アルマ……助けてくれたのか?」
「こんな状況で助けないなんてことあるか?」
「いったあ……またあんたかよ!」
キューピッドは頭をさすりながら化け物を無理矢理起こさせた。
「てか、何でここにいるんだお!? まさか愛の力とか言うんじゃねーよな!?」
するとその時、突然キューピッドに向かって何かが発射され、彼女を拘束した。それはかつてハーツことラルカを拘束した物と同じ物だった。
「なっ、ああっ!?」
四肢を拘束されたキューピッドは、身動きが取れず化け物から落ちた。
「匿名での報告があってな、奇抜な化け物がここに向かっていると」
そこへ、ヴィクトルが歩み寄り、キューピッドを引き寄せ銃を突きつけた。
「貴様、皇帝の関係者だな?」
「あんたは軍警の……!! 匿名の報告って一体誰が!?」
「そう言われたらこう答えろと言われた。女好きの不良法師だと」
それを聞いてキューピッドはかーっと顔を真っ赤にした。
「ヨシタダの奴ーっ!! あいつ密告しやがったなあっ!!」
「奇襲の理由は知らんが、どちらにせよ民間人を危険に晒した罪は重いぞ……!」
ヴィクトルは静かにキューピッドを見据える。
「ヴィク! こいつぶっ飛ばしていいんだな?」
「ああ、当然だ! 明らかに放置できんだろ!」
「だろうな!」
「ふ、ふんっ! 強がるのも今の内だお! ピーちゃんはこの間のベーちゃんよりも格段に強いお!今度は両腕ごと食われてやられちゃえだお! ピーちゃん!」
化け物が再び拳を振り上げようとする。
「ハーツ! アカリを頼む!」
「わかった……!」
アルマは跳躍して化け物の拳を避ける。その隙に化け物の頭上まで飛び、かかと落としを繰り出した。化け物は道路にめり込み、頭部が激しくひしゃげた。
「ちっ! 相変わらずの馬鹿力……だったら!」
化け物のうなじからまた無数のコードが湧いて出た。蛇みたいにうねるコードが、明里とハーツに向かって飛び出す。
「しまった!」
「!!」
「明里!」
ハーツは明里の前に立ち、右手を前に掲げた。すると、ハーツの前にポリゴン状の壁が現れ、コードを塞いでくれた。
「!」
「何だ、あれは……!?」
見たことのない防衛手段にヴィクトルは驚く。ともあれ隙が生じたため、アルマはすぐさま二人に接近し、無数のコードを束ねて引っ張った。ブチィッとコードがうなじから外れる。
「げえっ!! マジかよっ!?」
キューピッドはあんぐりと口を開ける。
「ナイスフォローだ! ハーツ!」
アルマはにかっと笑い、ハーツに向かってサムズアップサインを見せた。
「あ、ああ……」
「お前が作ってくれたチャンス、無駄にはしねーぜ!」
アルマは左手を換装させ、一気に距離を縮める。
「ダ、ダメダメダメダメェッ!! ピーちゃんは一ヵ月かけて作った大作の一つなんだお~っ!!」
「んなもん知るかああああっ!!」
容赦なくアルマは左手を突き出し、化け物に風穴を開けた。化け物は光を放ち、爆発した。
「ピーちゃああーんっ!!」
キューピッドは半分涙目になって叫んだ。
「……観念するんだな!」
ヴィクトルがキューピッドのこめかみに銃を突きつける。
「……なーんてね」
キューピッドがニヤリと笑うと、拘束具がばちばちと電流を流して割れた。
「なっ……!?」
ヴィクトルが呆気に取られた瞬間、キューピッドは真下からの回し蹴りを繰り出した。ヴィクトルはそれを腕で受け止め、後ろに後退させられた。
「ふん! こんなゴムバンドぐらいでキューちゃん達は捕まらないお!」
壊れた拘束具を振り回しながらキューピッドは余裕の笑みを浮かべた。
「くっ……!」
「どうやらあいつの言ってたことはあながち間違いではなかったみたいだお。でも次はそうはいかないお! 次こそはぐっちゃぐちゃにしてあげるから楽しみにしておくんだお!」
キューピッドは棒を取り出し、光を放って姿を消した。
「来んなったら来んなっ!!」
アルマが追い込むように叫んだ。
その後、アニマルパーク内に軍警の応援が来て取り締まりと後処理を開始したため、来客は強制的に退場することになった。アルマもヴィクトルからの頼みを受け、明里とハーツに付き添う形で一緒に帰ることになった。
「なんか悪かったな。せっかくの休み、台無しにしちまって」
「えっ? あっ、ううん! 気にしないで! アルマ君が来てくれなかったらどうなってたかわからなかったし、むしろすごく感謝してる! ありがとう!」
「そっか! なら良かった!」
「あっ、もちろんハーツ君も助けてくれてありがとね!」
二人より一歩後ろを歩くハーツに向けて、明里が感謝の意を示した。すると、ハーツが歩みを止めた。
「ハーツ君?」
「……オレは、おかしくなったのか?」
「え?」
「オレは何も考えてないのに、気づいたら明里を助けていた。助けるつもりなんてなかったのに、何故だ?オレは……バグを起こしているのか?」
「おいおい、まだ気づいてないのかっ? んなもん理由は簡単だ! お前にちゃんと心があるからだ!」
「!」
「アカリを守りたいって気持ちがあったから、お前はアカリを助けたんだ。心がなきゃそんなことできねーよ」
「うん! 私もそう思う!遅刻してふらふらになってた時も助けてくれたもん! ハーツ君は優しいよ!」
「オレが、優しい……?」
その言葉はいつかの美香も言っていた。アルマを気にかけてくれたことが優しいと。
「いい加減自覚しろって! お前には心がある! オレが断言する!」
「あ、なんかすごく納得した! うんっ、きっと、ううん、絶対そうだよ!」
二人からの笑顔にハーツの胸が微かに鳴ったような気がした。そして、かつてのアルマのように、光が差してなかった瞳にキラキラしたものが差し込んだかのように見えた。ハーツは自分の胸に手を当てる。
「オレには……心が……ある……?」
「そう言えば、アカリは宿題やるためにあそこに行ってたんだよな? 上手くいったか?」
「あ、うん! なんとかなりそうだよ!」
ハーツ君の観察結果:
ハーツ君は現在「心」について勉強中! 私はハーツ君は優しいアンドロイドだと信じています! 以上。
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