29話 バケーショントラップ

その日、明里は真剣な表情を浮かべていた。いつになく気を引き締めているのがわかる。彼女の近くには、美香、アルマ、ハーツがいた。アルマだけは明里につられて同じように真剣な表情をしている。


「チャンスは一人一回……みんな、準備はいい?」

「おう!」


明里は勢いよく胸ポケットから何かを取り出して前に突き出した。

それは、“お楽しみ抽選会福引き券”と書かれたチケット四枚分だった。


「福引四回分、お願いしますっ!!」

「しますっ!!」


張り切っている二人に対し、美香とハーツは若干引いていた。


「目指せ! 狙うは一等、温泉旅行!」

「オレは二等、焼き肉食べ放題!」

「……二人共目がすごいな」

「じゃあまず私達いっきまーす!」


半ば興奮気味の二人はそれぞれ意気揚々とガラガラを回した。

結果は──


「はーい、残念賞! 飴ちゃんどうぞー!」


明里、アルマ、共に残念賞だった。


「何でえええっ!?」


とりあえず食べ物もらえたので満足したアルマに対して、明里は頭を抱えて絶叫した。


「明里ちゃん、自信あったんだ……」

「ハーツ君んんっ!!」

「……わかった。わかったからそんな顔するな」


渋々とハーツは福引き券を渡し、ガラガラを回した。出てきたのは、緑色の玉だった。


「し、白じゃない!?」

「アタリか!?」

「おめでとうございまーす! 五等の入浴剤でーす!」


ハーツの手に入浴剤の缶が手渡された。


「にゅうよくざい……」


明里はがっくりとうなだれた。


「良いんじゃないか? 入浴剤。しかもこれ疲労に効くって書いてあるし、康二とか穂乃果は喜ぶんじゃないのか?」

「そうだよ。これだけでも十分収穫だよ」

「でもお……」

「最後はミカの番だよなっ? 頑張れよ!」


それを聞いて明里ははっとした。


「そうだよ! まだチャンスはある! 頼んだよ美香ちゃん!」


アルマと明里に応援され、美香はガラガラを回した。


(まあ、そう簡単には当たらないよな……)


なんて思っていた時だった。ガラガラから出てきたのは、虹色に輝く玉だった。


「へっ? 虹色……?」

「!!」


店番担当の女性がぎょっとした。


「お……お……おめでとうございますっ!! 特賞、東京バケーションフォレスト貸切権!! 大当たりでーす!!」


当たりを知らせる鐘が鳴り響いた。


「えっ……えっ!? 特賞!?」

「や……や……やったああああっ!! 温泉旅行よりすごいの来たああああっ!!」

「すげー!! ミカすげーよ!!」


アルマと明里がぎゅっと美香を抱きしめた。


「こちら、ペア三組でのセットになりますので、最大六人まで参加できまーす!」


そう言いながら女性は美香にチケットを渡した。


「東京バケーションフォレストと言えば、今テレビとか雑誌に引っ張りだこのグランピング施設だよね!? それを貸し切れるとかすごいよ!」

「グランピングかあ……ちょっとだけ興味はあったんだよね」


美香達が嬉しそうにしてる中、女性が何故かスマホを取り出してひそひそと小声で話しだした。


「はい……はい……ご指名通りです。では報酬の件はよろしくお願いしますね?」



「そーいうわけで、今度の夏休み終盤の二泊三日、私達でグランピングに行ってきまーす!」


明里が穂乃果達にそう高らかに宣言した。


「いいわねえ、グランピング! 私もテレビ見てちょっと憧れてたのよ。是非行きたいところだけど、その日はお店番頼まれちゃったのよねえ……」

「俺もルカも仕事だもんな。ちいと不安だが、まあ楽しんでこいよ!」

「そのチケット、ペア三組なんでしょ? アルマと美香とハーツと明里で四人だけど、あと二人は誰か誘うの?」

「それは今から考える!」


美香はあと二人分誘えるかどうか、スマホを通じて色々と連絡を入れている。


「あー……宗介君は先輩のお手伝いがあるから行けれないみたい。石塚さんも立花君もこの日は予定があるみたい」

「えーっ? 美香ちゃんとこも全滅なのっ? うちはアキちゃんもヒナちゃんもダメだったし、もう誘える人いないよお〜!」

「あと二人……」


悩んでいた時だった。ドタドタと二階から激しく足音が聞こえた。


「ミカー!」


アルマがぱんぱんに膨らんだリュックサックを抱えて居間に入ってきた。


「こっちもう準備出来たぞ! トランプとかー、浮き輪とかー、漫画とかー、あっ、バナナって荷物に入るかっ?」

「アルマ……まだ早いよ」

「明里、オレも準備出来たんだが……」


アルマの後ろからハーツが出てきた。ハーツは明里に荷物を見せたのだが、アルマとは真逆でかなり小さい。


「え!? ハーツ君これだけ!?」

「とりあえず服とスマホさえあればいいかなって思って……」

「まあ、最近のグランピングは手ぶらオーケーな所が多いしね」

「あっ、そうだ!」


明里が何かを閃いた。


「アルマ君とハーツ君にもいるかなっ? 誰か知り合いでグランピング誘える人っているっ?」

「知り合いか?」


二人はうーんと考える。


「……事務所の人達は難しいかもだな。祐介と健次郎はまだ安静にしていないとだし、烬も純香も確か出張中だったしな……」

「あっ! じゃああいつ誘うか?」

「あいつ?」

「そういえばオレ、あいつと遊びに行くってことなかったし、いい機会かもだな!」



そして、グランピング当日を迎えた。天気は快晴、いいタイミングだった。


「着いたあー!」


麦わら帽子を被った明里が、うーんと背伸びをした。


「晴れてて良かったね」

「うん! 星とかよく見えそうだよ! あっ! 夜はマシュマロ焼けるかなあ?」


まだ昼間なのにもう夜のことを考えてわくわくしている明里を見て、美香は頬を緩めていた。


「……えっと、二人共ごめんね? 荷物持たせる係になっちゃって」


美香は申し訳なさそうに振り返る。振り返った先には、大量の荷物を抱えたアルマとハーツが歩いてきた。


「いいっていいって! ミカやアカリに重いの持たせるのはあれだしな!」

「これくらいは大したことないから心配ない」


とはいえども、二人は肩や両腕いっぱいに自分達の荷物に加えて美香や明里の荷物があり、しかも二人はそれを軽々と抱えている。まるで引っ越し業者みたいだ。

「ここって海があるんだろっ? 荷物運び終わったら早く行こうぜ!」

「うん」

「ん? そういえば二人は? 見当たらないが……」

「……あっ、来たよ!」


遠くからこちらに向かって来る二人。


「おおーい! ヴィクー! イサミー! こっちこっちー!」


アルマが嬉しそうに手を振る。


「……まったく、何故僕がこんな奴のために……」

「まあいいではないか。ちょうど自分達も長期休暇をもらえたし、たまには悪くないだろう?」


アルマが勧誘候補として挙げたのは、ヴィクトルとイサミであった。ちょうどいいタイミングだったのか、二人は誠からの命令で三日間の休暇をもらっていた。アルマからグランピングに行かないかと誠を通じて連絡した際、是非と了承してくれた。ヴィクトル自身は乗り気ではなかったが、イサミが行くと宣言したのと、保護者となる成人があちらにいなかったため、仕方なく同行することになったのだ。


「二人共、すまないな。二人にも予定があっただろうに」

「いや、むしろ感謝している。どうも自分は休暇中の過ごし方というのをあまり知らなくてな、誘いがなかったら一人特訓をしてたところだった。まあ、それは副官殿も同じだろうが」

「にしてもお前……」


アルマはヴィクトルを下から上まで見つめる。今の彼はかつて経過観察に来た時と同じ格好をしている。夏にはちょっと不釣り合いな姿だ。


「お前それ暑くないかっ?」

「……仕方ないだろ。僕は貴様らと違って人工皮膚を纏ってないんだ。回路剥き出しの体を晒す馬鹿がどこにいる?」

「ここは今貸し切りでオレ達しかいないし、そんなに気にすることないと思うが……」

「だとしても、いつ何が起こるかわからん。常に警戒は必要だ」

「そんなの固っ苦しいって!」

「そうだぞ、勝利殿。今日はオフだ。仮にこの先何か起こったとしても、その時はその時だ。今は仕事のことは忘れて、ゆったり過ごすべきだ」


ぐぬぬとヴィクトルは顔を引きつらせている。


「……緊急事態が起きたら貴様らにも手を貸してもらうからな!」

「おう! なんたってオレはミカを守るためにいるかんな!」


ふんとヴィクトルは鼻を鳴らしたかと思えば、美香と明里の元へ寄って照れ臭い表情を浮かべた。


「まあ……そんなわけだから、その……何かあったらちゃんと僕達に言うんだぞ?」

「は、はひっ!! 今日はよろひくお願いひまふっ!!」


相変わらず明里はヴィクトルの前では赤面しながらカチカチに緊張している。その様子に美香は苦笑いを浮かべた。


荷物を整理し、さっそく一同はグランピング場が経営しているビーチへ向かった。海は東京の物とは思えないぐらいに綺麗だった。ヴィクトル以外の全員が水着に着替え、ビーチを心ゆくまで楽しみだした。


「まったく……僕はああはならないからな……」


ヴィクトルはビーチパラソルの下でビーチ専用の椅子に横たわりながら、一人読書に集中することにした。


「ヴィクも一緒にバレーやろーぜー!」


しかしちょくちょくアルマに邪魔されてしまう。


「そっちで勝手にやってろ!」


厳しく突っぱねるヴィクトルに、アルマはむうと顔をしかめた。すると、ヴィクトルの近くでハーツがジュースを持って来てくれた。


「これくらいはいいだろ?」

「あ、ああ……すまんな」


ヴィクトルはジュースの入ったコップを受け取る。ハーツもヴィクトルの近くに座ってジュースを飲む。


「……あのさ」

「ん?」

「何かあったのか?」

「!」


ハーツに聞かれて、ヴィクトルは目を丸くした。どうやらハーツに勘づかれたみたいだ。


「……貴様、アンドロイドの割には聡いな」

「そ、そうか?」

「プライベート中に仕事の話をするのはあれだが、貴様になら話しやってもいいかもな」


観念したヴィクトルは、なるべくハーツにだけ聞こえる音量で口を開いた。


「……実は、また機械人が襲われている」

「!!」

「しかも今回はれっきとした殺人事件だ。すでに五人は殺害されているらしい」

「……そうか」


ハーツは頭を抱えて絶句している。


「いずれ貴様らにも協力を仰ぐつもりだ。加害者側であった貴様には苦痛かもしれんが、そこは飲んでやってくれ」

「ああ……問題はない」


ハーツは顔をしかめながらも、遠くでビーチバレーをやっている美香達女子三人を見つめる。


「……それが明里達を守るために必要なことであれば、オレは覚悟できるさ」

「ならいい。その初心は忘れるなよ」


すると、ヴィクトルの右側から突然激しく水が吹き出してきた。水はヴィクトルの顔に直撃した。


「あっ……!?」


当然ヴィクトルの顔と上半身が濡れた。何事かとハーツが視線を探ると、二丁の巨大水鉄砲を持ったアルマがキラキラと顔を輝かせながらこちらを見ていた。対してヴィクトルは真顔で、戦闘に使用している二丁拳銃を取り出す。直後、この場にはそぐわない激しい銃撃音がビーチ中に鳴り響いたのだった。



気づけば空はすっかり日が暮れていた。この日の夕食はグランピング場側が用意してくれたバーベキューセットだ。色とりどりの野菜や肉が網の上で香ばしい香りを漂わせている。


『最っ高〜!!』


肉を頬張りながらアルマと明里は恍惚に浸っていた。


「豚肉も牛肉も鶏肉もジューシーでたまんないよ〜!!」

「タン塩うめぇー!」


二人が嬉しそうに食べる中、ヴィクトルは皿に焼いた野菜を置く。


「えー!? ヴィク野菜だけ!? 今日くらい好きなの食べりゃいいのに〜!」

「僕は栄養バランスを考えて取ってるんだ! 貴様こそ肉ばっかり食べてないで、ちゃんと野菜も摂れ」

「ああ。バランスよくが大事だぞ?」


と言うハーツの取り分は山盛りだった。肉も野菜も関係なしに。


「……貴様は量を配慮しろ」

「まあどっちにせよ、機械人はいくら食べても太らねーし、気にしない気にしない!」


アルマのその何気ない一言が、周囲の空気を一瞬ひやりとさせた。


「……貴様、後で後悔しても知らんぞ」

「?」


アルマの一言にぎくりと肩を震わせていたのは、美香と明里の二人だった。


「み、美香ちゃん……私、最近ちょっと怖くて体重計乗ってないなーなんて……」

「き、奇遇だねっ? 私も最近、なんか運動不足かなあって……」

「二人共、せっかくの貸し切りなんだ。どんどん食べて元を取るといい」


イサミの両手には、大量に盛られた肉野菜と厚切りにされた牛肉が乗った皿があった。彼女の一言とその様子は、逆に二人にトドメを刺す羽目になった。


『イサミさん〜!!』

「? 自分、何か気に障ること言ったか?」


大盛りだったバーベキューセットはあっという間になくなってしまった。イサミがキャンプファイヤーを用意してくれたので、一同は焚き火を囲んで団欒する。


「いや〜、食った食った〜!で、アカリ! デザートあるかっ?」

「貴様、あれだけ食ってまだ食う気か!?」

「デザートはべつばらってやつなんだよ!」

「あっ、ならマシュマロ焼こうよ! 焼いたマシュマロって最高なんだよ〜?」

「おお〜っ、なんか美味そうだな! ミカも一緒に……って、あれ?」


アルマはふと周りを見回すが、美香の姿が見当たらない。


「大空殿なら席を外しているぞ。

友人と電話したいそうだ」


美香はグランピングのテントにて電話をしていた。相手は宗介だった。


「うん、うん、すっごく楽しいよ。そっちはどう? 捗ってるかな?」

〈もう大変だよ〜! まさに今修羅場ってとこ!〉

「ロボット開発会社なんだっけ? 確かに大変そうだよね」

〈例の先輩がさ、割と大きめのプロジェクトの主任になってしまったから、てんやわんやで〉


電話越しに宗介を呼ぶ声が聞こえた。


〈あ、はーい! でも安心した。美香ちゃん、アルマ君と会う前までは僕達キカケンメンバー以外の人とはそんなに関わることなかったし、話の輪とかに入れるかなーなんて心配してたんだ。なんか変わったね、美香ちゃん〉

「え……」


宗介の一言に美香は一瞬戸惑った。


〈ん? どしたの?〉

「あ、ううん! なんでもないよ!」

〈そう? あっ、そろそろ行かないと! じゃあおやすみ!〉

「うん、おやすみなさい」


美香は電話を静かに切った。


「変わった……私が……?」


自覚していないわけではなかった。確かにアルマと出会った当初よりは、なんとなくだが自分自身に変化を感じていた。それが何なのかは具体的には言えないが、少なくともそれは悪いことではないのはわかる。


「アルマが、私を変えてくれた……?」


美香はふと空を見上げて物思いに耽る。脳裏に浮かぶのは、アルマの笑顔だ。


「!」


何故か美香の体温が上昇したような感覚がした。


「やだ……何でっ?」

火照った頬に触れる美香。

その時だった。一瞬ズンと何か重いものが落ちた様な音がした。


「!?」


鳥がバサバサと飛び去っていく。嫌な感覚を覚えた美香は警戒する。すると、暗闇の向こうで赤い光が見えてきた。


「きゃああああああっ!!」


遠くから美香の悲鳴が上がった。


「何だっ!?」

「んぐっ!?」


美香の悲鳴を聞いたアルマは、頬張っていたマシュマロを慌てて飲み込む。ずしんずしんと何かがゆっくりと近づいてくる。茂みから美香が飛び出してきた。


「どうしたの美香ちゃん!?」

「みんな逃げてっ!!」


美香の後に続いて茂みから現れたのは、白黒の色彩を施された、おそらく全長五メートルはあるであろう異形の存在だった。辛うじてそれが人型なのは理解できた。その異形は威嚇するかの如く咆哮した。


「なっ、何だあ!?」

「エルトリアの反応……!? だが、こんな機械兵見たことないぞ……!?」


危機を察知したヴィクトルは服を脱ぎ、戦闘態勢を取った。


「伏せろ大空!!」


ヴィクトルは二丁拳銃を乱射させる。命中はしているものの、傷一つついていない。異形が反撃を繰り出すかのように、口から光線を発射させる。矛先にいたヴィクトルとイサミは跳躍して避ける。地面が激しく抉れ、黒焦げになった。すると、異形が巨大な手を美香に向け、彼女を掴み上げた。


「えっ!? あっ、ああっ!?」

「ミカッ!!」

「美香ちゃんっ!!」


異形は美香を掴んだままこちらに向かっていきなり走りだした。


「ひゃあああっ!?」


慌てて明里達は避けた。走っている方向は海がある方向だ。


「狙いは大空殿か!?」

「野郎っ!!」


一同は美香を奪取すべく追いかける。幸いにも走るスピードはそんなに速くなかったため、海までなんとか追いついた。アルマとハーツはそれぞれ変身し、異形に向かって高く跳躍する。


『はああああああっ!!』


二人の攻撃が火花を散らして炸裂する。しかしながら異形には傷がつかず、跳ね返されてしまった。二人は受け身で着地する。


「くそっ! 何なんだあいつ!? 硬すぎて攻撃が通らねえ!」

「あの皮膚の強度……キューピッドが得意とする遺伝子操作の類いだ……! まさか、あれからさらに強化されたのか!?」


なんとかして美香を救出しようと、アルマは異形の上に乗り出す。


「アルマ!」

「待ってろミカ! 今助けるからな!」


アルマは美香を掴む手を力づくで離そうとするが、ぴくりともしない。すると、異形は掴んでいない方の手でアルマを吹っ飛ばした。


「がっ!?」

「アルマッ!!」


下にいたハーツがアルマを受け止めた。直後、砂浜から大量の機械兵が湧き出てきた。まるで異形の盾として立ちはだかっているようだ。


「やはりエルトリアの差し金か!!」


ヴィクトルが銃を変化させ、ガトリングで迎え撃つ。


「そこを退け!!」


ガトリングの銃撃で機械兵を一掃する。しかし撃ち漏らしたのか、残存兵が射撃してきた。


「避けろ!!」


イサミが明里を伏せさせた。あまりの激しさに明里はきゃーっと悲鳴を上げた。


「邪魔をするなっ!!」


アルマとハーツも負けじと機械兵に立ち向かう。道が開けたところでアルマは美香の救出に向かう。


「ミカーッ!!」


すると、背後から何者かがアルマを拘束した。


「!?」


見ると、四足歩行型の機械兵が、三本爪のアームでアルマを掴んでいた。


「しまった!!」


油断を突かれたヴィクトルは慌てて銃を向けるが時すでに遅し。気づけばものすごいスピードでアルマを連れ去ってしまった。それに続くかのように異形の背中から翼が生え、そのまま海のある方向へ飛び去っていく。


「美香ちゃん!!」


明里は海に入って追いかける。


「美香ちゃーんっ!!」


明里の体が腰まで沈みだした時、背後から誰かが腕を引いた。ハーツだった。


「明里!」

「これ以上は危険だ!」

「イサミ、大至急増援を! 追跡用戦車で追いかける!」

「承知!」


ヴィクトルはイサミを引き連れてその場を後にした。


「美香ちゃん……アルマ君……!」


明里は美香が連れ去られた方向を心配そうに見つめている。ハーツはそんな彼女の肩に手を置く。必ず助けると言わんばかりの真面目な表情に、明里は静かに頷きを返したのだった。

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