34話 傲慢の王
男の姿が見えなくなったのを確認すると、アルマは壁にもたれて呼吸をする。
「人……殺し……っ」
アルマは震えながら腕を掴む。
(まさかあいつは、人殺しの兵器かもしれないオレを知っていて、それを憎んでいる……!? オレが何をしたっ? あいつの大切な人を殺したっ? それとも憎まれるほどの何かをしでかしたっ? ……ダメだっ、やっぱり思い出せない……!!)
早まる心臓の鼓動。強張る体。アルマはなんとかしようともがく。と、アルマの肩を誰かがトントンと叩いた。
「!?」
顔を見上げると、そこには莉央がいた。莉央は呆れ顔でアルマを見下ろしている。
「……なんつー顔してんだよ」
「あ……」
「まあ無理もないか。相手が相手だったからな。でもこれで確信はしたよ。お前運はねえけど、悪運は強そうだな。本当に残り一パーセントを掠め取ってしまったからな。その辺だけは認めてやるよ」
「……」
何も言わないアルマに不信感を感じた莉央は、怪訝そうに伺う。
「おい。いくらギリギリだったからって、そんな調子じゃ本戦なんて遠い夢だぞ。無理してでもちょっとは意気を高めろよ」
そう言い残して莉央は去ろうとした。すると、アルマは莉央のコートの裾を掴んだ。
「あっ、と……?」
思わず後ろ手に倒れそうになったが、足に力を入れて踏ん張った。
「おい、急に何だ…」
莉央が振り返ると、裾を両手で掴みながら真っ青な顔をするアルマが視界に入った。
「あ……?」
何かに怯えている様子のアルマに、莉央はちょっぴり驚いた。
「……っ」
裾を掴む手は微かに震えていた。
「……何かあったか?」
莉央が低くつぶやいて問うが、アルマは答えず震えている。
「アルマさーん!」
そこへ、祐介が自分を呼ぶ声が聞こえた。はっとなり裾を離して振り返ると、祐介がこちらに向かって手を振っている。そばにはハーツ達がいる。
「……行ってやれ」
莉央はアルマの背中を叩いた。
「え……」
「……俺よりあっちの方が居心地良いだろ?」
そう吐き捨てて莉央は人混みの中へ姿を消した。後を追いかける気力もなかったため、仕方なくアルマはハーツ達の元へ向かった。
「……?」
どことなく元気がないアルマの表情を、ヴィクトルとハーツは見逃さなかった。
「どうした? アルマ」
「えっ……?」
「……かなり憔悴してるっぽいな。まあ無理もない。激しい戦いだったしな。ちょうどいい。栗原、あれを」
「あ、はい!」
祐介は懐からポーチを取り出すと、そこからしわくちゃの小さな何かを出した。
「はい、どうぞ」
それをアルマに手渡した。
「?」
「口に入れて、一回噛んだら咀嚼せずそのまま飲み込んでください」
何をさせるつもりかわからないアルマは、首を傾げながらも言われた通りにその何かを口に入れた。一回噛むとほのかに甘い味がした。
「はい! 噛んだら飲み込む!」
祐介がそう促してきたので、アルマはそれをごくりと飲み込んだ。その直後。
「──っ!?」
体中に激しい電撃が走った感覚がした。
「ごほっ!? がっはあっ!?」
あまりの衝撃に思わずむせてしまう。
「な、何だあ!? 今の!?」
「あはは……すみません、びっくりさせちゃいましたね。今食べさせたのは、ベクタの実って言う、品種改良された特別な果物なんです。神経などを活性化させて、一時的に疲労やダメージを回復させる効果があるんです。体に何か変化ありません?」
「あっ……!?」
言われてみれば、さっきまで重かった体が、なんとなくだが軽い気がした。
「体が軽い!」
「よかった! 効き目バッチリみたいですね!」
「これから激しい戦いが続くからな。即回復できるよう、栗原に用意させておいたんだ」
「お、おおっ? なんか心なしか元気になってきた! ありがとな、ユースケ!」
活力を取り戻したアルマは、祐介に向かってピースサインをした。
「……?」
ハーツはアルマを怪訝そうに見つめている。
「? どうした、ハーツ? 浮かない顔して、らしくないぞ?」
「いや……なんだかアルマ、調子が良くなさそうだなって思って……」
「体力は回復したそうが?」
「ああいや、そうじゃないんだ。何というか……あいつの心が元気がないって感じがしたんだ」
ハーツの直感は当たっていた。体力と気力は回復したものの、アルマ自身の憂いは晴れていなかった。再びアルマの悪い癖が出てしまっていたのだ。
そんな中、アナウンスが流れてきた。
〈予選一回目、グループCの参加者はスタンバイをお願いします〉
「あっ、次はハーツさんですね! 頑張ってください!」
「ああ、必ず生き残ってみせるさ」
気合いを入れてハーツは場所を移動する。
「頑張れよー! ハーツ!」
「!」
後ろからアルマが手を振りながら声を上げている。心配はまだ残るが、とりあえずは大丈夫そうだとハーツは切り替えることにした。
♢
真っ暗な空間に転移すると、ハーツの目の前にモニターが映っている。『Hearts VS REX』と。
「レクス……ラテン語で王……どんな奴かはわからないが、やるからには全力で戦うのみだ」
ハーツはリングを指にはめて換装する。カウントダウンがゼロになり、景色が変わる。ハーツの開始位置は、砂漠地帯だった。
「おっ、と……?」
砂漠だと認識すると、急に足が重くなった。仮想空間とはいえ、この辺りの再現度は高い。しかし足を武器にしているハーツにとってこの状況はかなり不利だ。
「……ハズレ引いてしまったな……相手に見つからないうちに移動するか」
とにかく少なくとも砂場ではない場所へ行こうと、ハーツは遠くに見える湖に向かって走りだす。しばらく走っていると、ハーツから向かって南の方角から何か音が聞こえてくる。
「……?」
足を止めたハーツは耳を澄ました。飛行機のエンジンが加速する様な音だ。だんだんとこちらに来るのがわかる。
「何だ……? こっちに向かって来る……?」
対戦相手が何か乗り物に乗ってやって来ているのか。そう思ったハーツは警戒する。
(ここで戦ったらオレの方が不利だ……ギリギリまで粘って姿を確認したら、いきなり戦わず場所を移動しよう)
ハーツはいつでも走れるように態勢を取る。音が大きくなってくる。
「!?」
はっとして空を見上げた。黒い何かがこちらに向かって飛んできている。音もそこから聞こえる。
「飛行機……!? いや、違う……!」
だんだんと姿がはっきりと見えてきた。
あれは乗り物でも鳥でもない。人だ。
その人物の足からは炎が吹き上がっている。滑空してきているのだ。それがハーツの頭上で止まった瞬間、一気に真下に向かって落下してきた。野太い雄叫びと共に。
「おおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
「!!」
蹴られると思ったハーツは跳躍して避けた。砂埃が水飛沫の様に激しく舞い上がる。その砂埃が風に流されて軽い砂嵐と化した。ハーツはなんとか着地し、構えた。目の前にいたのは、両腕に戦闘用アームギアを付け、両脚にたくさんのエンジンを搭載した、黒いアイマスクを着けた青年だった。青年はにやりとハーツを見据える。
「いい反射神経だ」
ハーツは青年の姿と覇気を感じて確信した。彼こそがレクスだと。
そして、彼の正体にいち早く気づいたのが、モニターを見ている祐介だった。
「あの人は……!!」
「何だっ? 祐介、知ってんのか?」
ヴィクトルと純香が次に気づいた。
「健次郎は知らなかったようね。あいつ、殺し屋よりタチの悪い相手よ」
「……そうか、思い出したぞ……!! 五年前、埼玉県内の公立中学で起きた、生徒の大量虐殺事件……その実行犯であり、弱冠十五歳で異例となる無期懲役の重罪が下され、その後逃亡して指名手配となった男……白金
青年の正体を見破ったヴィクトルは息を飲む。
「あの姿、まさか体を機械化したのか……!?」
仮想空間では、ハーツとレクスがお互いを睨み合っていた。
「どうした? そっちから来ねーなら……」
レクスのアームギアが音を立てる。
「こっちからぶちかましてやるぞっ!!」
足からブーストがかかり、一気にハーツとの距離を縮めてきた。
(速い……!!)
レクスのパンチをハーツは左腕で受け止める。激しく火花が散る。なんとか踏ん張れているものの、足場が悪いせいで気を緩めたらすぐ崩れそうだ。ハーツはパンチを受け流し、距離を取った。
(やっぱりここでは相性が悪い……!! ここは追撃覚悟で……)
ハーツは元々目指していた湖に向かって走りだす。
(砂漠を抜け出し、そこから反撃する!!)
自分に背を向けて逃げだしたと認知したか、レクスは激しく憤慨した。
「逃げてんじゃねえぞ、雑魚が!!」
レクスは足からエンジンをかけ、低空飛行でハーツを追う。砂漠の砂が飛沫を上げている。滑空するスピードはかなり速く、ハーツとの距離はわずか一キロメートルだ。レクスの手に光が集まり、いくつかの光弾が放たれる。ハーツは後ろを見ながらそれを回避するが、やはり足場が悪く上手く回避しづらい。
「くっ……!!」
湖のある場所、少なくとも砂場ではない場所までは、まだまだ遠い。ハーツは一旦走るのを止めてレクスに向く。止まったのを見たレクスはにやりと笑い、低空飛行を止めて砂場の上に立つ。
「そうだ、それでいい。てめえに逃げるという選択肢はねえ。俺に会ったうちはな」
「随分と好戦的だな? 目的は勝利だけか?」
「ああ、そうだ! 勝つんだよ!勝って勝って勝ちまくって知らしめてやるんだ! 俺が一番最強だってなあ……!」
レクスの目からは闘志と共に、勝利に対する執着心も見えている。勝つことしか考えてないのはハーツでもわかる。
「……自分が一番強いって思っているのか?」
「当たり前だ! 少なくともここGoDに置いてはなあ! まああいつ、堂島鉄心だけは別格だが、いずれは倒すべき相手だ。いつか必ず最強は俺一人になる。必ずな……!」
ハーツはレクスを鋭く見据える。
「……オレはお前より強い奴を知っている」
「あ?」
「そいつはお前みたいに自分を過信していない。していたとしても、自分だけが最強だなんて一言も言っていなかった。あとは……直感だがこう言える。お前の心は悪い欲に塗れている!それはきっと、強さとは呼べない!」
その強さは偽り。そう聞こえたレクスは、手から激しく炎を爆破させた。
「てめえ……俺が弱いっつったのか?」
レクスはハーツに怒りの眼差しを向ける。
「ああ……少なくとも、オレの知ってるそいつよりはな!」
ハーツは堂々と返した。本当のことだからだと信じて。
「……っ!!」
レクスはギリギリと歯軋りした。
「俺以外が最強なわけねええだろうがああああ!!」
激しい絶叫と共にレクスは低空飛行し、ハーツに向けてパンチする。しかし今度は受け止めはせず、顔を動かして単純に避けた。
「なっ……!?」
油断した隙が見えたハーツは、カウンターの要領でレクスを蹴り飛ばした。レクスは激しく吹っ飛び、砂の山に激突した。幸か不幸か、砂がクッションになったようで大したダメージはなかった。
「てめえ……!!」
レクスを見据えるハーツの目に迷いはなかった。
「ならばっ!!」
何かを決心したレクスは、いきなり真上へ滑空しだした。そして、ハーツに手の平を向けると、激しいレーザー光線を発射させた。
「当たれええええええっ!!」
光線は太く、火力が桁違いだった。光がハーツを飲み込んだ。激しくその場が爆発し、砂が吹っ飛んだ。
「やったか……いや、やったな……!! 明らかに手ごたえがあった……!!」
勝利を確信したレクスはゆっくりと降下した。砂埃と煙が上がっており、ハーツの様子は伺えない。
「はっ! あれだけ受け止めたんだ! 跡形も残ってねえだろうよ……」
そう思っていた時だった。煙から人影が見えてきた。
「!?」
人影は颯爽と歩いている。ハーツだった。
多少ぼろぼろではあるものの、機体の損傷部分はなく、所謂かすり傷という状態だった。
「なっ……!?」
レクスは驚愕していた。あれだけの攻撃を受けてかすり傷など考えてもみなかったのだ。レクスが飛行しながら驚愕しているにも気にせず、ハーツはゆっくりと歩み寄ってくる。
「……ゼハートに感謝していることが一つだけある」
そう言いながらハーツは、ぼろぼろになったマントを脱ぐ。
「オレをここまで頑丈に作ってくれたことだな」
ハーツの脚部が黒い装甲に変化する。
「デストロイヤーモード……ここで終わらせる……!」
何かが来ると気づいたレクスは焦ったのか、光弾を連続で発射させてきた。
「砕けろっ!! 砕けろ砕けろ砕けろ砕けろ砕けろ砕けろ砕けろ砕けろおおおおおおおお!!」
激しく砂埃が舞う。光弾を発射し尽くした時には、ハーツが立っていた場所の様子が見えないくらいに砂埃が舞っていた。
「はあ……はあ……どうだ……今度こそは……」
「理解した。これが“哀れ”、なんだな……」
「!?」
飛行しているレクスの背後に、ハーツの姿があった。
「ジ・エンド……!」
電流が流れる音と共にハーツの蹴りが炸裂した。落雷の音と砂が爆散する音が同時に鳴った。
ハーツは慎重に砂場に降りた。レクスが落ちた場所に深い穴が空いた。雷が落ちた衝撃が原因か、穴の一部と化した砂は固まっていた。その穴の一番奥深くに、レクスはいた。レクスは電流を漏らしながら仰向けに倒れている。ハーツはレクスの様子を見た途端、目を丸くした。
「……すまん。一つだけ訂正させてくれ。哀れなんて言ってごめん。お前もあいつと同じくらい、頑丈に出来ていたんだな……」
「てめえ……!!」
レクスはハーツを激しく睨み返す。
「……でも、悪く思うな。オレにも譲れない理由があるからな。ここでお前に負けるわけにはいかないんだ」
そう言い捨て、ハーツは背を向けて歩きだす。
「このっ……!!」
レクスはなんとか起き上がろうとするが、体が痺れて立て直すことができない。
「待てやごらあっ!! 俺はまだ死んでねえっ!!」
「ルール知らないのか? 死んでなかったとしても、二十秒以上動かなくなれば敗北だ。オレのあの技を受けた奴は、少なくとも二十秒以上は動けなくなる。そうだな……測ったことはないけど、回復するまでには数時間はかかる」
「てめええええええっ!!」
フィールドにブザー音が鳴り響いた。敗北判定が認められたのだ。空中にデュエル終了と勝者の名前が出現した。
勝者──Hearts。
♢
「すごかったです、ハーツさん! 強いなあとは感じてはいましたが、まさかあそこまでとは!」
祐介が興奮気味に饒舌に話している。そんな彼の様子にハーツはきょとんとしている。
「ハーツは強いんだよ! オレが保証する!」
何故かアルマが得意げになっている。
「何故貴様が得意げなんだよ……」
ヴィクトルはやれやれと呆れている。
「でも厄介なことになるんじゃないかしら?」
「何がだ?」
「だってあんた、明らかに因縁つけてるわよ? ほら、あれ見てよ」
純香が指差す方向を辿ると、対戦相手のレクスが戻ってきていた。動けないため、担架に乗せられた上での帰還だった。レクスはギリギリと歯軋りしながらハーツを激しく睨み返している。
「うわー……あれ絶対、本戦でぶっ潰す!! って心ん中で叫んでんだろーな……」
健次郎が純香に隠れながら引き気味に言った。
「悪い男に引っかかっちゃったわねえ?」
純香は何故か嬉しそうに言った。彼から殺気を感じたヴィクトルはハーツに耳打ちをした。
「気をつけろ。奴は指名手配の犯罪者だ」
「!」
ハーツは少し驚いたが、納得もしていた。明らかに普通の人、もとい機械人ではなかったのを感じ取っていたからだ。ハーツにとっては他愛ない相手だったが、それでも実力があるのはわかった。念のためハーツは注意喚起することにした。
「えっと……とりあえずみんなは、あいつとぶつかったら気をつけてな? 一応、強かったは強かったし……」
「おう! わかった!」
「了解!」
「まあ油断はしないでおくわ」
あまり深刻に受け止めてはなさそうだ。
「……あっ、次はケンさんと純香さんですね!」
「いよいよか……!」
「興奮しちゃう……!」
戦えると知った健次郎と純香の目がギラリと光った。いきなり顔つきが変わった二人に、アルマとヴィクトルは若干引いた。
「夏目探偵事務所は曲者揃いと聞いてはいるが、あんな目をする連中なのか……?」
「何だっ? あいつら見たら心がすげービクビクしてきた……」
「あっ! 気をつけてください、二人共! 二人のグループ、グループEは三連戦形式っぽいです!」
「どっちにせよ飽きないってわけだろ?」
「すぐ終わっちゃうのはあれだけど、その分じっくり楽しまなきゃねえ」
明らかに二人は戦いに興奮している。アルマはハーツに小声で話しかけた。
「あいつら、良い奴だよなっ?」
「そうでありたいと信じたいがな……」
「良い人ですっ! 良い人ですからっ!」
祐介が必死に弁護する。
結果──紫吹純香、ストレート二連勝で本戦出場権、獲得。
狩屋健次郎、一戦目は勝利するも二戦目三戦目で惨敗。敗退決定。
帰って来た二人の気分は雲泥の差だった。
「ごめんなさいねえ? お先に失礼」
恍惚とした表情の純香に対し、健次郎はどんよりとした空気の中で隅っこに体育座りしていた。
「げ、元気出せよっ、健次郎! 無事に生き延びてしかも一勝とか、十分やれたと思うぞっ?」
「そ、そうですよっ! 生き延びただけでも立派ですっ!」
なんとか元気づけようとハーツと祐介は必死だ。
「まあそれだけ相手も手加減してくれたってことよ。良かったじゃない、負けて生きて」
純香の悪気ない一言が健次郎の心にぐさりと刺さった。
「純香さん!!」
余計に落ち込んだ健次郎に、ハーツは何と言えば良いかわからない。
「ええっと……お、おいっ、アルマ! お前からも何か励ましの言葉言ってやれよ!」
アルマならきっと良い励ましができると信じたハーツは、アルマに助け船を出す。しかし、肝心のアルマは何故かモニターをじっと見つめていた。
「ア、アルマっ?」
「……えっ? 何っ?」
「誰か探しているのか?」
ハーツもモニターに目を通す。モニターを見つめるアルマの顔は真剣だった。
「……死伝天使か?」
ハーツの小声にアルマははっとし、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
「……会ったかもしれないんだ、そいつに」
アルマは力無くそうつぶやいた。
「本当か!? 特徴はっ?」
「……迷彩のマントに、包帯だらけの腕。腕は……機械のそれだった……」
事前にヴィクトルから聞いていた特徴と見事に酷似していた。
「……あと……」
「あと?」
「……多分そいつ、オレ達と一緒で千年前から生きてると思う」
「!?」
千年前というワードにハーツは息を飲んだ。ありえないと思いつつ聞いてみる。
「何故そう思う?」
「……そいつが言ってたんだ。オレは多くの人間を殺した、人の形の化け物だって……」
それを聞いてハーツははっとした。
(アルマが無心の刃……エルトリアを滅ぼした張本人だってことを知ってるのか……!?)
ヨシタダから真実を言われたことを知らないハーツは躊躇っていた。真実を話すべきか、隠すべきか。前者では確実にショックを受けるだろう。なら隠すべきなのか。迷っていた。
「……アルマ、あのな」
口を開けた時だった。アルマがあっと声を上げた。視線を追うと、モニター近くのサイネージに次の対戦組み合わせが表示されていた。その一組にアルマの名前があった。相手は、ブルーローズとあった。
「ブルーローズ……!!」
「……オレ、行かなきゃ」
張り詰めた表情でアルマは背を向けて歩く。
「アルマ!」
ハーツにそう呼ばれてアルマは止まる。
「……無理は、するなよ?美香を助けたい気持ちは、オレも一緒だから」
アルマは顔だけ振り返る。その表情は困り笑顔だった。再び顔を向けると、振り向かないままハーツに向けてサムズアップサインを送った。どこか暗い感じの背中を、ハーツは見えなくなるまで見送るしかできなかった。
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