28話 黒蠍と白蛇〈前編〉

八月十九日、午後二時半。大阪府警が所有するとある交番が爆破される事件が発生。事の発端は事件当日、現場となった交番にあるが来たことによる。

その日、交番に配属されていた警察は二名。二名共に機械人であった。二名は当時デスクワークの最中だった。すると、入り口から全身が黒で統一された、痩身の男が入ってきた。男の腕には、テディベアらしきぬいぐるみが抱えられていた。男に気づいた警察二人は受付へ行く。


「どうされました?」

「……道端に落ちていました。子供の落とし物かと」


男はぬいぐるみを受付カウンターに置いた。


「ああ、落とし物ですね? ありがとうございます。では、こちらに署名を」


警察の一人が書類を手渡した。


「……二名共にサイボーグか。手を煩わせるほどではないな」


すると、男の足元から何かが出た。エストックの様な細長い棒だ。男は間髪入れずにカウンターを飛び越え、警察二人の首筋に棒を突き刺した。


「!?」


しかしそこは機械人と言うべきか。刺されただけでは何も起きなかった。


「お、お前! 銃刀法違反及び傷害で逮、ほ……」


すると、刺された首筋から黒い液体が急に溢れ、二人は苦しみ喘ぎながら倒れた。始末を終えた男は静かに交番から出た。彼と入れ替わるように、何も知らない一般人女性が入ってきた。


「すみませーん。ちょっと道をお尋ねした…」


直前だった。カウンターに置きっぱなしだったぬいぐるみから、電子音が聞こえた。けたたましくアラームが鳴った直後、交番の施設諸共激しく爆発した。黒く上がる煙をバックに、男は携帯から電話をかける。


「もしもし、終わりました。次はどうしますか?」



「まず最初に、騙すようなことして本っ当すんませんしたっ!」


健次郎が爆弾魔を演じた女性の頭を無理矢理下げながら、自身も頭を下げた。その様子に、椅子に座っていたハーツはきょとんとしていた。


「入社試験とはいえ騙すとなると心苦しくて……!」

「あ、ああ、大丈夫だ。気にしなくていい」

「もし精神的苦痛を感じたのなら、今この場で切腹して謝罪を……!!」

「いやいや! 何で切腹する必要があるんだ!?」

「すみません……ケンさんの悪い癖なので……」

「ちょっと健次郎! 痛いんだけど!?」


女性は苛立ちながらその手を離した。


「じゃあ改めて自己紹介な? 俺は狩屋健次郎。探偵事務所の切り込み隊長だ!」

「“自称”が付くけどね」


女性が真顔で補足をした。


「姉さんっ!!」

「彼女は紫吹純香さん。ここの古株さんです」

「昨日はごめんなさいね? でもまあ、悪い気はしなかったから別に良かったんだけど」

「本当に爆弾魔かと思ったくらい、すごい演技だった……」


すると、健次郎がハーツに小声で話しかけた。


「ここだけの話、実は純香の姉さん、一家全員がマフィアとかヤンキーとかって噂が…」

「根も葉もない嘘吹かしてんじゃないわよ!!」


純香の怒りのアッパーカットが健次郎に炸裂した。かなりのダメージなのかしばらく健次郎は床で苦しくうずくまった。


「ったく、これだからガキは……」

「本当はもう一人いるんですが、今ちょうど出張中でして。来週中には会えると思いますので」

「出張?」

「エルトリアの調査よ」

「!?」


ハーツはぎょっとして肩を震わせた。


「エルトリアの……!? まさか、本国に!?」

「本国なわけないじゃない。あんたなら知ってるでしょ? 四ヶ月前に南極に現れた巨大な大陸。あそこからは特殊な電磁波が大陸から直径五十メートルに広がっていて、機械人以外は電磁波の影響で侵入は不可能。しかしかと言って大陸には帝国が生み出した機械兵がうじゃうじゃいるから、機械人だけで突撃しても返り討ち。未だエルトリアに直接制裁が落ちない訳はそれよ。調査してるのは、エルトリア復活の影響は果たして日本だけなのかってやつ」

「というと?」


祐介が端末を操作し、画像のホログラムを出す。映し出されたのは、エルトリアの機械兵の画像ばかりだった。


「あくまで事務所調べにはなるんですが、実は今エルトリアの機械兵被害が一番多いのが、ここ日本がダントツらしいんです。明確な原因は不明ですが、挙げるとすれば一つ。世界の中でも日本はエルトリアの機械技術に一番浸透しているからではないかと。エルトリアの技術から生み出された機械人が、新しい人種として認められるようになったのもここ日本からですし、エルトリアの旧領地を一番多く保有してるのも日本。おそらくはエルトリア側も、その縁を感じているからかもと」

「ざっくり言っちゃうと、馴染んでいるから一番支配しやすいって理由かもね」


相手はそう理解していたが、ハーツはもう一つ知っていた。エルトリア側にいた際に聞いたことだ。無心の刃、もといアルマがこの地で千年間眠っていたということだ。エルトリアは裏切り者を許さない。故に邪魔なアルマのことも敵視している。


(もしかして、ゼハートの狙いはアルマに関係している……?)

「ま、どっちにせよ傍迷惑だよな! せっかく戦乱の時代が終わって平和になったってのに、またバチバチやりあうとかどーいう神経してんだろーな?」


すると、事務所に設置されている電話が鳴り出した。すかさず祐介が受話器を取った。


「はい、夏目探偵事務所です。はい……はい、ええ、大丈夫ですよ。はい、じゃあ三十分後に。はい、では」

「依頼?」

「はい。調査の依頼だそうです」


電話から三十分後、事務所にセミロングの茶髪の女性がやって来た。応接間のソファーに座らせ、ハーツ・祐介・健次郎・純香の四人で対応した。


「それで、調査をしていただきたいと聞いておりますが、具体的にはどのような?」

「はい。実は私が勤めている会社の近くで、最近怪しい人が屯っているみたいなんです」

「怪しい人とは?」

「全身を黒いコートに包んでいて、顔はよく見えなかったのですが、手に細長い鉄串の様な物を持ってました。私が目撃した時、その人の近くに死体がたくさんあって……」


健次郎が顔を上げて息を飲んだ。


「それはあれね。殺し屋ってやつよ」

「殺し屋……」

「全身真っ黒で細長い物……となると、私の知ってる限りでは一人ね」

「何か知ってるのですか?」

「……おそらくあなた、悪運が強かったでしょうね。その目撃した人、危険人物です……!」


女性ははっとなって硬直した。


「何だ? 有名人なのか?」


何も知らないハーツは疑問を投げかけた。


「全身真っ黒で鉄串を持つ殺し屋と言ったら、もう彼しかいませんよ……ブラックスコーピオン。それが奴のコードネームです……」

「まさかこの日本に来てるとはな……!」


三人の顔が緊張で強張っていた。相手はそれだけ恐ろしい存在だとわかるくらいだ。


「本来ならこういうのは、軍警に掛け合った方が良いとは思うのですが、いかんせん証拠が不十分で……」

「なるほど。現場を見張って証拠を掴んでほしいってことですね?」

「はい。証拠さえあれば軍警は動いてくれるかと」

「……わかりました。我々にお任せください」


依頼を引き受けることになった一同。ハーツにとってはこれが初めての仕事だ。初仕事にしてはかなりハードめだが、請け負ったからには気を引き締めねばとハーツは覚悟した。証拠を撮る用のカメラを準備中、ハーツは改めて疑問を投げかける。


「その、ブラックスコーピオンって言う殺し屋はどんな奴なんだ?」

「超が付くくらいおっかない殺し屋よ。噂じゃマフィアを壊滅させたとかなんとか」

「殺し屋にも色んな種類の方々がいますが、

その中でも彼は、毒殺に特化した殺し屋です」

「毒殺……」

「しかも機械人が十秒で即死の特別な毒よ」

「機械人を十秒で……!?」

「なのでハーツさん。いくらあなたが戦えるとしても、彼との戦闘はおすすめできません。むしろ逃げるのを推薦します。今回の調査もあくまで証拠写真を撮ること。それだけを頭に入れておいてください」


祐介の深刻な表情に対し、ハーツはこくりと頷いた。


「私も行ってやりたいとこだけど、あいにく別の仕事が入っちゃってねえ。けどあんたはともかく祐介や健次郎じゃちょっとねえ〜……」


純香ははあと呆れながらため息をつく。


「ちょっ、姉さん大丈夫っすよ! 切り込み隊長として、無事に生き残ってみせますっすよ!」

「そう? ま、せいぜい骨は拾ってあげるわ」

「姉さんそりゃないっすよ〜!!」

「と、とにかく戦わない方針だなっ? ああ、理解した!」


戦うのは凶だと理解したハーツは、早速祐介と健次郎と共に現場へ向かった。依頼主の女性が案内してくれるとのことだ。


「まさかブラックスコーピオンがこの近場で殺しやってたとはな……」

「相手は最強の殺し屋三人の内の一人ですからね」

「最強の殺し屋三人?」

「殺し屋の中でも特に、軍警ですらも手に負えないほどの実力を持った三人ですよ。先ほどのブラックスコーピオンに加えてあと二人。彼らはそれぞれ、ホワイトスネークとブルーローズと呼称されています」

「なあ、その名前って本名なのか?」

「いえ、コードネームです。僕の知る限りでは、有名所の殺し屋は本名を悟られぬよう、基本的には色と固有名詞を組み合わせたコードネームで呼ばれるそうです」

「ブラック、ホワイト、ブルー……あ、本当だ」

「着きました、ここです」


女性が立ち止まった場所へ三人は向かう。向かった場所は路地裏であった。曲がった先は行き止まりだった。


「袋小路……確かに殺しをするにはうってつけの場所ですね……」

「ああ。あっちから来られたら、逃げ場所はなくなってしまうからな……」

「……本当にここで殺し合いがあったのか?」


健次郎が訝しげにそう聞いた。


「ケンさん?」

「話じゃここには死体があったんだろ? けどおかしいぜ……ここ、死臭どころか血の匂いすらしねーけど?」

「!」


祐介がはっとなった。


「匂い?」


ハーツは匂いを嗅いでみるが、そういうのは特に特化していないのかよくわからない。


「……錆びついた匂い以外は特には」

「いえ、ハーツさん……言い忘れていましたが、ケンさんの嗅覚は人の倍以上に敏感なんです……! なのでケンさんが言ってることは…」

「なるほど。匂いで看破されましたか……さすがは軍警嘱託員。脱帽ものです」


すると、女性がシャツのボタンを外し、グラサンを着けると髪を引っこ抜いた。茶髪のセミロングから金髪のシニヨンに変化した。どうやらウィッグだったらしい。


『!?』

「失礼ながら、訳あってあなた方を嵌めさせていただきました」


女性はポケットからスマホを取り出し、どこかへ電話をかけた。


「完了しました。すぐに向かってください」


ただならぬ雰囲気だと感じ取った三人は、臨戦態勢を取った。女性は持っていた鞄から何かを取り出す。それは二丁のマシンガンだった。


「死伝天使様の命により、ここで死んでいただきます!!」

「金髪に銃火器……まさか!?」


女性は真顔でマシンガンをぶっ放した。


「くっ!!」


ハーツは二人の前に立ってバリアを出す。バリアが銃弾を防いでくれたため、三人に傷はつかなかった。


「ハ、ハーツさんっ!」

「おまっ……そんなチート能力あったのかよ!?」


バリアの性能に気づいた女性は、一旦乱射を止めた。


「光化学反射バリア……なるほど。あなたがエルトリアの裏切り者ですか。三度に渡って皇帝を裏切った懐刀。名前は確か……ラルカ、でしたね」

「違う! その名は捨てた! 今のオレはハーツだ!」


そう名乗り出たと同時に、ハーツはある事実に気づく。


(エルトリアのことを知っている……!? まさか、この女は……!!)

「お前、エルトリアに与しているのか!?」

「いいえ。ですが訳あって、精神的にそうさせてもらってます」

「精神的に……!?」

「隠れエルトリア派ってことかよ!? 噂には聞いてたけどマジもんがいたのか!?」

「二人共っ!! 戦っては駄目ですっ!!」


祐介が必死に叫んだ。


「その人は……ホワイトスネークですっ!!」

『!?』

「そこまで存じ上げていましたか。さすがは情報担当ですね。しかし……」


女性、ホワイトスネークは銃弾を装填する。


「この状況でどう戦わずにいられるのです?」


構えるホワイトスネークに対し、ハーツと健次郎は互いを見つめて頷いた。


「……祐介。俺とこいつで時間を稼ぐ。あいつの注意を引きつけている内に、お前だけでも逃げて軍警に知らせろ」

「で、ですが……!」


ハーツは祐介の肩に手を置いた。


「!」

「大丈夫だ。言っただろ? オレも戦える」

「ハーツさん……!」

「あの女性には聞きたいことがあるんだ。だから殺しはしない。もちろんオレも死なないように頑張る。だから、信じてくれ」


ハーツは指輪をはめ、換装する。健次郎は懐から短刀を取り出し、構えた。


『行け!!』


これは何を言っても聞かないパターンだ。そう結論づけた祐介は覚悟を決め、唯一の逃げ道である前方の角へ向かって走る。


「愚かですね」


ホワイトスネークは祐介に向かってマシンガンを向ける。しかし、一瞬背後より殺気を感じた。


「!!」


すぐさまホワイトスネークはマシンガンを顔の前に掲げる。健次郎の短剣がマシンガンの銃身と当たる。


「悪く思うなよっ!!」


ハーツが跳躍し、回し蹴りを食らわす。吹っ飛ばされはしたもののすぐに受け身で着地し、ホワイトスネークはマシンガンを乱射させる。ハーツは壁伝いに走って銃弾を避け、壁を蹴って再び回し蹴りを繰り出す。ホワイトスネークは銃身でそれを受け止める。激しい戦闘が繰り広げられる中、なんとか潜り抜けた祐介は、長い路地裏の道を走る。


「ここを抜ければあと少しだっ……!!」


光が見えてきた。希望の様に輝くその光に、祐介は心から安堵した、はずだった。


「希望は絶望と表裏一体。それが世の常だ」


誰かの声が聞こえた。と同時だった。祐介の足に向かって何かが通り過ぎた。直後、祐介の義足の左足が、激しい音と共に破壊された。


「ああああああああああっ!!」


祐介の苦痛の絶叫を聞いた三人は、戦闘を中断して路地裏の角へ向かった。


『!?』


ハーツと健次郎の視界に映ったのは、片足を破壊され、苦しそうに地面に倒れ込む祐介の姿だった。


「祐介っ!!」


祐介のそばには、黒髪に黒コートを着た男がいた。男の手にはエストックがあった。


「この程度で破壊されるとは……なんとも脆い義足だな」


男の目は冷たく祐介を見下ろす。


「全身真っ黒で、鉄串……!!」


ハーツは状況を把握すると激しく喘いだ。


「てめえっ!!」


祐介を傷つけたことに怒った健次郎は、あまりの怒りに相手がブラックスコーピオンだと気づかないまま、突進してきた。


「待てっ、健次郎!!」


ハーツの制止も聞かず、健次郎は短剣を振りかぶった。しかし、ブラックスコーピオンにそれは届かず、姿が一瞬にして消えた。


「!?」

「遅い!」


背後からブラックスコーピオンが現れ、エストックを健次郎の右肩に刺す。


「がっ……!?」

「健次郎っ!!」


健次郎は肩を抱いて膝から崩れ落ちる。


「これくら……い……!?」


すぐに立ち上がろうとした。が、健次郎はそのままうつ伏せに倒れた。


「案ずるな。麻痺毒故死にはしない」

「お見事です、ブラックスコーピオン」


マシンガンを構えながらホワイトスネークがそばに近寄った。


「もう勘づいてはいるでしょうが、彼が死伝天使様が仰っていたラルカです」

「では、手短に終わらせよう」


自身に向けて異常な殺気を立たせる二人に、ハーツは一瞬たじろいだ。


「祐介……健次郎……っ!!」

「……せめてもの情けというやつだ。貴様に選択肢を与えてやろう。そこにいる死に損ないのために死ぬか、自分のために逃げるか。どちらか選べ」

「!?」

「いいんですか? 死伝天使様からは見つけ次第倒せと命じられていますが?」

「しかし殺せとは命じてはいないだろう? 何、拙のただの戯れというやつだ。これくらいあの方も許してはくれるだろう」


ここで逃げてしまえば、誰かに助けを求めることはできる。だがそれは祐介と健次郎を見捨てることになってしまう。逃げれば残った二人は確実に殺されるだろう。しかしかと言って前者を選び、万が一自分も死ねば彼らを止められる者はいなくなる。双方共にデメリットがでかい。


(どうする……どちらを選ぶべきだ……!?)


ある意味究極の選択に、ハーツは酷く悩みだす。


「ハーツ、さん……っ!!」


遠くで祐介と健次郎が必死に呼びかけてきた。


「僕達なら大丈夫です……っ!! それより、戦ってはなりません……!! いくらハーツさんが強くても、その二人相手では……っ!!」

「俺達のことはいい……っ!! お前だけでも逃げて、早く軍警に…」


すると、ホワイトスネークが一発健次郎に向けて発砲した。顔面すれすれだった。


「失礼。私達はこう見えて気が短い方です。あまり焦らすようであればこの場で殺します」

「っ!!」


切羽詰まった状況にハーツは顔を歪めた。


(どうする……どうする……!?)


──あなたの心を信じなさい、ハーツ。


いつか自身の背中を押してくれたあの少女の声が聞こえた気がした。


「心を、信じる……」


ハーツは自分の胸に手を当て、遠くで倒れ伏している祐介と健次郎を見据える。


「……オレには、まだわからない」

「?」

「オレはまだ仕事に就いたばかりだ。だから事務所の人間がどうとかなんて、まだわからない。でも、一つだけわかることがある。そこにいる二人が苦しんでいる姿を見たら、心がひどく叫ぶんだ。助けてやりたいって!!」


そう言うとハーツは瞬時に二人を擦り抜け、祐介と健次郎の前に立ちはだかる。

「オレは思った!! 二人は大事な人なんだってな!!」

「ハーツさんっ!!」

「馬鹿野郎っ!!」


ホワイトスネークがハーツに向けてマシンガンを乱射する。ハーツは跳躍して避け、壁に足を付けて飛び出す。ブラックスコーピオンはエストックを構え、突き出されたハーツの足とぶつかる。やはり当然と言うべきか、祐介の義足とハーツの足は比べものにならないくらい硬度が明らかに違っていた。


「さすがはエルトリア製のアンドロイド……! 硬度が桁外れだな……! だが!」


ブラックスコーピオンはエストックを強く握り、ハーツに向けて連続で突き技を繰り出す。突き技の何撃かがハーツにヒットし、ハーツの頬や腕、足に掠った。


「おおおおおっ!!」


しかしながらハーツは怯まず、再びブラックスコーピオンに向けて蹴りを繰り出す。ブラックスコーピオンを左腕でガードする。弾かれたハーツは受け身で着地する。満身創痍ながらもハーツは怯むことなく、二人を見据えながら構える。その表情は凛々しくたくましさを感じる。ハーツは後ろに倒れている祐介と健次郎の様子をチラリと見る。二人は心配そうな表情でこちらを見ている。


「……アンドロイドにも人を心配するという

心が存在するとはな。日々進歩とは恐ろしいものだ」

「ですね。しかし、我々には関係ないかと」


再び二人はそれぞれの武器を構える。一触即発の空気にハーツは警戒した。

と、その時だった。突然ハーツとブラックスコーピオン、ホワイトスネークの間に何かが落ちて地面に刺さった。そこから炎が湧き上がった。


『!?』


双方は後退し、周囲を警戒する。


「何だ……!?」

「よく頑張ったな! もう大丈夫だ!」


炎の中から男性の声が聞こえた。炎が収まり現れたのは、ミリタリージャケットに二本のマスケット銃を背中に背負った、黒髪の男性だった。

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