11話 残酷セレナーデ

 アルマ退院の翌日の朝、シェアハウスの予定を書き込むホワイトボードに何かが書かれているのを、朝一番に起きた穂乃果が黙認した。


「あら? 何か書いてある。えっと……きようは、とつくんに、いつてきます。あるま」


 拙い字と名前から、アルマが書いたと穂乃果は察知した。


「あっ、これアルマ君? でもこれ何て読むのかしら……? きようは、とつくん……あ! “今日は特訓に行ってきます”か!」


 ♢


 その文字通り、アルマは特訓をしていた。軍警のシミュレーションルームで。

 仮想の機械兵数体を相手に、アルマはたった一人で戦っている。


「珍しいな。アルマが自ら要請するなんて」


 操作室から誠がモニターを覗き込む。その様子を、ヴィクトルとイサミが観察していた。


「今朝未明にいきなり僕に連絡してきたんです。特訓するから部屋を貸してくれと」

「ふむ……」


 モニターの中で拳を振るう彼は、鍛錬というよりはどこか八つ当たりなようにも見えていた。それを感じ取っていた誠は思案顔を浮かべる。


「……少し荒れてるな」

「やはりそう見えますか」

「機械人の自分でもわかる。あれは修練というより、憂さ晴らしだろう」

「さすがにこのままではな……勝利、頼めるか?」


 やはり自分かとヴィクトルはため息を漏らす。


「……イエス、マイマスター」


 ヴィクトルはモニターに背を向けて、そのままシミュレーションルームへ移動した。

 ちょうどその頃、アルマの目の前にはホログラムで出来たタコの様な機械兵がいた。弱点らしきランプが剥き出しになっている。アルマは左手を換装させ、そのランプに目がけて拳を突き出す。


「おおおおおおおおっ!!」


 しかし、突き出した拳を受け止めたのは、ヴィクトルだった。ヴィクトルが右手でアルマの左手を受け止めたのだ。


「あっ……!?」

「拳に迷いがある。それでは威力が半減するぞ」


 操作室のイサミが察してくれたのか、ルームのシステムが停止した。


「……どうした? 病み上がりにしては随分と弱々しいじゃないか」

「……別に」

「あの少女と何かあったか?」

「!」


 図星を突かれ、アルマは動揺の色を見せた。


「……ちょっと、泣かせちゃっただけだ」

「ちょっとだと? その割には深刻そうだが?」

「別にいいだろっ!」


 思わず出た苛立ちの声。ヴィクトルはやれやれと肩を落とす。


「……らしくないぞ、貴様。僕の知ってる貴様はもっと馬鹿みたいに素直だったぞ」


 捨て台詞気味にそう言い残し、ヴィクトルはルームから出ていった。

 結局、思うように訓練できなかったアルマは、一度休憩所で休むことにした。アルマはため息をつきながら顔を見上げた。


「大空殿と何かあったのか?」


 そこへ、イサミが通りかかった。ヴィクトルと同じ質問に、アルマは言葉を詰まらせる。イサミはアルマの隣に座った。


「詮索はしない。だがあまり引きずらないでほしい。問題があるのなら即時に解決した方がいい。それは、話すだけも含まれる」

「!」

「……自分に解決できるかはわからない。良ければ話してくれないだろうか?」

「……」


 アルマは自身の左手で右手を握りしめる。


「……強くなりたいんだ。もうミカをこれ以上悲しませないように。そのためにはもっと敵を倒して、もっと、もっと……」

「強くなれば、大空殿は喜ぶのか?」

「だって、強くなれば傷つくこともないし……」

「傷つくことはどんな時でもある。どんなに強くなってもだ。戦う者であればなおさらな」


 イサミは静かに瞑想する。


「だが、傷つくことは罪ではない。その傷が名誉となることだってある。新たな発見に繋がることもあるだろう。おそらく大空殿はわかっていないのだろうな。傷つくことを、恐れているのかもな」

「それは当たり前だ! だってミカは…」

「人間も機械人も関係ないことだ。理由はわからんが、大空殿は傷つくことを極度に避けている節があるようだな。だが、生きていれば傷つくことは幾度もある。それを少しでも理解してやればいいのでは?」

「理解って、どうやったら……」

「そこはアルマ殿次第だ。アルマ殿が考えて示した方が良い」


 イサミはすっと立ち上がる。


「守りたいと豪語したからには、ちゃんとその責任を持つべきだ。それはもちろん、つらい事情を伝えることもな」


 そう言い残してイサミは去っていった。


「……難しいことはわかんねーよ」


 アルマは小さくつぶやく。すると、前に誰かが立っている。


「?」


 顔を上げると、そこにはヴィクトルがいた。


「ヴィク……」

「その名で呼ぶな!」


 ヴィクトルはアルマの後ろ側に座った。


「……貴様はあの少女をどうしたい?」

「どうってそりゃ……守りたいよ」

「何から?」

「泣かせるやつから」


 ヴィクトルは呆れたようにため息を吐く。


「曖昧すぎるぞ、貴様。もっと具体的に説明しろ」

「具体的にって言われても……ミカは優しくて良い奴なんだ。だから、そいつを笑顔にしてやりたい。泣かせるようなことはしたくないんだ」

「……」


 ヴィクトルは腕を組む。


「お前にはいねーのかよ? 守りたい奴とか」

「……僕が守るべきものはただ一つ。全ての敵から兄上を守ることだ」

「兄……マコトのことか?」

「兄上の壁となるもの、排除しようとするもの、害なすもの、それら全てを払うのが僕の使命だ。そう……あの日からそれは変わらない」


 ヴィクトルは瞑想しながら語り始めた。


「僕は幼い頃、兄上に守られてばかりだった。臆病で泣き虫だった僕を、兄上はいつも優しく守ってくれた。このままじゃ嫌だと思っても、なかなか変えられずにいた、そんな時だ。当時僕をいじめていたいじめっ子達が、僕を氷の張った川に落とした。兄上は身を張って僕を助けてくれた。僕を庇ったがために、兄上はひどい熱にうなされた。僕は酷く後悔した。何故兄上だけこんな目に遭わなければならないのかと。あの日から僕は固く誓った。兄上を守れる自分になりたいと。そのためなら人をやめても悔いはないと。それが僕が十四の時だ。サイボーグに改造されたその後も色々あったが、今は自分の在り方に納得している。民間人を守り、そして兄上を守る。そのために僕は戦うんだ。これは誰に何を言われようが変わらない。たとえ、兄上から止められたとしても」

「誰に何を言われようが……」

「……貴様があの少女を守りたいと言うのなら、確固たる信念を持ってやってみせろ。たとえあの少女が必死に止めようとしても、止められない強い執念みたいなやつを」

「……悲しませてしまうかもなのに?」

「だからこそだ。本当に守りたいものがあるのなら、嫌われてでも守り通すのが筋だ。まあ、そう言っても貴様は嫌なんだろ? 貴様は馬鹿だから嫌われたくないって素直に思っているんだろ? 馬鹿にありがちな主張だな」

「さ、さっきから聞いてりゃ馬鹿馬鹿って…」

「馬鹿は馬鹿でも、馬鹿正直と言う言葉がある。そんなに嫌われたくないのなら、貴様の率直な思いを話してやれ。貴様のその素直なところ……僕は嫌いじゃないから」

「!」


 初めてヴィクトルから聞いた評価に、アルマの胸が熱くなった。


「それに、一人で抱え込むなとあの時僕に言ったのは貴様だろう。言い出しっぺの貴様がそうなってどうする?」


 すると、ヴィクトルはアルマの服を掴み、無理矢理立ち上がらせた。


「あっ、おいっ!」

「……そんなに強くなりたいのなら、協力してやれないこともない。ただし、今度はちゃんとした鍛錬として、だ」

「えっ……」

「言っておくが僕が指示する鍛錬は優しくないぞ。守りたいものがあるならそれくらい覚悟しておけ」

「!」


 ヴィクトルが協力してくれる。そう感じたアルマは嬉しくなった。ずっと強張っていた顔が、やっと綻んだ。


「ヴィクってやっぱり良い奴なんだな!」

「うるさい」


 ♢


 アルマが特訓で軍警に行っている頃、美香は変わらず学校へ行っていた。キカケンの部室に行った際、環が今日はアルマがいないことを嘆いており、美香ははにかむことしかできなかった。

 そんな時だった。穂乃果から連絡が来たのだ。


「えっ? ちぃちゃんを保育園に迎えに?」

〈そうなの。康二さんがね……〉


 話を聞けば、どうやら康二が職場で階段を踏み外して怪我をしたらしい。(ちなみに前日の二日酔いとは関係ないとのこと)幸い大した怪我ではなかったが、落下したショックが原因か、義足が壊れてしまったそうだ。今は怪我の治療がてら、かかりつけの技師がいる病院に行っており、穂乃果はその付き添いで行っているとのこと。


〈明里は部活で連絡が取れないだろうし、おじいちゃんはお店だし、ルカ君もさっき電話したら仕事が長引くかもって断られちゃってるのよ〉

「……アルマ君は?」

〈アルマ君はちょっと難しいわ。今出かけてるっぽいし、何よりまだ携帯を持たせてないでしょ?ごめんね? 頼まれてくれるかしら?〉


 そんなわけで、美香は千枝が通う保育園へ向かい、千枝を迎えに行った。帰る際、千枝はご機嫌できらきら星を歌っていた。楽しそうな彼女に美香の頬が緩む。


「ちぃちゃん、それきらきら星?」

「うん! 今日習ったの! みかちゃん、知ってる?」

「……うん、知ってるよ。私もちぃちゃんぐらいの時に聞いたんだ」


 千枝の手を握りながら、美香は景色を眺めていた。


 そんな時だった。前から女子達が楽しそうに笑う声が聞こえてきた。


「……えっ? えっ!? 嘘!? あっねぇ、ちょっと!! あれってまさか、大空美香じゃない!?」

「えっ、マジ!? あっ、ホントだ!」


 その声を聞いた途端、美香の体から血の気が引いた感覚がした。二度と聞きたくなかった声そのものだった。

 制服こそ違っていたが、間違いなく彼女達、かつてのいじめっ子達だった。


「……あら、お久しぶりね? 大空サン」

「……」


 美香は千枝の手を握りながら震えていた。


「みかちゃん?」


 千枝は美香の顔を見ていた。


「びっくりしたわ! 中学を辞めてからは音沙汰どころか風の噂すら聞いてなかったから、どこかで野垂れ死んだのかと思ったわ。あんな状況だったのによく生きられたわね?その子妹さん? へえ~、妹がいたのね。こんな時間にお迎えか何か? いいご身分ね。その制服、学校もどうせ大したことないでしょ? だってあんた中学中退だもの。あんたみたいな陰キャラが普通の高校に通えるわけがないし。どうせならこのままそこも辞めたら? ってゆーかいっそのこと……」


 次に放った台詞が、美香の胸に深く刺さった。


「あんたなんて死んじゃえばいいのに」

「……っ!!」


 無慈悲に刺さるいじめっ子達の笑い声。美香は顔を真っ青にしながら、千枝を引いて走りだした。


「みかちゃんっ? みかちゃーんっ?」


 千枝には何が起きたかわからず、半ば引きずられる感じで美香に連れられた。


(どうしてあんなこと言われなきゃいけないの? 知ってるくせに、知らないわけないのに……私が一体何をしたって言うの? 誰か、誰でもいいから教えてよ──!!)


 ずっと走っていると、やがてシェアハウスに着いた。シェアハウスに到着するまで、終始美香の表情は暗かった。


「みかちゃん……?」


 千枝は美香の様子を伺っていた。


「あっ、あれって……」

「ん? あ、いた! 千枝ー! 美香ちゃんも一緒だ! おーい!」


 ちょうどその時、明里とルカが帰ってきた。明里がこちらに向かって手を振っている。


「ねーちゃーん!」


 千枝は嬉しそうに駆けだし、明里に抱きついた。


「おかえり」


 明里は優しく千枝を抱き上げる。


「美香ちゃんもおかえり」


 しかし美香は反応せず、うつむいたままだ。


「美香ちゃん?」

「……」


 二人がこちらを見ているので、とりあえず美香は顔を上げた。


「……ごめん。私ちょっと用事があるんだ。先に帰っててくれないかな?」

「えっ? ……うん、わかった!じゃあお姉ちゃんに遅くなるって伝えておくね!」

「うん、ありがとう」


 美香は寂しそうに笑いながら二人に背を向けて走っていった。


「……嘘だね」


 ルカがそう低くつぶやいた。


「え?」

「用事なんて嘘だ。絶対何かあったよ」

「えー? そうかなー? 私はわかんなかったよ? 千枝、一緒だったよね? 何か知ってる?」

「んとねー……なんかね? 金髪のおねーちゃんに会ったら、みかちゃん変になったの。ちぃちゃん見たもん」

「金髪のお姉ちゃん? はっ!? まさかたちの悪いギャルの人に絡まれてしまったとか!? わー! だとしたら大変だー!」

「……そうかな? その割には深刻そうだった。オレ、美香のこと穂乃果からしか聞いたことないけどさ、絶対訳ありだよ、あれは」


 ♢


 電車が勢いよく走り去ると、踏み切りのバーがゆっくりと上がった。美香はその踏み切りを見つめていた。その瞳は、かつて目覚めたばかりのアルマの目と全く同じだった。周りに人は一人もいなかった。美香はゆっくりと歩き、バーとバーの間で立ち止まった。やがて、カンカンとサイレンが鳴り、バーがゆっくりと下がった。


 ──私のせいで誰かが傷つくなら、いっそのこと、もういなくなろう。


 遠くから電車が走る音が聞こえてきた。美香は静かにその音を聞いていた。やっと楽になれる。そう感じていた。ガタンゴトンと勢いよく電車が通り過ぎた。


「……あれ?」


 気づけば美香は、踏み切りの外にいた。轢かれずに済んだのだ。


「……何で?」


 美香はすとんと膝から崩れた。


「もういいのに……もうどうでもいいのに……私、自殺すらできないの……?」


 その時だった。どこからか爆発する音が聞こえた。


「……?」


 遠くで火の手が上がっている。何か事件があったのだろうか。


「……ああ、ちょうどいいかも」


 美香は爆発音がした先へ歩きだした。


 ♢


 爆発音がした場所の近くでは、大勢の機械兵が縦横無尽に飛び回っていた。その中心にいたのは、先日キューピッドがベーちゃんと呼んでいたあの化け物だった。しかしその背中にいたのは彼女ではなく、扇子を持った黒髪の女性だった。女性は悲鳴を上げる人々を見下ろして不敵な笑みを浮かべていた。


「うっふふ! 絶景とはまさにこのことね! 見ておられますか!? ゼハート様っ! このレイジュ、ゼハート様のために新たに領地を広げてみせましょう!」


 化け物が道路を激しく抉りながら進む。その周辺にいる機械兵達も連なるかのように周囲を攻撃する。


 機械兵達の行進から少し離れた場所に、軍警の車が到着した。急スピードで走り、急速に速度を落とした。車からアルマ、ヴィクトル、イサミが出てきた。


「これはひどい……!!」


 荒れ果てた街並みにヴィクトルは言葉を詰まらせる。


「イサミは避難指示を! なるべく手短に頼む!」

「了解した!」

「オレはっ? 何すれば良いんだっ?」

「貴様は機械兵を! 人命救助は僕がやる! 貴様はただ敵を倒すことだけを考えろ!」

「わかった!」


 ヴィクトルはアルマとイサミと別れ、襲撃で崩れた瓦礫の下敷きになった人などの救助を始めた。すると、イサミの元に無線が入る。


「こちらイサミ! はい、はい……了解した。アルマ殿。敵を駆除するならまずは西へ行け。西の地下鉄に反応があるそうだ」

「地下鉄だな! わかった!」

「健闘を祈る!」


 アルマは地下鉄があるとされる西へ走る。渋谷方面と書かれた地下鉄入口に着くと、イサミの指示通り、入口のすぐ近くに大量の機械兵が待ち構えていた。覚悟を決めたアルマはチョーカーに触れ、パワードスーツに切り替えた。アルマが敵だと反応したのか、機械兵達が一斉にアルマをロックオンする。


(まだ全快したわけじゃない……だからまた無茶しちまうかもしれない……)


 アルマはまだぎこちない左腕を抱えた。


「けど……だとしてもっ!!」


 それでも戦うとアルマは自分を奮い立たせ、階段から飛び降りた。


 ♢


 一方、すでに避難が完了した街の一角で、美香はゆっくりと歩いていた。路地の至る所で銃撃やら機械音が響いている。周りは瓦礫で散らばっていて、建物の一部も今にも崩れそうになっている。


「……誰かいないかな」


 虚な目で美香は周囲を見渡す。強盗でも良い。テロリストでも良い。なんなら機械兵だって良い。自分を殺してくれるなら、何だって良い。


「……何でも良いから、早く私を死なせてよ」


 あてもなくふらふらと歩いていた時だった。どこからか喚き声が聞こえてきた。


「ちょっ、誰か助けてよっ!!」

「足が痛いーっ!!」

「……!!」


 美香の目の前にいたのは、瓦礫の下敷きになったいじめっ子達三人組だった。三人は必死になって瓦礫から出ようとジタバタと抗っている。しかし、彼女達の上にある瓦礫は少なくはなく、誰かの手助けがないと脱出は不可能だ。美香の前ではあんなに堂々としていた三人が、今では見るに堪えないくらいに苦しそうだ。

 すると、主犯格の少女が美香に気づいた。少女は涙目でこちらを見て叫んだ。


「助けてっ!!」


 その言葉を聞いて、美香の脳裏にあの時の光景とあの言葉がフラッシュバックする。


 ──アンタナンカ シンジャエバイイノニ……!!


 美香の中から、今まで沸いたことのない何かが、一気に火山の噴火の様に湧き出た。それは決して良いものではない。どす黒く、ぐちゃぐちゃなものだった。


「……何言ってるの?」


 発したその声は、表情以上に凍りついた響きがあった。


「え……?」


 三人は呆然と美香を見上げる。


「今更都合が良いと思わないの? 私をいじめて、お姉ちゃん殺して、私の人生を滅茶苦茶にして、しかもそれを悪びれることなく楽しそうに笑ってたよね? そんなあなた達を私が助けると思ったの? 冗談でも笑えないよ。あんたなんか死んじゃえばいい? その言葉、そっくりそのまま返すよ。あなた達が死ねばいい」


 アルマはもちろん、シェアハウスや学校の友人にすら決して見せない冷たい瞳。今の美香は、アルマが大好きだと言い張る優しい彼女ではなかった。そんな冷たい彼女を見て、三人はかーっと顔を真っ赤にした。


「何よあんたっ!! 助けてって言ってんのに!!」

「姉貴がいなきゃ何にもできないグズのくせに!!」

「人でなしっ!! あんたそれでも人間かよ!!」


 ぎゃあぎゃあと怒りに喚く三人を、美香は冷たい表情で見下ろしていた。そして今になって気づいた。この人達は口だけで大したことない。いざ自分が不利になれば自分を擁護する。一言で言い表すならこうだ。救いようのない雑魚。それだけだ。

 その時だった。どこかが爆発した。と同時に、美香の背後からおそらく二トン級の大型トラックが飛んできた。明らかにこちらに落ちてくる。避けられない。


(……ああ、これでいいんだ。この人達と一緒なのは癪だけど、もうどうでもいいや……)


 トラックは激しく落下し、土埃を巻き上げたのだった。

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