7話 ファーストコネクト
機械兵がいるとされる現場に向かって、軍警所有のヘリは飛ぶ。その中でアルマはヴィクトルとイサミと共に状況の説明を聞いていた。空中にモニターが映されており、被害状況が事細かに記録されている。
「開発地区北エリアにて確認されているのは、R9タイプの百年物とされている。この機械は元々山などの野焼きに使用されているため、火炎放射以外の攻撃手段はないはず。が、これを見てほしい」
イサミが端末を操作すると、機械兵の全貌が映し出された。その機械兵は火を噴射しながら、体から無数のドリルを回している。異形とはまさにこのことだろう。
「これがR9だとっ? まるで改造されたみたいじゃないか」
「百年物に似てはいるが、明らかに改造されている。おそらく、エルトリア側によるものかと」
「千年前の亡国め……一体何を企んでいる」
「すでに周辺住民の避難警告は完了。しかし、逃げ遅れている人命が数人。対してターゲットは5体。ターゲットの打破を急いでくれ」
「人助けしながら敵をぶっ飛ばせばいいんだな! 機械兵のことは任せてくれ!」
自信たっぷりなアルマにイサミはふっと頬を緩めた。
「随分自信満々だな。だが嫌いじゃない。その意気で対処してもらえると助かる」
「イサミ……」
ヴィクトルは気に入らないのかため息をつく。
「気持ちはわかる、副官殿。だが自信なく怯えて挑むよりはマシだと自分は思うのだが?」
「ま、まあ……ビクビクしてるよりはいいが……」
「別に副官殿を否定はしない。しかしたまには彼の様にするのも悪くはない。少なくとも自分は嫌いではないぞ」
「イサミは良い奴なんだな!」
すると、爆発音が聞こえた。気になったアルマ達三人はヘリの窓から外を見る。東の方の建物から煙が上がっている。どうやらあそこかららしい。
「まずいな……かなり進行している……」
「……!?」
アルマが何かに気づいた。視界のレンズが拡大され、建物の近くに寄った。すると、ベランダに誰かがいる。子供のようだ。
「あのビル! あそこに子供がいる!」
「何!?」
イサミはヘリのドアを開け、アルマが見た場所をレンズサーチして拡大する。確かに子供がうずくまっている。
「……本当だ! 逃げ遅れたのか……!」
急いでアルマはヘリの操縦士に話しかける。
「ヘリをあそこまで近づけれるか!?」
「無理言うな! あそこは煙が多い! 近づけるのは危険すぎる!せめてヘリポートに着地してからでも……」
「できるだけでいいんだ! 頼む!」
操縦士は煙が上がっているビルにヘリを近づける。子供がいるベランダ近くまで来たが、ヴィクトルが言っていた通り煙が多すぎて近寄れない。
「これ以上は無理です!」
「十分だ!」
アルマは開いているドアから飛び出した。
「お、おいっ!?」
「アルマ殿っ!?」
ヘリからベランダまでの距離は推定二キロだが、難なくアルマは飛び越え、ベランダまで着地した。ベランダには男の子がうずくまっていたが、アルマを見た途端に泣きじゃくって抱きついた。
「よしっ、よく頑張ったな! もう大丈夫だ!」
安心したのも束の間、部屋が爆発した。あまり時間がない。
「アルマ殿!」
ヘリが再びベランダに近寄ってきた。
すると、イサミがベランダに向かって何か銃の様な物を発砲した。ベランダに紐に繋がれた錨の様な物が落ちた。おそらくこれを掴んで脱出するのだろう。
「しっかり捕まってろよ!」
「うん……!」
アルマは男の子をしっかりと抱きしめ、錨を握った。準備ができたのを確認すると、イサミは銃に付いている小さなレバーを引いた。すると、紐が勢いよく引っ張られ、アルマと男の子を引き寄せた。ふわりと宙を舞い、そのままヘリの中へ入った。
「独断専行については後で話す! とにかく、無事で何よりだ……!」
イサミは二人の無事にほっとした。アルマもなんとか救助できたことに安堵し、男の子の頭を撫でた。
すると突然、ヴィクトルがアルマの頭を殴った。
「痛っ!?」
「貴様、馬鹿にも程があるだろう!! あんな危険な状況に自ら飛び込む馬鹿がいるか!!」
「だからってほっとけるわけねえじゃねーか! お前は泣いている子供を見捨てるのか?」
「……状況次第では不可能なことだってある。諦めも肝心だと言う言葉、覚えておけ」
ヴィクトルはアルマを睨み、そのまま持ち場へ戻った。やはりなかなか上手くいかず、アルマはむうとふくれっ面になった。
♢
男の子を保護したため、ヘリは一度避難所に向かった。無事男の子は母親に保護されたそうだ。
ヴィクトルは周囲を見渡し、状況を把握する。
「イサミ、お前は避難誘導を頼む」
「了解した。では……」
「ああ、例の改造R9を探す。見つけ次第撃破する」
「……あまり無理はしないでほしい、勝利殿。くれぐれもアルマ殿のことで根を詰めすぎないように」
「……善処する」
イサミは敬礼し、健闘を祈った。
「おい、これから例の改造機械兵を探すぞ。奴を倒す鍵は貴様が握ってるんだ。しくじったりしたら承知しないからな」
「誰がしくじるかよ! どんと任せておけ!」
アルマはサムズアップサインで自信を見せた。それすらも気に入らないのか、ヴィクトルはふんと鼻を鳴らす。
事前にイサミから敵一体の予想ルートを伝えられたため、二人はそこに入っているビルの屋上で待機する。
「敵はどこいんだ?」
「予想では東の方。おそらくあっちの方角……」
ヴィクトルが東を指差した瞬間、そこから爆発が起こった。
「おお~、予想通り!」
「予想ではあそこから約三分後、こちらに侵入してくる予定だ。改造機械兵にR9本来の機能が残されているのなら、危険を察知するための自動集合機能が搭載されているはず。まずは一体を即時に撃破しろ。一体破壊されれば自ずとすぐに集まる。それを逆手に取るぞ」
「あれか? 集まったところで一気にズガンってやつか?」
「……そう思ってもらっていい。貴様はとりあえず倒すことだけを考えろ。僕はその間に残りの機体をマークする」
「それなら悩む必要ないな!」
アルマは腕をぐるぐる回してウォーミングアップしている。
ヴィクトルが拳銃を取り出すと、一瞬のうちに狙撃銃に変化した。ヴィクトルはスコープを覗き、状況を把握する。
「……来たぞ」
「!」
遠くからガガガと何かの機械音が聞こえてきた。タンク型の戦車に巨大な銃口。おそらくあれがターゲットだ。ターゲットは方向を変えることなく直進する。
「指定場所まで、5、4、3、2、1……」
ターゲットがビルの真下に着いた。
「ゴー!!」
ヴィクトルの掛け声と共に、アルマはビルから飛び降りる。チョーカーに触れ、パワードスーツを纏う。ターゲットに接触するかしないかの距離で、アルマはキックを繰り出す。落下スピードと威力が見事にヒットし、ターゲットは一発でダウンした。その直後、念には念をとヴィクトルが狙撃銃を一発射撃し、爆破させた。
「よしっ!」
上手くいってアルマはガッツポーズを出す。瞬時にヴィクトルがマップを開く。ターゲットを示す四つの赤い点が、現在地点に向かって直進している。
「予想通りだ……到着予想は一分半後……いいか! 一分半後に残機四体! 内二体は僕が仕留める! 貴様は残り二体を!」
「いや! 全部オレがやる!」
「馬鹿言うな! 二体が限界だ! それ以上狙うと隙が出るぞ!」
「大丈夫だって! 要は早く倒せばいいんだろ?」
「……?」
アルマが一体何を言っているのか、ヴィクトルには理解ができない。そうこうしているうちに、残りの四機が集まってきた。アルマは一度後退する。
「何をする気だ……!?」
四機が集まって、先程倒した一機が倒された場所で止まった瞬間だった。アルマはクラウチングスタートの姿勢を取り、一気に加速した。だが、走っているのとは違う。地には足をつけず、弾丸の如く加速したのだ。まるでレーザー光線だ。
空色のレーザーが四機全てを貫いた。アルマが着地した瞬間、四機全てが爆破した。あまりにも一瞬の出来事に、ヴィクトルは言葉を失った。
「……本当に奴は、千年前の機械人なのか……!?」
下でアルマがヴィクトルに向かってサムズアップサインを送っている。何はともあれ、これでターゲットは全て破壊した。状況を理解したヴィクトルは我に返る。
「よし……全部破壊したな? あとは逃げ遅れた人命がいないか確認を…」
すると、突然無線が入った。
〈副官殿!! 聞こえるか!?〉
「イサミか? どうした?」
〈急ぎ避難所に戻ってほしい! R9は囮だ!! 真の敵は…〉
ぶつりとそのまま無線が切れた。
「イサミ? イサミ!? おい!?」
無線から聞こえたイサミは明らかに様子がおかしかった。R9は囮と言う言葉を聞き、ヴィクトルは最悪の展開を予測した。
「嵌められた……!!」
一秒でも早く避難所へ。そう判断したヴィクトルはアルマに呼びかけ、急ぎ避難所へ急行する。ここから避難所までは全力で走って約十分くらいかかる。
「囮ってどういうことだよっ? さっき倒した奴が街を襲ってたんじゃねーのかっ?」
「それは正しい! 敵の狙いは不明だが、おそらくR9は我々と民間人を引き離すためのエサだったってことになる! 僕の悪い予感が的中するとしたら、今頃避難所にいる民間人と軍警何名かが襲われているはずだ! 敵は何者かはわからんが、どっちにせよ良くない状況なのは変わらない!」
「!」
「とにかく急げ! 犠牲者が出る前に!」
アルマとヴィクトルは全力の脚力を持って避難所まで走り続ける。避難所である公園に着いたところで二人は急激に減速し、停止した。
「なっ……!?」
二人が見た光景は──地獄絵図だった。
地面からは火が燃えており、数十人が怪我を負って倒れている。子供の泣き声も聞こえる。
「……なんてことだっ……!!」
言葉を失っていたヴィクトルがかろうじてそう言った。
「ふ、副官っ、殿……っ!!」
近くでイサミの声が聞こえた。見ると、瓦礫の近くでイサミが座り込んでいた。彼女の近くには先程助けた男の子と母親が倒れていた。
「イサミッ!? ……っ!!」
すると、女性の悲鳴が聞こえた。すかさずヴィクトルが悲鳴の聞こえた方を向く。遠くで女性が誰かに襲われている。両手の爪が異常に長い小柄の人、いや、もはやそれは人ではない。化け物だった。
「貴様あっ!!」
瞬時にヴィクトルは化け物の方へ走り、右手の刃で女性を掴んでいた爪を断ち切った。
「早く逃げろ!!」
「は、はいっ!!」
女性は急いでその場を去った。
逆立った水色の髪をしたその化け物は、ニヤニヤとヴィクトルを見つめている。返り血も浴びていることからより不気味に見える。
「なるほど……貴様が……!!」
ヴィクトルは刃を構えて睨み返す。
「イサミ! 大丈夫か!?」
アルマは慌ててイサミの様子を伺う。しかし、イサミも無事ではなかった。左腕が損失しており、身体の所々も損傷し、機械部分が剥き出しになっていた。
「お前っ、腕が……!!」
「じ、自分のことはいい……!! この親子だけでもと思い、下手したまで……!!」
「それよりあいつが……!?」
「ああ……おそらくあれは、百年前に廃番化した子供型アンドロイド……本来あれは人を傷つけない非戦闘型……何者かが、多分エルトリアに属する者が戦闘型に改造したのだろう……理由は不明だが、おそらく狙いは民間人。アルマ殿と副官殿を引き離すために、囮を使ったようだ……」
「!」
「どのみち自分はここから動けない……増援も呼んだがまだ時間がかかる……アルマ殿……副官殿を、頼む……!!」
すると、アルマは首に巻いていたマフラーを取り、イサミにそれを手渡した。
「?」
「お守り。何かあったらそれ使ってくれ」
イサミはこくりと頷いた。
「……あいつのことは、任せとけ!」
アルマは急いでヴィクトルの元へ向かう。
一方、ヴィクトルは化け物機械人と刃を交えていた。どうやら爪は再生可能らしく、切っても切ってもすぐに再生する。
「やはり本体を破壊するべきか……!!」
ヴィクトルは銃を出し、発砲する。しかし機械人の動きがすばしっこく、なかなか当たらない。
「キエエエエエアッ!!」
機械人が奇声を上げて一気に詰め寄る。
「しまっ……!!」
隙を突かれてしまったヴィクトルは、左足を切り裂かれてしまった。
「ぐっ……!!」
膝を着いた瞬間を狙い、機械人が爪を振りかぶろうとした。
が、次の瞬間、背後からアルマの蹴りが炸裂した。めきょっと聞いたことのない音がした後、機械人は遥か東の方向に吹っ飛ばされた。
「おい!! 大丈夫か!?」
すぐにアルマはヴィクトルへ寄る。
「……油断した……っ!!」
「足が……待ってろ! すぐにあの化け物倒すから、お前はここで…」
「問題ない……!! 足は損傷したが損失したわけではない……これくらいの損傷、許容範囲…」
ヴィクトルは立ち上がろうとするが、上手く立ち上がれない。
「そんなんじゃ無理だって! その状態で行ってもまた怪我するだけだ!」
「じゃあこのまま奴を放置しろと!?」
「言ってない! あいつはオレが…」
「あれは、僕が殺るべきだ……!! この失態は僕も含まれている……責任を果たさねば、軍警の名が廃る……何より、ここでやらずして誰が民間人を守る……!? 軍警は民間人を守ることこそ使命だ……!! ここで折れたら、僕は一生自分を許さない……!!」
「!」
ヴィクトルは民間人を優先している。誰よりも守りたいという思いが強く感じられる。ヘリにいた時はああ冷たく言ってはいたが、あれは無鉄砲なアルマを叱っただけで、子供を見捨てるつもりなどなかったのだ。でなければあんな風には言わないからだ。
ヴィクトルは厳しいだけで誰かを見捨てるつもりはない。むしろ助けようと全力を尽くす。そう感じたアルマは、正直な気持ちをぶつけた。
「だったら、なおさらオレを頼れ!!」
「!?」
「一人で抱え込むなって言ってんだ! 難しいことはよくわかんねーけど、失敗したから挽回するつもりなんだろ!? 何もかも背負って、一人で解決しようって! 怪我をしてまでも!」
「そ、そうだ……」
「ならちょっとはオレにそれ預けろ! 辛そうで見てられないんだよ!」
「辛そう、だと……!? 貴様の目は節穴か!? 僕が辛そうなどと…」
「和菓子なんだよ!!」
「……はっ?」
この状況では絶対出ないそのワードに、ヴィクトルは呆気に取られた。
「和菓子は一人じゃ出来ねーんだ! 材料を作ってくれる人、お店でそれを売ってくれる人、それを買って和菓子を作ってくれる人! 誰か一人でも欠けてたら和菓子は出来ないんだよ! 一緒に戦うのだって同じだ! どっちか欠けていたら上手くいかなくて当然なんだ! だから……まだ時間はかかるかもだけど、オレはお前のことをちゃんと知りたい! ちゃんと知って、どうするかちゃんと決める! そういうことだから、お前もオレのことちゃんと知ってくれ! そのためにまずはオレを頼ってくれ! オレはその、あれだ! 言ったことは必ずやる!」
「……有言実行ってやつか?」
「そうそれ!絶対あの化け物はオレが倒す! だからお前は今出来ることをする! どうだ! ちょっとはチームワークできてるだろ!?」
「……!」
これをチームワークと呼んでいいのかはわからない。が、アルマは確実にやるつもりだ。嘘はついていない。
「……信用していいんだな?」
「もちろん!」
「……わかった。なら貴様に託す。しくじったら承知しないからな……!!」
アルマは機械人が飛んでいった方角を見たまま、ヴィクトルにサムズアップサインを送る。
しばらくして、再び機械人が飛んできた。あの距離から跳躍して来たようだ。二人が避けると、機械人は地面を抉った。
「いいか!? おそらくそいつの弱点は爪以外の本体!! 頭を狙えば仕留められるはずだ!! 僕達でなんとかして動きを止める!! 止まった瞬間にやれ!!」
「わかりやすい説明に感謝だな!」
ヴィクトルは銃を取り出して一度弾を全て出す。そして金色の三発分の弾を補充する。これは所謂、機械人専用麻痺弾と呼ばれるものだ。機械部分にウイルスを撃ち込み、一時的に動きを止める。しかし製造コストが非常に高く、おいそれと乱発できる代物ではないため、弾数も限られている。
「頼むぞ……チャンスは三回だ……!!」
ヴィクトルは狙いを定める。その間、アルマは機械人の動きを止めるため、動きが俊敏な機械人に立ち向かう。
「キエエエエエアッ!!」
動きを止める方法として挙げるとしたら至ってシンプルだ。体を掴むことだ。アルマはまず抱きついて止める方法を選んだ。しかし近づいたら攻撃と命令されているのか、アルマが機械人との距離を詰め寄ると、すかさず爪を突き出す。アルマは右に避けたが、爪が頬を擦った。人工皮膚が少し破れ、機械部分が剥き出しになった。その一瞬を見切り、アルマは左腕を掴んだ。
動きが止まった。ヴィクトルが一発発砲した。しかし銃の音に気づいた機械人が左腕を掴むアルマの手から離れるため、アルマの腹を蹴飛ばした。
「がっ……!!」
思わずアルマは左腕を離してしまった。銃弾は二人の間を通り過ぎた。
「ちっ……!!」
「まだだ……っ!!」
蹴られたダメージを抱えながらも、アルマはなんとか立ち上がる。機械人の猛攻は止まらず、どうやらアルマに標的を絞ったのかすぐにアルマに襲いかかる。
「このっ……!!」
突き出された爪をアルマは体を仰け反って避ける。跳躍する機械人はすぐに着地する。
隙が出来た。すかさずヴィクトルは発砲した。しかしタイミングが合わずかわされた。
「あと一発……っ!!」
後がないと気づいたアルマは何か覚悟を決めたらしく、襲いかかってきた機械人を受け止めた。
「ぐうっ!!」
「!?」
爪がアルマの左肩を貫く。電流がバチバチと漏れ出す。
「貴様、何を……!?」
すると、アルマは機械人の両腕をガシッと掴んだ。どうやら自らを犠牲に隙を作ったようだ。
「今だっ!!」
「!!」
確かにこれはまたとないチャンスだ。ヴィクトルはしっかりと狙い、発砲した。奴は動けない。狙いも安定している。外れるわけがなかった。
が、予想は斜め上をいった。
銃弾は機械人の腕を狙っていたのだが、その腕が銃弾を弾いたのだ。まるで銃弾など効かないと言わせるかのように。
「……!!」
「なっ……!?」
万事休す。そう思ったその時だった。
突然どこからか帯の様な布が飛んできた。布は機械人を拘束し、アルマを引き離した。
「!?」
見ると、あちらでイサミが残っていた右腕でアルマから託されたマフラーを操っていた。
「アルマ殿っ!!」
「!!」
イサミが作ったチャンスを無駄にはしない。アルマは負傷しながらも左手を義手に変える。
「おおおおおおおおおおっ!!」
ヴィクトルに言われた通り、アルマは頭を狙って殴った。機械人の頭部がひしゃげて外れた。頭を失くした体はそのまま倒れて停止した。
「……!!」
倒した。そう認識した。
「イサミ……ありがとな!」
アルマは笑顔でサムズアップサインをイサミに送る。イサミもまんざらでもなさそうに頬を緩めた。ヴィクトルは安心したのかため息をつく。すると、アルマがヴィクトルに手を差し出す。
「信じてくれて、ありがとな!」
アルマはヴィクトルの腕を掴み、そのまま引き上げた。
「……貴様がいなければ、できなかっただけだ」
ヴィクトルは照れ臭いのか、アルマから目線を背けたのだった。
♢
避難所で襲われた人達の人命救助のため、イサミが呼んだ軍警の増援が活動を始めた。あと一歩遅かったら危なかった人もいたが、幸いにも犠牲者は出なかった。イサミの救援要請が上手くいった結果だ。
事態把握のため、増援に連れられながら誠が訪れていた。彼のそばにはアルマが心配でついて来た美香もいた。
「これはまた……派手にやったね?」
負傷したアルマ達三人を見て、誠は苦笑いを浮かべた。反対に美香は顔を真っ青にしている。
「ア、ア、アアアルマ君っ!? ボロボロになってるけど大丈夫なのっ!?」
「あはは……ちょっと、やっちまった」
アルマは頬を掻きながら笑って誤魔化そうとした。
「笑い事じゃない!!」
美香は真剣な表情でアルマに迫る。
「まあまあまあ、大空君落ち着いて。今回は事態が事態だったからね。大丈夫。ちゃんとこちらで治療するさ」
誠からそうなだめられたものの、美香は納得いかない顔を浮かべた。
「えっと、その……悪い! ミカ! エルトリアが悪さやってるってなったら、ほっとけなくて……でも安心しろ!」
アルマは自身を指差して自信あり気にこう宣言した。
「オレは絶っ対に負けたりしない! たとえボロッボロになったとしても、絶対にミカの元に帰るかんな!」
「!」
絶対に美香の元に帰る。そう言われるとなんか怒りずらい。美香はふうとため息をついた。
「……無理、もうしちゃダメだよ?」
「ああ! それに、これくらいで済んだのはこの二人がいたからこそだ!」
「大したことはしていない。アルマ殿に託されたものを使用しただけだ」
「でもピンチは逃れた! ありがとな!」
「お礼なら自分より、副官殿に言え。副官殿の作戦さえなかったら危なかった」
「……銃弾は弾かれてしまった。イサミがいなければ死は確実だった。故に僕はあまり活躍してないぞ」
ヴィクトルは罰が悪そうに視線を背けている。
「でも、お前が作戦を立ててくれなかったら、オレはたった一人で闇雲に立ち向かってた。何より、お前はオレを信じてくれたろ?」
「……」
「イジワルとか言っちまって、ごめんな? お前にもちゃんと誰かを守りたいって気持ちがあったってこと、よくわかったよ。オレ、これからはちゃんと見るようにする! お前が何をしたくて何を考えているのか、それを見極める努力をするよ!」
アルマはヴィクトルに手を差し出す。
「改めてよろしくな!」
ヴィクトルは怪訝そうにアルマの手を見つめながら、恐る恐る手を差し出す。アルマはその手を自分から握った。
「あれ? 仲良くなった?」
「かもしれないな」
「そうだ! ちゃんと名前で言わないとな! ええっと確か……」
「……ヴィクトル」
「ヴィクトル……ちょっと堅っ苦しいし、オレはヴィクって呼ぶよ!」
すると、ヴィクトルの刃がアルマの顔の横を掠った。
「……ちょっとはマシになったかと思ったが撤回だ。やはり貴様は気に入らん」
ヴィクトルはアルマを睨んでその場を後にした。
「何でだあーっ!?」
「……やっぱり仲良くなってない?」
「まあ、ゆっくりゆっくり、だね」
「心配には及ばない。ああ見えて副官殿はまんざらでもなさそうだ」
終始和やかなムードだったが、避難所近くのビルの上から誰かがそれを見ていた。
「あーあ、やられちゃったかお」
ピンク色の髪をした小柄な少女が、チョコのかかったポップコーンを食べている。
「やっぱりゴミ捨て場にあったスクラップをそのまま改造しただけじゃダメだったかお。次からは耐久性も考えないとだお」
少女は怪しくアルマを見つめている。
「あれがゼハート様がご執心の“無心の刃”かお? 確かに凄そうではあるけど、このキューちゃんにかかれば雑魚同然だお。あの子をめっちゃくちゃのぐっちゃぐちゃに壊してやれる日が楽しみだお~!」
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