51 神社
俺たちは屋台を回ったあと花火を見るための場所を探したのだが、公共スペースはどこも埋まっていて利用できそうなかった。
それにこの町の地の利があるわけでもないため、花火を見るのに最適で人があまりいない場所を知っているはずもなく途方に暮れていた。
「ここでずっと立っているわけにもいきませんし、期待薄ではありますがもう一度花火が見れそうな場所を探してみましょうか?」
さすがにこのままではどうしようもないと思ったのか栞が口を開いた。
だが俺はその提案にはあまり乗り気になれなかった。
「いや、さすがにさっき見回ったときには空いているところがなかったのに今行けば空いてるなんてむしのいいことはないだろう」
「ではどうするのですか?」
当然自分の案を否定された栞は俺がどうしたいのかを聞いてきた。
俺は考える。
今困っている原因は花火を見る場所がないこと。
それを解決するには花火を見る場所を見つけるしかない。
それって、この夏祭り関係なくないか?
俺はなんとなく答えを見つけた気がした。
「この夏祭りを出て、少し歩かないか?」
「え?」
俺の答えに栞が気の抜けた反応を見せた。
でもそうなるのもわかる。
「せっかく夏祭りが目的で来たんだからわざわざそこを抜け出すとかそれどうなんだって自分でも思うよ。でもさ、今の目的ってあくまで花火を座って見れる場所を見つけるってことだろ。だからこの夏祭りに縛られる必要はないと思ってな。それにあまり知らないこの町を栞と一緒に歩けたら、なんとなく楽しいだろうなって、なんてな」
途中で自分が何言ってるのかよく分からなくなり、思わず笑ってしまった。
でもそれを見た栞はくすくすと少し笑って、
「私は全然いいですよ、雅也くんと一緒なら……」
と恥ずかしそうに言った。
「そっか。じゃあいこうか」
俺は自分の顔が見られないように、栞から回れ右して駅とは反対方向の夏祭りの出口を目指して歩きだしながらそう言った。
「静かだなー」
「ですね」
夏祭りを出ると騒音と無数の人の声で埋め尽くされた環境が一変し、どこか懐かしくて心地いい虫の声だけが聞こえる世界になった。
「それにしても右には田んぼ、左は住宅街とザ・田舎って感じだな」
「ですね。でもなんだかさっきの夏祭りよりも全然居心地がよく感じます」
「わかる。人混み辛かったよなー」
他愛もない話をしながら、この町の夜景を見ながら歩いた。
そんな時間が俺にとって、とても心地よかった。
すると気になるものが見えてきた。
「あそこに階段があるけど上ってみないか?もしかしたら花火が見える場所かもしれない」
そう言うと栞もうなずいて、
「そうかもしれません。では上ってみましょうか」
と俺の意見に賛成のようだった。
トントントンと俺と栞の足音が響き渡る。
「思ったよりも多いな……」
「ですね……」
なかなか頂上が見えず、二人でぼやいているとやっと階段の終わりが見えてきた。
「着いたー!ってここ神社か」
階段を上りきるとそこには神社が現れた。
「それにしても、誰も人がいませんね……」
栞にそう言われて周りを見渡すと、確かに人影は見当たらなかった。
「とりあえずお参りでもするか?」
さすがに神社に足を運んだ以上、それくらいはしたいと思った。
「そうですね。ここに来たのもきっと何かの縁ですし、やっていきましょうか」
こうして俺たちは手と口を清めて、お賽銭を投げてニ礼ニ拍手一礼をやりきった。
するとこの神社の神主らしき男の人が現れた。
「珍しいな。こんな日にここに来るなんて」
そう言って俺たちに話しかけてきた。
「そんなに珍しいんですか?」
「ああ。そもそもこの神社はこの町に住む人しか基本来ないし、特に今日みたいに祭りをやってる日は毎年からっきしさ」
俺が質問すると、神主さんは丁寧に教えてくれた。
さらに神主さんは続けた。
「君たちの格好を見るに、おそらく目的は花火大会だろ。なのにどうしてこんなところに来たんだい?」
俺はどう答えようか一瞬迷ったが、さすがに神主さんに対して嘘をつくのは気が引けたので、本音で言うことにした。
「実は花火を見るためのスペースがなかったもので、それでさまよってたらここまで来てしまったわけです」
そう言うと神主さんはなるほど、とうなずいてから口を開いた。
「ならばこの神社の右奥に行くとベンチがある。ここに来たのも何かの縁だろう。自由に使いなさい。そこからならきっとこの町のどこよりも綺麗な花火を見られるさ」
「ありがとうございます」
突然のことでよく頭が回っていなかったが、とりあえずお礼を口にすると、満足したのか神主さんは社の中へ戻っていった。
「とりあえず、言われた場所に行ってみようか」
「ええ」
そう言って俺たちは言われたとおり右奥に向けて歩き出した。
囲まれた木々を抜けた先にどんな景色が待っているのか。
期待を胸に膨らませながら。
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