12 男女混合ダブルス⑤

「悪いな優輝。今日は和泉さんと一緒に帰ることになった」

「は?まじで」

 けっこう低めなトーンで優輝が聞き返してきた。

「まじだ」

「……」

 優輝はなにかを考えこむように黙りこんだ。

 正直これに関しては優輝に伝える必要はないかもしれない。

 「他の人と帰る」と伝えれば済む話だ。

 だが、なんとなくだが優輝には伝えておいたほうがいいと思ったのだ。

 優輝が怒ったとしても、俺はそれを受け止めるつもりだ。

 少しの沈黙の末、優輝が口を開いた。

「なら俺のことなんて気にせずに楽しんで来い」

「え?」

 俺がまったく予想していなかったことが優輝の口から飛び出した。

「なにポカーンって表情になってんだ?俺が怒るとでも思ったか?」

「そりゃ、まあ」

 優輝の心境を考えれば、怒るまではいかなくても文句の一つぐらいは言いたくなると思う。少なくとも、俺が優輝の立場ならば気が気ではいられなくなる自信がある。

「正直に言えば、いますぐ雅也を止めたい。なんなら俺が結衣ちゃんと一緒に帰りたいぐらいだ。でも、それは俺のわがままだ。俺は現在、結衣ちゃんと付き合ってるわけじゃない。結衣ちゃんは誰のものでもないんだ。だからな雅也、お前は結衣ちゃんと関わるとき、俺のことを考えて引け目を感じてそうだが、そんなこと感じる必要はないんだぞ」

 少し長い物言いだったが、今の俺には刺さることを優輝は的確に言ってくれた。

 今回の優輝の話を聞いて、これまでの俺の思考を思い返してみると、確かに自然と『和泉さんは優輝のもの』という考えが俺の頭の中に存在していた気がする。

 冷静に考えてみれば、この考え方は優輝に引け目を感じたからどうこうといった話ではなく、単純に和泉さんに対して失礼な気がした。

 和泉さんは決して優輝のものではない、いや、誰のものでもないのに……

「ありがとな。少しは吹っ切れたよ」

 優輝はそこまで考えて発言したことではないかもしれないが、俺の考え方の重要な過ちを教えてくれた。

 この時、本当の意味で和泉さんを『優輝の和泉さん』ではなく、一人の女性としての和泉さんとして見れるようになった気がする。

「おう。まあ、楽しんで来いよ。じゃあまた明日なー」

 そう言って優輝は帰路についた。

 しかし、いくら俺が和泉さんを真の意味で一人の女性として見れるようになろうが、今俺が和泉さん対してするべきことはなんら変わらない。

 和泉さんを待つ間、改めて俺はいい友達を持ったなと、一人しみじみと感じていた。

 




 

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