11 男女混合ダブルス④
翌日のテニス部の時間が訪れた。
昨日の下校の時は中川さんのことばかり考えていたが、今俺が向かい合うべき相手は中川さんではなく和泉さんである。
優輝は俺と和泉さんが関わることについてはマイナスなイメージを持っているわけではなかったので、今日からは心機一転、気を楽にして和泉さんと関わらせてもらう。
そう意気込んでいたのだが、どこで歯車が狂ったのか、現在俺は困惑していた。
ことの顛末を話すと、今日は昨日とは違い、他のペアに練習試合を申し込んだのだが、ことごとく負けてしまい、しかも失点の原因のほとんどは和泉さんであった。その結果、現在和泉さんは休憩場所であるベンチで黙りこんでしまっている。
ペアである俺は当然和泉さんの隣に座っているわけだが、その状況が実に気まずいのだ。しかも、原因が和泉さんだったため、俺がフォローの言葉をかけたところで、嫌味に聞こえるだけだ。この場合、第三者の介入か和泉さんから口を開いてくれることを俺は祈ることしかできない。
しばらくの沈黙の末、ついに和泉さんの口が開いた。
「ごめんね、私のせいで……」
「大丈夫だよ。これは練習試合なんだし」
「でも、私のせいで私たちのペアが負け続けてるわけだし、島崎くんに合わせる顔がないよ」
和泉さんは自分の感情を押し殺してまで俺の気を思ってくれている。
他人を第一に考えている。これも和泉さんの良いところの一つであり、魅力の一部なのだろう。だが、少なくても今は、俺はこんな姿の和泉さんを見たいわけではない。
「和泉さんは今どう思ってる?」
「どうって・・・だから島崎くんに申し訳な、」
「違うよ。俺のことじゃない。和泉さん自身はどう思ってるの?」
少し伝わりづらい言い方になってしまった。
「そんなの、悔しいに決まってるじゃん!」
どうやら伝わっていたようだ。
「自分のせいで毎回毎回相手にポイントとられて、改善しようと思っても自分の体はついてこない。もどかしすぎて辛すぎて感情がぐちゃぐちゃだったよ」
そう和泉さんは吐き出した。このかわいい容姿や雰囲気からは想像できないほどの悔しがりぶりを表した。どうやら俺の予想通り、和泉さんは大の負けず嫌いだった。
でも、だからこそ俺はこの気持ちを俺に対する気遣いなんかよりも大切にしてほしい、
「ならそれでいいじゃん」
「え?」
「俺に対する気遣いなんかよりも、自分に対する気持ちを優先させたほうが絶対にいいよ」
「でも、それじゃ、島崎くんが……」
「だから言ったろ、これは練習試合だって。むしろ、これからも負けまくろうよ。負けて、負けて、負けて、負けて・・・・・・本番で勝てばいいんだよ」
負けることは悪いことじゃない。むしろ負けることは勝つためには必ず必要なことだ。それを和泉さんにはわかってほしかった。
「でもやっぱりそれじゃ……島崎くんが報われないよ」
それでもやはり和泉さんはなおも俺のことを気にしている。どうやらもう一声必要らしい。
「それに和泉さんはダブルスにおいて一番重要なことが分かってないよ」
「な、なにかな?」
それを聞いて和泉さんが少したじろぐ。
「ところで和泉さん、この後空いてる?」
自然な流れを装い、大真面目に質問した。
「空いてるけど・・・って今関係ないよね?」
流れで質問に答えてしまったが我に返ったのか、少しむすっとした口調でいい返した。
「いや、ある。今日一緒に帰らないか?見てもらいたい場所があるんだ。そこでさっきのことについては話すよ」
真剣な目で俺は和泉さんを見た。
この目で俺の気持ちは伝わるはずだ。
「一緒に帰る」
たった一言。でも和泉さんの表情を見れば、今どういった心意気なのかが容易に想像できた。
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